東方医師録   作:生きた屍

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ふう。
まあ、こんな感じで。


第九話 彼は帰って来た

 そうしてドクは、咲夜に出口まで案内してもらい、門番の美鈴にも挨拶して、紅魔館を後にしたのだった。

 ドクはすぐ側が湖であったため、空を飛んで人里まで戻った。

 途中にある氷精と出会ったが、軽くいなし先に進んだ。

 そして、里の入り口まで帰って来たのだった。

 そこでドクは思い出した。

 ――白衣、左腕ごとやられてしまったな……血もついてしまったし。霖之助に代えはないか、あとで聞いてみよう。

 考えながらドクは人里に足を踏み入れた。

 そこはたくさんの人で賑わっていた。

 紅い霧で静かになっていたのが嘘のようだ。

 ドクはその中を、自宅を目指し歩いて行く。

 ドクが隣を通るとき、何人かが、ドクの左腕に目をやっている。

 あるはずの場所に、あるはずのものがないのだ。

 無理もなかった。

 だが、ドク自身がそれを何も思っていないように飄々とした様子であった。

 そのため、他の人もそれについて聞くことはなかった。

 ドクは馴染みの蕎麦屋を通り過ぎ、自宅の長屋に入って行った。

 

「……やっと帰って来た」

「えっ?」

 

 ドクが戸を開くと、霊夢がお茶を飲んでいた。

 ドクはなんだか既視感を感じた。

 ――……文の時と同じか。

 

「何で、ここにいるんだい? 霊夢が博麗神社にいないんじゃ、他の人が大変だろう」

「知ったこっちゃないわよ。大体あんたがなかなか帰って……」

 

 霊夢はそこでいきなり言葉を切った。

 その視線は、ドクの左腕があった場所に向いている。

 

「……ドク、その腕……」

「ああこれかい? いろいろとあってね。まあ、命に別条はないよ」

「……誰にやられたの」

「えっ?」

「誰にやられたかって聞いてるのっ!」

 

 霊夢は肩を震わせていた。

 ドクは気圧さてしまった。

 今までこんな霊夢は見たことがなかったからだ。

 戸惑いながらドクは言葉を返した。

 

「……霊夢。君がそんなに慌てるなんて、らしくないじゃないか。心配せずとも僕は大丈夫だよ」

「……」

 

 霊夢は無言でドクを見る。

 どこか、寂しそうな雰囲気を感じた。

 ――……どうしたものか。

 

「……誰にやられたかって聞いたね。僕からそれを聞いて、どうする」

「ドクの代わりにやり返しに行くわよ」

「僕が望まなくても?」

「私の気が晴れないもの」

 

 ドクは息を吐く。

 

「じゃあ、教えられない」

「……あっそ。まあ、紅魔館の連中なのはわかるけど」

「だからって、手当たり次第に倒していけばいい、なんて考えないでくれよ? 異変は解決されたんだから」

「じゃあ、ドクのその怪我はどうすんのよ」

「左腕がなくたって、生きてはいけるさ。幸い、右手があれば治療はできる」

 

 ドクはそこまで言って、部屋に上がった。

 そして霊夢と向かい合うように座る。

 

「……お茶淹れるわ」

「ありがとう」

 

 霊夢は立ち上がって、湯呑みと急須を持ってきた。

 そして、ドクの前に湯呑みを置き、お茶を注いだ。

 二人は自分のお茶を一口飲んだ。

 ――霊夢も、少し落ち着いただろうか。

 

「大体何で怪我したのよ? これからの決闘は、弾幕ごっこによるものになったんじゃなかったの?」

 

 霊夢は落ち着いて、まず根本的な疑問をドクに問う。

 聞かれたドクは、いまいちピンと来ていない表情である。

 それもそうだ。

 なぜなら。

 

「弾幕ごっこ、とは何だい?」

「……はあ!?」

 

 霊夢は頓狂な声を上げた。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

「なるほど。擬似的な決闘ね……。道理で……」

 

