異世界転生したら、三国志だから、アレッと思って、美少女だっけ、性転換しちゃって、もうゴールインさ 作:にゃあたいぷ。
西の最果てまで続く交易路、異国の者はオアシスの道と呼んでいる。
最果てより来たる商隊との交易は漢王朝に莫大な富をもたらしており、漢王朝の財政に大きな影響を与えている。その通り道である涼州もまた異国との交易の恩恵を授かっており、これによって赤字が続く涼州の財政を補填されてきた。さて、この交易路なのだが異国の者だけが活用している訳ではなく、当然の話ではあるが漢民族の商隊も活用してきた。そして、その一つに董卓が一門にいる董家の姿もあり、董卓が羌族と友誼を結ぶ下地にもなった。
異国の商隊にとって羌族は美味しい商談相手ではない、そして羌族にとっても異国の商隊は美味しい交易相手ではなかった。
というのも羌族と取引するよりも漢王朝と取引する方が儲けが遥かに大きかった為だ。商隊が羌族を頼るのは基本的に食料や水の確保が目的であり、あまり商品を譲ってくれない事が羌族にとっての悩みの種であった。そんな時に現れたのが董卓であり、彼女は惜しみない交易を申し出た。それは作物であったり、加工食であったり、中には趣向を凝らした工芸品も含められる。この結果、街道周辺の羌族は徐々に董卓個人との交易に比重を傾けるようになり、羌族自らが率先して交易路の整備を行うようになったのだ。また董卓の機嫌を損ねない為に漢王朝を目的とする異国の商隊には手を出さず、逆に自国の賊徒や他集落が街道を荒らさないように抑え込む程だ。この結果、南の羌族に対する備えは必要最低限に抑える事ができ、オアシスの道の管理と維持は容易となっていた。
そして涼州が羌族との交易を打ち切った結果、羌族は交易路の維持を放棄した。同時に大陸全土では黄巾党と呼ばれる組織が放棄し、漢王朝が内乱状態にあるという情報を手にした反漢思想を持つ羌族が南の氏族と結託し、略奪を再開してしまったのだ。匈奴族と鮮卑族とは常に交戦状態にあった為、涼州は四勢力から略奪を受ける事態となり、馬騰を始めとした涼州軍は涼州全土を駆け回る羽目になった。これにより、涼州の収益は半減する。こんな状況では異国の商隊も漢王朝に向かうことを諦める者が増え始めて、結果、漢王朝の財政にも大打撃を与える不始末となった。
これは不味いと察した涼州刺史の耿鄙は、街道沿いの羌族と連絡を取ろうとしたが「董卓を出せ、もしくは賈駆だ」の一点張りで聞く耳を持たなかった。その時、「馬騰ではいけないんですか?」と使者が涙ながらに提案するも「馬騰は人物的には信用できるが、能力的に信頼できる人物ではない」と突っ撥ねられた一幕もあったとかなかったとか。この状況に嫌気の差した耿鄙は不貞寝したらしい。
そんな情報が入ってきたのが先週の話だ。
「さて、成公英と閻行。先ずは二人の意見から聞いてみようか?」
軍議室、と呼ぶには余りに粗末な宿舎の一室にて。
使い古した地図が広げられた机を挟んで、行儀良く座る二人の少女を見やった。片や眼鏡を掛けた長躯の女性であり、名を成公英と云う。切れ長な目が特徴的な彼女は韓遂義勇軍の知恵袋であり、作戦行動を取る時は成公英に意見を問うのが我が軍の通例となっている。その隣に座る黒髪長髪の若武者の名は閻行。身の丈を超える大太刀使いであり、髪を後ろ手に縛っているのが特徴的だった。成公英は考え込むように地図を睨み付け、閻行は腕を組んで目を伏せる。
そして先に口を開いたのは成公英の方だった。
「動くのであれば、明日にでも動く必要があります」
「その心は?」
「我らは寡兵である為です」
成公英は地図を指で指しながら「居延*1、候官*2、觻得*3」と北から南へとなぞってみせる。
「涼州を獲るには、先ず、この三つを取らなくてはなりません。高望みをするのであれば武威郡*4まで、出来れば武威郡の西半分を占拠してしまいたいところです」
「丁度、前線と本隊を分断する形になるな」
「はい、先ずは河西四郡を手中に収めること。少なくとも隴西郡にいる騎馬三千の馬騰隊が来る前に張掖郡を抑えられなければ、私達は為す術もなく敗退します」
