東方世変物語 〜lay one's own path for the future〜   作:凱奏

67 / 158
最後の殴り合い

 

 

「何がしたいんだよ!お前!」

 

 

妖怪の山に、疑問と怒りの詰まった叫びがこだまする。

 

直後、ゆっくりのそいつは立ち上がった。

 

 

「別に、お前が気に食わなさそうな顔してるからよォ。」

 

 

「余計なお世話だ、、。早く僕を斬ればよかったじゃないか!この山を荒らした怒りと憎しみで!」

 

 

「あれ、お前って自分のことは、俺って呼んでなかったか?」

 

 

「あっ、、。」

 

 

青年の言葉がそこで詰まる。

 

まるで、隠していたことを間違えて喋ってしまった少年のように。

 

 

「とにかく、傷は治しちまったんだ。」

 

 

次の瞬間、隼はその青年と少し距離を空けた。

 

 

「やろうぜ、、話はこれで、だ。」

 

 

少し間を開けて、返事は返された。

 

 

「・・・わかった。ああ!わかったよ!」

 

 

そして、二人は向き合う。

 

 

 

 

「これは真剣勝負だ。だから、ちゃんと名乗りを上げさせてもらう。名は咲風隼!」

 

 

隼は、右足をより一層深く踏み込んだ。

 

 

「さあ、勝負だ。」

 

 

瞬間、隼は地を蹴り加速する。

 

その、対戦相手目掛けて、

 

 

「ちょ!ちょっと!」

 

 

その青年は、慌てて左に身体を投げた。

 

 

その直後、轟音と共に、背後に生えていた木が倒れる。

 

 

「どうした、さっきまでの威勢は。」

 

 

「ちょ、ちょっと油断しただけだ!そもそも、あんたが名乗ったから、僕、、俺も名乗らなきゃいけないのかと思ったじゃないか!」

 

 

「・・・やっぱり、さっきまでと口調が違うな。僕呼びが少し出てるし、そもそも俺のことは貴様って呼んでた筈だ。」

 

 

「チッ、、うるせえな!」

 

 

今度は、青年の方から仕掛けた。

 

折れた木の残骸を踏み台にし、拳を構えて、隼の顔目掛けて突進する。

 

 

が、それはいとも容易く躱された。

 

 

「もうそんな攻撃、通用なんかしない。」

 

 

「ク、クッソォォーー!!」

 

 

攻撃を躱された青年は、がむしゃらに隼目掛けて拳を振るう。

 

 

当然、そんな攻撃が当たる訳もなく、

 

 

次の瞬間、隼はその青年の腹部目掛けて、拳を打ち込んだ。

 

 

「う、ガハァッ、、!」

 

 

青年はその場で、口から血を吐いた。

 

 

「質問だ。・・・いや、確認だ。改めて聞くが、お前の名前は弦って言うのか?」

 

 

隼は、再びその質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『違う。』

 

 

その瞬間、辺りに謎の気配が漂い始めた。

 

 

「な、何だ、、この気配は、、!」

 

 

『俺は、、弦じゃない。』

 

 

「さっきまでの、怒りとか憎しみの感情じゃねえ!」

 

 

その時、その気配が一点に集まりだした。

 

その行き先は、、

 

 

『そんな、弱い奴の名前じゃないッッ!!』

 

 

瞬間、青年は、隼の背後に回っていた。

 

更に、そこから拳を振り下ろした。

 

 

「なッ⁉︎ いつの間に」

 

 

隼は、咄嗟に手を出してガードする。

 

しかし、

 

 

「こ、この威力は!」

 

 

その手は、振り下ろされたその拳によって弾かれた。

 

 

「俺は、強くなったんだよッ!!」

 

 

続け様に、もう片方の拳を撃ち込む。

 

 

「こ、このッ!」

 

 

隼は、それを足を振り上げて、腕ごと弾いた。

 

そのまま、少し距離をとる。

 

 

「お、お前、、。」

 

 

「俺は、弦じゃない。今の名は、幻だッ!!」

 

 

直後、再び幻は距離を詰めた。

 

それも、能力を封じる前よりも早く!

 

 

「おるるぁぁぁ!!!」

 

 

隼から、数メートル離れた場所から、幻は拳を放った。

 

 

「くっ、、!」

 

 

それを、隼は瞬発的にしゃがんで躱す。

 

 

「そんな名前は捨てた、、。俺は、もう弱い自分じゃないッ!」

 

 

追い討ちに、幻は蹴りを放つ。

 

 

「・・・何が、、幻だ、、。」

 

 

その刹那、その蹴り攻撃を、隼は自分の足で地面に叩きつけた。

 

 

「何が名前を捨てただァァーー!!」

 

 

その時、偶然なのか必然だったのか、

 

 

 

 

「な、何ィ⁉︎」

 

 

突如、元いた隼の位置から、時を止めて移動したかのように、

 

 

隼は、一日で二度目の瞬間移動を放った!

