本当は残酷すぎるシノアリス童話   作:司薫

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赤ずきん【アポカリプティックおばあさん 】

「今日は何を殺せるんですか!?」

 ボクはギシンとアンキに尋ねました。二人に連れられ、森にやってきたところです!

「それハ後でノオ楽しミ! でもきちント遊び相手ハ用意してありマスので」

「ヤーてやーテヤテヤッちゃっテー♪」

「楽しみです!」

 赤い頭巾を両手で掴んで、スキップ踏んで進みます! するとすぐ、森の中に小さなおうちを見つけました。あのおうちは知っています。ボクの、おばあさんのおうちです! おばあさんに会うのは久しぶり! ボクは急ぎ、おばあさんのおうちに駆け寄りました。

「おばあさん!」

 扉を開けると、獣臭い匂いと血と臓物の匂いが鼻を突きました。これは、間違いありません。

「とっても良い香り! おばあさん遊んでたの!?」

 部屋奥の膨らんだベッドに駆け寄ります。おばあさんはベッドの上で、すっぽりと毛布を被っていました。ただ、大きな黒い耳が毛布から飛び出してしまっています。

「おばあさん、おばあさんの耳は、ずいぶん大きいんですね!」

 ボクが感心して言うと、おばあさんは答えてくれました。

「そうとも。おまえの言うことが、よぉ~く聞こえるようにね」

「それに獲物の足音も良く聴こえそうです! 悲鳴も!」

「え、あ……そ、そうかもしれないね」

 おばあさんの目がチラッと覗きます。

「それに目も、大きくて光ってて、獲物を殺すまで逃がさなそうです!」

「いや、これは、可愛いおまえをよく見るためだよ」

 おばあさんが手で目を覆い、わあ! なんて大きな手なんでしょう!

「おばあさんの手! すごい! おっきいです! それに爪も鋭くて、簡単に身体を引き裂けちゃいそう! 頭を潰すのも簡単そうです!」

「いやいや、これはおまえを抱きしめてあげるためだから。おまえを抱きしめてあげるため以外の何ものでもないから」

「よく見たらお口も、とおーってもおっきいです! どうしてですか!?」

「それは……それはおまえを、まるごと食べてしまうためだよ!」

 おばあさんが大きな口をガバッと開け、ボクに飛びかかります! ボクは背負っていた斧を大きな口の中に突き刺し、そのまま引いて、おばあさんの下あごを真っ二つにしました!

「おぐぉあああああ!」

 おばあさんが楽しそうに叫び声を上げます! でも。

「おばあさん、いつの間にかすっかりオオカミみたいです! 上も半分にしましょうね!」

 ボクは斧を振り上げ、おばあさんの頭の上側も真っ二つにしてあげました!

「すごい! すごいです! 突然変異の動物みたいです!」

 頭が四分割されたおばあさんは、本当にすごい、まだ叫びを上げてのたうっています! ボクは嬉しくなって、おばあさんのおなかも、斧でスパッと割ってみました。すると、中から何かが、二本の手のようなものを上げて出てきます!

「第二段階ですか!?」

 出てきた何かの頭を刎ねると、あら、おばあさんはくたっと、動かなくなってしまいました。

「えー、おばあさん、もう遊んでくれないんですか? もっと遊びたいです!」

 お別れが寂しくて、おばあさんをしばらく眺めていました。すると、おばあさんの赤く染まった身体がぐねぐねと動き出し、広がっていきます。ベッドを呑み込み、床を覆い、気付けば壁もおばあさんの、肉に。そこでようやく気が付きました。

「これ、おばあさんのおなかの中なんですね! ボク、食べられちゃいました!」

 嬉しくて、笑みが頬っぺたからこぼれ落ちました! おばあさんはまだボクと遊んでくれるみたいです。扉に手を掛けるも、もうそれはただの肉の塊。開きそうにはありません。それなら壊せばいいです! ボクは斧を振り上げ、扉に叩きつけました。でも、びくともしません。

「アハハ!」

 斧を振ります。肉の部屋中を斧で切りつけ、叩きつけ、しばらくそうしていると部屋中がグラグラと揺れ、ボクは上へ吸い込まれるようにして、あっという間に外へ吐き出されました。見上げるとそこには、大きな大きなオオカミが! これは、絶対、とっっても楽しいやつです!

