書けるだけ書いたんで。
後はなんか書けそうになったら続き書きます。
――僕はもともと幻想郷にいたわけじゃない。
いろんな村や町を回って診療所を開いていた、ただの医師だった。
僕は妖怪であるがゆえに、人間とは比べることのできないほどに長命だ。
姿もあまり変化しない。
だから、十年ごとに、その場所をでて、次の場所まで行って、診療所を開いて。
それを繰り返していた、流れの、医者だった。
そんな時、僕は彼女に会ったのだ。
初めて会ったとき、彼女は自分のことを『さな』と言った。
元気のいい少女だった。
春、夏、秋、冬。
どの季節でも彼女は楽しそうに外を駆けていた。
二年ほどして、彼女とはよく話すようになっていた。
診療所で仕事がないときにさなが来て、他愛のない話に盛り上がったこともあった。
そして更に一年。
さなが十歳になった年の冬。
――彼女は病に罹った。
―――――――――
――何だこの症状は……!
ドクは昨日まで外を楽しそうに駆けていたさなの、変わり果てた姿を見て、絶句した。
最初はただの熱のようなものだった。
ドクは時間がたてば治るだろうと思って、風邪薬だけでも調合しておく気だった。
――これはただの熱じゃない! 二日たった今でも、まだ下がる気配がないなんて……!
さなは苦しいのか、時々寝言のように呻いている。
「…………うっ……はあ……はあ……助け、て……お兄ちゃん……」
「……さな……」
現状これが感染症かどうかもわからないドクは、診療所にさなを寝かせ、隔離状態にしていた。
他の人が近づかないように注意をして。
「僕は……無力なのか……いや……」
ドクはさなの額に置いてある布をもう一度冷たい水に入れて絞り、それを同じように額に置いた。
そして立ち上がり、本棚のほうに歩いて行った。
――一から、調べてみればいいだけだ。病気に関する書物はここにたくさんある。前例が一つでもあれば……。
彼はそれから書物を読み漁った。
さながどれだけ持つか、それがわからない状況で、ドクは焦りながら本を読み進めていた。
――何か……! 何かあれば……!
ドクの淡い希望は、終ぞ、現実になることはなかった。
―――――――――
――さなは笑って逝った。
最期に、僕に、何もできなかった僕に、笑いかけてくれた。
死の恐怖と闘いながら。
救えない僕に、恨み言一つ言わずに、笑顔で、逝った。
――救えなかった。
その事実が、僕の肩にのしかかる。
今まで医者をやってきて、死んでいった患者を診たことがないわけではなかった。
ただ、あんなに、何もできずに死なせてしまうなんてことは、さなが、初めてだった。
僕は、さなの一件以降、流れの医者をやめ、ただの旅人のようになっていった。
それも、生きているのか、死んでいるのかすら分からない、そんな状態で。
そんな時、僕は彼女に会った。
――八雲紫に。
―――――――――
ドクが目的もなくふらふらと、目も虚ろになりながら山道を歩いていると、ふと、視界が歪んだ。
――ああ。とうとう僕も死ぬのか……。それも、いいかもしれないな。
そう思っていたドクだったが、その歪みから現れた人物がいたのを見て驚いた。
「……誰だ、君は」
「私は八雲紫。本日はあなたにお願いがあって来ましたの」
「お願い?」
「ええ」
それからドクは紫に、幻想郷というところで医者をやってほしいと言われたのだ。
ドクは内心動揺した。
なんだか、今の自分が全部見透かされている気がしたからだ。
だがドクは、やってもいいかもしれない、と。
漠然とだが考えていた。
ドク自身分かっていたのだ。
こんな放浪の旅に意味はないことに。
ただ現実から目を背けていただけだったことを。
自分に笑いかけてくれた娘が、死んでしまった、自分の、せいで。
そこから、逃げていただけだということを。
ドクは、前を向いて歩きたいと思った。
未来を。
だからドクは、その誘いに乗った。
そして、力を手に入れたのだ。
――『解析し書き換える程度の能力』を。
―――――――――
――昔の、夢を見ていた。
ドクが目を覚ますと、紅い天井が目に入った。
顔を横に向けると紅い家具に紅い壁紙、ドクはここが紅魔館だとすぐに察した。
そしてそれと同時に、自分の左腕がなくなっているのも思い出す。
ドクは体を起こす。
少し、痛みを感じた。
「……」
――体を起こしたところで、どうすればいいのか。
ドクは倦怠感を滲ませた息を吐く。
――もう一度、寝ようか。
ドクが枕に頭を乗せ、眠りにつこうとしたところで、扉が開かれた。
ドクは音に反応して体を起こす。
「ドク!」
「……フランドール」
そこにいたのは、先ほどまで殺し合いをしていたフランドールだった。
――泣かせて、しまったのだろうか。
もともと紅かった目は、充血してさらに赤くなっていた。
フランドールはドクが起きたとわかると、すぐさま飛びついてきた。
――なかなかの、威力だね……。
ドクは内心気が気ではなかったが、どうにか顔には出さなかった。
「よかった……よかったよぅ……ほんとに、死んじゃったのかと思ったの……」
「心配かけて、悪かったね。もう、平気だから」
泣き始めてしまったフランドールの頭に手を置いて、ドクは笑いかける。
「……うん……あっ、えっと……ごめんなさい……怪我、させちゃって……」
「えっ?」
謝罪の言葉に、ドクは面食らう。
「ドクの話も聞かずに、殺しそうになっちゃって……ほんとに、ごめんなさい!」
フランドールは一度ドクから離れて、涙ながらに謝った。
ドクは言葉に詰まる。
こんなこと想定外だからだ。
――だが、謝られたのなら、僕はこう言うべきだろう。
「……ああ、許すよ。結局、僕は生きているわけだし、今までだって死にそうなことがなかったって言えば嘘になる」
「ほんとに……? 許してくれるの? 一緒に、遊んでくれるの……?」
「ああ、まだ本調子じゃないから、すぐにとはいかないけど」
「ありがとー! ドク!」
―……やっぱり、あの娘と似ている気がするよ、君は。笑顔が似合っていて、とても元気で。
そう思ってフランドールの顔を見る。
そうしていたら、またもやドクに突っ込んでいくフランドール。
「ぐほっ!」
ドクはあまりの痛みに声が漏れた。
得意のポーカーフェイスもあっさりと崩れ、顔をゆがませている。
「ドク?」
―僕は、これからどうするのだろうか。
―……とりあえずは、彼女の笑顔を守ろう。そう、したいと思う。
―……ああ、駄目だ……意識が、もたな……。
ドクはフランドールのきょとんとした顔を最後に、また、気を失った。