異世界転生したら、三国志だから、アレッと思って、美少女だっけ、性転換しちゃって、もうゴールインさ 作:にゃあたいぷ。
私、蒲公英は今、従姉妹達を前に正座させられている。
とりあえず風呂に入ることは許されたけど、その後すぐ身柄を引っ立てられた。床に正座させられる、従姉妹達が椅子に座って私達を見下している。ちなみに葵は今もまだゆったりと入浴中だ、この扱いの違いである。何処で選択を間違えたのかな、って思ったりもしたけども、たぶん私は何も悪くない。というよりも私は何も悪いことをしていない気がする。悪いのは紛れもなく葵だし、しっかりと葵を繋ぎとめていなかった従姉妹達も悪い。そんなことを言ったところで従姉妹達が溜飲を下げるとは思えないから黙ってるけど。
きっと葵は西施とか王昭君とかの生まれ変わりだ、傾国の美女とは彼女の為にある言葉だと思った。
この宗教裁判染みた状況下、それでも問答無用の断罪はなく、説明を要求されたので軽く経緯を説明する。
「――という訳なんだけど、翠姉様も鶸も蒼もさあ。もうちょっとどうにかならなかったの?」
話し終えた時、状況はまるっきり変わっていた。
気不味そうに顔を俯ける馬鹿が三名。語り聞かせた内容は、従姉妹達の性欲が強過ぎて避けていた事に加えて、彼女は女性であり、男性的な嗜好を持つという点。ついでに従姉妹達には好意を向けていることも伝えれば、「ならどうして!?」と彼女達は問い返す。それは自分の胸に手を当てて考えてみると良いんじゃないかな、と。
そうした話が積み重なった結果、今の状況が生まれた。
「あれ、どうなってるの、これ?」
そこでホクホク顔の葵が部屋に戻ってくる。長い黒髪が水を含み、滴らせる姿。ほんのりと赤みの帯びた頰が扇情的で、とか今は思っている場合じゃないので、とりあえず私の隣に座らせた。葵は顔を俯ける三人を暫く見つめた後、ポンと両手を合わせてみせる。
「ご飯にしましょう」
その抜けた発言に従姉妹達は揃いも揃って、ぽかんと口を開いた。らしいと云えばらしい発言に呆れつつも「恨み言の一つや二つでも言っとけば?」と促せば、うーん、と葵は頰に手を添えて悩みつつ、「恨むような事はされてませんし」と曖昧に笑ってみせる。そういう甘い態度を取ってるから従姉妹達に付け込まれて来たんじゃないかな。盛りのついた犬、もとい馬にはガツンと言ってやることも躾だと思うんだけど。
「迫られることは嬉しいんだけど、毎日あれだと体力が持たないし……あと私を見る目が怖い」
葵は眉間に皺を寄せて、私は生餌じゃないですよ。と拗ねてみせる。
それだけでも効果はあったのか、より一層に気落ちさせた。優しくしてって言っても無視するし、嫌って本気で言ってても止めてくれないし、もうちょっと私の事を労って欲しい。そんな追い討ちの数々に従姉妹達は三人揃って土下座した。うん、反省して貰わないと困る。それから各々の謝罪を笑顔で受け取る葵を見つめて、やっぱり甘いなあって溜息を零す。たぶん、葵を独占する事はできない。元より葵は従姉妹達に対して好意的だ。それは恋愛的な意味合いも込められているし、きちんと順序を立てれば、十分に葵を籠絡させることもできたはずだ。それができなかったおかげで私が葵と出会う事ができたのだから非難はしていても、感謝もしている。
……たぶん私は彼女を独占する事はできない。
葵も苦言こそ零してはいるが、本気で怒っている訳ではない。葵が従姉妹達と関係を断絶することは、今はまだ考えられず、少なくとも従姉妹達の内一人とは関係を持つことになるだろう。なんとなしに三人共に首っ丈であるから三人と関係を持ちそうな気がしなくともない。それでも焦りはなかった。何故なら昨夜の時点で、既に私は葵との繋がりを得ている。そして、それは従姉妹達では決して得られることのできないものであった。何があったのかは言うつもりはないけども。お腹をさすりながら優越感、これが本妻の余裕と云うものである。
それから程なくして食事の準備、何故か赤飯が出てきた。
「あれ、今日は何かお祝いでもありましたか?」
鶸が問う、葵は満面の笑みで頷き返した。あれ、これ、なんだか拙い流れな気がする。
「今日はねー。私が卒業した記念の日なのです」
「卒業? 何を卒業したんだ?」
翠の素朴な疑問に、葵は自慢げに胸を張って、ふっふーん、とドヤ顔を披露する。
「なんとですね、私は昨夜……!」
「おおっと、手が滑っちゃった!」
「ふぎゃっ!?」
そんな葵の後頭部を思い切り叩いた。
訳が分からない、と驚愕しながら私を見つめ返すけど、無視を決め込んで赤飯を頬張る。これは完全に葵が悪い、他人の秘め事を聞くのは良いが、話されるのは溜まったものではない。そもそもだ、本人が居るところで情事を語るなんて繊細さに欠けている。そういうのは神経が図太いではなくて、抜けている。と云うものだ。出来るだけ平静を保ちながらバクバクと御飯を平らげて、御茶をズズッと啜る。こんな場所に居られるか、私は一人で部屋に戻らせて貰う! こういう時の葵の口の軽さには半ば諦めているから、私が居ないところで勝手に盛り上がって欲しい。
