東方世変物語 〜lay one's own path for the future〜 作:凱奏
「何がしたいんだよ!お前!」
妖怪の山に、疑問と怒りの詰まった叫びがこだまする。
直後、ゆっくりのそいつは立ち上がった。
「別に、お前が気に食わなさそうな顔してるからよォ。」
「余計なお世話だ、、。早く僕を斬ればよかったじゃないか!この山を荒らした怒りと憎しみで!」
「あれ、お前って自分のことは、俺って呼んでなかったか?」
「あっ、、。」
青年の言葉がそこで詰まる。
まるで、隠していたことを間違えて喋ってしまった少年のように。
「とにかく、傷は治しちまったんだ。」
次の瞬間、隼はその青年と少し距離を空けた。
「やろうぜ、、話はこれで、だ。」
少し間を開けて、返事は返された。
「・・・わかった。ああ!わかったよ!」
そして、二人は向き合う。
「これは真剣勝負だ。だから、ちゃんと名乗りを上げさせてもらう。名は咲風隼!」
隼は、右足をより一層深く踏み込んだ。
「さあ、勝負だ。」
瞬間、隼は地を蹴り加速する。
その、対戦相手目掛けて、
「ちょ!ちょっと!」
その青年は、慌てて左に身体を投げた。
その直後、轟音と共に、背後に生えていた木が倒れる。
「どうした、さっきまでの威勢は。」
「ちょ、ちょっと油断しただけだ!そもそも、あんたが名乗ったから、僕、、俺も名乗らなきゃいけないのかと思ったじゃないか!」
「・・・やっぱり、さっきまでと口調が違うな。僕呼びが少し出てるし、そもそも俺のことは貴様って呼んでた筈だ。」
「チッ、、うるせえな!」
今度は、青年の方から仕掛けた。
折れた木の残骸を踏み台にし、拳を構えて、隼の顔目掛けて突進する。
が、それはいとも容易く躱された。
「もうそんな攻撃、通用なんかしない。」
「ク、クッソォォーー!!」
攻撃を躱された青年は、がむしゃらに隼目掛けて拳を振るう。
当然、そんな攻撃が当たる訳もなく、
次の瞬間、隼はその青年の腹部目掛けて、拳を打ち込んだ。
「う、ガハァッ、、!」
青年はその場で、口から血を吐いた。
「質問だ。・・・いや、確認だ。改めて聞くが、お前の名前は弦って言うのか?」
隼は、再びその質問を投げかけた。
『違う。』
その瞬間、辺りに謎の気配が漂い始めた。
「な、何だ、、この気配は、、!」
『俺は、、弦じゃない。』
「さっきまでの、怒りとか憎しみの感情じゃねえ!」
その時、その気配が一点に集まりだした。
その行き先は、、
『そんな、弱い奴の名前じゃないッッ!!』
瞬間、青年は、隼の背後に回っていた。
更に、そこから拳を振り下ろした。
「なッ⁉︎ いつの間に」
隼は、咄嗟に手を出してガードする。
しかし、
「こ、この威力は!」
その手は、振り下ろされたその拳によって弾かれた。
「俺は、強くなったんだよッ!!」
続け様に、もう片方の拳を撃ち込む。
「こ、このッ!」
隼は、それを足を振り上げて、腕ごと弾いた。
そのまま、少し距離をとる。
「お、お前、、。」
「俺は、弦じゃない。今の名は、幻だッ!!」
直後、再び幻は距離を詰めた。
それも、能力を封じる前よりも早く!
「おるるぁぁぁ!!!」
隼から、数メートル離れた場所から、幻は拳を放った。
「くっ、、!」
それを、隼は瞬発的にしゃがんで躱す。
「そんな名前は捨てた、、。俺は、もう弱い自分じゃないッ!」
追い討ちに、幻は蹴りを放つ。
「・・・何が、、幻だ、、。」
その刹那、その蹴り攻撃を、隼は自分の足で地面に叩きつけた。
「何が名前を捨てただァァーー!!」
その時、偶然なのか必然だったのか、
「な、何ィ⁉︎」
突如、元いた隼の位置から、時を止めて移動したかのように、
隼は、一日で二度目の瞬間移動を放った!
