東方医師録   作:生きた屍

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本当に、何も考えずに書くもんじゃないですね。
予想外のシリアスですよ。


第五話 彼は思い出した

「いつもの癖で人形を壊しちゃった……。でももう外さないからね! お兄ちゃん!」

「……っ!」

 

 『お兄ちゃん』。

 その言葉が、ドクの心を揺らす。

 ――……考えるな。あの娘は死んだ。もういない……。もういないんだ……なのに……。なぜ……!

 ――僕に助けてといったあの娘と、僕を殺そうとしている彼女が重なる……!

 動揺しながらも、ドクは隣にあった人形が爆ぜた時、一目散にフランドールの視界の外に移動した。

 彼女の視界に入らなければ、あの不思議な力でやられることはないだろうと考えたからだ。

 そしてそのまま能力を発動させようと、フランドールに手をかざす。

 だが。

 ――……駄目だ。僕には彼女を殺せない……。

 ――僕の能力は基本的に集中しなくては発動できない。それも殺さずに気絶させるだけとなると……そのためには時間が必要だ。

 ――どうする。

 

「……鬼ごっこっていうのは、もっと安全なものだと思っていたが……」

「私との鬼ごっこはね、私の能力の『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を使ったものなの。食事を持ってくる妖精メイドと遊んだこともあったけど……すぐ壊れちゃってつまんない……だからお兄ちゃん! 頑張って逃げてね!」

 

 ――読んで字の如し、ってところかな。……恐ろしい能力だ。

 ドクは隙を伺いながら常に動き、フランドールに話しかけ続ける。

 

「……それはどうやっているのかな?」

「うーんとね……。私には『目』が見えるんだ。その『目』を私の手の中に移動させて……きゅっとしてドカーン!」

 

 その瞬間、また室内にあった人形が爆ぜた。

 

「……もっと平和的な遊びをしないかい?」

「ええ~、それじゃつまんないわ……あ! じゃあ弾幕ごっこをしましょ! お姉さまが言ってたわ。これからは弾幕ごっこの時代だって!」

「弾幕ごっこ?」

「じゃあ私からね! ……あれ? どうやるんだっけ? 確かスペルカードを宣言するとか言ってた気が……まあいいわ! それじゃあ、えっと、禁忌「フォーオブアカインド」!」

 

 フランドールが宣言すると同時に、ドクには信じられないことが起こった。

 ――……フランドールが……四人?

 そこにはフランドールが四人いた。

 分身したのか、それとも最初から四人で一人だったのか、瓜二つの姿で、見ただけではどれが本体なのか分からなかった。

 ――どうする……。これでは逃げ回るのは至難の業だ。だからと言って僕の能力が間に合うかと言えば……。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

「スペルカード出さないの?」

「だったらもうはじめちゃうよ~」

「いっくよ~!」

 

 四人に増えたフランドールが、一斉にドクに襲い掛かる。

 

「くっ……!」

「ほらほら、どうしたのお兄ちゃん! そんなのじゃあ簡単に壊れちゃうよ!」

 

 ドクは防戦一方となっていた。

 かつての救えなかった少女の幻影が、フランドールに取り付いて離れない。

 ドクは自分から手を出すことができなかった。

 

「違う……! 違うんだ……あの娘じゃない……! フランドールは……違う!」

「あははははっ! 『目』、見ぃ~つけた!」

 

 激しく動揺するあまり、フランドールたちの視界から逃げることを忘れていたドクの左腕が、無残にも一瞬にして爆ぜた。

 

「つ……っ! ぐぅ……!」

 

 即座に能力を発動させようと右手をかざしたが、なくなってしまったものは、書き換えられない。

 ドクの左腕は、もう、なくなっていた。

 ――……僕の命もここまで、かな。

 左腕に受けたダメージのせいで、ドクの足がふらつく。

 ドクは前のめりに倒れた。

 なくなった左腕のところからは、血が流れ続けている。

 

「あはははっ、は、は……もう、壊れちゃったの……?」

 

 それを見たフランドールは、先ほどまでの狂気に満ちた顔ではなくなっていた。

 

「……君がやったのに、何で寂しそうにするんだい……?」

「だって……、また遊び相手がいなくなっちゃったから……」

 

 フランドールは、いつの間にか一人に戻っていた。

 その表情は先ほどまでの楽しそうな笑顔ではなく、とても、とても寂しそうな、見ているほうが悲しくなってしまうような、そんな顔をしていた。

 ――……ああ。これはいけない。彼女を悲しませたくはないんだ。

 ――今、分かった。……似ていたんだ、あの娘と。本当の気持ちを隠して笑って……。

 ――解析開始。

 ドクは右手を紫色に光らせ、左腕の止血をした。

 

