東方医師録   作:生きた屍

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先を何も考えていなかったら、いつの間にか紅魔郷の話になった。


第四話 彼は紅い霧を見た

 ある日ドクはドンドン、と乱暴に戸をたたく音を聞き目を覚ました。

 まだ家に陽がさしていないことから、まだ夜は明けていないと思われる。

 ――誰だ? まだ太陽も昇っていない早朝じゃないか。

 ドクは重い瞼を根性で押し開け、戸まで歩いて行った。

 

「失礼。今開けます」

 

 ドクが戸を開くと、一人の男が息を切らして入ってきた。

 見るからに焦っている。

 

「た、大変なんですドク先生! 家の子供がいきなり倒れて……! それで……!」

「落ち着いてください。まずは何をしていたらそうなったのか教えてください」

「朝になったから外に出したんです……朝飯も食ったし、もうあいつも一人で遊べるだろうと思って……。そしたらなかなか帰ってこなくて……!」

 

 ドクは男の話にどことなく違和感を感じていた。

 

「お子さんが倒れているところを見つけた、と……。分かりました。こちらも急いで準備します。外で待っていてください」

 

 ドクはいつもの白い外套と、白衣を探しに部屋に戻ろうとすると、男が声をかけてきた。

 

「じ、実は倒れた理由はなんとなくわかってるんです……。外を見てください」

 

 ――外?

 ドクは手早く支度を済ませ、男に促され外に出る。

 ――すると。

 

「これは……!」

 

 ドクは驚き声を漏らす。

 人里全体が紅い霧に覆われていたのだ。

 今までドクが感じていた違和感はこれだった。

 ――子供を遊ばせるにはまだ時間が早い。

 ――僕を訪ねてくるにしても、太陽が昇る前に来るなんてことは珍しい。

 太陽が昇っていないのではなく、太陽が見えなくなっていたのだ。

 

「この霧を見て、あなたは子供を外で遊ばせていたんですか……!」

 

 ドクは珍しく声を荒げている。

 

「だ、大丈夫だと思ったんです……! ただの霧だと思ってましたし、紅いだけだと……」

 

 ドクの怒気にあてられた男の声は、後になるにつれ小さくなっていった。

 

「……失礼。取り乱しました。お子さんのところまで急ぎましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 二人は走って霧の中に消えていった。

 ドクは走りながら、この霧から妖気を感じていた。

 ――この霧は妖霧だ。

 ――確かに、これは人間では短い間でしか耐えられないだろう。

 ――死ぬことはないだろうが……。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ドクはその子供を治療した後、他の家も見て回った。

 その途中に会った慧音に、家を出ないように他の人に言っておいてくれと頼み、ドクはそのまま博麗神社に向かった。

 ――これは明らかに異変だ。ならば。

 ドクは石階段を上り終え、境内に向かって声をだした。

 

「霊夢! まだ寝ているのか! 紅い霧が出ていて、それのせいで里の人間たちに被害が出ている。これは異変だ! 異変を解決するのは、博麗の巫女である君の仕事だろう!」

 

 ドクは半ば叫びに近い声を出すが、何も反応はなかった。

 ――まだ、寝ているのか?

 ドクが母屋に向かおうとしたとき、不意に視界の端が歪んで見えた。

 

「……紫、霊夢はもう異変の解決に向かったか?」

 

 ドクがその歪みに向けて話しかけると、言葉が返ってきた。

 

「ええ。もう向かいましたわ。待っていれば解決されるでしょう」

「そうか……。それなら一安心だ。僕は自宅に戻って調子の悪くなった人を治療してくるよ」

 

 ドクはそう言って後ろを振り向き戻ろうとすると、いつの間にかできていた裂け目に入ってしまった。

 

「……人里まで送ってくれるってわけじゃ、ないようだね……」

「もちろんですわ。ドクには霊夢たちの手伝いをしてもらおうと思って。貸しがありましたわね?」

「……僕の嫌な予感は、大方当たるんだ……まったく」

「今霊夢たちがいるところまで送りますわ。詳しい話はそちらで」

「これが貸しになったりは……しないだろうね」

 

 ドクが紫の答えを聞く前に、裂け目は閉じられたのだった。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 一方霊夢と魔理沙は、既にこの件の首謀者がいる館、紅魔館の近くまで来ていた。

 新しく使用されることになった『スペルカードルール』、またの名を『弾幕ごっこ』、その練習に、軽く妖怪と妖精を倒していた。

 そのどちらも霊夢が倒してしまったため、魔理沙は少し不満そうである。

 

「紫の言ってたこれも、案外他の奴らに受け入れられてんのね」

「あいつの能力でそこらへんの境界をいじったんじゃねえの?」

「……ま、別にどうでもいいけどね」

「どっちにしろやるだけだからな! よっしゃー、あっちに着いたら私も、って、うわぁ!?」

 