その様子に違和感を抱いたのか、蒼が探るように私を見つめる。
「蒲公英、もしかしてー?」
蒼が右手の親指と人差し指で輪を作り、そこを左手の人差し指を通す。ボッと顔が赤くなるのが分かった。
「え、そんな! 蒲公英様が葵の初めてを貰っちゃったんですか!?」
鶸がガタッと席を立つ。それまで不思議そうに私達を見つめていた翠が「蒲公英、それは流石に許されないぞ!」と怒声を張り上げた。まるで戦場で敵将と出くわした時のようにビリビリとした圧を放たれる。違う、違うけど間違ってもいない。弁明するには、余りにも羞恥的であった為に私は口籠ることしかできない。
「はい、蒲公英が私を筆下ろししてくれました」
そして、そういうことを笑顔であっさりと言っちゃうのが葵だった。
「えっ?」と口を開ける翠。
「あっ……」と何かを察する鶸。
「ふぅん」とにんまり笑みを浮かべる蒼。
三者三様の反応に私は無言で席を立ち、食器も片付けずに部屋を立ち去ろうとした。
「ちょっと待て、蒲公英! それはどういうことだ!?」
「えっ、蒲公英様? それってどうするんですか!? もしできちゃったりしたら……!」
「そういえば葵って元男っていう話しだったっねー」
私は脱兎の如く逃げ出した。あ、駄目、体を動かすと垂れてくる。何がとは言わないけど、この状態で外に出る勇気はない。とりあえず私室にて籠城戦だ。部屋に入って鍵を閉めて……あっ、扉は蹴破られたままだった。「蒲公英、話を聞かせて貰うぞ!」と追いかけてきたのは翠だけだ。鶸と蒼の二人は来ていない。じりじりと部屋の中まで翠に詰め寄られる中、どうして二人が来ていないのか思考を巡らせる。そして、蹴破られた扉の先から、ひたひたと葵が感情のない笑顔で姿を表したのを見て、全てを察し、勝利を確信する。
「御姉様、御飯はきちんと食べて来たの?」
「いいや、まだ食べきってはいないが?」
「うん、そうだね。食事中に席を立つのは行儀が悪いね?」
すぐ後ろまで迫る葵にポンと肩を叩かれる翠、煩わしそうに後ろに振り返り、無感情の笑顔を浮かべる葵と目が合った。翠は一度、私に視線を戻す。とりあえず頷き返した。そして、もう一度、葵の方へと振り返る。
「御飯を中断してまですることかな?」
「……イイエ、チガイマス」
葵に首根っこを掴まれながら、とぼとぼと退出する翠に胸を撫で下ろした。
「葵、ごちそーさま! 今日も美味しかったよ!」
「いつもありがとうございます、御馳走様でした」
そして擦れ違って入れ替わるように、部屋へと入ってくる鶸と蒼の二人。逃走経路は何処にあるか、と探りを入れるも二人の息の合った連携に僅かに残された逃げ道も塞がれる。
「き、昨日、何があったのか教えて貰います!」
「早く吐いた方が身の為だよ〜?」
意気込む鶸に、両手の指を脇傍と厭らしく動かす蒼を前に私は壁を背に負け惜しみを叫んだ。
そんなのに絶対に屈しないんだからね! なお。
†
その日、家族会議が行われた。
いつも家族みんなで仲良く食事を摂る大広間には重苦しい空気が充満している。
席に座るのは義姉妹達に加えて、蒲公英。三姉妹の視線は蒲公英に注がれており、その表情は三者三様だ。御立腹といった様子で腕を組むのは翠であり、複雑そうに眉間に皺を寄せるのは鶸。そして楽しげに蒲公英の事を見つめるのは蒼だった。蒲公英はまるで公開処刑を待つ罪人のように肩身を狭くしている。そして、そんな家族達を前に私、葵は溜息を零した。
最近、家族の関係がギスギスしてるせいか楽しくない。
今から行われるのも私と蒲公英の情事関係、それをこうやって尋問して暴くのはちょっと無粋が過ぎると私は思うのだ。女三人寄れば姦しいという言葉通りにガールズトークをするノリで聞き出せば良いのに、翠は大袈裟なのだ。これならまだ興味ないふりをしながら聞き耳だけは立派な鶸の方が好感が持てるというものだ。むっつりさんの存在は、それはそれで弄り甲斐があり、可愛らしいものである。
兎に角、この場で話すことは何もない。
「翠、これ以上、空気を悪くするなら私、口聞かないからね」
鶸は揶揄い、蒼には後でキャッキャウフフと教えてあげる。
絶望顔を浮かべる翠に、ふんだ、と顔を背けて席を立った。
「……あれ、これって私が悪いのか?」
「御姉様、どんな理不尽な事情があっても、こういう時は旦那様が悪くなるんだよ?」
「実家があったら、家に帰らせて貰います。って言われているところだったね〜」
そもそもだ、義姉妹達はみんな好き勝手が過ぎる。
欲望に忠実なのは良いが、もうちょっと、こう、遠慮や思いやりが欲しい。
求められるのは嬉しいけども限度はある。
その後、義姉妹達と蒲公英で話し合いが行われたようだが、その内容を私は知らない。