異世界転生したら、三国志だから、アレッと思って、美少女だっけ、性転換しちゃって、もうゴールインさ   作:にゃあたいぷ。

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第二話.

 董卓の荘園、それは涼州で最も生産力の高い拠点のことを云う。

 涼州軍を維持するのに必要な糧食の半分近くを肩代わりしてくれており、此処を落とされる。もしくは荒らされるということは、そのまま涼州軍の生命線を断たれることに繋がりかねない。その為、董卓の荘園は涼州における重要拠点の一つに定められており、異民族に対する防衛計画には必ず董卓の荘園が組み込まれていた。

 そんな重要拠点であるにも関わらず、(董卓)は自身の荘園を守る為の私兵を持たなかった。これは涼州軍に対する信頼であり、漢王朝に刃向かう気はないという意思表示、ついでに云えば、膨大な軍事費を涼州軍に肩代わりさせているとも云えた。(ゆえ)自身が語るには「お互いに慣れない分野で仕事を滞らせるよりも、お互いの得意分野で綺麗に分業すれば、皆で幸せになれます」という話ではあるが、彼女が考えることはもっと単純なはずで「これ以上、余計な仕事を背負わせないでください。お願いします」というのが本心かと思われる。その為、月は今日まで非武装を貫いており、「(つぅい)が軍事の最高責任者である内は、このままで構いませんよ」と軍閥化を拒絶し続けてきた。

 しかし、そんな彼女の荘園にも転機が訪れる。

 

寿成(馬騰)様、ようこそいらっしゃいました」

 

 そうにっこりと微笑む月と同じ薄水色の髪をした少女。

 雰囲気も何処となく月と似通っており、前髪を下ろしている事と胸が大き過ぎる点を除けば、ほとんど同じ姿形をしていた。彼女の名は牛輔、月の親戚筋に当たる人物のようだが、容姿だけだと姉妹や双子と言われても信じてしまいそうだ。胸以外、いや、あの小さな体で、私や蒼よりも大きいってどうなっているんだ。巨乳少女、幼女巨乳、いけない。とても駄目な感じの響きがする。普段は抜けた雰囲気を持つ月が、もっと抜けて呑気になった感じなのが牛輔という人物であった。そんなおっとりとした空気を纏う彼女は、月の代行で荘園を任されている涼州の重要人物の一人だ。

 今回、荘園に訪れたのは糧食の運搬の為、その指揮に私が出向いたのは彼女、牛輔に呼び出されて事だった。

 

「ささっ、中へお入りください」

 

 牛輔の案内で月の、今は彼女の屋敷に足を踏み入れる。

 彼女の要件は言葉にすると簡単なものだ。とある知己に私兵を持つ事を薦められた、この事に対して寿成様の意見を聞きたい。たったそれだけの話であったが、しかし、これは今まで非武装を信条にしてきた董卓の荘園にとって大きな転換点になる。実際に会って牛輔の様子を見てみたが、何時もと変わらず緊張感がなかった。どうやら牛輔は軽い気持ちで相談を持ち込んだようだが、それは大きな間違いだ。涼州の豪農で最も力を持つ董卓の荘園が私兵を持つ、これは彼女の荘園だけの問題に留まらず、涼州全体に影響を与える程の大事であった。

 いや、行動を起こす前に相談してくれて本当に良かった。最悪、涼州の防衛計画を最初から引き直す必要があった程だ。

 

 通された客間、用意された椅子に腰を据える。

 此処は月が使っていた頃からほとんど変化がない。それは拘りや思い入れがあっての事ではなく、ただ単に牛輔が部屋の模様替えを面倒臭がった為だ。絵画や壺、大皿といったものは牛輔の趣味ではなかった。その為、高価な宝物を売り付けようとした商家は何の成果も得られないまま、屋敷を出ることが多い。かといって蒐集癖を持っていない訳ではない。彼女は小説や随筆が大好きで、そういった書物を見ると、特に興味のない内容であっても買ってしまう悪癖があった。それで積んでしまった書籍も多く、屋敷に多くある空き部屋の一つが彼女の書物庫になっていたりする。 ついでに云えば、月が屋敷に居た頃は必要最低限の数しか居なかった使用人が、牛輔に代わって劇的に増えた。使用人が御茶と茶請けを持って来る。「良い茶葉が入ったんですよ」と牛輔は待ちきれない様子で椅子に座ったまま両足をパタパタと動かした。

