「お姉様……今日って学校見学の日だったよね?」
「まあ、急な何もなければ今日がその日よ」
「だよね! えへへ、本当に授業受ける訳じゃないけど何だか楽しみだなぁ……お姉様もそうでしょ?」
「ふふっ。のび太が通っている学校に私とフランが一緒に通うのよ? 当たり前じゃない。そんな事、わざわざ言葉にするまでもないわ」
「そっか! そうだよね!」
レミリアとフランが現代旅を始めて8日目の朝、のび太が学校へ行くのを見送ってから少し経った頃、2人は居間で適当なテレビ番組を見ながら談笑していた。その内容とは、今日に予定されていた学校見学の事についてである。
1週間前に話を聞いてからかなり楽しみにしていたフランは勿論の事、レミリアも気分が高揚している。そのため話し声や話し方、表情や仕草にも隠しきれない喜びが現れていた。特に、フランは気がはやって堪らないためか、明け方目覚めてからすぐに出かける準備を済ませ、明らかにそんな時間ではないのにも関わらず、虚空に向かって紫の名前を呼ぶ程であった。
それからは途中で逸り過ぎてしまったと自制して、眠気が再びやって来るまで大人しく布団で寝ていたレミリアの頬をつつき、寝顔を堪能し、更に抱き付きながら過ごしていたと、フランは嬉々としてレミリアに話していた。
「気が高ぶって、お姉様やお兄様たちよりも早く起きちゃって暇だったけど……私にとっては得しかなかったなぁ。だって、お姉様を存分に堪能出来たんだもの!」
「まあ、楽しんでたようで何よりだけど、今度は起きてる時にお願いしたいわね」
「うん! 分かった!」
自分が寝ている間にそんな事をされていたと聞いたレミリアであったが、相手が大好きな妹であるフランだった事と気分が高揚していた事もあって、むしろ寝ている間にされた事が残念で堪らないと思っていた。なので、フランに今度は起きている時にやって欲しいとお願いし、了承させていた。
「……学校見学が終わったら、お兄様と一緒に帰れるかな?」
「そうね。紫、今日見学に行くとは言ってたけど何時に行くとは言ってなかったし。それに、見学にかかる時間とか授業の終わる時間、他にも色々な要素があるでしょうから、恐らく帰れないかもしれないわよ」
そんな感じで2人で盛り上がっている中、唐突にフランが学校見学の日に一緒にのび太と帰れるのかと、呟くようにしてレミリアに聞いた。学校見学の日がちょうどのび太が授業を受ける日であるため、一緒に家まで帰れるのではないかと思ったようだ。
確かに上手く見学の終わる時間とのび太が授業を終え、掃除や当番などを済ませる時間がピッタリ合えば帰れる。しかし、実際には色々な要因が重なって帰る時間までに見学が終わらなかったり、逆に早く終わりすぎてしまう可能性もある。それに、学校見学がどうにかなったとしても、のび太の方の都合がつかない事もあり得るため、レミリアはフランにそう伝えた。
「うーん、だよね。本当は私を真ん中にして、お姉様とお兄様に手を繋がれながら帰りたかったけど……昨日もそうしたし、仮に一緒に帰れなくても仕方ないかな」
「まあ、そう言う事ね……と言うか、ここのところ毎日フランだけ真ん中はズルいわ。私だって、貴女とのび太に挟まれながら手を繋いで歩きたいのに……」
「あっ……お姉様ごめんね。じゃあ、今日から何日かはお姉様が真ん中で良いよ!」
レミリアからそれらの事を伝えられたフランは、あっさりとその可能性を認めて、もしのび太と一緒に帰れなかったとしても仕方ないと言った。どうやら、言われる前から多少なりとも理解出来ていたらしい。
その後はレミリアが雰囲気をガラッと変え、外を出歩く際にどう言った順番で手を繋ぐのかと言う話し合いが始まった。今まではどこかに出かける際、フランが真ん中で両端がレミリアとのび太と言った感じになる事が多い。本当は、レミリア自身も2人に挟まれるようにして手を繋ぎたかった思いはあったものの、あまりにもフランが幸せそうな笑顔を見せていたか故、言い出せずにいた。
だが、今日このタイミングが言い出す好機であると判断したらしく、フランに対して次にのび太と出歩く時は自分を真ん中にしてくれとお願いを持ちかけた。唐突なお願いに少しだけ驚くも、自分だけ良い思いをしていた事に反省して謝った後、しばらくは外を出歩く際にレミリアが真ん中で良いとフランがそう言い、この話は解決した。
「レミリア、フランドール。もう少しで時間だから準備をして……って、もう準備が済んでいるようね。随分気が早い事で」
「あっ! 紫が来たって事は……今すぐ学校に出発するの?」
2人が良い雰囲気のまま話し合いをしていると、テレビの前に立ち塞がるようにして紫がスキマから現れ、時間が迫ってきているから準備をしてくれとお願いをしようとした。しかし、その時にはもう既にフランの準備は終わっていて、レミリアも何だかんだで準備を既に済ませていたため、少しだけ驚く。
