異世界転生したら、三国志だから、アレッと思って、美少女だっけ、性転換しちゃって、もうゴールインさ   作:にゃあたいぷ。

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第四話が先にできたので投稿しておきます。


第四話.

 これは(ゆえ)(えい)が涼州を出て行った後の話になる。

 その日は、それまで涼州刺史を務めていた成就が洛陽に戻り、代わりの者が送り込まれてくる日だった。

 漢王朝に仕える役人達は揃って、新しい涼州刺史の面を拝んでやろうと城門付近まで足を運んだ。程なくして城門は開かれた。さて、どれだけの人間を連れ込んで来るのか。こういう時、地元と外様で派閥が出来るのが世の常であったが、しかし、城内に入ってきた人間は驚くほどに少なく、護衛に十名程度。使用人らしき者達が四、五人と明らかに少ない。そして、この中で唯一、馬に乗った少女は周りを見渡すと小さく溜息を零した。さもありなんと肩を落とす。この何処か無気力そうな少女が、新しい涼州刺史様であるようだ。

 二つ結いの緑髪、少女は眠たそうに細めた両目で私を捉える。

 

「貴女が馬騰ね?」

 

 不意に問われて「はあ、そうですが」と気のない返事をする。

 ふぅん、と品定めするように私の事を見つめた後で「話があるから執務室まで来て頂戴」と呼び出しを受ける。

 この当時はまだ彼女、栗花落(つゆり)の事を私は何も知らなかった。

 

 

 はっきり言って最悪だった。

 涼州刺史に任命された時、先ず思い浮かんだのは左遷の二文字であった。

 涼州は漢民族というというよりも羌族に近い文化を持つ者が多く、鮮卑族や匈奴族といった遊牧民族の影響を色濃く受け継いでいる。その為、涼州の民草は漢王朝に対して恭順しているとは言い難い。もっと云えば、状況が独立を許していないだけだ。散々、異民族を相手に戦わされてきた涼州軍は周りから怨みを買っている為、今の状況で独立を宣言してしまっては四方八方が敵しかいない状況に陥りかねない。それもまあ董卓の活躍により、羌族との関係を上手く築き上げられていたことで緩和されているようだけど、それはそれで困るのが漢王朝。涼州は西の最果てまで続く交易路を維持する為に大事な領地、此処を独立されてしまうと漢王朝の収入源が大きく減少してしまう事になる。というよりも漢王朝にとって、涼州の価値の七割方が異国との貿易だ。なので涼州刺史というのは、涼州に対するお目付役という意味合いが強かった。仮に左遷であっても、涼州を開拓せよ。という意味であれば、少しはやりがいも出てくるものであるが、「開拓するな、されども異民族に突破されない程度には力を持たせておけ」という任務はなんともやる気の出ないものであった。涼州の人間からは憎まれて、それでいて功績を立てる事も叶わない。四、五年経てば、洛陽に戻されるのであろうが、いやはや、しかし、涼州で落ちた名声を取り戻すことは困難を極める。

 酷い貧乏くじだ。本当にやってらんない。

 

 涼州漢陽(かんよう)(ろう)県、州治所がある城都の城門を潜る。

 その時、出迎えた。もとい私を品定めに来た涼州人の顔を見て、これはもう手遅れだと諦めた。最初から歓迎されるとは思っていない、しかし実際に目にすると心に来るものがあった。私は完全に外様の厄介者だ。まだ言葉一つも発していないにも関わらず、色眼鏡越しに見た姿で私のことを嘲笑する。これは駄目だ、と私は小さく溜息を零す。まあ、どうせ涼州刺史に選ばれた時点で詰んでいた。賽の目が一とにしか出ない賽子を持たされているようなものだ。

 誰も私のことを見定めようともしない中、唯一、私個人を見つめる者を見つけて、執務室に呼び付ける。

 なるほど、彼女が馬騰。涼州の三傑と呼ばれるだけはある。それはただ単に、誰であっても相手のことを見縊らないという経験則に基づいての事だろうが、たったそれだけの事が私にとっての清涼剤に成り得た。私のことを真っ直ぐに見つめてくる彼女の瞳は小気味好い。生粋の武人である彼女には肥えた舌はなかったが、私は執務室まで来た彼女に洛陽から持ち込んだ最高級の酒や茶葉を惜しみなく振る舞うことにした。それは些細な味の違いも分からない者には勿体ない代物であったが、それよりも、おもてなし以上の意味を持たぬ代物の裏を読もうとする連中に渡す方が勿体ないと感じられた為だ。その価値は分からずとも、美味いものは美味い。と言える彼女が幸せそうに茶請けを頬張る姿を見つめながら溜息を零す。

 今となってはもう私が考えるべきは隠居した後の事だった。

 

 

「私は何もしないから貴女達で勝手にやって頂戴」

 

 執務室に呼び出されて、先ず最初に言われたのがこれだった。

 耿鄙、栗花落(つゆり)*1は最初から覇気のない人物だった。何処か投げやりで、何処か諦めている。面倒臭そうに頬杖を突きながら茶請けを頬張る姿は新任の州刺史とは思えなかった。私の人生は詰んでるので、と彼女は気怠げに語る。私を呼び出したのは、あの中で最もマシに見えたから。意思表示をしたのは、涼州閥に疎まれてまで戦う意思がないから。嫌われてまで涼州を良くしたいとは思わない、と彼女はぶっきらぼうに答えてのける。だから、と。涼州のことは涼州の人間でどうにかしなさい、と。彼女は私に丸投げした。

 涼州刺史、耿鄙は無能である。何もせず、惰眠を貪り、ただ判子を押す仕事に従事する。

 その噂を流したのは栗花落自身だ。実際、彼女の涼州刺史としては無能極まる。何もせず、邪魔もせず、そうする必要があった。と私が理解できたのは半年もの月日が経った頃合いだった。

