今日は勇儀の家にいる。理由は先日私の怒りをかってしまった勇儀の罪滅ぼしという感じだ。
「・・・おいしい甘味所って私は言った気がするのだけれど?」
「いや、色々考えてたんだけどよ。やっぱりこういう風が一番かなって」
勇儀はそう言って、奥の部屋からホットプレートとホットケーキの材料を持ってきた。
今回はそう言う趣向なのね・・・誰の入れ知恵なのかしら。
「えーっとこの分量で・・・?」
勇儀は分量の書かれた紙とにらめっこをしながら四苦八苦している。私も手伝おうとはしたのだけれど、これはお詫びだから待っていてくれととりつく島もない。
こうやって考えてるうちにも、勇儀のお菓子作りは進んでいく・・・私の不安もたっぷり混ぜながら。
いったいどうすればここまで不器用になれるのかと心配な眼で見てみるが、当の本人はお菓子の相手に夢中で見向きもしていない。
入れ知恵した誰かさんもここまで不器用だとわかっていたのならもっと別の方法を提示していたに違いない。
「・・・見てられないわよ馬鹿。第一これはお詫びなんだから、私を楽しませるなり、なんなり趣向をこらしなさい」
ため息とともに私は立ち上がり、勇儀の手からにらめっこの相手を取り上げる。
わっと驚いた勇儀がボウルを取り落としそうになるが、何とか本人がキャッチしていた。
「さっ、一緒に作るわよ。そうじゃないとつまらないわ」
しばらくして、パンケーキの生地は出来上がり、竈において、温めておいたフライパンに生地を垂らす。
ドロドロとした物がゆっくりと広がり、引いていた油が音を立てる。
二人でその様子を見つめ、少ししたらひっくり返そう。いいや、まだだ。と他愛もない会話を続けた。
いい感じだなと勇儀は言った。
私も、そうねとうなずく。
小麦色に焼けたホットケーキは、香ばしい匂いを香らせ、こちらの食欲をそそらせる。
「ホットケーキにかけるシロップはある?」
私が訊ねると、勇儀は少し首を捻ってから蜂蜜ならあるぞと言った。
「星熊と蜂蜜ってなんだか、ほんとに熊みたいね」
「ほっとけ。萃香にもいわれたぞ」
恥ずかしいのか、少し頬を朱に染めた勇儀はぶっきらぼうに言ったが、私がホットケーキだけに?と聞くと吹き出すほど笑っていた。
勇儀が蜂蜜を持って戻ってきたら、実食開始である。
トロリとした糖度の高い琥珀色の蜂蜜がホットケーキに河を描く。
少しはしたない気もするが、フォークを使って蜂蜜を満遍なくホットケーキに引き延ばす。
引き延ばした後、フォークをナイフ代わりにしてホットケーキを切る。
ほんの少しの抵抗がサクリという音を立てる。
中は黄金色のふわふわした感じにできあがっており、うまく焼けたことを実感させられる。
一口、口に含むと、ふわっとした食感が口の中を満たす。ほのかに感じる蜂蜜の薫りが、より、優しい甘さを感じさせる。
「おいしいなこれ、三食これでいいかも知れない」
「なにバカなこと言ってるの。そもそもこれは私が一緒に焼いたからこんな風においしく焼けてるの。私がいなかったら悲惨な何かができるだけよ」
勇儀の本気が混じった軽口に私は釘を差しておく。
この鬼は、ほんとにそう言うことをやりかねない。
「まったく、次からは、もっと考えてね」
ふわふわの洋菓子と琥珀色の蜂蜜をおいしそうに頬張る、大事な彼氏に赦しの言葉をかける。
勇儀は眼の色を変えて、本当かと訊ねてくる。
「本当よ。でも、これからも同じ方法なんてのは通用しないんだから」
私はしょうがなく、にこりと笑って言った。