 

 

「そんなことで、強くなんかなれるかァァ!!」

 

 

そのまま、いつも通り鞘から極夜を引き抜くが如く、

 

幻の腹目掛けて、右足を振り抜いた。

 

 

「うッ」

 

 

振り抜かれた右足は、そのまま幻の腹部にクリーンヒットし、

 

幻は、その反動のまま後ろに吹っ飛んだ。

 

 

「名前を捨てても、過去は捨てられないんだよッ。」

 

 

だが、吹っ飛ばされた幻は、再び立ち上がった。

 

恐らく、骨が何本も折れて、普通なら再起不能の重傷なのにも関わらず、

 

 

「黙れッ!お前なんかに、誰も守れない、弱かった僕の気持ちが分かるのかァァーーー!!!」

 

 

「ああ知らないねッ!知りたくもないなッ!!そんな反吐が出る気持ちはよォ!!」

 

 

その刹那、互いの拳が、両者から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・俺の、勝ちだッ。」

 

 

幻から放たれた拳を、隼は躱して、

 

そのまま頭蓋骨に、自分の拳を叩き込んでいた。

 

 

そして現在、地べたに幻は倒れ込んでいる。

 

起き上がる気配も、ない。

 

 

「ちくしょう、、。まだ、弱いままかよ、、。」

 

 

「・・・お前、本当は、何の能力も持ってなかったんだろ?」

 

 

「・・・ああそうさ。僕は、ただの人間。」

 

 

「俺、多分お前の過去を見たんだよ、さっき。」

 

 

「えっ、、?」

 

 

「村を守る為に、一人で戦って。」

 

 

「・・・なん、だよ、。馬鹿な奴だって、、笑うのか、、?」

 

 

「そんな訳。・・・尊敬するぜ、弦。」

 

 

「なっ、、⁉︎」

 

 

「だけど、憎しみに負けて、他人の力を借りて、無関係な人を傷つけたのは許せないな。」

 

 

「・・・山を襲ったのは、、山とか妖怪が嫌いだったからなんだ。」

 

 

「それは、なんで?・・・いや、言わなくていい。大体わかってる。」

 

 

「そう、か、、。」

 

 

「最後に、お前に手を貸した奴は誰だ?」

 

 

「・・・ごめん、わからない。僕も、、意識が朦朧としてて、、」

 

 

「そうか。ならいいんだ。・・・弦?」

 

 

その時、隼は何かを感じた。

 

すぐさま、弦の心臓に耳を当てる。

 

 

 

既に、鼓動は止まっていた。

 

 

「・・・ッ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!隼さん!」

 

 

俺は、弦の身体を背負って、文たちの元へ戻った。

 

どうやら、最後の勝負の時、かなり距離を移動していたらしい。

 

全く無意識だったけど。

 

 

「よお文。怪我とかないか?」

 

「私は大丈夫ですよ。ほら!」

 

 

直後、猛スピードで文が上空に飛び上がった。

 

間も無く、その場に文は戻る。

 

 

「元気そうでよかったよ。」

 

 

文は、ニコリと笑顔を浮かべた。

 

 

「それより、隼さんは。怪我とか、」

 

「ああ大丈夫。さっき治したよ。」

 

「よかったです。」

 

 

俺は、ゆっくりと弦を地面に下ろした。

 

 

「気絶してるんですか?」

 

 

俺は首を横に振る。

 

 

「もう、息がない。完全に死んでるよ。」

 

「・・・隼さん。」

 

 

再び、俺は弦の身体を担いだ。

 

 

「さあ、行こ」

 

「なんで、そんなに怒ってるんですか?」

 

「・・・えっ、、?」

 

 

文の一言は、一瞬理解出来なかった。

 

 

「別に、怒ってなんか」

 

「嘘、凄い形相ですよ。」

 

 

そう言って、文は鏡を見せてきた。

 

なんでそんなもん持ってんだよ。

 

 

俺は、鏡に映る自分の顔を見た。

 

そこに映っていたのは、

 

 

「な、なんだこの顔。」

 

 

まるで、今から鬼か何かに変身しそうな顔だった。

 

まさしく、鬼の形相。

 

 

「ちょ、文!お前なんか細工でもしてんのか!」

 

「いやしてませんよ!普段身嗜みの時使ってるんですから!」

 

「だとしても、なんだこれ。特に目!怖すぎるだが。」

 

「自分のこと怖いって言ってどうするんですか、、。」

 

 

俺は、なんとか普段通りの表情に戻した。

 

 

「よし、これで大丈夫か。」

 

「別に、さっきも駄目なわけじゃ。」

 

「いやそうだけど、、」

 

 

 

 

 

 

 

「それで、その人はどうするんですか?私はその人を許す気なんかないですけど。」

 

 

文の怒りは理解出来る。

 

沢山荒らされたし、殺されもした。

 

 

「・・・こいつの、故郷に埋めるよ。」

 

「えっ、わかるんですか?」

 

「ああ、多分な。」

 

 

大変だろうけど、あの記憶を頼りに探そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・この辺かな。」

 

 

少し妖怪の山を離れて、探し回ること数時間。

 

山の風景とかを頼りにして、なんとかその場所を探し出した。

 

 

そして、地面を掘り、そこに弦の遺体を埋めた。

 

 

「・・・成仏しろよ、今度は。」

 

 

その場で、手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

それにしても、あの死に方は何だったんだ。

 

まるで、魂を抜き取ったかのように死んでいった。

 

そして、眠るようにではなく、瞬間的に。

 

俺じゃない、誰かが殺したってことだ。

 

 

「考えられるのは、、あの協力者か。」

 

 





 幻(弦)
  再生爆破
  昆虫変化
  幻覚術
 ステータス
  攻撃力……B
  行動速度……A
  反応速度……A
  持久力……A
  知力……B
  判断力……A


幻の読み方は、「げん」でも「まぼろし」でも良いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。