 月は自分の事は自分でやりたがる性格であったが、牛輔は逆に他人に任せられる事は他人に任せたがる。

 

 月が淹れてくれた時よりも美味しいけど、なんとなしに味気ない。

 そんなことを言うと両者に対して失礼だとは思うのだが、あの妙な苦味というか、雑味というか、そういう慣れ親しんだものが感じられないのは少し物足りなく思える。ズズッと啜った後で「良い茶葉を使っているな」と問いかけると「ええ、冀州で採れた物のようですね」と牛輔が答える。茶請けが美味い、と言えば、何処で買ったのか教えてくれる。事のついでに「荘園の運営はどうだ?」と問うと「冷害の影響で生産量が落ちていますねー」と特に困った様子もなく答えてくれた。まだ大事ではないのか、それともただ単に興味がないだけだろうか。他にも月からの手紙、近頃の交友関係などを、それとなく世間話を交えながら問い質した。自分を信用してくれている相手を問い詰めるのも気後れするが、月から牛輔のことを頼まれているので慎重に情報を収集する。

 そしてまあ何時も通りだと確認したところで本題に移る。

 

「私兵の話だが、持つのは良いが軍閥化するのはやめた方が良い」

「ん〜、やっぱりいらない?」

「万が一の備えが欲しいのであれば、別に私兵を新たに募る必要はない」

 

 軍閥化することは月にとって都合の良い話ではないと私は考える。

 この荘園は涼州軍の維持負担を担う代わりに徴兵を免除されている為、他の豪族が戦場に駆り出されている中でも董卓の荘園は悠々と開拓を続けることができた。ついでにいうと、この荘園は涼州の重要拠点である為、何かが起きた時、軍事力を持たない荘園を守る為に涼州軍を派遣する手はずになっている。こうしておけば緊急時に私が足を運ぶことができるかも知れないし、私でなくとも娘達を送ることはできる。そういう状況を作っておくことに意味があった。

 であれば、表向きには軍事力を持っていないことを主張しながら自衛手段を確保する手段を提示すれば良い。

 

「今居る奴婢達から志願者を募り、余った時間で武芸を教えれば良い」

「えーでも、うちって……いや、んー、奴婢の中に武芸の心得を持ってる者って居るのかな?」

「心配なら師範役だけ募れば良いんじゃないか?」

 

 今でも英雄視される月の荘園ともあれば、誰かしら名のある者が名乗りあげるはずだ。

 

「うーん、まあ……特に拘りがある訳でもないし、それでいいかなー」

 

 考えるのが面倒臭くなったのか、牛輔はふにゃりと机に突っ伏しる。

 

「そういえば、その私兵ってのは誰の入れ知恵なんだ?」

「韓遂だけど?」

 

 その名に私は少し警戒心を高めた。

 

 

「チイッ、次から次へと……っ!」

 

 長剣を片手に騎馬を駆けさせる。

 視界の先には火の手が上がる集落があり、異民族の騎馬に追い回されている。ある者は惨殺され、ある者は衣服を剥がされて、ある者は脇に抱えられて、直視し難い惨劇を前に――まだ助けられる者が居る、と更に馬を疾く駆けさせた。そんな私の背を追いかけてくれるのは五十程度の騎馬兵であり、誰もが義憤に心身を漲らせて突貫する。

 これは西涼の地においては特に珍しもない光景だ、誠に遺憾な事ながら。

 

