東方医師録   作:生きた屍

8 / 13
文字数が安定しないっすねー……。
それと今気づいたんですがね、弾幕ごっこのこと、この主人公知らないんですよね。
どうするかなあ……。



第七話 彼は紅い霧を抜けた

 ――……ああ、僕は、また気を失ったのか……。

 ドクは目を覚ました。

 前に起きた時と変わらず、紅が目に入る。

 フランドールはもういないようだ。

 紅い家具に紅いベッド、それに紅い絨毯に紅い壁紙。

 紅、紅、紅。

 どっちを向いても紅だった。

 ドクは、頭の中を紅の文字が回って、ゲシュタルト崩壊しそうだった。

 ――……とりあえず起きようか。ここに寝かせてくれた人に、礼を言わなければ……。

 上半身を上げると、少し痛みが走った。

 だがそれを無視し、ドクはベッドから起き、立ち上がった。

 軽く首を回す。

 息を吐く。

 ――もう、大分良くなったようだ。それに、受けた傷と言えば、軽い打撲と左腕がなくなったというだけで、即死するようなものではなかったか。

 やはりと言えばその通りだった。

 実際、ドクは血を流し続けて、出血多量で気を失っただけであった。

 

「……はあ」

 

 ドクはいろいろ思うところはありながらも、ここにいても仕方がない、と廊下に出た。

 そこもやはり紅い。

 それに先が見えないくらいに長かった。

 今は夜のようで、辺りはやや薄暗い。

 ――……そういえば霊夢は異変を解決したんだろうか……。いや、無駄な考えだ。解決していなければ、僕はここにはいないだろう。

 

「あら、もう具合は大丈夫なんですか?」

「……!」

 

 突然、目の前に少女が現れた。

 この薄暗闇に映える銀髪の少女。

 片手には火のついたろうそくを持っている。

 そして、自分の身分を語るようにメイド服を着ていた。

 ――気になることはあるが、人に会えたのはよかった。

 

「……失礼。この館のメイドさん……ということでいいのでしょうか」

「はい。ここ、紅魔館の主、レミリア・スカーレット様にお仕えしているしがないメイド、十六夜咲夜でございます」

 

 咲夜と名乗った少女は、ドクに頭を下げた。

 それだけで、なんとなく出来る人なのだと伝わってくるものがあった。

 雰囲気、とでもいうべきだろうか。

 ドクは少し面食らいながらも、落ち着いて言葉を紡ぐ。

 

「僕の目の前にいきなり現れたのは……一体?」

「それは私の能力、『時を操る程度の能力』を使って時を止めてましたから」

「……なるほど」

 

 咲夜がさらっと言った言葉に、驚きを通り越して、呆れるドク。

 ――時を操る、か……。

 

「ああ、そうだ。実は僕をベッドまで運んでくれた人に、礼を言いたいんですが」

「それなら私です。妹様が泣きながら頼んできましたので。血が足りなくなりそうで大変でした」

 

 ――妹様っていうのは、フランドールのことだろうか。彼女はこの館がお姉さまだと言っていたし。

 

「そう、か。それは助かった。ありがとう。僕が死んでは、もう誰かを助けられなくなってしまうからね。あ、いや。なってしまいますから」

 

 考え事をしていて、ドクは思わず素の喋りが出た。

 そのため、最後にとってつけたように、矢継ぎ早に言葉を続けた。

 

「普段通りにしてもらって結構ですよ」

 

 ドクは少し考えて。

 

「じゃあ、そうさせてもらうよ。十六夜さんも」

「咲夜、でいいすわ」

 

 ドクの言葉をさえぎって、咲夜はそう言った。

 

「じゃあ咲夜さん。そんなに丁寧な喋り方じゃなくていいよ。僕相手に気を使う必要はないから」

「いえ、ですがあなたは一応、ここのお客人となっていますので……」

「僕が逆に気を使ってしまうから、ね」

「……分かりまし……分かったわ」

 

 咲夜は観念したように言った。

 