居延県を落とし、張掖居延属国を獲ってからは時間の勝負だと成公英は告げる。
「我らの蜂起が馬騰の耳に入り、隴西郡から張掖郡まで騎馬を率いてやってくるまでが期限です。幸いにも馬騰隊は騎馬が中心の構成である為、適当な砦か城都で防御を固めておけば時間は稼げます」
「その間に西の敦煌郡と酒泉郡を落とす訳か」
「だが、西端の敦煌郡には馬超がいる」
それまで黙っていた閻行が口を開き、何処から持ってきたのか将棋の駒を幾つか取り出して地図上に置いてみせる。
敦煌郡には金将を置いて、隴西郡には銀将と三枚の桂馬を添える。金将は西涼の錦である馬超、銀将が馬騰。桂馬は馬家一門のことを示しているようだ。涼州の北東に匈奴族、北には広大な土地を持つ鮮卑族、北西に羌族、西には氏族。それぞれに角将と飛車で対応する。この中で最も敵対的なのは氏族。涼州の三傑を怖れており、その影響は董卓と賈駆なき今もまだ残っている。それ故に攻め込んで来なかったのだが、つい先日、涼州と羌族の繋がりが断たれたことを知り、近頃は活発的になってきたと云う。最も友好的な羌族も交易が途絶えた事で交易路を守ろうとせず、反漢的な羌族が涼州を荒らすことを止める者はいなくなった。ただ匈奴族は并州、鮮卑族は幽州と定めている為、目下、涼州と積極的に敵対しているのは氏族と羌族の半数だ。
そして今、交易路の守護を担っているのが馬超という娘だ。
「馬超は西涼の錦と呼ばれるほどの人物だ。負けるとは言わないが決して油断が出来ぬ相手ではある」
閻行は腕を組んで成公英を見やる。その成公英は悩ましげに眉を顰めていた。
「馬超は確かに勇猛です。涼州では一、二を争う程の武勇を持っており、馬騰仕込みの用兵術も身に付けています。騎馬隊を率いれば、大陸中を探しても右に出る者は居ないと断言できるほどです」
しかし、と成公英は続ける。
「彼女の用兵術は馬騰と同じ欠点を抱えています。即ち、自らが先頭に立つことで将兵を率いる事、そして馬超の巧過ぎる用兵と連携を取れる者が馬騰以外にいない事です。彼女個人の武勇は素晴らしいが、帥としての経験が乏しい。私達が突けるとすれば、その一点に限るかと思われます」
「本隊への備えに将を一人、残すことを考えると決して勝算が高い訳ではない。随分と博打が強いことだ」
「一から身を立てようと言うのです、多少の博打は許容して然るべきですよ」
二人の思考が張掖郡を獲った後に移行しつつあるのを見て、先走り過ぎだ。と二人を諌める。
「先ずは張掖郡、その足掛かりの居延県よ。あまり先を見据えても足元を救われるわ」
「……居延県に関しては前に話した作戦があります」
「あの大博打か。ウチの軍師様は随分と博打がお好きなようで、もう少し確実性の高い作戦が欲しいところだな」
閻行の軽口に成公英は不貞腐れた様子で、様々な可能性を考慮した結果です。と口先を尖らせて告げる。
「先立つ物をない最初こそが最も難しいのですよ。いずれにせよ、速度が勝負である事には変わりない。張掖郡で最低限です、何処まで戦果を上げられるかで今度の作戦の難易度が変わります」
そこで彼女は話を区切り、中指で眼鏡の位置を直した。
「羌、氏、鮮卑、匈奴……そして黄巾党、これらには既に漢王朝と涼州の現状については情報を流しています。実際に動いてくれるのは氏族、そして羌族の反漢勢力。匈奴族は半々と言ったところでしょうか。鮮卑族は交易路を使っている商隊と仲を持っている為、動きが慎重になるはずです。黄巾党が涼州各地に出没するようになれば、それだけ私達は動きやすくなる」
「……その策、敵を我らが土地に招いているようで好かないんだけどな」
「先立つ物をない故に、理想だけでは大義を為すことはできませんよ」
我らが誇りを取り戻す為に勝たなくてはならないのです。と成公英が閻行を睨みつける。
「……まあ頭の良い人間の考えている事は理解できんよ。私はただ韓遂殿の人柄と成公英殿の頭脳を信じて戦うことにする」