 河西四郡。武威郡に加えて、それより西にある酒泉郡、張掖郡、敦煌郡の四つの郡を示す言葉だ。

 大陸部から突出する形で占有された領土は防衛という観点から見ると守りに難く、都から離れている為に治めることも難しいという困難な土地ではあったが、それを補って余りある経済的な効果を期待できる道でもあった。此処は遥か遠く、西の果てから来たという異国の商隊が使う街道を内包しており、その交易によって得られる利益は莫大なものだった。それは漢王朝の財政を大きく支えており、この西の最果てまで続く交易路――異国の者はオアシスロードと呼んでいた――を維持する為に、涼州という領土が存在していると云っても過言ではない。

 董卓が友誼を結んでいる羌族もまた、この街道沿いに存在する部落であり、商隊と取引する事はあっても襲うことはしなかった。ただ収穫期が近付くと異民族が集落を襲っては食料を略奪する為、なかなか人が定住せず、他郡と比べると開発が遅れており、官軍もまた街道の守護を最優先としていることもあって漢王朝に対する忠誠心は薄かった。

 特に河西四郡の更に北にある張掖居延属国においては、異民族に対する備えとして以上の働きを期待されて居なかった。

 

 此処では頻繁に異民族による略奪が発生する。

 張掖居延属国には居延県の他に城都は存在していないが、城都があるということは、それを支える為の集落が各地に点在している。しかし城都には必要最低限の兵力しか置かれておらず、また遊牧騎馬民族である鮮卑族の機動力もあって満足に防衛しきれていなかった。この現状を目の当たりにした私、(韓遂)は私財を投げ打って有志を募り、義勇軍を編成する。また、こういった事態は西涼の何処でも行われている為、張掖郡を中心に異民族を打ち払いながら巡回して回っていた。

 すると、こういう場面に出くわす事は稀によくある。

 特に董卓が涼州を離れてからは頻繁に略奪しに来るようになっており、兵力の差から涙を飲んで見逃すことも少なからずあった。高々、百程度の義勇軍にできることなんて限られている。それでも目の前で行われている非道を少しでも討つ為に、そして目の前で行われる悲劇から少しでも多くの人を救う為に日夜戦い続けた。

 これが根本的な解決にならないと知りながらも、戦うしかなかった。

 

「貴様等、よくも我らの土地でッ!」

 

 長剣を振り回しては問答無用で両断する。

 逃げる者から徹底的に、脇に女子供を抱えている俗物を優先し、その次に食料といった物資を持つ者を追いかけて殺した。命乞いも聞き入れず、慈悲すらなく、同じ空気を吸ってることすら不快だと殺戮する。初めて殺したのは何時の日か、特に感慨はなかった。達成感もなく、優越感もない。やるべきことをした、ただそれだけだった。大義や正義は持ち合わせておらず、義憤のみを以て民草を害する異民族を淘汰する。

 殺した数が十を超えた頃、集落から敵は居なくなっていた。

 ふうっと息を吐いた。やはり達成感はない、ひとつ作業を終えただけだ。後ろを振り返ると残された民草は皆、力なく項垂れている。既に手遅れになった者も多い。衣服を千切られた少女は壁を背に身を丸くしており、その家屋には母と思しき女性が裸で数人の男に押し倒されていた。嬲られていた。家屋に突入した時には死んでおり、事切れた母の代わりに子が男達の相手をしていた。いくら殺しても殺し切れない、どれだけ守ろうとしても守りきれない。こんな事が果たして何時まで続くのだろうか。

 無力感に苛まれる。やはり義勇軍では、この地を守るには不十分過ぎた。

 

 西涼を、いや、涼州を守る為には、もっと大きな力がいる。

 漢王朝に仕官する事も考えた。しかし涼州には既に素晴らしい将が二人も居るのだ。当代における最高峰の将と名高い皇甫嵩。そして涼州の三傑が一人、馬騰。ついでに云えば、同じ三傑の董卓や賈駆も居た。しかし、私よりも優れた才覚を持つ四人を以てしても涼州を救うには至らない。漢王朝は涼州を単なる道としか考えておらず、生かさず殺さず、決して力を蓄えさせずに使い潰そうとしている。このままでは保たない、ではない。こんなことが延々と繰り返される、それを漢王朝は望んでいる。

 最早、漢王朝の内側から涼州を救うことは叶わない。

 