「ああ、それと。僕を運んでくれた礼として」

 

 ドクは能力を発動させる。

 右手が紫色に光り始めた。

 その光は、この薄暗い廊下と相まって、どこか幻想的な雰囲気を出していた。

 ドクは咲夜にその手をかざす。

 ――解析開始。

 

「……綺麗な光……あの、これは?」

「僕の能力、『解析し書き換える程度の能力』だ。一応自衛程度には使えるものだが……」

 

 ――どうやら、結構疲れがたまっているらしい。まあ、それもそうか。年齢も、霊夢と近いくらいの子供だろう。時間を止めても動くのは自分なわけで、この広い館では、大変なことだろう。

 ――書き換え開始。

 ドクは目の前に現れた文字列を目で追い、読み進めていく。

 

「……?」

 

 咲夜は何か体に違和感を感じたのか、首を傾げた。

 ――書き換え完了。正常な状態。

 ドクの手から光がなくなった。

 

「……何か変わったことはないかい?」

「なんだか、体が軽くなったような……」

「それはよかった。僕はこの能力で、医者のようなものをやっていてね。疲れを取ったり、病気を治したり」

「なるほど……あ、ありがとうございました」

 

 咲夜は少し慌てて礼を言った。

 

「礼はいいよ。僕の礼なんだから。あ、そういえばフランドールは元気かい? 僕は気絶してしまったからね」

「あ、そのことでお嬢様からあなた……名前はなんでしたっけ?」

 

 ――まだ名乗っていなかったか。

 

「僕はドクと言う」

「ではドクさん。妹様のことで、お嬢様からお話があるらしいわ。私についてきてくれる?」

 

 ――お嬢様……つまりはレミリア・スカーレットか。どんな人物なのだろうか。

 ドクは内心緊張しながら、長い長い廊下を、咲夜の後について歩いた。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ドクが咲夜に案内され着いた部屋に入ると、長いテーブルに紅いテーブルクロス、それに紅いイス、それらがまず目に入った。

 この部屋も、ドクが寝かされていた部屋と変わらず、基本的に紅い装飾だった。

 そしてそのテーブルの一番奥に、一人の少女が座っていた。

 フランドールに似た、だがしっかりと威厳も感じる少女だった。

 ――彼女が、レミリア・スカーレットだろうか。

 

「そんなところで突っ立ってないで、適当に座ったら?」

 

 言われて、ドクは立ち止まっていたことに気づく。

 咲夜はいつの間にかレミリアの隣に立っていた。

 ドクは頷き、入り口に一番近い椅子、つまりはレミリアと向かい合うようにして座った。

 

「まずは名乗らせてもらおう。我が名はレミリア・スカーレット。吸血鬼よ。そして礼を言う。ありがとう、と」

 

 ドクはいきなり礼を言われ、困惑していた。

 表情には出さず、いつも通りの無表情ではあったが。

 

「何のことでしょう」

「我が妹、フランドール・スカーレットについてよ。あなた、あの娘と遊んでやったでしょう? 喜んでいたわ」

「別にそこまでのことでは――」

「私にとっては、大事なことなのよっ」

 

 レミリアはドクの言葉を遮り、叫んだ。

 

「……あの娘は、繊細よ。この幻想郷でも、受け入れられるか……あの力のせいで、誰からも拒絶されるんじゃないか、と不安だった。力を、制御することもできていないから。そんな時現れたのがあなた」

「ですが、僕はただ一緒に遊ぼうと言っただけです。その不安が消えたわけではないでしょう」

 

 ドクは淡々と言う。

 レミリアが感情をぶつけてきたので、逆に冷静になれたのだった。

 

「それだけが、あの娘にとっては何よりも嬉しい言葉だったのよ。それに、あなたは片腕がなくなっても、拒絶することはなかった」

 

 言われて、ドクはもともと左腕があった場所に目を向ける。

 服ごとやられたため、そこにはもう何もなかった。

 ドクは思う。

 確かに、と。

 ――僕の頭の中には、彼女を拒絶するなんて言う選択肢は、なかった。

 

