異世界転生したら、三国志だから、アレッと思って、美少女だっけ、性転換しちゃって、もうゴールインさ 作:にゃあたいぷ。
「彼女の真名は
とある日の事だ。御母様が戦帰りに少女を持ち込んできた。
特に詳しい説明はされず、今日から一緒の屋敷で過ごすことだけを告げて部屋を出て行った。葵と呼ばれた少女がひとり取り残される。最初、見た時は戦帰りに拾ってきたとは思えないほどに綺麗な身形をしていると思った。そして同性の私が少し嫉妬する程に彼女は美しい容姿を持っており、ぽけっとした顔で私達を見つめる姿は何処となく抜けていて、そこがまた可愛らしく映った。お互いにどうすれば良いのかわからなかったのだろう、暫しお互いのことを見つめ合っていると「あ、えっと、その、つまり、そういうことです! よろしくお願いします!」と少し上擦った声で頭を下げてきた。
こういう子が男に好かれるんだろうな。そんなことを思ったりする。
葵はひ弱だ、軟弱と云っても良い。まるで憧れを見つけたような輝かしい目で私の槍を見つめてきたものだったので、試しに槍を持たせてみれば、満足に槍を構えることすらもできず、危なっかしかったのですぐに槍を返してもらった。その時、ちょっと涙目になっていたのがあざとかった。彼女に戦働きはできそうにない。その代わりと云ってはなんだが、彼女はよく家のことを頑張ってくれていた。今までは鶸に任せっきりだった家事を手伝っており、少し汚れていた屋敷の中は見る見るうちに綺麗になっていった。健気に甲斐甲斐しく家の手伝いをする葵に、鶸は泣き崩れてしまった。いつも散らかすばかりで、とか、ちゃんと栄養とかも考えているのに、とか、今日は御馳走って言ったのに外で買い食いするし、とか、うん、ほんのちょっとだけ思い改めようかなって思った。それから葵が来てからは御飯も豪勢になった。何時もは訓練が終わった後に鶸がチャチャッと作る大皿一品の簡単な料理ばかりであったが、ほとんど家から出ない葵の料理は手が込んでいて種類も多かった。それでいて、毎日のように料理を作る鶸や時々だけど家にいる時は料理を作ってくれる御母様よりも美味しかったりする。手間がかかっている分だけ美味しいのは分かっているし、舌が慣れているのは御母様と鶸の味だから週に一度くらいは食べたくなるが、それでも普段は葵の料理が良いな。とか密かに思っている。鶸はどうだったのか云うと、他人が作った料理は食べるのがこんなに美味しかったなんて、と感動していた。後で労ってあげた方が良いだろうか、適当な言葉だと嫌味にしかならない気がする。かといって家事を手伝おうとすれば、鶸に怒られるので手出しが出来ない。戦に出向く時、葵は必ず送り出しに出て来る。戦から屋敷に帰って来ると、いの一番に駆けつけて、ほっと胸を撫で下ろした。そして、とても嬉しそうにはにかむのだ。私が戦で功績を上げた話を聞く時は、酒の席に付き合う友人のように黙って耳を傾ける。申し訳程度に相槌を打ってくれる。私が屋敷に戻る時に比べると余りにも反応が薄いものだから「戦の話は退屈か?」と問うてみると「そんなことはない」と彼女は首を横に振った。
「
それでも、と彼女は顔色を暗くして告げる。
「出来ることなら戦場に行って欲しくない。それが例え、お勤めであったとしても親しい人が命の危険に晒されるのは心臓に悪い」
貴女が帰ってくる事が私にとって一番の幸せです。と葵は力なく笑ってみせた。
それから突っ込むばかりの戦は控えるようにした。勿論、突撃する時は思い切りが大切だ。しかし出来るだけ入念な準備をして、斥候を出す頻度を倍以上に増やした。精度の高い情報を仕入れることに苦心し、出来るだけ確実に相手を仕留められるように心掛ける。私の実力は母馬騰、御母様を超えていた。馬を駆けるだけで絵になり、馬上で槍を振るう姿に誰もが見惚れる。返り血一つ浴びない姿、その武芸を讃えて、西涼の錦。と決して錆びぬ涼州の誇りだと呼ばれている。
