東方医師録   作:生きた屍

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結局この主人公が、紅魔館にいる間に弾幕ごっこについて知ることはなかった。
……次回どうしよう。


第八話 彼は紅魔館を見て回った

 ドクとレミリアの晩餐会があった翌日。

 ドクは泊まらせてくれたことと、夕食をご馳走してくれた礼として、紅魔館の住人の診断をやっていた。

 と、言っても。

 大半は妖精メイドであり、彼女らはほとんど視る意味がないため、ドクが診断する人は限られていた。

 咲夜にその旨を伝えると、大図書館と言うところに通された。

 そこに、一人見てもらいたい人がいるらしい。

 大図書館はその名の通り、多くの本が置かれていた。

 至る所に大きな本棚が置かれ、その中にびっしりと隙間なく本が入れられていた。

 それに、広すぎるせいだろうか、ドクは若干、埃っぽい感じを受けた。

 

「それで、僕は誰を視ればいいんだい?」

「ついてきて」

 

 ドクは更に咲夜についていく。

 様々な本棚を抜け、この場所の中央あたりに、多くの本が山積みしてある場所を見つけた。

 どうやら、そこにいるらしい。

 

「パチュリー様。お客人をお連れしました」

 

 だが、反応はない。

 いないのだろうか。

 

「パチュリー様?」

 

 おかしいと思い、咲夜はもう一度声をかける。

 しかし、反応はない。

 

「本をどかすのを手伝ってくれるかしら」

「ああ、分かった」

 

 そう言い二人は、山積みされた何冊もの本をどかしていく。

 少しすると、小さい音、いや、声が聞こえてきた。

 どうやら、埋まってしまったらしかった。

 ドクと咲夜はこれはいけない、と大急ぎで本をどかした。

 そして。

 

「……ふう。助かったわ、咲夜。まさか本に潰されるとはね」

「ご自愛ください、パチュリー様……」

 

 本の下から出てきたのは、この大図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。

 本の下敷きになっていたため、少々疲れ気味である。

 小さく咳をしていた。

 

「それで、咲夜の隣にいる男は?」

「昨日ここにやって来たお客人でございます」

「じゃあ、あの黒いのの仲間?」

 

 パチュリーは何か嫌なことでもあったのか、ジト目でドクを見た。

 ――黒いの? ……魔理沙か。

 

「まあ、一応仲間ではあるわけだが」

「なら、アイツに伝えておいて。もう来るな、って」

 

 パチュリーは静かに怒っているようだ。

 表情は変わらないが、言葉の節々にそれが出ていた。

 ――一体何をしたんだ、魔理沙……。見たところ、怪我はないようだが。

 

「会ったら言っておくよ」

「で、アンタは何の用なわけ?」

「ああ、僕は……って、言うよりもやったほうが早いか」

 

 ドクはパチュリーに手をかざし、能力を使う。

 ――解析開始。

 ドクの右手が紫色に光る。

 

「……なに?」

「待っていてください。すぐに分かりますから」

 

 訝しげにドクを見るパチュリーに、咲夜が言った。

 ドクの治療を受けたからの言葉だった。

 ドクはそれを気にせず続ける。

 ――欠損確認。書き換え開始。書き換え、書き換え、書き換え。

 ドクの目の前に現れた文字列が、ものすごい速さで下にスクロールされていく。

 ――書き換え終了。正常確認。

 そして、ドクの右手は光を失った。

 

「……どうですか、パチュリー様」

「……おかしい、おかしいわ……体がいつもより軽い……それに、喘息がなくなっている……?」

「どうやら、成功したようだね」

 

 書き換えが成功したことに安堵し、息を吐くドク。

 そんなドクを、信じられないものを見るような目でパチュリーは見た。

 

「あなた、何者よ?」

「ただの医者だよ。能力を持ったね」

「能力?」

「そう、『解析し書き換える程度の能力』だ。これで君の情報を書き換えた。その結果、疲れは取れるし、病気も治せる」

「……便利な能力ね。とりあえず礼を言っておくわ。ありがとう」

 

 パチュリーはかすかに笑って言った。

 

「パチュリー様? 珍しいですね」

 

 普段笑うことの少ないパチュリーのその様子に、咲夜は驚きを隠せないようだ。

 それも、今日初めて会った人間に。

 

「何が?」

「……気付いていないのなら、別にいいのですが」

「……?」

 

 ドクはいまいち状況が理解できず、首を傾げた。

 そして三人は、軽く言葉を交わしてから別れたのだった。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 その後ドクは紅魔館の外に出て、門に向かった。

 咲夜に、ここにも視てほしいものがいると言われたのだ。

 ドクも、紅魔館に来た時に誰かがいたのは分かっていたので、予想の範疇であった。

 名前は紅美鈴。

 紅魔館の門番であるらしい。

 ――と言うことは、霊夢と闘った……のか?