「そんなことで、強くなんかなれるかァァ!!」
そのまま、いつも通り鞘から極夜を引き抜くが如く、
幻の腹目掛けて、右足を振り抜いた。
「うッ」
振り抜かれた右足は、そのまま幻の腹部にクリーンヒットし、
幻は、その反動のまま後ろに吹っ飛んだ。
「名前を捨てても、過去は捨てられないんだよッ。」
だが、吹っ飛ばされた幻は、再び立ち上がった。
恐らく、骨が何本も折れて、普通なら再起不能の重傷なのにも関わらず、
「黙れッ!お前なんかに、誰も守れない、弱かった僕の気持ちが分かるのかァァーーー!!!」
「ああ知らないねッ!知りたくもないなッ!!そんな反吐が出る気持ちはよォ!!」
その刹那、互いの拳が、両者から放たれた。
「・・・俺の、勝ちだッ。」
幻から放たれた拳を、隼は躱して、
そのまま頭蓋骨に、自分の拳を叩き込んでいた。
そして現在、地べたに幻は倒れ込んでいる。
起き上がる気配も、ない。
「ちくしょう、、。まだ、弱いままかよ、、。」
「・・・お前、本当は、何の能力も持ってなかったんだろ?」
「・・・ああそうさ。僕は、ただの人間。」
「俺、多分お前の過去を見たんだよ、さっき。」
「えっ、、?」
「村を守る為に、一人で戦って。」
「・・・なん、だよ、。馬鹿な奴だって、、笑うのか、、?」
「そんな訳。・・・尊敬するぜ、弦。」
「なっ、、⁉︎」
「だけど、憎しみに負けて、他人の力を借りて、無関係な人を傷つけたのは許せないな。」
「・・・山を襲ったのは、、山とか妖怪が嫌いだったからなんだ。」
「それは、なんで?・・・いや、言わなくていい。大体わかってる。」
「そう、か、、。」
「最後に、お前に手を貸した奴は誰だ?」
「・・・ごめん、わからない。僕も、、意識が朦朧としてて、、」
「そうか。ならいいんだ。・・・弦?」
その時、隼は何かを感じた。
すぐさま、弦の心臓に耳を当てる。
既に、鼓動は止まっていた。
「・・・ッ。」
「あ!隼さん!」
俺は、弦の身体を背負って、文たちの元へ戻った。
どうやら、最後の勝負の時、かなり距離を移動していたらしい。
全く無意識だったけど。
「よお文。怪我とかないか?」
「私は大丈夫ですよ。ほら!」
直後、猛スピードで文が上空に飛び上がった。
間も無く、その場に文は戻る。
「元気そうでよかったよ。」
文は、ニコリと笑顔を浮かべた。
「それより、隼さんは。怪我とか、」
「ああ大丈夫。さっき治したよ。」
「よかったです。」
俺は、ゆっくりと弦を地面に下ろした。
「気絶してるんですか?」
俺は首を横に振る。
「もう、息がない。完全に死んでるよ。」
「・・・隼さん。」
再び、俺は弦の身体を担いだ。
「さあ、行こ」
「なんで、そんなに怒ってるんですか?」
「・・・えっ、、?」
文の一言は、一瞬理解出来なかった。
「別に、怒ってなんか」
「嘘、凄い形相ですよ。」
そう言って、文は鏡を見せてきた。
なんでそんなもん持ってんだよ。
俺は、鏡に映る自分の顔を見た。
そこに映っていたのは、
「な、なんだこの顔。」
まるで、今から鬼か何かに変身しそうな顔だった。
まさしく、鬼の形相。
「ちょ、文!お前なんか細工でもしてんのか!」
「いやしてませんよ!普段身嗜みの時使ってるんですから!」
「だとしても、なんだこれ。特に目!怖すぎるだが。」
「自分のこと怖いって言ってどうするんですか、、。」
俺は、なんとか普段通りの表情に戻した。
「よし、これで大丈夫か。」
「別に、さっきも駄目なわけじゃ。」
「いやそうだけど、、」
「それで、その人はどうするんですか?私はその人を許す気なんかないですけど。」
文の怒りは理解出来る。
沢山荒らされたし、殺されもした。
「・・・こいつの、故郷に埋めるよ。」
「えっ、わかるんですか?」
「ああ、多分な。」
大変だろうけど、あの記憶を頼りに探そう。
「・・・この辺かな。」
少し妖怪の山を離れて、探し回ること数時間。
山の風景とかを頼りにして、なんとかその場所を探し出した。
そして、地面を掘り、そこに弦の遺体を埋めた。
「・・・成仏しろよ、今度は。」
その場で、手を合わせた。
それにしても、あの死に方は何だったんだ。
まるで、魂を抜き取ったかのように死んでいった。
そして、眠るようにではなく、瞬間的に。
俺じゃない、誰かが殺したってことだ。
「考えられるのは、、あの協力者か。」
幻(弦)
再生爆破
昆虫変化
幻覚術
ステータス
攻撃力……B
行動速度……A
反応速度……A
持久力……A
知力……B
判断力……A
幻の読み方は、「げん」でも「まぼろし」でも良いです。