「……ま、マスター?」
「――サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上しました。マスター、指示を」
「サーヴァント? セイバー? いったいどういう……」
「……その令呪、貴方がマスターということで間違いないですね」
少女は俺の右手を確認すると、騎士と相対するように振り返り腰に携えた剣に手を掛ける。
「……って、ちょっと待て! なんだこの刻印!?」
俺の右手の甲には、身に覚えのない赤い稲妻のような刻印が刻まれている。
「私は貴方の剣として、そして盾として、ここに契約は完了しました。では、あのサーヴァントの迎撃に入ります」
「だから、契約って!?」
少女は剣を抜き、長い髪を風でなびかせながらガレージを勢い良く飛び出していく。
「――来るわよ。セイバー!」
セイバーと名乗った少女はスッと地面に降り立ち、赤いコートの女性とセイバーと呼ばれる騎士の前に立ちはだかる。
「……貴女もセイバーですか? ……いや、今はそんなことはどうでもいい。悪いことは言いません。セイバーとそのマスター、ここは一度退いて頂けないでしょうか」
「生憎、こちらにも事情があるの。おいそれとわかりましたと退くわけにはいかないわ」
「……では戦う、ということでよろしいですね」
セイバーが剣を構える。同じくランサーも武器を構えたような体勢を取る。
「セイバー、頼める?」
「――了解しました。マスター」
騎士のセイバーが頷くと同時に、少女のセイバー目掛けて思いっ切り飛びかかる。
「――やあっ!!」
騎士が振りかざした初撃を、少女は剣でいなす。しかしすかさず騎士は二撃三撃と息の付く魔もない連続攻撃を瞬く間に繰り出す。
「――あまい!!」
少女は攻撃をいなし、バックステップする。そしてそのまま騎士の懐目掛けて、剣を突き立てる。
「ちっ!!」
騎士は少女の攻撃を防具で受け止め、カウンターを繰り出すも、寸でのところで少女はジャンプして攻撃を躱し、騎士の首元目掛け回転切りのような攻撃を振るうが、攻撃は騎士の髪を数本掠めただけで不発に終わった。
「――まだまだ、こちらの番です!」
ガン! ガン! ガン!
鉄を打つような重圧のある金属音が、春月市の夜空へと響き渡る。
「やりますね、セイバー。貴女の振るう剣、剣士としては未熟にも思えるが、戦を知っている者の戦い方だ」
「……それはお褒めの言葉として受け取ってもよろしいでしょうか、セイバー?」
一瞬の間の後、2人の殺気が再び交錯し、衝突する。
「……私のセイバーと撃ち合えるなんて、貴方のサーヴァント、なかなかやるじゃない」
その様子をじっと見ていた赤コートの女性は、まだ動揺して状況が呑み込めていない俺の方へと歩み寄ってくる。
「だから、セイバーとかサーヴァントとか、いったい何なんだよ!」
「……貴方、聖杯戦争について、セイバーのマスターでありながら本当に何も知らないの?」
「聖杯戦争とかマスターとか、そんなこと言われても聞いたことないんだから知るわけないだろ!」
ブチギレる俺を見た赤コートの女性は、眉をピクリと動かしこそしたが、落ち着きを乱さず呟くように言葉を続けた。
「……驚いた、そんなところまでそっくりなんて。……でもそれなら、こちらとしても都合がいいわね。君、これから私が言う事、信じてくれるかしら?」
「……はぁ? 俺を殺そうとしてきた奴のことなんて、信じられるわけないだろ」
「……殺す?」
女性は俺の答えに疑問を抱いたかのようにキョトンと目を丸くする。
「なんであんたが驚くんだよ。学校の出来事を隠すためにそこの騎士とけしかけて俺を殺そうとしたじゃないか!!」
女性は再び平常を取り戻すと、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「……勘違いさせていたなら謝罪するわ。私たちは別に貴方を……」
その時、何かを察知したように女性は言葉を切り、眉をピクリと動かし、学校の方の空を見上げた。
「……セイバー!」
「わかっています、マスター!」
少女とつば競り合う騎士は女性の呼び声と共に大きく飛び、女性の下へと降り立つ。
「追手は恐らくアーチャーでしょう。どうやら追尾されていたようです」
「初日から追っかけて来るとはね。それにこの様子じゃ、バトルロイヤルじゃなくて1対2になる可能性の方が高いわ。……撤退よ、セイバー」
セイバーは手に持つ見えない武器を放すような動作をすると、その腕で女性を抱え上げる。
「……退くのですか、セイバー?」
「……状況が変った。私たちを追うのか? もう一人のセイバー」
「……いえ、退くというなら、マスターの命令がない限り無理に追うことはありません」
「そうか。感謝する」
女性を抱えたセイバーは、そのまま春月の夜空の中へと消えていく。
「……取り敢えずありがとう。……セイバー、でいいのかな?」
「ええ。私のことはセイバーと呼んでください。……ですがマスター、まだ油断はできません、マスター。間もなく次の敵が現れます。私は引き続き迎撃に入ります。マスターはここで待機を!」
「ちょ、だから待てって!」
俺の静止も虚しく、セイバーは門を飛び出し路地に出る。直後――
――ガキン!!
家の前の通りから、金属同士が激しく擦れるような重い音が夜の住宅街へと響き渡った。
「……くそっ!!」
俺も事態を確認するため、家の外へと飛び出すと、セイバーが黒い甲冑に身を包んだ人影と剣を撃ち合っていた。
「――なっ!?」
俺は目を疑った。セイバーと黒い甲冑の人影の背後に、見慣れた人物の姿があったからだ。
「あれは……」
街灯に照らされている姿は、俺がほぼ毎日、学校で見ている彼女と変わらなかった。ベージュのコートの中に春月北高校の制服を身に着け、腰のあたりまである黒髪のハーフアップを揺らしながら、凛と佇むのは間違いなく、十六夜風花の姿だった。
「――十六夜!?」
「――南雲くん!?」
俺と十六夜はシンクロするように、同じリアクションを取った。
「――貰った!!」
それとほぼ同時にセイバーが黒甲冑の武者の防御を突破し、武者の胴を斬り込まんと剣を振り下ろしている。
「ま、待てセイバー!!」
俺は咄嗟にセイバーを止めるように右手を伸ばした。すると、右手の甲の赤い刻印が激しく発光する。
「――!? うそっ!?」
セイバーの剣は武者の甲冑を掠める直前で動きを止めていた。
「マスター……なんで!?」
セイバーは剣を握る腕を動かそうとするが、その腕はまるで金縛りにあったかのようにピクリとも動かない。
「マスター、こやつはどうする?」
「手を出すのは禁止よ、アーチャー。彼が令呪でこのサーヴァントを止めてくれなければ、私たちは間違いなく深手を負っていたわ」
金縛りの解けたセイバーとアーチャーと呼ばれた武士は、互いに殺気を放ちながらそれぞれの武器を構え牽制するように見つめ合っている。
「十六夜、君は……」
「……まさか、貴方が聖杯に選ばれたマスターだったなんてね」
十六夜は学校では見せたことのないような年相応の少女のような笑顔で、俺の方へと歩み寄ってくる。
「――こうして、ちゃんと話すのは初めてよね。……改めてよろしくね、南雲海斗くん」