「口囃子さん、今です!今しかないです!」
「・・・だよな、そうだよな!・・・・・・でも難しいよ~~!勇気が・・・。」
「貴方は現世の中学生ですか!悠長なこと言ってる場合じゃないですよ!」
午前中に言われた、アレだ。
いい加減、今日が最後のチャンスなのは分かっていた。恐らく今日言わないと、ビビりというか初心というかヘタレな隼人が普通の日にわざわざ呼び出して七緒に告白・・・など出来る筈がない。
あぁどうしようどうしようと頭を混乱させていると、吉良の伝令神機に電話がかかってきた。
誰かと思えば、案の定修兵からだった。
よりによってこのタイミングでだ。
「あいつ・・・!どっかで見てんじゃねぇの!?」
「まさか、檜佐木さんは仕事ですよ。」
ピッと音を立て、吉良は躊躇なく電話に出る。
「もしもし。」
「吉良!口囃子さん、どうだったんだ!?」
開口一番これだ。人の恋愛を何だと思ってるんだ(特大ブーメラン)。
「まだ告白するかどうかの段階でうじうじしてますよ。」
「何!今すぐ口囃子さんに代われ!」
「分かりましたよ。」
檜佐木さんからです、と言いながら吉良は隼人の手に電話を握らせる。
この上なく嫌だったが、返そうとしたら本気で嫌な顔をされたので、隼人も嫌な顔をしながら伝令神機を耳に当てる。
「・・・もしもし。」
「口囃子さん!何躊躇してんすか!」
「だって、だって、付き合ってから僕が七緒さんを幸せに出来るのかって考えると不安になってくるし、京楽隊長から毎日どんな目で見られるか予想つかないし、職場恋愛に近いってことは万が一があった場合すっごい気まずいし、もう何かもう不安で一杯一杯なんだよ!」
「―――・・・。」
しばし黙った後、修兵は慎重に言葉を選ぶ。
「それでも、今日言うべきっすね。」
「う~~!!やっぱり・・・?」
「だって口囃子さん、不安を口にしても、弱音は口にしてないじゃないっすか。」
「は・・・?え?」
「口囃子さん、告白の失敗は微塵も考えてないっすよね。京楽隊長からどんな目で見られるか、とか、幸せに出来るか不安だ、とか。全部付き合ってからの不安で、告白の弱音じゃないっすよそれ。もしかして、告白は絶対失敗しないって、心の底では自信でもあるんすか?」
「はっ!?!?何言ってんだよ、そんなワケ「あって下さい!!」
電話越しの叫び声は、まるで喝を入れられたかのようで何だか背筋が伸びる思いがする。
後輩に喝を入れられるとは情けないが、色事には慣れていないので仕方ない。
「大丈夫です。絶対上手くいきますから。落ち着いて焦らず、頭で言葉をしっかり考えてから口に出せば失言せずに済みます。嬉しい報告、期待してます!それじゃ、失礼します!!」
「あっもうちょっとアドバイス・・・切れちまった・・・。」
もうこうなってしまった以上、いくしかない。
たしかに今までずっと、上手くいった後のことばっか考えていた。
正直告白のこと何も考えてないじゃないか、と言われればぐうの音も出ないのだが。
でも、以前(うっかりではあるが)胸がきゅーーっと締め付けられ、告白してしまいそうになったこともあった。
そこまでいったのなら、自分の中で燻ぶらせる方が良くない。
告白するべきだ。よし、しよう。
失敗したら、笑い話にでもすればいい。別に死ぬわけではないのだ。
「わかった、やるよ!」
「やりましょう、口囃子さん!」
そして、皆の許に合流し、片付けの手伝いを再び続けた。
片付けも終わり、卯ノ花が「それでは着替えて浦原商店に戻りましょうか。」と言って動き出した所で、遂に行動に移した。
七緒の隣にさりげなく移動し、会話をしながらちょっとだけ皆より遅く歩く。
頃合いを見計らって、遂に切り出した。
「あの、最後に海、一緒に見て行きませんか?」
「構いませんが・・・。海、ずっと行きたかったんですよね?」
「・・・まぁ、そうですね。」
もうここから、引き返すことは出来ない。
ここまで呼び出しといて、何らかの事があるのは女性なら誰だって予想、あるいは期待することはバカな隼人でも分かる。
ここで何も言わなければ、男として失格だ。
雛森が七緒に声をかけようとするも、察した松本が日番谷に注意を向けさせる。