 ドクはあまり大きな怪我をしていなければいいが、と思いながら、門をくぐり外に出た。

 すると、一人の少女がいた。

 淡い緑色をしたチャイナドレスのような服を着て、これまた緑色をした帽子をかぶっている。

 帽子には星の形をした飾りがついていて、その中には龍の文字が入っていた。

 髪は赤く、腰まで伸ばしている。

 ――彼女が、紅美鈴だろうか。

 

「失礼」

「はい?」

 

 彼女はドクのほうに振り向いた。

 

「君が紅美鈴さんで、合っているかな」

「ああ、はいそうですけど」

 

 彼女は答える。

 見たところ、怪我はないようだ。

 ――霊夢が異変解決した割に、みんな怪我なく穏便に終わっているのか。退治ではなく、ただの話し合いで終わったというのか?

 

「咲夜さんに君を視てほしいと言われてね。少し、時間いいかい?」

「はあ、まあ大丈夫です。……と言うかあなた誰です?」

 

 当然の疑問であった。

 ――どうにも、このごろ僕は自分から名乗るのを忘れてしまっていけない。

 

「すまない。先に名乗るべきだったね。僕はドク、医者をやっている」

「医者?」

「ええ、少し、失礼しますよ」

 

 そしてドクは紫色に発光する手を、美鈴に向けた。

 

「えっ? あの、私はどうすれば……」

「動かないで」

「あ、はい」

 

 ドクの真剣な表情に有無を言わせぬ何かを感じ、美鈴は黙った。

 ――解析開始。

 ドクの目の前に文字列が現れる。

 美鈴はその光景に驚き動いてしまい、ドクにまたさっきと同じことを言われていた。

 ――身体的な怪我は見受けられず。肉体的疲労のみ。

 ――書き換え。書き換え。書き換え。

 ――書き換え終了。バイタルサイン正常確認。

 ドクはそこまでやり、光を失った手を下ろした。

 美鈴は自分の体に違和感を感じるのか、腰を回したり、肩を上げたり下げたりしていた。

 それを見ていたドクは、今まで感じていた違和感が大きくなってきていた。

 ――今までそういうこともあるか、と納得してきていた、いや……納得させてきたが。

 ――あまりにも怪我がなさすぎる……。

 

「あの~ドクさん? もしも~し」

 

 一通り軽く柔軟をした美鈴が、うわの空気味のドクに声をかけた。

 ――とりあえず、このことは後で考えよう。

 

「あ、えっと、すまない。何だい?」

「なんだか疲れが取れてるんですけど、何やったんですか?」

 

 ――昨日今日で、随分多く言ったかな。

 

「僕は『解析し書き換える程度の能力』を持っていてね。それを使って治療をしているんだ」

「へえ~、なんだかすごそうな能力ですね」

「褒めてくれて嬉しいよ」

 

 自分の能力を説明するのが面倒になって来たドクは、簡単に説明した。

 それを聞いた美鈴は感心するように頷くのだった。

 そしてそれから少し、美鈴の愚痴を聞いたり、美鈴の変な踊り(太極拳と言うらしい)を見せてもらったり、有意義な時間を過ごした。

 ――美鈴さんの話によると、咲夜さんは結構怖い人のようだ。

 

「そういえば君は、フランドールがどこにいるか知っているかい? 一度顔を見ておきたいんだが」

「妹様ですか? 今の時間なら、御自分の部屋で寝ていると思いますよ」

「そうか……一度行ってみるかな。ありがとう美鈴さん。楽しい時間だったよ」

「私も感謝しています。愚痴なんて聞いてくれる人いないので……またいつでも来てくださいね!」

 