 これを彼女に突き付けると、栗花落はやはり呆れたように溜息を零す。

 

「今更?」

 

 という辛辣な言葉に恥を知る。

 ともあれ涼州の事は涼州の者でどうにかしなくてはならない。

 それも栗花落が州刺史を務めている間に。

 

 

 涼州刺史としては無能であった事は自覚している。

 少なくとも私は自らの意思で動くことはせず、どうせ必要にならないと情報収集も怠ってきた。知れば口出ししたくなる。なら最初から知らなければ良い、という短絡的な思考からだ。それでも涼州の三傑の名は知っていた。だから評定の時、文官の一人が羌族との交易を取りやめる提案をしてきた時に問いかけたのだ。「馬騰が言っていたわ、なんでも外交と交易の為だとか?」と確認を取った。すると彼は「ええ、そうでしょう」と頷き返し、「しかし、馬騰は根っからの武人であることを忘れてはなりません」と彼女を馬鹿にしたように答えたのだ。まあ確かに馬騰、つまり(つぅい)に政治に優れている訳ではない。しかし彼女には知恵を授けた者がおり、その者が先見性に富んだ知恵者であった。とはいえだ、彼女が翡に齎した情報も数年前の話になる。西の最果てにおける国家情勢が複雑怪奇であるのと同じように此処での情報も数年前ともなれば化石情報。不安はあるが涼州は彼らの土地である。彼らのやりたいようにやらせた方が良いと思って、そのまま承諾した。どうせ言うこと聞かないし、変に反感を買うのも面倒だし、暴走されるよりかはマシだと思っての判断だ。

 そして失敗した。その損害は漢王朝の財政を揺るがす程に大きなもので――というよりも街道整備とか警備とか羌族で担っていたとか聞いてないんですけど? それで街道の整備と警備に費やされる予算は如何程に? あ、ふーん、それって羌族に渡していた分の物資、簡単に使い潰しちゃう量ですよね? はぁーっ、つっかえ。政治の分野で翡に負けるとか辞めたら? 御役人、向いてないよ。君が佞臣とか言ってる輩の方がよっぽど使えそうなんですけど、佞臣さん?

 さておき、これが涼州だけの被害に収まるのであれば、佞臣さん達を罷免して、残った者達に涼州運営を任せてしまうのも悪くない。しかし漢王朝にまで被害が及んだとなれば話は変わってくる。仕方ない。と重たい腰を上げて、羌族との会談する方針で固める。羌族の連中は、やれ董卓だの、やれ賈駆だの、と聞く耳持たずのようだが、流石に涼州の最高責任者である私が赴けば、一目くらいは会談に応じてくれるはずだ。護衛には……翡は無理か、今の不安定な情勢で翡を本隊から離すことはできない。なら彼女の嫡子である馬超に親の代わりを勤めて貰うとしようか。彼らも翡の娘ともなれば、興味を持ってくれるはずだ。兎に角、今は交渉の席に着くことが大事である。

 幸いにも涼州は私がいなくても仕事が回る環境で、大した手間なく河西四郡、西涼の地まで赴くことができた。

 そして羌族との会談を調整している最中、早馬で急報が知らされる。

 

「……本当に悪い時には悪い事が積み重なりますね。どうにも私の天命は涼州刺史となった時に尽きていたようです」

 

 竹簡には走り書きで、張掖郡が賊徒に落とされた旨が書かれてあった。つまり本隊と分断された、帰り道を抑えられた。

 

「翡は……確か、氏族の侵略に対応しているのだったかしら? いや、でも翡の事だから自分は行かずとも娘の誰かを寄越しそうね。なら、そうね。張掖郡を挟み撃ちにして奪取、無理そうなら河西四郡を放棄。救援部隊と合流を優先して、戦線の再構築といったところかしら?」

 

 指先をくるくるっと回しながら、これからの方針を述べると、隣に控える翡の娘である馬超がポカンとした顔を浮かべていた。

 

「どうしたのよ、気になる事があったら言っといた方が良いわよ」

「いえ、その方針で構わないと思います。ただ……なんというか……その…………」

 

 言い淀む小娘の姿に、まあ、そうね。と小さく息を吐いた。

 

「風聞は参考程度に留めておくことを勧めるわよ。裏で誰が情報を弄っているのか分かったものじゃないわ」

「心得ておきます」

 

 素直に頷く翡の娘に、面白味に欠けるな。と不謹慎なことを思ったりする。

 

「ところで、どうして貴女は実力を偽るのでしょうか?」

 

 不器用な敬語に、さて、どうしたものか。と悩み、もうどうでもいっか、と素直に答えることにした。

 

「漢王朝からは涼州の力を適度に削ぐように言われているからよ。それで涼州が力を付けちゃうと裏切り者になりますし? かといって涼州に生きる者達を不幸にして喜ぶ趣味もないし? お目付け役の私が無能であることが双方にとって都合が良かったのよ」

 

 涼州に来た時点で出世は諦めている。

 半ば董卓の功績とはいえ、涼州の発展に大きく貢献した前涼州刺史の成就の噂が忽然と消えた時点でお察しだ。流石に殺されてはいないと思うけど。かといって漢王朝の指示に従ったとして、涼州で悪評の付いた者を要職に付けるはずもない。つまり涼州刺史に任命された時点で私の官僚としての人生は詰んでいる。

 そもそも私が涼州刺史に任命されたことが誰かの陰謀なのだろうけど、それは今言っても仕方のないことだ。

 

 

 

*1
まだこの時は真名を預かっていない。




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