意図的に少し声を張って自分の上官をイジることで、数名を除いて完全に二人の存在は皆の意識から消えた。
「水平線に太陽が沈んでいく様って、いいですよね。私実は日の入りを見るのが好きなんですよ。」
「僕も、そうです。初めて瀞霊廷に来た時も拳西さんに肩車してもらって、陽が沈んでいくのを見ました。」
「そんな昔のことも、覚えているんですね。150年位前ですよね。」
「・・・。」
修兵からのアドバイスを思い出し、しっかり頭の中で考えてから言葉を発する。
大丈夫だ。噛まないように落ち着いて話そう。
勇気を出すんだ。口囃子隼人。
「あのっ!大事な話があります。」
「大事な話・・・?」
「はい。」
海から七緒に体の向きを変え、しっかり向かい合って目を見て話す。
必然的に七緒も隼人と向かい合い、手を前で重ねつつ隼人の話をしっかり聞く姿勢をとる。
「・・・七緒さん。」
「はい。」
一瞬俯き、唇を甘噛みしつつ頬を真っ赤に染める。
以前よりも、胸がきゅーーーーーっと締め付けられた。
告白する側なのに、いや、だからこそなのだろうか、ドキドキが止まらない。
でも、キャパオーバーにはならずに済んだ。
しっかり考えた結果、隼人は最もシンプルに言葉を紡ぎ始めた。
「好きです。」
「・・・・・・、」
「七緒さんが、好きです。僕と、付き合ってもらえないでしょうか。」
夕焼けの光を浴びていてもわかる程に隼人は顔を真っ赤にして、生まれて初めて愛の告白をした。
一世一代、男の賭けだ。
今まで年下で、ずっと七緒には相談などでお世話になってきた。
何度も下らない相談をしてしまったが、嫌そうな顔をしつつも相談に乗ってくれ、答えを共に見つけ出してくれた。
逆に相談されることもあった。女性死神協会の再結成は、二人の相談から始まったのだ。
一体いつから、好きになっていたのだろうか。
病室で目を覚ました後から、七緒のことを可愛いと明確に思い始めたのだが、実際は気付いてないだけで、その前から好きだったのかもしれない。
藍染との戦いに行く前からだろうか。それとも、七緒が副隊長になる前からだろうか。
むしろ、自分が霊術院にいた頃からかもしれない、と今の隼人は結論付ける。
自分で自分の恋心に気付かないなど、笑わせてくれる。
「ずっと前から・・・院の頃に相談に乗ってくれてた時から、好きになっていました。」
「―――――・・・そうですか。」
「お願いします。・・・お付き合い、して頂けないでしょうか。」
だからこそ、ずっと好きだったからこそ、いざ告白をすれば、想いが止まらなくなりそうになった。
修兵のアドバイスが無ければ、勢いに任せてべらべら喋っていただろう。どんな結果になろうとも、彼には感謝せねばならない。
隼人の言葉が止まると同時に、七緒は下を向き、言葉に詰まっている様子だった。
考え込んでいるのかもしれない。
いつまでも待つつもりではいるのだが、ひょっとしたら時間を下さい、と言われ、後日返事が来るのかもしれない。
現世のドラマで得た知識を必死に回して色々考えていたが、何かを決心したのか七緒は再び前を向いた。
「ありがとうございます・・・、嬉しい、です。」
「えっ、じゃ、じゃあ、」
「ごめんなさい。」
「―――――――――――。」
「申し訳ないのですが、口囃子さんのお気持ちには、私は応えられません。同僚で、友人として共に過ごす貴方の姿しか、今の私には想像できません。」
「――――・・・・・・。」
「とても、嬉しいです。私を慕ってくれて。ですが、ごめんなさい。」
「・・・そうですね。確かに、同僚のままの未来の方が、何だか現実的に見えますね。」
「あっ、あのっ「大丈夫ですよ!僕はもう、子どもじゃないんで。」
七緒に告白するまでの間、断られた場合について初めて考えたのだが、その際心がけるのは一つにしようと決めた。
断られた場合、絶対に七緒に罪悪感を抱かせないこと。
もういい大人なのだ。自分から告白しといて、弱いところを相手に見せるのは恥ずかしいではないか。
優しい七緒だ。変に罪悪感を抱かせてしまいそうで、絶対に子どもじみた真似はしてはいけない。
「・・・確かに、口囃子さんはもう、十分大人ですよね。」