 ドクは霊夢に説明されて得心がいった様子だ。

 霊夢によると、弾幕ごっことは、人間と妖怪の力量の差をなくすために作られた、スペルカードルールと言うものに則って決闘を行うものらしい。

 決闘とは言っても、相手を殺したりはしない。

 スペルカードルールとは、実際聞いてもよくわからなかったが、スペルカードと言うものを作って、弾幕で勝負するもの、のようだ。

 だから、異変解決後も妙にギスギスした関係にもならず、さっぱりと終わりにできる、とのこと。

 これを霊夢が異変を解決する前に、紫が伝えたことらしい。

 ――……僕にも、一言でもいいから伝えてほしかった。 

 

「紫の奴から聞いてなかったの?」

「……ああ。だから、妖怪退治と同じようにするものだとばかり……」

 

 ―そういえば、途中フランドールが弾幕ごっこと言っていたか……。結局、彼女の能力に左腕をやられて終わったが。

 ドクの言葉を聞いた霊夢は、怒りの矛先を決めたようだった。

 

「……紫め……」

「霊夢?」

 

 恨めしそうに呟く霊夢。

 ドクはいきなり俯いてしまった霊夢に声をかける。

 霊夢は顔を上げた。

 

「……はあ。もういいわ。なんだか疲れちゃった……。ドク、その様子じゃ、ご飯も作れないんじゃないの?」

「ああ~……それは、確かに。どうしようか……考えていなかったよ」

 

 それを聞いた霊夢は、徐に立ち上がり、台所に向かった。

 

「れ、霊夢?」

 

 その行動に、慌てた様子で声をかけるドク。

 だが、霊夢は止まらない。

 少しして、霊夢は戻って来た。

 

「一応食材はあるみたいだから、私が作るわ。もう昼過ぎだし」

「それはありがたいが……いいのかい?」

「いつもドクには世話になってるし……それに、その……」

 

 霊夢は頬を淡い赤色に染め、しどろもどろになっていた。

 

「? 調子が悪いのなら僕が」

「大丈夫! 大丈夫よっ、うん。大丈夫だから。それじゃあドクは休んでて。パパッと作っちゃうから」

「あ、ああ」

 

 霊夢はいきなり慌てたように声を大きくし、素早く台所に行った。

 ――どうにも、今日の霊夢は様子がおかしいね。

 ドクはそう思いながら、もう一度お茶を飲んだ。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

「ほら、出来たわよ。もともと材料がなかったから、あまりいいものは出来なかったけど」

「それは僕が悪いんだし、別に気にしないでくれ。じゃあ、いただきます」

 

 霊夢が作ったのは、あった野菜をいためた野菜炒めだった。

 ご飯も炊き、つやつやの米がおいしそうである。

 野菜炒めは簡単な料理ながら、人によって味の変わる料理でもある。

 霊夢の作ったものは、適度に焼かれていて、黒い焦げ目などもなく、食欲をそそるいい見栄えだった。

 ドクは箸で野菜炒めをつまみ、口に入れる。

 

「……どう?」

 

 ドクは丁寧に咀嚼し、飲み込んでから。

 

「おいしいよ、霊夢。料理が上手くなったね。米もいい炊き具合だ」

「そ、そう。ならいいの。……良かった」

 

 霊夢は小さく呟いた。

 

「どんどん食べてね。まだまだあるから」

 

 ドクは頷き食べ続ける。

 霊夢はそんなドクを眺めていた。

 また、うっすらと頬が赤くなっていた。

 

 そして、少し経ってドクは食べ終えた。

 綺麗に完食である。

 

「ご馳走様」

「お粗末さまでした。じゃあ、私が片づけるわ」

 

 霊夢は立ち上がり、食べ終えた食器を持った。

 

「悪いね」

「お互いさまよ。何度も言うようだけど、私はドクに世話になってるからね」

 

 霊夢はまた台所に歩いて行った。

 一人残されたドクは、これまでの疲れが来たのか、霊夢が食器を洗う音を聞きながら、意識が遠くなってきていた。

 ――……眠く、なって来たな……。

 そう思ったドクは、机に頬をつけ眠ってしまった。

 そんなところに、霊夢は戻って来た。

 