あまり血を浴び過ぎると帰った時に同居人が心配するから、怪我をすると同居人が青褪めた顔で不安がるから、そんな理由で綺麗に殺すことを心掛けているなんて味方は勿論、敵にも言えない。と苦笑する。
この頃になるともう、葵なしの生活なんて考えられなくなっていた。
世間一般的に言われるような、良き妻、というのは彼女のような人物が呼ばれるのだろう。彼女もいずれ良い人が出来たら屋敷を出て行ってしまうのだろうか。それは少し嫌だな、となんとなしに思った。
更に日が過ぎて、大きく是と否が書かれた枕を持った葵を隣に御母様が宣言する。
「この子を貴女達の誰か一人と婚姻して貰うから、そのつもりで」
ざっくばらんに言われた言葉に私達は衝撃を隠せず、姉妹三人で互いを見合わせた。
そして瞬時に理解する。こいつら全員、自分と同じことを考えている。いまいち状況を理解できていないのか。あざとく首を傾げる葵を見て、私達姉妹は三人揃って生唾を飲み込んだ。意識していなかった訳ではない。名家に生まれた以上、同性で事を運ぶ場合があることは知っていた。実際、私達姉妹は同性婚によって産まれた子なのだ。意識しないはずがない。もし妻を娶る時が来るのであれば、彼女のような人間が良いと思っていた。それが明確に婚姻するという道筋を作られて、意識しないはずがない。
葵は眠たそうに欠伸をすると「今日は何処で寝よっか?」と目を擦りながら問いかけてくる。
「あれ、聞いてなかった? 私、今日から寝る時は貴方達の部屋って事になってるから」
拷問だろうか、じとっと母が出て行った扉の先を睨み付けた。
この後すぐ私達姉妹は御母様に呼び出されることになる。なんでも伝え忘れていた事があるとか。あの時、一緒に教えてくれたらよかったのに、とか、ぶつくさと呟きながら部屋に入ると御母様はまたしても衝撃的な事を口にする。
「葵と初めて夜を共にする時は必ず抱き締めて口付けすること」
最初だけで良いぞ、と御母様は言うだけ言うと持ち帰った書類仕事に没頭し始めた。
もう取り合う気もない母の様子に、誰かが言わずとも三人一緒に部屋を出る。そして同時に溜息を零した。全員が全員、顔が真っ赤になってしまっている辺り、やはり意識はしてしまっているのだろう。意味が分からない、と憤慨してくれれば敵が一人減るのだが、そんなことはなかった。ただただ黙り込んだまま、悶々とした感情を抱き続ける。本当にどうしたものか。そう悩んでいると二人からジトッとした目を向けられていることに気付いた。
羨ましそうな視線。ああ、そうだ。今日は私の番だった、と再び溜息を零した。
「翠姉様、変わってあげよっか?」
「あ、蒼ったら狡い。わ、私も変わっても良いよ?」
「……譲るつもりはないからな」
嫌そうな顔をしていたのに、と二人して抗議をしてくる。
そんな二人を無視して、台所へと足を運んだ。気負う心、顔を洗ってから入念に歯磨きする。口臭を何度も確認して、高鳴る胸を握り締めながら自分の部屋に入る。葵は部屋で待ち構えていた。何時も、きっちりと衣服を着込んでいる彼女。しかし寝る時は別なのか、ゆったりとした服装をより着崩していた。胸元が開いており、恥じらうように視線を逸らす。そして寝台には「是」を表にした枕が置かれている。これはもう覚悟してきた、と考えても良いのだろうか。距離を詰める、逃げない。髪に触れる、抵抗はない。搔き上げる、身を震わせるだけ。普段、髪に隠される耳元やうなじ、それを見るのは、なんとなく背徳感を覚えた。彼女は綺麗好きだった。体や髪を洗うのに石鹸をよく使っており、消費量も多いものだから自分で石鹸を作ったりもしている。彼女が使う石鹸は香草を混ぜていることもあり、良い匂いがした。スンと嗅ぐと仄かに甘い、それがまた酷く、情欲を湧き立てる。両手を背中に回した。それでも抵抗がなかったからギュッと力強く抱きしめた。「え、あれ?」と戸惑いの顔を浮かべる。それがまた可愛く思えた。もっと虐めたいと思った。だから唇を奪った。舌は絡めず、軽く押し付けるだけの接吻だ。数秒、柔らかい感触を確かめてから唇を離す。ぽかんと抜けた顔を浮かべる葵、そして、徐々に顔を真っ赤にさせていって、耳まで赤くしたところでボフンと爆発した。