「色々ダメな部分はありますが、大人にはなれたんじゃないかと思っています!」
「そっか・・・・・・。」
ポケットに入れていた隼人の伝令神機が振動する。
そろそろ時間か。
ほぼ同じタイミングで、遠くから松本が走ってこちらに向かっているのが見えた。
「松本さんが来てるので、私達も戻りましょうか。」
「・・・・・・僕はもうちょっと、海を眺めててもいいですか?」
「えっ、ああ、はい。では、松本さんに伝えておきます。先に戻ってますね。」
「はい!迷わないので僕は大丈夫です!」
「そうですか。海、楽しみにしてましたものね。では、私はこれで失礼します。」
走ってやってきた松本に七緒が事情を説明し(勿論告白のことは伏せる)、二人はそのまま歩いて皆の許へ戻っていった。
『大丈夫ですよ!僕はもう、子どもじゃないんで。』
この言葉か隼人にとっての空元気であることなど、七緒にはお見通しだった。
だが、それでも七緒は、隼人の告白を断るしかなかった。
(貴方には、負わせられません・・・。伊勢の呪いを、貴方に負わせる訳にはいきません・・・。)
(呪いを受けるのは、私一人で十分・・・。)
辛い選択だったが、自らの家について独自に調べた七緒は自らの覚悟のため、隼人の告白を断り、伊勢家の宿業を受けることを選んだのであった。
砂浜の上で一人、隼人は体育座りをしながら陽が沈む光景をずっと見ていた。
波音、風音、鳥の鳴き声しか聞こえない、喧騒とは程遠い空間だ。少し離れたところでは小さなカニが砂中から出てきて、歩いているところだ。
そう、ぼんやりと周りの風景を体中で受け入れていると、近づいてくる人の気配を感じ取ることが出来なかった。
「ここまで来て俺に気付かねぇとはな。」
「あ・・・・・・拳西さん、」
「水着ん中砂入るぞ。」
「別にもう着替えますし。」
「・・・それもそうだな。」
隣にやって来た拳西もどっかりと砂の上に座っているあたり、結局拳西も気にしないタイプなのだろうか。
「どうだったよ。」
「何がですか?」
「この流れで何がって聞くかよ。」
「・・・・・・フラれました。」
「だろうな。」
「えっ。」
鼻で笑いながら「だろうな。」なんて言われたら、さすがにちょっとムカッとくる。
でも、正直鼻で笑われるのも仕方がないと思っている自分もいる。
それにさっき女の子と二人きりでいた後にこんな所に一人でいれば、フラれたと思わない方がおかしいだろう。
そんな自分が情けなくて。情けなくて。
前を見ることが出来なくなってしまった。
「女にフラれたぐらいでメソメソすんなよ。情けねぇ。」
「泣いてませんよ。」
「だったら顔上げろよ。」
「夕日が眩しくて、目が疲れたんですよ。」
「だったら今目から落ちた水滴は何だよ。」
「さっき、海に、ちょっと、潜ったんですよ。」
「髪濡れてねえのにか?呆れんなホント。」
とは言いつつ、拳西は言葉をかけるのを止めて、背中をさすってやることにする。
余計顔を膝に埋め、最早泣いてないと言うのがアホにすら見えてくる姿勢をとってしまっている。
何度も鼻水をすすっている音が聞こえ、近くにいる人間に泣いていないと言っても、これでは誰も信じないだろう。
それは、隼人もしっかり理解していた。
「拳西さん・・・。」
「ずっと好きだった人にフラれるのって・・・・・・こんなに辛いんですね・・・。」
何も言わず、拳西はただただ隼人の背中をさすり続ける。
さすられている間、隼人はずっと小さな声で涙を流し、隣にいた拳西にすら顔を見せることは無かった。
口囃子隼人の初恋は、ほろ苦い思い出と共に幕を閉じた。
これにて、初恋青春暴走篇は終了です。
ですが、二つほど番外編があります。
番外編が終わってからは、遂に死神代行消失篇に入ります。
といっても、今回主人公は大したことも何もしないようなものです。
比較的すぐに終わり、千年血戦篇に入ります。
今回のオリジナル篇も長くなってしまって申し訳ございません。これでも色々カットしました。やちるから聞いた七緒のことに隼人がマジ惚れしちゃうところとか、ローズについて拳西に愚痴る吉良とか、慰安旅行における男性死神選考会とか・・・。
いつか挿入投稿で書くかもしれません。