 なら、もう、取れる手段は限られている。

 振り返れば半壊した集落、仲間達が救助をしてくれているがもう、此処が復興する望みは薄い。悔しさに口の端を噛み切った。今はまだ耐える時、耐え忍ぶ時だ。結構には入念な準備が必要であり、時を待つ必要がある。今はまだ力を蓄える時だ。しかし、力を蓄えるといっても、この状況下ではどれだけ蓄えられるというのか。いや、それ以前に、どれだけ保つというのか。分からない。分からない、が、耐えるしかない。今は耐えるしかない。その時が来るかどうかも分からないまま、時が来た時には手遅れになっていようとも。耐えるしかない。

 時は来る。と自分に言い聞かせた分だけ、見捨てるものが積み重なる。

 

 

 涼州漢陽郡隴県の城都、その政庁。

 涼州刺史の耿鄙は、謁見の間にて行われる評定に顔を出していた。とはいえ配下達が話し合う言葉のほとんどが理解できず、また予備知識も足りていないので本当に顔を出すだけだ。評定中にうつらうつらと船を漕ぎ始めるのもいつもの事で、その事を咎める者は此処には誰も居なかった。

 そんな中、とある配下からの発言が皆の注目を集める。

 

「資源の無駄な出費があります」

 

 そんなものは何処にもない。というのが良識的な文官の反応になる。

 実際、涼州は他州と比べて生産能力は低い。これは西の最果てに通じると云われる街道を維持する為、歪に突出した形で領土を占有しているというのが一つ、もう一つは涼州は山岳地帯に囲まれており、農業の生産拠点として向いていない為だ。

 ちなみに良識に欠けている文官は一様に目を逸らしている。理由は単純明快、彼らは横領している為だ。

 しかし、良識派を気取る文官の続く発言で彼らは、ほっと胸を撫で下ろすことになる。

 

「董卓の荘園から羌族に物資が流れています」

「それは知ってるわよ。馬騰が言っていたわ、なんでも外交と交易の為だとか?」

 

 耿鄙が口を挟むと「ええ、そうでしょう」と文官は頷き返す。

 

「しかし馬騰は根っからの武人であることを忘れてはなりません」

 

 この文官の発言に良識のない者達は「あっこれ、なんかやらかすな」と察したが、しかし下手に手出しをして、標的を自分に変えられたくもないので押し黙る。涼州において馬騰と董卓、賈駆には手を出すな。これは暗黙の了解であった。ちなみにその馬騰は賊の討伐に出向いており、この場にはいない。

 

「この交易はほとんど利益が上がっていないのです。軍を動かして、羌族に物を売りつけて、得られる利益はほとんどない。冷害による被害は増え続ける一方、これから必要になるのは資金ではなく物資である。金はあっても物がない、そんな時代がすぐそこまで迫っているのです」

 

 武人である馬騰にはこのことがわからない。と続けられた言葉に良識ある文官達は一様に頷き返し、良識なき文官達は頭を抱えたくなる思いを必死に堪えた。横領するにしても、汚職をするにしても、重要なのは根回しであり、根回しとは即ち人脈のことだ。利益を上げる為には損をしなくてはならない事もあり、良き関係というのは互いにとって利益のある関係の事だ。外交利益って金銭だけで測るものじゃないんだよ? と優しく諭したかったが、それで目を付けられては溜まったものじゃないので良識なき大人達は皆、黙り込んだ。せめて一欠片の良識もあれば、ここで諌言の一つもしただろうが、残念ながら彼らは皆、良識のない人間である。

 

「董卓の荘園には羌族との交易を中止し、物資が外に流れないようにするべきです。ただでさえ涼州は漢王朝の支援がなければ成り立たぬ土地、余所者に渡す物資の余裕なんてありません! 馬騰にも董卓の荘園に手を貸さぬように制限をかけてやりましょう!」

 

 そうして誰もツッコミ役がいないまま、この発言はそのまま承認されることになった。

 

 翌月、涼州の収益は半減した。ついでに漢王朝の収益も激減した。

 良識なき文官達は今後の身の振り方について真剣に頭を悩ませることになった。

 

 

 

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