そうして驚く紫を見ていたフランは、今すぐ出発するものだと思っているためか、かなりの手早さで体勢を整えながらそう聞いていた。
「学校見学は正午を少し過ぎてからだから、まだね。ただ、スキマ移動は目立ちすぎて危ないから
「ふーん……だってよ、お姉様!」
「なるほどね。と言う事は、のび太が学校で食べる『キュウショク』とか言う奴を私たちも食べるのかしら? 正午過ぎってそう言う時間だって、のび太から学校での経験を聞いた時に言われたのだけど」
紫はそんなフランの様子を微笑ましく眺めながら、学校見学に出発するのは30分後であると、そう伝えた。すると、フランはふーんと言いながら頷いた後、レミリアの方を向いて笑顔を見せながら詰め寄るようにしてそう言っていた。
詰め寄る感じで出発の時を伝えられたレミリアは、至って冷静に受け答えをしていた。しかし、フランと同じく楽しみで仕方ないのは変わらないらしく、のび太から学校での出来事を聞いた際に言っていた『給食が美味しい』と言う話から、自分たちも今日それを食べる事が出来るのかと、隠しきれない笑顔を見せながら紫に質問を投げかけた。
「給食……今日は用意されてないらしいわ。あくまでも校内や授業の見学、その他色々な説明を受けるだけなのであって、まだ実際に通うわけではないからって」
「なるほど。学校に実際に通うようになるまでお預けって事ね」
「そう言う事。だから、必要なら出発する前に誰かに頼んで軽めの食事でも用意してもらいなさい。それと、私も準備があるから一旦帰って、30分位後にまたここに来るわ」
「分かったわ。じゃあ、30分後にまたよろしくね。紫」
しかし、今日は学校の中を見て回ったり何処かのクラスの授業風景を見たりして、いざ実際に通うようになった時に困らないようにするために少し予習をするだけであり、給食までは用意されてはいないと紫に言われたため、それに関しては本番までお預けだと納得をした。
そんな様子を見た紫は、もし必要なら家の誰かにお願いして軽めの昼食を用意してもらってくれと言い、聞いたレミリアはその言葉に対して肯定の意を示した。その後、紫は準備のために30分居なくなると言ってから、一旦幻想郷に帰っていった。
「フラン、お腹空いてる?」
「うーん……何でか分からないけど、私はまだ全然平気だよ! お姉様こそ、大丈夫?」
「私ならまだ全然平気よ。それよりも、ドラえもんに30分後学校見学に行ってくるって伝えないと」
「あ、そうだね!」
スキマで幻想郷に帰っていった紫を見送った後、2人はのび太の部屋の押し入れに居るドラえもんの下へと向かい、今から30分後に学校見学へ行くために家を長い時間離れる旨を伝えにいった。すると、いきなりであったため多少驚いたものの、学校見学の事自体は知っていたため、楽しんで行ってらっしゃいとドラえもんは笑顔で言った。
ドラえもんへの挨拶を済ませた後は、出かける時用の荷物を持って玄関へと向かって靴を履き、そこで座って談笑しながら30分もの時間を待つ。
まだかまだかと待ちきれないフランに、そんな彼女を落ち着かせつつレミリア自身も楽しみで仕方ないようで、若干身体を動かしている。そして、いつの間にか玄関に来ていたドラえもんが2人の様子を暖かい目で見ていると言う状況が30分続いた。
「さてと、もう準備は出来ているようだから行きましょうか。レミリア、フランドール」
「ええ。もうとっくに準備は済んでいるわ」
「やっと学校見学かぁ……ようやくお兄様と一緒に行ける日が近づいてきたんだね……じゃあ、ドラえもん! 行ってくるねー!」
「うん、行ってらっしゃい。まだ見学だけれど、良い思い出になる事を僕は祈っているよ」
そうしてスキマから出かける準備を済ませた紫が出てきたところで、レミリアとフランも立ち上がって荷物を持ち、ドラえもんに行ってきますの挨拶を改めて済ませた後、テキオー灯をかけてもらってから家を出ていった。
「魔法や特殊な術を使わず、ただあの道具から出る光をほんの僅かな時間浴びるだけで吸血鬼の弱点である日光を打ち消す……全く、何度見ても未来のひみつ道具とやらは恐ろしいわ」
「確かにそうだけど……あのテキオー灯は序の口よ、紫。ドラえもんやのび太にも聞いたけど、過去から未来まで時間を自由に行き来出来たり、自分の望む並行世界に行く事が出来たり、あらゆる嘘を真実にする道具だってあるらしいからね」
「……よくもまあ、そんな神の所業のような効果を発揮する物があって、未来は保てているわね」
道中、吸血鬼である2人の弱点である強い日光が照りつけていようとも、日傘を差さずに歩き回る事が出来るようになるテキオー灯の高性能さに、紫は感嘆のため息を漏らしていた。その様子を見ていたレミリアに、テキオー灯はドラえもんの持つ未来のひみつ道具の中では序の口であり、他にも神の所業レベルの物がいくつもあると聞き、唖然とする事となった。
