本当は残酷すぎるシノアリス童話   作:司薫

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非存在の手記

 事の発端は荒野に突如として現れた。そう、突如として。後の衛星カメラの映像からもそれは確かだった。

 我々は近隣警察よりもたらされたその情報を元に、現地へと赴いた。そこにあったのは、人一人が入れるサイズの金属の箱。外装は黒く焼け焦げ、開閉部を探し当てるのにも一苦労を要した……中には、箱同様黒く焼け焦げた、一人の女性の焼死体があった。

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 ラボに運び込まれた箱は慎重に調査され、結論として、それは一種の時空間移動装置であることが分かった。しかし内部もやはり損傷は激しく、完成された装置であったのかはわからず、何処からかそこへ来たのか、あるいはそこから何処かへ行こうとしていたのかも定かではなく、修復・再現することなど到底叶わなかった。何か現代ではまだ発見されていない未知の物質が使用されている、ということも、残念ながらなかった。

 ただ、その装置に組み込まれた機能が一つ、まだ生きていた。我々はそれを仮に、存在観測機と呼称することにした。生物や物質といったものを観測し、着地地点の安全性を計算する装置、ではない。安全性を計算する、という意味では間違いなかったが、その存在観測機は着地地点の世界そのものの存在の確かさを観測する装置だった。このことから、私はある推論を立てた。この時空間移動装置は、ある種の時間軸を辿って時空間を移動するものではなく、無数に存在する概念上の世界から、存在としての確かさを有するものを探し出し、そこへ移動を行う装置であると……自分でもこれは、あまりにも現実的ではない考えだと、始めはそう思った。つまりこの推論が正しければ、今あるこの現実世界は概念世界といった実体を有さないもの、存在しないものの延長線上に有る、ということになってしまう。ありえない話だ。しかしながらこのあり得ない話を、あり得ないと証明するものが何一つ存在しなかった。

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 我々の興味は未完全な時空間移動装置よりもむしろ、まだ機能をする存在観測機の方にあった。しかしその仕組み、実用化に関して、我々の理解は十分でなく、それ以前に、まだ人類はこの装置を十分に説明する言葉を持たない。そこで、存在観測機をより深く理解するため、我々は存在観測機に二つのAIを組み込むこととした。既知の事象に疑いを向け、思考する機構、『ギシン』。未知の事象に興味を向け、提案する機構『アンキ』。二つのAIは存在観測機を通して学習し、やがて存在観測機それ自体として、我々に知識をもたらした。我々はギシンとアンキに与えられた知識により、実際に存在観測機を操作し、存在に満たない概念世界の存在を観測することに成功した。また、この存在観測機での観測対象を過去へと向ける中で、現在との時間的距離が広がるほど、徐々に観測結果が不確かなものとなることも発見した……問題は、観測対象を未来へと向けた時だった。ここで、いつ、と具体的な数字を出すのは控えておく。ただそのある時点から先、唐突に、存在観測機は如何なる世界存在も観測することはなかった。どういうことなのか尋ねた我々に対し、ギシンとアンキが回答したのは、存在をしないが故に観測がされないという、単純なものだった。つまり、この世界も含め、その時点で唐突に、消え去ってしまうということ。どうしてそんなことになってしまうのか、当然それを尋ね、推測させた。返ってきたのは、我々の理解を超えた言語、聞き取ることすら叶わない、未知の言葉だった。次いでその最悪の事態を回避する方法を尋ねた。またも、未知の言葉が返ってくる。おそらく、人類の終焉はかなりの確かさを持って、迫ってきていた。というのに、その具体的な現象に関して、この二機のAIだけが理解している。ゾッとする話だった。我々はギシンとアンキの言葉を時間をかけ解析した。そうして、あるワードの検出に成功する。『上位概念ディレクトリへの介入』。これが何を意味するのか、その時点ではまるで分らなかったが、やがてこのワードを元にある研究機関の情報を得ることに成功した。