そう言って肩を竦める閻行に「貴女の善性は我らにとって貴重ですよ」と成公英が小声で呟いた。
決して仲の良い二人ではない。しかし二人の相性は思いの外、悪くはなかった。
麒麟児と謳われる姜維を仲間にすることは出来なかったが、この二人を得られた事を私は誇りとする。
「この戦いが終わったら私達で真名を交換しよう」
ふと何気なく口にしたのは、何時かの誓いだった。
ただなんとなしに真名を交換する機を見失って、どうせなら何か事を成し遂げた後で交換しようってなった約束だ。
この提案に二人とも力強く頷き返してくれた。
†
此処はなれ果てだ。
張掖居延属国居延県、城都。大陸全土でも辺境と呼ばれる土地の更に僻地だ。
この土地を開発する為ではなく、鮮卑族の備えとして置かれた城都とは名ばかりの砦に千程度の将兵が詰め込まれる。辺境の僻地である為に食料の自給率は決して高くはないが、食糧難の御時世、少しでも自前で賄う為に屯田し、周りには必要最低限の集落が築かれていた。此処は漢王朝の領土ではあるが、漢王朝の庇護から外れた土地。それ故に此処に流れてくる者は、訳ありの者が多かった。故郷では村八分になり、かといって異民族に逃げ込むこともできない者達が集まる土地になる。そして、そんな土地を守護する官僚もまた出世の道から外れた者達で構成されている。留置所、と揶揄されることもあった。
こんな場所だから誰も真面目に働こうとはせず、時折、鮮卑族や匈奴族が略奪にくることもあるが見て見ぬふりをすることも少なくない。というのも張掖郡から張掖居延属国を繋げる街道以外はまともに道の整備をされておらず、襲撃を受けてからこの砦まで情報が届くのに一週間以上もかかるのは普通だ。そこから号令をかけるのに丸一日、出陣する為の準備で更に三日程度、士気がどん底の行軍では現地に辿り着くまで更なる時間を要し、現場に辿り着くまでに半月近くもかかる。そんな有様では救援に向かう頃には集落なんて跡形もなくなっており、若者は男女問わずに連れ去られ、野晒しにされた老人達の死骸を拝むだけだ。それに出陣には莫大な費用がかかる。拠点で屯田しているだけでも食料は底を尽きかけているというのに、無意味な出陣を繰り返していては兵糧攻めを受けてないにも関わらず、砦を枕に飢えて死ぬことになりかねない。
私は、此処を地獄だと考える。まともな感性では生きられない。此処は人が人としてある為に必要な良心を容赦なく削ぎ落とす。民草が異民族に奴隷として連行されることを良しとし、女子供が陵辱を受けることを見て見ぬふりをしなくてはならない。きっと私はもう手遅れだ。執務室にて、「また一つ、集落が襲撃を受けた」と薄汚れた衣服に袖を通す文官の気怠げな声で報告を受ける。こういった報告に私はもう心が動かなくなってしまった。此処に来た時は、せめて此処ではない何処かへの異動を夢見ていたが、今となってはもうそれすらも諦めている。
そんな時、また一人、執務室へと上がり込んできた。
「どうした?」
「韓遂って奴が門まで来ています。なんでも鮮卑族が攻め込んできた、と」
「攻め込んだって、また略奪目的じゃないのか?」
「どうにも違うみたいですねー。なんでも数千規模の軍勢が攻め込んで来たとか、なんとか?」
「……おい、ちょっと待て、いや、事実確認が先か」
韓遂の名は知っている。
河西四郡で名を馳せる狭者で、民衆を賊徒や異民族の魔の手から守り続ける英傑気取りだ。
その者とは何度か顔を合わせた事があり、信に足る人物だと認識している。
「通せ」
韓遂の言う事であれば、無視する事もできないな。と謁見を許す。
結局のところ、私は鮮卑族が本格的に攻め込んでくることを信じていなかった。涼州は西の最果てへと続く道以外は不毛な土地であり、そして、同種の街道を鮮卑族も有している。その為、鮮卑族が涼州を攻め込む理由は略奪以外に思い付かなかった。実際、此処に砦が建てられているのも涼州を攻め込む橋頭堡にされない為、という意味もあるが、実際には略奪の拠点にされない為っていう意味合いの方が強い。
だから私は張掖郡に伝令を送らず、韓遂を相手にたった二人の護衛だけで顔を合わせてしまった。
