本当は残酷すぎるシノアリス童話   作:司薫

18 / 27
過失者を罰せ

「んくぁっ!」

 荒い呼吸と共に、冷えた空気が流れ込んでくる。まるで幾らかの距離を全力疾走してきたかのような、感覚。私は……アイスを手に、ベンチに腰掛けていた。さっき……背後で車が爆発したのを聞いた……赤ずきんが、爆発したのを……夢か。

「あー」

 ふと気がつくと、小さな少女が私の正面に立ち、口を開けてじっとこちらを見つめていた。

「なんだ。迷子か?」

「あいごじゃないよ」

 なら、なんなんだ、と言い掛けて、彼女の視線に気付いた。私のアイスを見つめている。

「これが欲しいのか?」

「欲しいなぁ」

「ほら」

 アイスを差し出すと、彼女はアイスを掴み取り、ニタッと笑った。

「あんがと」

 そして走り去っていく。私は何をすれば良いか分からなかった。こんな場所、初めてきたものだから……遊園地なんてな。

「……とりあえず」

 ベンチを立ち、あたりを見渡す。メリーゴーランドや、お化け屋敷、小さな象の乗り物が見える。

「探すか」

 自分でそう呟いて、それから、誰を探すのか考えていた。頭がぼんやりとする。誰を……あぁ、そうだ。いばら姫だ。何処か……きっと何処かで、ふっ、眠っているな。探しに行こう。

 宇宙船の形をした揺れる小屋の前を通り、パークの端を進んでいく。背の高い生垣が壁を作っていて、少し行くと、何重にも続くハート型のアーチがあった。

「こういった場所は、やはり一人で来るものではないな」

 ハートのアーチを抜け出すと、そこには高くそびえる塔があった。看板が出ている。『愛のバンジージャンプ』という、アトラクションらしい。

「ぎゃーーっ!」

 悲鳴。それは空から聞こえ、あっという間に近づき、私の隣にベシャリと広がった。赤い、人間だったもの。

「やめてくれー!」

 何が起こってるんだ。私は思うよりも先に、塔の中へ、その階段を駆け上がっていた。息が上がりそうになる。階段を上がり切り、私はそれを目撃した。

「やめてくれー!」

「大丈夫ですよ。安心して」

 遊園地スタッフの格好をしたラプンツェルが、騒ぐ男を抱きしめなだめつつ、安全ベルトを装着させている。

「しっかりと付けておきますからね。大丈夫ですよ」

 きちんと仕事を、している……と、アラームが鳴り出した。

「さぁみなさん、足場が傾きますよ。いってらっしゃーい♪」

「ちょっと待って! こっちベルトまだ!」

 女の声が聞こえた。ラプンツェルがレバーを引く。アトラクション参加者達の足場が大きく傾く。安全ロープベルトをつけた男達が、安全ロープベルトをつけていない女達が、落下していく。

「ぎゃーー!!」

 絶叫。女達の最後の叫びが小玉する。悲鳴。あまりにも無関心な虐殺。

「さあ、次の皆さんどうぞこちらへ」

 足場が戻り、次の客達がジャンプ位置に向かう。

「ラプンツェル! 止めろ! 中止だ! 何をしてるんだ!」

「あら、スノウさん。スノウさんも遊んでいきます?」

「遊んでいきますじゃない! ロープ付けずに落ちていったぞ!」

「え!?」

 ラプンツェルは驚いたような顔でしゃがみ、塔の下を覗き込むと、青ざめて私を見上げた。

「どうしましょう!」

 手を口に当て、まさか、わざとじゃないのか。

「落ちた人間はもう助からない。即死だろう。ともかく、このアトラクションは中止にするんだ」

「そうですねっ。まずは中止に」

「おーい! お姉さん次はまだかい!?」

「あっ、はーい」

 ラプンツェルが笑顔で次の男性客達の方へ駆けていく。

「おい!」

「行ってらっしゃーい!」

 足場がガタッと、消え去る。

「おまっ」

 私は間一髪、柵の足につかまり、落下を免れた。

「ラプンツェル!」

「さあ次の方、しっかりベルトをつけましょうね」

「おい!」

「大丈夫ですよ。怖くない怖くない」

 聞いていない。

「さぁ、これで大丈夫。行ってらっしゃーい」

「ちょっとわた、わっ、ぎゃーーっ!」

 また女が、命綱一本なく、落下していく。

「ラプンツェル!!」

 私は腕に力を入れ、足場に跳び戻り、ライブラリの弓を出した。弓を引き、構え、ラプンツェルに狙いを定める。

「今すぐ中止するんだ!」

「きゃあっ!」

 ラプンツェルが走り出す。そして、男達を避け、女達にはぶつかり、女達が弾かれ、落下していく。くそっ!

「止まれ!」

「助けて!」

 ラプンツェルが小さな少女のいる方へ向かっていく。手にはアイスが。あの子は。

「止まれと言っている!」

 弓を放つ。弓は迷いなく、ラプンツェルの胸元へ。そしてその心臓を貫き、跳ねる身体を足場の外へ、押し出した。

「あっ」

 さえずる小鳥が私を見つめる。その目には純粋な恐怖が、浮かんでいたように思う。もしかすると飛んで逃げて行ってはくれないだろうか。しかし、次の瞬間にはもう、ラプンツェルの姿は消えていた。

「くっ……」

 気が付けば、客達が私を見ている。あの、少女も……違う。これで良かった。飛んで逃げてはくれないだろうか、など、私は。足が、あの少女の元へ向かっている。私はアイスを持つ少女の前で屈み、何か、声を掛けた。




 七人の小人:ドーピー(おとぼけ)。ラプンツェルには悪意がない。他者を傷つける気もない。そして相手が女性となると、命ある者だという認識すらなくなってしまうようだ。最低限の安全への注意を掛けることすらなくなってしまう。罰だ。罰を与え、注意をするべきことだと意識をしてもらわなければならない。そうだろう?
 スノウホワイトはまたも、眠ってしまっていたようです。赤ずきんを見殺しにしたのは夢の中での出来事だったと分かって、安心をします。くるみ割り人形を殺してしまう夢を見て、起きたと思ったらそれも夢の中で、ようやく悪夢から抜け出せた、と。しかし楽し気な遊園地で、スノウホワイトが安らぎを得ることはありませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。