 美鈴の言葉に頷き、ドクはまた紅魔館の中に戻って行った。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 ドクがまた紅い内装に目をやられていると、咲夜が通りかかった。

 

「あらドクさん。美鈴のほうはもう終わったの?」

「ああ。だからここを出ていく前に一度、フランドールに会おうと思ってね」

 

 咲夜はなるほど、と頷いた。

 

「でも、今の時間だと寝ていると思うわ。吸血鬼の生活は夜が主体だから」

「美鈴さんにも言われたよ。でもまあ、顔を見ておきたいだけだから。寝ているところでもいいんだ。下にいるのかな?」

「いいえ、ドクさんが会ったときは満月で、妹様が暴走する危険性があったからあそこにいたの。妹様もそうしてって言ったのよ。今は……そうね。ちょうど私の仕事も一段落したところだし、案内するわ。ついてきて」 

 

 咲夜はドクの前を歩き出した。

 ドクは頷きその後を追った。

 

 

 

 

  ―――――――――

 

 

 

 

 それからしばらく歩き続け、本当にこの館は広いね、とドクが呟いた時。

 咲夜がある部屋の前で立ち止まった。

 

「この部屋よ。私はここで待っているから」

「え?」

 

 思いがけない言葉に、ドクは思わず声を上げた。

 

「だって、ここからの道分かる? 広げた私が言うのもなんだけれど、初めての人には迷路のようなものよ」

「ああ、それは確かに……ありがとう。軽く顔を見て戻ってくるよ」

 

 ドクはそう言って部屋に入った。

 ドクが部屋にはいてすぐに目に入ったのが、天蓋付の大きなベッド。

 おそらく、そこでフランドールが寝ているのだろう。

 ドクは音をたてないように近づいて行った。

 そしてベッドの中をのぞき込む。

 ――幸せそうに、寝ているね。

 フランドールは気持ちよさそうに寝ていた。

 小さな寝息を立てている。

 ドクはフランドールの頭に手を置き撫でた。

 

「……ド、ク……一緒に……遊ぼう……」

「……そうだね。一緒に、遊ぼう」

 

 ドクはそれだけ言うと、フランドールから離れた。

 ――寝言に、何言っているんだか。

 自分がおかしく感じられ、ドクは苦笑した。

 そして、部屋を出る。

 部屋の前で待っていた咲夜が少し驚いた顔で、ドクを見た。

 

「もういいの?」

「ああ、顔を一度見たいだけだったから。ああ、それと」

 

 ドクは咲夜に紙と何か書けるものを用意してくれないかと頼んだ。

 そして、フランドールに向けて、手紙を書いた。

 

『僕は人里に帰らなければいけない。

 君とも会えなくなってしまうが、一緒に遊ぶと言う約束を忘れたわけじゃあない。

 また、君のところに行くから、その時は、思う存分遊ぼう。』

 

 そう書いた手紙を咲夜に渡した。

 

「これをフランドールに渡してくれ」

「承ったわ。……もう帰るの?」

「人里のほうも心配だし、僕が帰ってこないということで、他の人に心配かけたくないからね」

「……そう」

 

 咲夜は寂しそうに呟いた。

 紅魔館にいる者以外と、こんなに親しく話したことがなかったからだろう。

 

「またここには来るよ。フランドールとの約束もあるが、一度僕が視た人はもう僕の患者だ。責任をもって治療に当たらせてもらう。その過程で、少しくらい話に付き合ったって、誰も怒りはしないよ。そのあとに予定がなければだが」

「ふふ、そうね」

 

 咲夜は楽しそうに笑った。

 

「あと、レミリアさんに礼を言いたいところだが……」

「お察しの通り、寝ているわ。まあ、そっちのほうは私が伝えておくわよ」

「本当に? ありがとう咲夜さん」

「咲夜でいいわ。私もドクって呼ぶから」

「じゃあ咲夜。僕はこれで人里に戻るよ。時間ができたらここに来る。その時にはフランドールと遊んで、あと君に僕の家を教えるよ。知っておいたほうが、後々便利だろうから」

 

 ドクはそう言って、咲夜に背中を見せ歩いて行った。

 

「って、ドク、あなた道分からないでしょ」

「……そうだったね」

 

 咲夜の言葉に振り返ったドクは、少々恥ずかしそうであった。

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