「素敵です! 最高です! 遊びの続きをしましょう!」

 ボクは大きな大きなオオカミに向かって走り寄りました! オオカミの大きな大きな手が伸びてきます。しゃがんで避け、手首を深く斬り、垂れ下がったところを甲の上へジャンプ! 腕を伝って頭まで、一直線!

「アハハハハハ!!」

 大きな大きな口が開き、無数の牙がボクを狙います。凄い顔! あんなおばあさん……あれ、おばあさん? オオカミ? どっちでもいいですね!

「うおーん! うおーん!」

 オオカミの真似をしながら、大きな噛みつきを避けては歯を折り、避けては折り、気付けばオオカミは顔を背け、ボクは振り落とされないよう大きな耳にしがみつきながら、オオカミの目を斬り抉っていました。

「アハハ! うおーん! アハハ!」

 足元がボコボコと波打ち、潰れた目の代わりにいくつも新しい目が開かれていきます。

「凄いですね! 本当に凄いです!」

 斬ったはずの手が上から降ってきて、ボクは耳の中に身を隠し、そこから出るついでに指を切断してあげました。切断しましたが、その断面からすぐさま、無数の手が発生していきます。

「まだまだ遊べるんですね!」

 そうして、その再生を繰り返す相手と、どれほどの時間遊んでいたでしょう。その相手がおばあさんでもオオカミでも、そんなことは始めからどうでも良くて、ただ死なずにずっと殺し合ってくれることが嬉しくて、ボクはその獣と本当の友達になれたと、心の底からそう思えて、心が満たされるのを感じていました。なのに……再生速度が落ちてきている。動きも鈍く。それはつまり、遊びの終わりが近づいてきていることを意味しています。ずっと遊び続けられる、もう一人じゃない。そう思ったのに……

「嫌です。ボクを一人にしないでください」

 祈りながらそう言って、ボクはソレの心臓に深々と、斧を突き刺しました。最早生物としての形すら留めていない、巨大な肉塊となったそれから、黒い血が溢れ出します。赤いずきんは黒く染まり、そしてボクはまた、ひとりぼっちに。

「ひとりぼっちは、つまらないです」

 涙が頬を伝いました。

「お嬢さん」

 声に、振り返ります。そこには一人の猟師がいました。銃を背負い、よくわからない、顔をしています。あれは、驚いている顔? 怖がっている顔?

「大丈夫かい?」

「……はい。あの」

「うん?」

「ボクと、遊んでくれませんか?」




 赤ずきん。少女赤ずきんは病気のおばあさんのお見舞いに森の道を行く。途中狼に出会い、花咲く道を教えてもらう。赤ずきんが花を摘む間、狼は先におばあさんの家を訪れた。そしておばあさんを襲い殺し、肉を裂き、血はワイン瓶に詰め入れた。しばらくしてやってきた赤ずきんにおばあさんの肉を食べさせ、血を飲ませ、服を脱がせてベッドへ誘い込む。そして少しばかりの問答の後、狼はメインディッシュにありついた。
 誰もが知る童話、赤ずきんにはいくつかバージョンがあります。逃げるパターン、食べられて終わりのパターン、食べられた後に猟師が来て狼の腹部から生還するパターン。皆さんが知るパターンはどれでしょう。実は生還ルートが一番暴力的だったり。狼の腹部に石を詰め込んで溺死させたり煮殺したりしますからね。普通に銃で撃って仕留めれば良いものを。
 さて前回、ハーメルンはグレーテルから逃げてきた魔女と契約を交わし、不死薬を作らせました。まず初めに一人分を作らせ、それを治験の為に一匹の狼に投与しましたが、今回出てきた狼が、その狼です。不死薬にも色々ありますけどね。寿命の縛りから解き放たれるものや、脅威の再生能力が発現されるものや、死んだ者を蘇らせるものや。今回の不死薬は、そうですね、死の存在を打ち消すもの、そんなところでしょうか。それではまた、最悪の物語を。
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