東方医師録   作:生きた屍

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これで一応の完結ですかね。
書けるだけ書いたんで。
後はなんか書けそうになったら続き書きます。


第六話 彼は過去を見た

 ――僕はもともと幻想郷にいたわけじゃない。

 いろんな村や町を回って診療所を開いていた、ただの医師だった。

 僕は妖怪であるがゆえに、人間とは比べることのできないほどに長命だ。

 姿もあまり変化しない。

 だから、十年ごとに、その場所をでて、次の場所まで行って、診療所を開いて。

 それを繰り返していた、流れの、医者だった。

 そんな時、僕は彼女に会ったのだ。

 初めて会ったとき、彼女は自分のことを『さな』と言った。

 元気のいい少女だった。

 春、夏、秋、冬。

 どの季節でも彼女は楽しそうに外を駆けていた。

 二年ほどして、彼女とはよく話すようになっていた。

 診療所で仕事がないときにさなが来て、他愛のない話に盛り上がったこともあった。

 そして更に一年。

 さなが十歳になった年の冬。

 ――彼女は病に罹った。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ――何だこの症状は……!

 ドクは昨日まで外を楽しそうに駆けていたさなの、変わり果てた姿を見て、絶句した。

 最初はただの熱のようなものだった。

 ドクは時間がたてば治るだろうと思って、風邪薬だけでも調合しておく気だった。

 ――これはただの熱じゃない! 二日たった今でも、まだ下がる気配がないなんて……!

 さなは苦しいのか、時々寝言のように呻いている。

 

「…………うっ……はあ……はあ……助け、て……お兄ちゃん……」

「……さな……」

 

 現状これが感染症かどうかもわからないドクは、診療所にさなを寝かせ、隔離状態にしていた。

 他の人が近づかないように注意をして。

 

「僕は……無力なのか……いや……」

 

 ドクはさなの額に置いてある布をもう一度冷たい水に入れて絞り、それを同じように額に置いた。

 そして立ち上がり、本棚のほうに歩いて行った。

 ――一から、調べてみればいいだけだ。病気に関する書物はここにたくさんある。前例が一つでもあれば……。

 彼はそれから書物を読み漁った。

 さながどれだけ持つか、それがわからない状況で、ドクは焦りながら本を読み進めていた。

 ――何か……! 何かあれば……!

 ドクの淡い希望は、終ぞ、現実になることはなかった。

 

 

 

 

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 ――さなは笑って逝った。

 最期に、僕に、何もできなかった僕に、笑いかけてくれた。

 死の恐怖と闘いながら。

 救えない僕に、恨み言一つ言わずに、笑顔で、逝った。

 ――救えなかった。

 その事実が、僕の肩にのしかかる。

 今まで医者をやってきて、死んでいった患者を診たことがないわけではなかった。

 ただ、あんなに、何もできずに死なせてしまうなんてことは、さなが、初めてだった。

 僕は、さなの一件以降、流れの医者をやめ、ただの旅人のようになっていった。

 それも、生きているのか、死んでいるのかすら分からない、そんな状態で。

 そんな時、僕は彼女に会った。

 ――八雲紫に。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ドクが目的もなくふらふらと、目も虚ろになりながら山道を歩いていると、ふと、視界が歪んだ。

 ――ああ。とうとう僕も死ぬのか……。それも、いいかもしれないな。

 そう思っていたドクだったが、その歪みから現れた人物がいたのを見て驚いた。

 

「……誰だ、君は」

「私は八雲紫。本日はあなたにお願いがあって来ましたの」

「お願い?」

「ええ」

 

 それからドクは紫に、幻想郷というところで医者をやってほしいと言われたのだ。

 ドクは内心動揺した。

 なんだか、今の自分が全部見透かされている気がしたからだ。

 だがドクは、やってもいいかもしれない、と。

 漠然とだが考えていた。

 ドク自身分かっていたのだ。

 こんな放浪の旅に意味はないことに。

 ただ現実から目を背けていただけだったことを。

 自分に笑いかけてくれた娘が、死んでしまった、自分の、せいで。

 そこから、逃げていただけだということを。

 ドクは、前を向いて歩きたいと思った。

 未来を。

 だからドクは、その誘いに乗った。

 そして、力を手に入れたのだ。

 ――『解析し書き換える程度の能力』を。

 

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ――昔の、夢を見ていた。

 ドクが目を覚ますと、紅い天井が目に入った。

 顔を横に向けると紅い家具に紅い壁紙、ドクはここが紅魔館だとすぐに察した。

 そしてそれと同時に、自分の左腕がなくなっているのも思い出す。

 ドクは体を起こす。

 少し、痛みを感じた。

 

「……」

 

 ――体を起こしたところで、どうすればいいのか。

 ドクは倦怠感を滲ませた息を吐く。

 ――もう一度、寝ようか。

 ドクが枕に頭を乗せ、眠りにつこうとしたところで、扉が開かれた。

 ドクは音に反応して体を起こす。

 

「ドク!」

「……フランドール」

 

 そこにいたのは、先ほどまで殺し合いをしていたフランドールだった。

  ――泣かせて、しまったのだろうか。 

 もともと紅かった目は、充血してさらに赤くなっていた。

 フランドールはドクが起きたとわかると、すぐさま飛びついてきた。

 ――なかなかの、威力だね……。

 ドクは内心気が気ではなかったが、どうにか顔には出さなかった。

 

「よかった……よかったよぅ……ほんとに、死んじゃったのかと思ったの……」

「心配かけて、悪かったね。もう、平気だから」

 

 泣き始めてしまったフランドールの頭に手を置いて、ドクは笑いかける。

 

「……うん……あっ、えっと……ごめんなさい……怪我、させちゃって……」

「えっ?」

 

 謝罪の言葉に、ドクは面食らう。

 

「ドクの話も聞かずに、殺しそうになっちゃって……ほんとに、ごめんなさい!」

 

 フランドールは一度ドクから離れて、涙ながらに謝った。

 ドクは言葉に詰まる。

 こんなこと想定外だからだ。

 ――だが、謝られたのなら、僕はこう言うべきだろう。

 

「……ああ、許すよ。結局、僕は生きているわけだし、今までだって死にそうなことがなかったって言えば嘘になる」

「ほんとに……? 許してくれるの? 一緒に、遊んでくれるの……?」

「ああ、まだ本調子じゃないから、すぐにとはいかないけど」

「ありがとー! ドク!」

 

 ―……やっぱり、あの娘と似ている気がするよ、君は。笑顔が似合っていて、とても元気で。

 そう思ってフランドールの顔を見る。

 そうしていたら、またもやドクに突っ込んでいくフランドール。

 

「ぐほっ!」

 

 ドクはあまりの痛みに声が漏れた。

 得意のポーカーフェイスもあっさりと崩れ、顔をゆがませている。

 

「ドク?」

 

 ―僕は、これからどうするのだろうか。

 ―……とりあえずは、彼女の笑顔を守ろう。そう、したいと思う。

 ―……ああ、駄目だ……意識が、もたな……。

 ドクはフランドールのきょとんとした顔を最後に、また、気を失った。 

 

 

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