その日はこれでおしまいだ。おめめをぐるぐるに回す寝台に寝かせて、私は悶々とした感情を胸に潜めながら体を丸める。
疼く想い、今日、初めて私は自慰をした。
†
異世界転生と云えば、無双チートだ。チーレムだ。
そう思い立った私は馬超、つまり翠に頼んで槍を持たせて貰った。重かった、危ないからと槍を取り上げられた。夢も希望も魔法もなかった。ステータスもオープンしなかった。というよりも女性の身になってから体力が落ちている気がするので、むしろ弱体化している可能性すらもある。今日日、異世界転生と云えば、チートで無双するのが流行りだというのに神様は分かっちゃいない。まあ私、神とか女神とか出会っちゃいないのだけど、さておき、現実を見つめ直した私は自分にやれる事をしようと思い改める。そして手を付けたのが家事全般、男子高校生なのだから家事の一つや二つはできて当然、ついでに云えば、私は一人暮らしをしていたので自炊とかはよくしていた。バレンタインデーには友チョコとか渡してたし、ホワイトデーにはクッキーとか焼いていたし、裁縫で破れた衣服の修繕もよくしていた。細かい作業は性に合っていたし、料理を作るのも割と好きだった。これといった趣味がなかっただけとも云う、実際、退屈凌ぎの暇潰しで家事をすることは多かった。
折角、異世界に来たのだから男らしく暴れてみたかった気持ちはある。しかし、その気持ちは頭から血を被った翠の姿を見て、直ぐに諦めた。いや、だって無理、あれは無理だ。戦場帰り、頭から血を被った翠を見て、本人は大丈夫だって言ってるのに、私は彼女が本当に怪我をしていないのか心配で服を脱がせようとした。とんだセクハラである。翠達が戦場に出た時はあまり心配していなかった。だって馬超ですし、西涼の錦ですし、五虎将軍ですし。でも実際に血塗れになって帰ってきた姿を見て、その考えは間違っていたことに気付いた。翠は得意顔で武功を誇るけども、そんなのはどうだって良い。私はただ翠が無事に帰ってきてくれたことが嬉しかった、無事に帰ってくる。それこそが最大の武功だと私は思う。だから翠の血に濡れた手を両手を握り、その温もりを感じ取る。嗚呼、生きている。死んでいても不思議じゃない、戦のない現代社会でも人間なんて簡単に死んでしまうのだ。戦なら尚更の話、生きていて良かった。目頭が熱くなる、涙が溢れた。狼狽える彼女に私は告げる。
次も無事に帰ってきてください、と。血を見ただけで体が震える私では戦働きなんて、とてもできそうもない。できないものは仕方ない。
翠、蒼、鶸。三人が戦に出て行く時、私は両手をギュッと握り締める。そうしないと不安だったからだ。ともすれば、簡単に消えてしまいそうな彼女達の存在を確認するように、無事に帰ってきますように、と念を込めてギュッと握る。彼女達は戦に出向く、弱い私は戦に出る事は出来ない。だから家を守る、彼女達が帰ってくる場所を守ろうと心掛けた。そして戦場から戻ってきた彼女達を満面の笑顔で、おかえり、って迎え入れるのだ。
今日もまた家事をして、時間の合間に刺繍をする。
屋敷から出ない私が彼女達にできることなんて高がしれている。精々、神頼みくらいなものだ。だから、御守りを作っている。彼女達の息災を祈って、丹念に編み込んだ。
……最近、ふと不安になることがある。
ヒロインムーブをし過ぎてはいないかと、いや、そんなことはない。
何故なら私は歴とした元男だからだ。
そうだ、私は前世でも男らしく生きようと努力をしていた。
だからきっと私は男らしいのだ。
ふんす、と胸元で両手を握り締めて、何時ものように鍛錬に出向いた皆の帰りを待つ。
今日は肉じゃがだ!