世界が核の炎に包まれてまだ間もない頃、三匹の子豚は仲良く自家製シェルターで暮らしていました。そんなある日、シェルターを一匹の狼が訪れます。狼はシェルターのハッチを叩き、言いました。
「助けてくれ! また爆弾が降ってくる! やっと今まで生き延びてきたんだ! 今更死にたくない!」
すると、ハッチの小窓から子豚の目が覗きます。そして言いました。
「狼さんは、良い狼さん? それとも悪い狼さん?」
「良い狼に決まってるさ! ほら、向こうの空から爆撃機の音が聞こえてきた! 早く中に入れておくれ!」
「そうなんだね。すぐ開けるよ」
子豚がハッチを開け、狼はシェルターの中へ入りました。すぐさま閉めたハッチの外側で、地上が爆破されていきます。
「ああ助かった。ありがとう。本当にありがとう」
「どういたしまして。今ね、ごはんを食べてたの。狼さんはおなかは空いてない?」
「ごはん? あぁ、もう何日も食べてないよ。ここには食料があるのかい?」
「それはもうたっぷり! 良ければご馳走してあげる」
「それはありがたい。きみはまるで女神だね」
「うふふ。そんなことないよ。こっち」
子豚はそして、階段を降り、狼をシェルターの奥、食卓へと導きました。食卓にはチキンの丸焼きやスパゲティ、大きなタルトケーキなど、たくさんのご馳走が並んでいます。
「すすごい! すごいご馳走だ!」
数日間何も食べていなかった狼は歓喜の声を上げました。
「三人分だからね。ちょうどの量だよ」
「ここにはきみの他にも二人住んでいるのかい?」
「そうだよ。わたし達三姉妹、三つ子なの」
「そうなのか」
「さぁ狼さん、上着を脱いで」
「あぁ、悪いね、ありがとう」
子豚が狼の上着を脱がしていき、それをハンガーラックに掛けました。ハンガーラックにはたくさんの、色とりどりの上着が掛けられています。
「随分お洒落さんなんだね。革ジャンとか、男物も着るんだ?」
「えへへ、そうじゃないよ。冬は冷えるからね。なんでもいいの。破れてない服なんて外じゃほとんど手に入らないから」
「あー、確かにね」
「さぁ、座って座って。ごはんを食べよ」
「いやいや、ありがたい、本当に」
二人は向かい合い、席に着きました。
「遠慮しないで召し上がれ。わたしもおなかが空いちゃった」
「二人は待たないでいいのかい?」
「いいのいいの」
そうして二人はご馳走を食べ始めました。空腹で空腹で仕方なかった狼は、それはそれはもう、無我夢中で。そうしてしばらくして顔を上げると、正面の席には先程とは異なる、ぽっちゃりとした子豚が座っていました。ご馳走をむしゃむしゃと食べています。
「あ、あれ、子豚さんは?」
「ほぶははん?」
ぽっちゃり子豚は口の中に詰め込んでいたものを、ごっくん、と呑み込みます。
「子豚さん? 姉さんのこと?」
「あー、そうかな」
「今調味料を取りに行ってるよ。それより次の料理が来る前に全部食べちゃわないと」
ぽっちゃり子豚はそう言って、またむしゃむしゃとご馳走を口の中へ入れていきました。
「まだ料理が出てくるのかい!?」
「もひ、も、ゴクンッ。もちろん! まだまだわたし達、うっ、全然食べたりないもん」
子豚の口から一瞬、何か出ましたが、それはすぐに引っ込みました。
「たまげたなぁ。それにしてもこれだけの食糧、よく蓄えていたね」
「そうでもないよ。それより狼さんはどうやって、これまで生き延びてきたの?」
「まぁ、なんというか……助け合いの心に救われて、かな。親切な人にたくさん巡り合えてね。きみ達みたいな。それで食べ物を恵んでもらって、なんとかやってきたんだよ」
「ついてたんだね。うっ」
「大丈夫かい?」
「大丈夫! でもちょっと、っふふ、お花を摘みに行ってくるね」
ぽっちゃり子豚はそして、少し恥ずかしそうに部屋を出ていきました。
「お花摘みか。爆弾にやられないといいけど」
狼は一人、ジョークを言って笑みを漏らします。
