七草に連なる者は苦手が無く、何事も卒なくこなせる。そう有名である。
だから、例え『瞬間移動』という異能が使えたとしても、むしろそれしか使えない所為で、七草 晴矢はずっと『七草の落ちこぼれ』とそう後ろ指を指されてきた。
けれど、他の人に何を言われようとも、晴矢だけは知っている。
自分の魔法はただの瞬間移動なんかではないという事を。
物心ついた時、晴矢は自分が異能を使えることを知った。そして、自分の異能は話してはいけない、と本能的に考えた。
それは、生物としての本能的な恐怖で、知らせてはいけないと強く思うと同時、この人の身には過ぎた力を扱える自分に恐怖した。
故に、自分は『瞬間移動』のBS魔法師だと偽って今日まで生きてきた。
「明日から高校生、か……」
姉が通っている一校に合格出来たのは奇跡と言うべきか。姉と同じ一科生にはなれなかったが、妹達もこの高校に来る予定なので一安心といったところか。
「二科生……ね」
一科と二科の確執については姉から聞いている。そうでなくても晴矢は七草だ。何を言われるかは想像に難くない。
慣れているからどうってこと無いが、姉や妹達にその場面を見られると少し面倒な事になる。そう思って小さい溜め息を一つ。
周りから後ろ指を指されている晴矢だが父親を含め七草家で晴矢を蔑ろにする人はいない。寧ろ愛されているといっても過言では無いだろう、姉や妹達からは特に。
「晴くーん! お姉ちゃんに制服姿を見せて!?」
部屋に突撃してきたのは七草真由美。晴矢の姉だ。高校三年生にもなるというのにこの低身長は庇護欲をそそられる部分が無いでも無いが十師族の一員としての力は持っている。こんなちんちくりんだとしても。
「……今、変な事考えなかった?」
「イエ、何も」
所々勘が鋭いのも考えものだ。特に変な事を考えている時の的中率はほぼ百に達する。
「晴兄ー! ボクにも見せてー!」
「晴矢兄様、私も見たいです」
扉を蹴破る勢いで入ってきたのが香澄、その後に続いて入ってきたのが泉美。
「もう何度も見てるだろうに……」
「いいの! 制服姿の晴兄はとっても恰好いいんだから、何度も見たいの!」
「左様ですか」
制服を着るくらいそれ程の労力でも無い、と部屋の壁に掛けてあった制服を手に取り、サッと着る。
十師族で二科生なんて俺が初なんじゃ、と晴矢は思わずにはいられない。
「晴兄が一科生じゃないなんて……むむぅ、来年晴兄に悪口言う奴がいたらボクがとっちめてあげるからね」
「そうよ、何か言われたらいつでもお姉ちゃんに言っていいのよ? 生徒会長と十師族の権限の限りを持って私の可愛い弟を馬鹿にした事を後悔させてあげるんだから」
「晴矢兄様に悪口など万死に値します」
最早苦笑いするしか無い。
愛されているのがわかるのは嬉しい事だが、これは姉の耳に入らないように一層気をつけなければならないと晴矢は固く誓うのであった。
「ま、まあまあ、俺は気にしてないしさ。ほら、姉さんは明日早いんでしょ? 早く寝た方が良いんじゃない?」
「そうだけど、もうちょっとだけお話ししよ? ね?」
「あ、じゃあボクも。聞いてよ晴兄、ボクまた告白されちゃってさー」
「俺の妹に手を出そうとした不届き者は何処の何奴だ八つ裂きにしてやる」
「大丈夫ですよ晴矢兄様。私がきっちり……ふふっ」
泉美が漏らした昏い笑みに、晴矢は何故か内股気味になった。
七草家の夜は、更けていく。
♢ ♢ ♢
「お兄様、どうされたのですか?」
「いや、気になる情報があってね」
達也の手に持つタブレットに映し出されている少年は、七草晴矢だった。
「この人は……?」
「七草晴矢、俺と深雪と同じ明日入学する」
「十師族の!?」
「ああ、さらに二科生らしいんだ」
「七草なのに……ですか?」
深雪の発した台詞はもう既に晴矢が何百と言われてる台詞であるが、この時の深雪にそれを知る術はなかった。
「七草に生まれたのに、『瞬間移動』に特化していて、他の魔法は殆ど使えない……まるで俺みたいだな」
「瞬間移動……って、亜夜子ちゃんの擬似瞬間移動と何が違うのですか?」
「擬似瞬間移動は真空のチューブを作り出して、その中を移動するものだが、瞬間移動にチューブなんて必要ない。座標を設定した場所に瞬時に移動できる、移動できるのは本人含め2人が限度、そう連続して使えないと本人は言っている……が」
「どうされたのですか?」
短い溜め息を吐いた達也に、不思議に思った深雪は疑問を口に出した。
「こいつは何かを隠している感じがする。四葉をもってしても『瞬間移動』のBS魔法師というところまでしかわかっていない。俺が直接視れば何かわかるかも知れないが……無策に深くまで探るのは危険だ」
「お兄様をもってしてそこまで言わせるほどなのですか」
「それが杞憂で、本当にこれの記述通りなら取るに足らないさ。だが、杞憂じゃなかった時に敵対するのは避けたい。それに、彼は他の追随を許さない程武芸達者だとか」
「私は、聞いた事もありませんでした……」
「深雪が知らないのも無理は無い。彼は徹底的に表に出るのを拒んでる。いや、七草家がそうしてる方が高い、か」
「身内の恥を晒さない為に、ですか?」
「この場合は自分の息子を守る為に、だろうな。これが他の家に生まれていればこんな扱いは受けずに済んだのだろうが」
その『瞬間移動』という類稀なる才能は評価されている。だが、七草という生まれが良く無かった。
その異能に驚きはするが二言目に皆が言う言葉は「それだけ?」という意外感と少しの侮蔑が混じった言葉。
早急に対応しなければならない問題でも無いのでこの辺で打ち切り、深雪に危害を加える可能性があるかもしれないと心の隅にこの事を留めておいて、達也は就寝する事にした。
「それじゃあ、深雪。俺はもう寝るから、深雪も寝なさい。明日早いんだろう?」
「はいっ! お休みなさい、お兄様」
司波家では、勝手に晴矢の警戒度が上がっていた。
そんな、入学式前夜であった。
数年前に書いてあったのを発掘しました。
こんなに間が空いてると作者ですら忘れてますね。