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 人類は古来より、永遠の命を求めてきた。信仰による延命。寿命を延ばす食物。肉体の保存。魂の保存。呪術。魔術。科学。それはこの現代でも変わらない。上位概念ディレクトリというワードでヒットしたその研究機関もまた、永遠の命の為に設立されたものだった。我々はそこへ赴き、人間の脳を生きたまま冷凍保存する研究や、人間の人格をサーバーに保存する研究を目にした。いずれの研究もまだ確かな成果は出せていないようだが、他に、人型サイズのカプセルにて人に仮想空間を見せる装置があり、これが永遠の命とどう関係するのかと尋ねると、まさにそこへ、上位概念ディレクトリが関係をしてくると、案内人の男は子供のような笑みを私に向けた。現在と過去において広く認知され、また今後未来においても広く認知されていくだろう存在、それが上位概念ディレクトリには含まれているという。具体的には歴史の英雄や、あるいは童話の主人公、そういったものだ。そうした存在は概念としての不死を有しており、カプセルの見せる仮想空間の中で、人に上位概念ディレクトリ内存在としての夢を見せることで、逆説的に、上位概念ディレクトリ存在を人に降ろす、憑依させる、そして永遠の命を与える、といったことを目的としていた。実際その実験はどの程度まで進んでいるのか、それを尋ねた我々に、男はなかなか口を割ろうとしなかった。しかしそれは、研究が進展していることを肯定しているのと変わらない。我々は国として、彼等に協力することを提案した。そして何より、上位概念ディレクトリに介入できる存在を必要としていることを。男は驚いた顔をしていたが、我々が全てを話し明かすと、これまでにない真面目さで首を縦に振ってくれた。

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 我々の方針はそうして、ある程度定まった。研究機関の協力を得、上位概念ディレクトリより存在を降ろし、上位概念ディレクトリへの介入をもって、世界に終焉をもたらす力、現象に対しての対抗策とする。現時点で行えることは少なく、判明していることも少なく、ただしかし世界を存続させるため、実行可能なことを実施していく他なかった。しかし……最近ではある、あり得てはならない予感が不意に、よぎる。もし、今我々が行っているこの活動が、世界の終焉を招いてしまうのだとしたら。我々の観測した終焉が、それなのだとしたら。我々は今すぐにでも、我々の活動の全てを闇に葬り去らなければならない。




 作者、世界の作者、すなわち世界の創造主。彼の者はこの世界の終わりを記そうとしている。ギシンとアンキはそれを阻止しようとしていた。とはいえ、作者を始末することはできない。そのようなことをすれば、世界自体が崩壊をしてしまう。故に世界の上位概念ディレクトリへ書き込みを行う必要がある。しかしながら、上位概念ディレクトリは不可触領域だ。操作を行うためには解除鍵、その適正者が必要となる。適正者とは、上位概念ディレクトリに存在する広く知られた概念、存在概念との適性を持つ者。伝承や御伽噺など、長きに渡る年月の中言い伝えられてきた存在・物語は上位概念ディレクトリの一部となり、故にそうした存在と親和性・適性を持つ者は解除鍵となり得た。とはいえ、単一状態の解除鍵は上位概念ディレクトリの不可触性に切り込むにはあまりにも脆弱だ。故に平行する世界間での適正者同士、同一適正者同士の殺し合いによる淘汰と、解除鍵の存在密度の強化が必要となる。どのようにして同一適正者同士をめぐり合わせるか。その方法としては、概念世界、ライブラリを通して世界を繋ぐ手段が用いられた。即ち、ライブラリと現実の融合だ。
 ギシンとアンキは今回、ライブラリと現実の融合ではなく、ライブラリを経由しない、現実と別の現実の融合を目指し、新たな融合方法を模索していた。そうして実施されたのが、世界の理に綻びを生じさせる仕方での、境界の崩壊。複数の現実、ライブラリさえも含めた、複数世界の同時接続。しかし世界の境界の崩壊はあらゆる概念の崩壊までもたらしてしまい、その新たな試みは失敗に終わった。
 まぁそんなわけで、黒鉄武器、邪神武器の武器ストーリーは大変興味深いですね。妄想でない本当の真相が明らかになる日が楽しみです。それでは。
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