「久し振りです、太守殿」
礼儀正しい所作で頭を下げる韓遂を見て、私は執務机に頰を突きながら応じる。
「名ばかりで実際の権限は県令並だけどな。指揮権は張掖郡太守様にある」
数ヶ月ぶりに合わせた顔に、若干の違和感を感じる。
背中を覆い隠す金髪に透き通るような青い瞳。衣服は脱ぎ捨てられており、上は薄着の下着のみを羽織っていた。
そして腰には剣を佩いでいる、血の臭いがする。
「……それで此処、居延が攻め込まれていると言うのは本当なのか?」
確認するような問い掛け、視線は韓遂に向けたまま、執務机に隠していた短剣に手を添える。
「それは本当です。数は千から千五百程度、意外と集まりましたよ……恨まれてますね、貴女方は」
「仕方ないだろ。動かせる将兵もなければ、動かすための物資もねぇんだよ。ないない尽くしで嫌になる」
まあ、と息を吐いて、間を取る。
「この苦労、お前も直にわかるさ」
言うと同時に執務机を蹴り上げて、韓遂にぶつける。
同時に短刀を片手に椅子から飛び出した。執務机が真っ二つに両断される。その先で二人の護衛が首筋を斬られているのが見えた。宙を舞う書類の束を掻き分けて、何処でもいい。と韓遂に目掛けて、短刀の切っ先を突き立てる。次の瞬間、手首から先の感覚が失われた。舌打ちひとつ、切り落とされた手首には意にも介さず、大きく踏み込んで蹴りを放った――が、それもまた斬り飛ばされる。右手首と左脚、その両方が失われた。崩れ落ちる体、舞い上がる紙吹雪の中からスルリと突き出された直剣の切っ先が私の胸元を貫いた。
嗚呼、やっと終わる。漸く解放される。霞む視界、堕ちる意識、死に対する不安や恐怖はなく、最後に残ったのは安堵だった。
†
とある集落で蜂起した後、
居延県にある城都まで行軍を続けながら招集した義勇軍は千を超える。
城都とは名ばかりの砦も、数年間かけて築き上げた信頼を使って侵入し、内側から陥落させた。それは暗殺と誹られる手口、しかし、張掖居延属国の民草は私達を非難するようなことはしなかった。それ程までに官僚は民草に嫌われていた。それもそうだ、税を払えという癖に民草を守ってくれないのだから当然だ。そうして居延県は大した衝突もないまま陥落する。そして私の名前を知って協力したいと申し出る者が半数近く、涼州出身の者達を義勇軍に受け入れて我が義勇軍は三千の大所帯になった。これだけの数になれば、城を落とす目処も出てくる。
そのまま南下を続けて、張掖属国、そして最初の目的であった張掖郡の奪取までトントン拍子で事が進んだ。
「韓遂様、此処からです。此処からが大変になります」
城壁の上、総数一万を超える軍勢を見下ろす横で成公英が告げる。
我が軍は最早、義勇軍とは呼べない規模にまで膨れ上がった。尤も、その七割方がまともな調練を積んでいない民兵である為、涼州軍と真正面からぶつかれば鎧袖一触で吹き飛ぶ程度の軍勢だ。それでも城があれば戦える、それでも砦があれば戦える。相手が反撃の準備を整えるまでに多くの領土を切り取り、反撃を受ける前に防御を固めなくてはならない。
顔を上げる、空は雲ひとつない晴天だ。風が吹き抜ける。視線を落とす、そして洛陽のある方角を見た。
「そうだな、此処から全てを始めよう。この涼州の地から全てを変えて行こう」
これは誰かが果たさなくてはならないことだ。
少しでも不幸な人を減らす為、誰も彼もが幸せになれる世の中とまでは云わない。今よりも少しでも良い世の中にする為、今よりも少しでも努力が報われる世の中にする為、漢王朝と対峙することを選んだ。私は前に進み続ける。理想成就の為に、独善的な正義を胸に掲げる。昨日よりも素晴らしい今日を、今日よりも素晴らしき明日を、一歩ずつ地を踏み締めながら先を見据える。この先に道はない、もし道があるのだとすれば、私が進んだ後が道として残る。どれだけ険しい道であっても足を止めず、ただ歩み続ける。
それだけが未来を掴むたったひとつの手段だと盲信して、己が掲げた理想に殉じる。
私達の戦いはこれからだ。