しばらくして、部屋の扉が開きました。やってきたのはぽっちゃり子豚、ではなく、痩せっぽっちの子豚でした。
「お邪魔してます」
狼は席を立ち、礼儀正しく挨拶をしました。
「あ、お客さんね。こんにちは。ゆっくりしてってね。ごはんは足りてる?」
「はい! それはもう! あの、子豚さんは大丈夫ですか?」
「子豚さん?」
「ええ、今お花を摘みに行った」
「ああ、妹ね、一番下の。大丈夫、いつものことだから。はぁ~、おなかすいた」
痩せぽち子豚が席に座り、狼も、再び席に座りました。
「いただきまーす」
痩せぽち子豚が大きく口を開けて、フォークで丸い塊にしたスパゲティを、バクリ、バクリ。ご馳走の盛られた皿が次々と空になっていきます。
「それにしても気持ちのいい食いっぷりだねぇ」
「ほお?」
「ああなんとも。きみも、きみの妹二人も。見ていて気持ちがいいよ」
「ごくん。そんな風に言ってもらえたの初めて。狼さんももっと食べて」
「いや、俺はもう、充分ご馳走になったよ」
「あら、そう。意外」
「そうかい?」
「ええ」
「ところで、備蓄はまだしばらく大丈夫なのかい?」
「それは心配いらないよ。補充すればいいし、それも待っていればいいだけだから」
「というと?」
そう聞き返したところで、狼は、不思議な感覚に捉われました。痩せぽち子豚が、始めに狼をシェルターに引き入れた子豚に見えてきたのです。
「そのままの意味だよ」
「そのまま?」
「丈夫なシェルターだからね」
子豚がロールキャベツをフォークで刺し、口元へ。そのときキャベツの隙間から肉が落ち、狼の前へ転がりました。狼は肉を摘まみ上げようとして……手を止めます。その肉は、人間の指の形をしていました。
「んぎぃっ」
狼がきりっとした感覚におなかを見ます。何か、棒状の機械が当たり、その先の刃が刺さっていました。機械の先がぐるぐると回転し、狼の肉と骨を粉砕していきます。
「んぐぃがががっががががが!」
「次の料理は何にしよ~?」
子豚はうっとりと笑い、次の料理を考え始めました。
三匹のこぶた。豚の一家は早くに父さん豚を亡くし、とても貧乏で、ある時ついに母さん豚は三匹の子豚を育てられなくなってしまう。母さん豚は三匹の子豚にそれぞれ一人で生きていくように言い、家から外に追い出した。一番上の子豚は手軽に藁の家を建て、真ん中の子豚は時間をかけて木の家を建て、一番下の子豚は時間と労力をかけ、レンガの家を建てた。そこへ狼がやってくる。狼はまず藁の家を吹き飛ばし、一番上の子豚を食い殺した。次に木の家を叩き壊し、真ん中の子豚も食い殺す。そしてレンガの家も壊そうとするが、レンガの家は丈夫で、決して壊れることはなかった。狼はあの手この手で一番下の子豚を外へおびき寄せ食らおうとするが、なかなかうまくいかない。終いには怒り出し、レンガの家の煙突から侵入を試みた。するとそのまま、火にくべられていた大鍋へ、ドボン。すぐさま大鍋には蓋がされ、一番下の子豚は狼を料理し、食べてしまった。めでたしめでたし。
いばら姫の夢を通してあらゆる境界が崩壊する世界の中で、人々は戦争をしています。最早いつの時代の何と戦っているのかすらわかりません。時代はぐちゃぐちゃに溶け合い、目にしているものが人か怪物かすらわからない、そんな世界です。
一匹の子豚はシェルターを建て、そこへ隠れ住んでいました。子豚には姉妹がいたかもしれません。ですがもう、心の中にしかいないのです。戦争に巻き込まれたか、あるいは敵に食べられてしまって。そこへ狼がやってきます。この狼は家々を訪ねては、そこの住人を食い、生き永らえていました。しかし子豚は狼よりも賢く、この危険な世界でシェルターを建て、餌が自ら集まってくるのを待つ、捕食者側だったのです。そうしてこの狼も、子豚の餌となってしまいました。弱肉強食の世界。ですがこの境界の崩壊した世界では、強者も間もなく滅びてしまうでしょう。世界の終わりはすぐそこまでやってきていました。