その後は特に変わった話をするわけでもなく、紫が都合上見れていない時に現代の町で経験した事などを話したりしながら歩みを進める。
「この町も面白そうだし、今度都合のついた時に藍たちも連れて来ようかしら」
「ふふっ、賑やかになるのは良いことね。紫」
「私も、お兄様とお姉様を取らなければ沢山居て賑やかなのは歓迎だよ!」
「フランドール。そんな心配しなくても、私たちの誰もレミリアやのび太を取りやしないから、安心なさいな」
レミリアとフランと紫の3人がそんなやり取りを交わしながら町を歩いていると、のび太の通う学校が視界に入ってきたのを確認した。入り口の門の前には誰かを待っているのか、比較的若い1人の男の先生らしき人物が立っている。
「あ、紫さんどうも。お待ちしておりました。念のために確認しておきますがそちらの2人、水色がかった青髪の子が『レミリア』さん、綺麗な金髪の子が『フランドール』さんでお間違えないでしょうか?」
「間違いないですわ、先生。今回案内役を務めて頂けると言う事で、感謝致します」
「私からも、よろしくお願いするわ」
「えっと……よろしくお願いしまーす!」
この若く見える先生は紫たち3人の姿を見るなり近寄ってきて話しかけてきたので、どうやら今回の見学に付き合ってくれる人のようだ。そうして、軽く挨拶をしてから彼の案内で何らかの会議に使いそうな部屋へと入った後、今日の見学の予定について話し始めた。
今から30分後に給食を食べる時間も込められている『昼休み』が終わった後、5年生のあるクラスでやっている算数の授業を見学し、その後休み時間を使ってグラウンドへと移動し、また別のクラスの体育の授業を見学する。それが終われば今度は校内を歩き回りながら案内を済ませ、最後に学校の1日の流れや質疑応答などを行うとの事だ。
「自分には良く分かりませんが、恐らくアメリカの学校とは様子が違うところが多くて惑う事もあるでしょう。今回の学校見学で少しでもレミリアさんとフランドールさんのそう言った不安要素が取り除ければ幸いです」
「そうですわね……恐らくですが、貴方のその心配は要らないと思いますわ。この学校に、うちの子がとても懐いている男の子が居ますので」
「なるほど、それは良かったですね……あ、もうそろそろ時間ですから行きましょう」
今日の見学についての流れを簡単に説明を受けた後、紫と若めの男の先生がそんなやり取りを交わしていると、時計が昼休みの終わる時間1分前を指している事に気づいたため、話を切り上げて授業の見学へと4人で向かう。
そうして、今まさに算数の授業が行われようとしているとあるクラスへと入っていくと、大多数の児童たちの視線が紫たち……特に仲睦まじく手を繋いでいるレミリアとフランへと向けられた。先生ですら、ほんの一瞬言葉が詰まっている位であるが、すぐに気を切り替えて授業を進め始めた。
知らない誰かに見られていると言う緊張感からか、ほんの一握りの児童を除いたクラスのほぼ全員がとてつもない集中力を発揮して授業に取り組んでいた。レミリアとフランはそんな彼ら彼女らの様子を、この学校の授業とやらはこんな感じなのかと、迷惑にならない程度の小声で会話しつつも真剣に見ながら、一応2人にも体験がてら配られたプリントを見て、問題を試しに解いてみたりするなどして楽しんでいる。
そんな感じの雰囲気を保ったまま普通に授業は進み、50分間の授業はチャイムの音と共に終わりを告げたため、すぐさま案内役の先生と共にまた別のクラスの授業を見に行くためにグラウンドへ向かおうとした時、集中出来ていなかった児童の何人かがレミリアやフランたちを、たどたどしい英語を使って呼び止めた。どうやら勇気を出し、2人と接点を持ちに来たらしい。
「えっと……別に無理して英語話さなくても、普通にお姉様も私も日本語話せるよ? 貴女たちと同じくらいにね!」
頑張って英語で話しかけてくる女の子に対して、フランが無理して英語で話しかけてこなくても、自分たち2人は日本語を話せると普通に元気よく答えた。すると、日本語が自分たちと同様に話せると分かるや否や、その話しかけて来た女の子を筆頭にクラスの半分弱の児童たちが2人のところへと集まり、ありとあらゆる質問を投げかけて来るなどして盛り上がってしまった。
学校見学の前日にドラえもんの助けも借り、今日に備えてこれでもかとアメリカと言う国の知識を叩き込んだお陰で、そう言った質問にも余裕を持って対応する事が出来たため、このクラスの児童たちには比較的好印象を残す事となった。
その後、次の授業見学の場所へと行こうとしても色々質問攻めにされて動けないレミリアとフランであったが、案内役の先生が児童たちを制止した事によって移動する隙間が出来たため、すぐさま教室を出て次の授業が行われるグラウンドへと向かった。
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