「ドク? 終わったわ、よ……って、寝ちゃったのね」

 

 ドクはすうすう、と規則正しい寝息を立てている。

 霊夢はそれを見て、幸せそうに微笑んでいた。

 このまま、静かな昼下がりになるかと思いきや、突然、大きく戸が開かれた。

 

「あやややや! ドクさんが帰って来たと聞きましてっ! この射命丸文、飛んで参りましたっ! ……って、あれ? 霊夢さん?」

「うるさい、今ドクが寝てんだから静かにしなさいよ」

 

 いきなり現れた文に、霊夢は低い声で言う。

 まさか霊夢がいるとは思わなかった文は、戸惑いつつも霊夢に一言謝り、部屋に上がった。

 

「あの~、何で霊夢さんがいるんでしょうか……?」

 

 文は部屋に上がるなりそう尋ねた。

 

「別にアンタには関係ないでしょ」

「はあ、まあそうなんですが……ん?」

 

 文はドクの隣に座って、左腕がないことに気づいた。

 驚きが表情に出てくる。

 

「あ、あのっ! ドクさんの左腕がないんですがっ!?」

 

 文の声は少し上ずっていた。

 

「あ~もう、うるさいわねっ! ドクが寝てるんだから静かにしなさいっての!」

「……ん、んん……」

「「!」」

 

 ドクは霊夢の声に反応して体を動かした。

 だが、起きたわけではないようだ。

 二人はひとまず安心し、声を小さくして話す。

 必然的に二人の顔は近くなった。

 

「ドクが紅魔館に行って、怪我して帰って来たのよ。……左腕がないってことを、ただの怪我として扱うのもアレだけど」

「……そう、ですか……」

 

 二人とも、どこか暗い雰囲気を出している。

 ドク本人はあまり気にしていないのだが、他の人間から見れば、いきなり友人の左腕がなくなったのだ。

 少なくとも、簡単に流せる話ではなかった。

 

「ですが、もう異変は解決したんですよね? それに、決闘にはルールを決めたと聞いたのですが……」

「ええ、決めてそれに則って異変を解決したわ。でもドクはそれを知らなかった。だから、ドクは何時ものようにやったって。それに乗ってくる相手も相手だけどね」

 

 霊夢は息を吐く。

 

「で、ですがルールについてはあの八雲紫が言ったのでは?」

 

 文はやや早口に言った。

 

「……ドクには言ってなかったらしいわよ。まったく、あとできつく締めてやるわ」

「その時は私もお付き合いしますよ」

 

 その言葉に霊夢は少なからず驚いた。

 

「アンタは、強い奴には下手に出る嫌な奴だと思ってたけど?」

「ええ、その通りです。ですが、そんな私でも怒るときは怒りますよ。……ドクさんには、いろいろとお世話になってますから」

 

 そこで二人は同時に息を吐いた。

 話すことは話した、そういうことらしい。

 

「ドクさんに取材させてもらいたかったのですが、今日は無理なようですね。また出直してきます。霊夢さん、ドクさんに後で取材させてほしい、と伝えておいてください。私はこのことを記事にしてきますよ」

「このことって?」

「ドクさんについてです。『大妖怪八雲紫、人里の医師ドクを異変解決に向かわせる』、とでも銘打って書いてきますよ。ドクさんの左腕がなくなったということも、他の人に伝えておいたほうがいいでしょう。会うごとに驚かれるのは、ドクさん自身好ましくないでしょうから」

「ま、アンタらしい紫に対しての嫌がらせ、ってとこかしら」

「そんなところです」

 

 文はそう言って、ドクの家を出ていった。

 また、静かになった部屋。

 ドクはまだ起きる気配はない。

 それだけ、疲れがたまっていたようだ。

 霊夢はドクの近くによった。

 ドクの小さな寝息が聞こえてくる。

 

「……文に写真でも撮らせればよかったわね」

 

 霊夢は呟き、ドクが起きるまで寝顔を眺めるのだった。

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