「えっ……?」

 

 そして、血を流しすぎてしまったのか、少し朦朧とする意識の中立ち上がり、彼女が壊した人形のうち、まだ原型を垣間見ることができるものを探した。

 ――解析開始。

 ――人形を解析。書き換え。元の状態に戻す。

 もうなくなってしまった部分は直らないが、どうにか人形だとは分かるぐらいには、直すことができた。

 ドクはそれをフランドールのところに持っていく。

 

「こ、これは……人形? 私が、私の能力で壊した……」

「そう。君が壊した人形だ。君は壊しても壊れないものが欲しかったんだろう? 壊しても壊れない友達が欲しかったんだろう。人形程度なら、本当に木端微塵になっていなければ、僕の能力で直すことができる。僕は壊れてしまうが、君が壊してしまったものは直すことができる」

「えっ……?」

「どうか……笑ってくれ、フランドール。君には笑顔のほうが似合っているよ。悲しそうな顔をしないでくれ……」

 

 ドクはフランドールに目線を合わせるために片膝で立ち、笑いかける。

 ドクには珍しい、作り笑顔ではない、純粋な笑顔だ。

 それだけ、ドクはフランドールを悲しませたくはなかった。

 

「どうし、て……」

「え?」

「どうして、笑っていられるの……?」

 

 フランドールは紅い瞳から涙をにじませ、ドクに問いかける。

 ―……どうして、か……。

 ドクは半ば反射的に、言葉を返していた。

 

「君に、笑っていてほしいから」

「分かんない……分かんないよ! 私に食事を持ってくる妖精メイドはみんな怯えてた! 私と遊ぼうっていうとみんな居なくなっちゃった! 私がみんなを壊しちゃうから! 私はただみんなと遊びたいだけなのに! 私が、この力を制御できてないから! みんな、みんな……私から離れて行って……」

 

 フランドールは叫ぶ。

 己の非を痛感しながら。

 フランドールは嘆く。

 一人は嫌だと。

 

「……君はこの人形たちを使って、力の制御をしようとしていたんだろう?」

 

 それを聞いたドクは、室内に転がっている人形を指さしていく。

 

「……! ……なんで、わかったの?」

「奥に行けばいくほど人形は原型がわからなくなるほど、壊れていた。だが、僕が入ってきた扉に近づくほど、壊れてはいるが、人形だってわかるものが増えてきていた。君の、努力の証じゃないのか?」

 

 奥の損傷がひどく、何かもわからないものから、まだ何か分かるものまで。

 ドクはフランドールに優しい声音で語り掛ける。

 

「君は優しい娘だ。他のみんなはまだ分かっていないだけなんだ。少しずつ、少しずつでいいから、分かってもらえばいい。力が制御できないなら、僕も協力しよう。僕を壊すのはやめてもらいたいが、直すことはできる」

「私と、遊んでくれるの……? 私を、嫌いにならない……?」

 

 フランドールの不安に揺れる瞳を真っ直ぐ見て、ドクは笑顔で言った。

 

「ああ、一緒に遊ぼう。嫌いになるなんてことはないよ。僕は、君と遊びたい」

「……あなたの名前を教えて?」

 

 ドクはその問いに間抜けな声を上げた。

 ――そういえば、名前を言ってなかったか。

 

「僕の名はドク。……よろしく、フランドール」

「うん! これからいっぱい遊ぼうね、ドク!」

 

 フランドールには、また笑顔が戻っていた。

 それも初めのような不安定な笑顔ではなく、安心した、心から嬉しそうな笑顔だった。

 ――……ああ、やっぱり、フランドールには笑顔が似合っている。

 ――あの娘も、なんだか笑っている気がして……、僕は……。

 

「そう、だね」

 

 ――僕は、救われた気がして……。

 ――この娘の笑顔を見ていたくて……。

 ――だから。僕は君にこう言おう。

 ドクは倒れそうになる体を押さえ、フランドールに応える。

 

「……一緒に、いっぱい遊ぼう。……僕も、君と遊びたいから……フランドール……」

 

 ドクはフランドールに笑いかけながら、少しずつ、意識が遠のいていった。

 そして、ドクは横に倒れた。

 ドンッ! と、大きな音が、響いた。

 

 

「……ドク? ど、どうしたのドク!? 大丈夫!? ねえ、ドク、私の声が聞こえる!? 目を覚ましてよ、ドク! 嫌だ、嫌だよ! こんなの、嫌だよぅ……」

 

 ドクは、目を開かない。

 ――一人の少女の叫びが、部屋の中を反響した。

 

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