「もう一度礼を言うわ。ありがとう。あなたはフランを助けてくれた。それだけで、私が礼を言う理由になるわ。あの娘が自分からあの部屋から出てくれたのを見て、私は嬉しかったのよ。今は疲れてしまったんでしょうね、部屋で幸せそうに寝ているわ」

「そう、ですか」

 

 ドクは予想以上の礼を言われ、なんともむず痒い思いをしていた。

 ――……僕はただ単に、彼女の笑顔を見たかっただけなんだが。

 

「話はそれだけよ。今日はもう遅いから泊まっていって。咲夜、彼に食事の準備を。私にもね」

「かしこまりました」

 

 レミリアは隣に控えていた咲夜に言う。

 咲夜が返事をしたかと思うと、既に姿はなくなっていた。

 

「特に嫌いなものはあるかしら」

「ああ、いえ。特にありません。って、そうでなく……。僕に泊まる気はないですし、食事まで作ってもらうっていうのは、さすがに至れり尽くせりというか……」

 

 ドクは自分の内心を吐露した。

 それに、自分が寝ていた間診察できていないため、人里のほうで何か起きていないか心配だったのだ。

 

「遠慮するものではないわ。これからもフランと仲良くしてもらうわけだし、咲夜とも、仲良くなってほしいしね」

「咲夜さん、ですか?」

「ええ」

 

 レミリアは一度息を吸うと話を続けた。

 

「咲夜は私の娘のようなものでね。大切にしているの。でも、そんな娘が私たち以外誰も信頼できる人物がいないって、とても寂しいじゃない。あなたには、そっちのほうも期待しているのよ」

「随分と、僕を買ってくれているようですね……」

「フランと仲良くなれたのだから、なんとかなるでしょ。人生経験も豊富そうだし。私の倍くらいは生きているんじゃない?」

「……さあ、どうでしょうか」

 

 ドクはレミリアの言葉を軽く受け流した。

 その様子をレミリアはくすくす笑いながら、楽しそうに見ていた。

 どうやら、結構ドクのことを気に入っているらしかった。

 ドクのほうは、穏やかじゃないが。

 と、そこでドクが何かに気づいたように声を上げた。

 

「……一ついいですか?」

「何かしら? そんなに改まって」

 

 レミリアは、ドクが聞きたいことがわからず、心底不思議そうに返した。

 ドクは覚悟を決めるように息を吸い、吐いた。

 

「先ほど自分は吸血鬼と言いましたが……食事のほうはどうなっているのでしょうか……?」

 

 これはドクにとって、大事な質問だった。

 人間の血が使われていると聞けば、何があっても口をつけることはないだろう。

 

「く、ふふっ、あははははっ! な、なるほどね、ふふ……安心していいわよ。客人に出すものに人間は使わないわ。心配させて悪かったわね」

 

 暗に客人がいないときは人間を食っている、レミリアがそういっているように聞こえて、ドクは冷や汗を流した。

 ――まあ……吸血鬼とはそういうものだろうが。

 納得できるのではあるが、理解は難しい。

 ドクはそう思って、自分は幻想郷に来てよかったと、改めて紫に感謝した。

 

「お待たせいたしました」

 

 またドクと会った時のように、突然咲夜が現れた。

 ――慣れないと、心臓に悪いな……。

 咲夜は次々と料理を並べていく。

 紅いスープに紅いソースをかけたステーキ。そして紅いワイン。

 料理も、紅い。

 レミリアから、人間は使っていないと言われたが、勘ぐってしまう。 

 

「どうぞ、召し上がれ」

「……いただきます」

 

 ――ドクは戦々恐々しながら、咲夜の作った料理に舌鼓を打った。

 レミリアも、楽しそうであった。

 咲夜も、控えめながら笑っていた。

 こうして、ドクの『紅霧異変』は終わりを迎えたのだった。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。