 魔理沙の乗っていた箒が突然重くなり、危うく墜落しそうになった。

 

「な、なんだ!? ってドク!?」

「……やあ、二人とも」

 

 ドクは疲れた表情で魔理沙と霊夢に声をかけた。

 

「なんでドクがここにいんのよ? 今の登場の仕方から、紫のせいだと思うけど」

「ご明察。その通りだよ。詳しい話は君たちに聞けって言われて、いきなり飛ばされたんだ。ひどいものだよ……」

「あいつらしいわね」

「おーいお二人さん、私を無視して話さないでくれよ。ドクなんか平然と私の箒に跨ってるしな」

「ああ、これはすまないね。今飛ぶよ」

 

 そう言いドクは二人の間に入り、飛んだ。 

 

「それで、今はどこに向かっているんだい?」

「この霧を出した犯人がいるっていう、紅魔館ていうところ。このままいけばすぐ着きそうね」

「そうか。じゃあ手早く視ておこう」

 

 ――解析開始。

 ――やはりこの霧は、少なからず悪影響が出るようだ。

 霊夢、魔理沙の順に書き換える。

 

「よし。これでいいだろう。それともう一つ聞きたいんだが、君たちは――」

 

 どうやって戦ってきたんだい?

 そう聞こうとしてところで、紅魔館に着いた。

 二人はドクの話を聞く前に、下に降りて行った。

 ――まあ、いいか。

 

「ここが紅魔館か……。何というか、紅い」

 

 全体的に紅い色調の洋館で、パッと見て窓が少ない。

 そしてそこから紅い霧が出されていた。

 

「間違いなさそうね」

「よーし! 私が一番乗りだぜ!」

 

 魔理沙はそう言うと、正門があるのを無視し、横から入っていった。

 ――正門に門番らしき気配があるが、どうするか。

 

「ドクはどうする? このまま私と一緒にいく?」

「まあ、そのほうが安全な気はするが、僕は速やかな解決を望んでいるからね。別行動といこう」

「分かったわ。じゃあ私は真っ直ぐ行くから。また会いましょ」

 

 霊夢はそう言って門番のいるだろうほうに向かっていった。

 

「さて、僕はどうしようか……」

 

 数秒考える。

 ――魔理沙とは反対の方向から行くか。

 そう決めたドクは、素早く館に入っていった。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ――さて、どうしたものか。

 ドクは館の中に入ったのはいいものの、どこに行こうか考えあぐねていた。

 その理由は、内装まで紅く、ここがどこなのかわからなくなったのもあるが、目の前に下に行く階段があったからだ。

 ――犯人がいるなら上のほうが可能性はあるが、そっちには霊夢が行きそうだ。

 ――下に行くか。

 ドクはそのまま階段を下りて行った。

 そして少し歩くと、厳重に守られた扉を見つけたのだった。

 ドクが少し押すと、そのまま開いた。

 ――鍵は、かかっていなかったのか。

 

「失礼。誰かいますか?」

 

 ドクは部屋の中に声をかける。

 その部屋は薄暗く、様々な人形が無残な姿で置かれていた。

 ドクは嫌な予感がしたが、ここにいるのが犯人だったらどうする、と思い中に入っていった。

 そしてドクが中に入った瞬間。

 扉が勢いよく閉められた。 

 そして薄暗闇の向こうから、紅い瞳がこちらを覗いてきていた。

 

「あなた、人間?」

 

 いきなり話しかけられて少し戸惑うドクだったが、すぐに持ち直し答える。

 

「いや、僕は妖怪だよ。妖怪の、医者だ。妖怪ではあるが、人妖関係なく治療している。君は?」

「私はフランドール・スカーレット。この館の主人は私のお姉さまよ」

 

 話しかけてきた少女――フランドール・スカーレットは、少しづつドクに近づいて行った。

 近づいてきて、それがまだ子供だと分かったドクは、内心動揺していた。

 ――まだ、小さい子供じゃないか……、この部屋の惨状は一体……。

 

「……この人形たちは、君が壊してしまったのかい?」

「うん。遊んでたら壊れちゃったの。ねえ、私と遊んでくれない?」

 

 フランドールはさらにドクに近づいていく。

 ――本当に、僕の予感はあたるね……。逃げるにせよ、入ったと同時に扉は閉められてしまったし……。

 

「……分かった。何をしようか」

「遊んでくれるの!? ありがとう! みんな私のことを怖がって逃げちゃうから、つまらなかったの。じゃあね……鬼ごっこ!」

「僕が逃げればいいのかな?」

「うん! ……簡単に、壊れないでね」

 

 ――彼女が手を開き握った瞬間、僕の隣にあった人形が爆ぜた。

 

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