七緒にフラれた次の日。
全くもって乗り気ではなかったものの、終業直後に修兵、吉良、阿散井が七番隊に駆け付け、射場も含めて無理矢理いつもの飲み屋に連れて行かれた。
道中も行きたくないと何度も年甲斐なくごねたのだが、奢りますとまで言われたからにはもうなすがままに引っ張られるしかなかった。
それに、どうせ家に帰っても意気消沈してまともにご飯を作れない。
最悪また拳西の私室に突撃してご飯をねだろうかとも考えたが、そんな自分の姿が現在修兵に引っ張られている自分の姿よりも情けなく感じ、結局飲み屋に入ってしまう。
座席も、個室の入り口から離れた一番奥の隅っこに追い立てられ、意地でも逃さないという副隊長らの姿勢が垣間見える。
どうでもよさそうにしている射場が唯一の救いだが、どうせ射場は飲み食いに集中し、助け船を出すようにも思えない。
適当に頼んだ弱めのお酒(前みたいに暴れたくないし)が出てきて、乾杯を形だけして一切口を付けずにいると、ついに隣にいた修兵が本題に切り込む。
「フラれたんすよね、口囃子さん。」
何も言わず、小さく頷くしかできなかった。
「おどれは落ち込みすぎじゃ。もっとしゃきっとせんか!隊士達も心配しとる。」
「大丈夫っスよ。別にフラれても嫌われる訳じゃないんだから。」
「勇気を出して告白出来ただけでも、大きな一歩じゃないですか。」
それでもずっと下を向いている隼人に、修兵はポンと背中を叩いた。
顔を上げた隼人が見たのは、勇気を出した隼人を褒め称えるかのような笑顔をした副隊長たちであり、誰も隼人の行いを馬鹿にしたりはしていなかった。
「少なくとも、ここにいるのは口囃子さんの味方です。さあ、飲みましょう!」
ジョッキの持ち手を隼人の手に握らせ、修兵は元気を出すよう励まし続ける。
吉良と阿散井も、同じように徳利やグラスを持っていた。
こんな心優しい後輩に恵まれて、何て自分は幸せ者なのだろうか。
少し前まで、特に阿散井に対してはあまりいい思いをしていなかったのだが、今となっては吉良と同じぐらいには普通の仲になっている。
いつまでもぐずぐずしている自分が情けない。ここ最近、情けない思いをしてばかりではないか。
「ありがとう、本当に、ありがとう・・・。」
「礼するぐらいなら、早く元気になって下さいよ!」
「うん!何か元気出てきたぞ!」
「その調子じゃあ口囃子!!」
しかし、飲ませ過ぎたせいで後輩達はものすごく後悔するハメになってしまった。
「やぁ~フラれるってのも人生経験の一つだよね!でもさぁ~修兵もずーーーっとまつもっちゃんに振り向かれらいの本当にざんれんらよね!射場ちゃんもいつまれ経ってもらし、吉良くんもさぁ~~!雛森ちゃんにいつ言うのさ!そんなんらっららとーしろーくんに奪われちゃうよ~!」
「何飲ませ過ぎてるんですか、檜佐木さん。」
「悪い、配分間違えた。つーか前より酒弱くなってねぇ・・・?」
ジョッキ一杯のビールを飲んだだけでこの有様だ。
真っ赤になった顔で大声で他人の恋をベラベラ喋られては、いくら個室とはいえ他の客にも聞こえてしまう。
しかも、若干白目になって挙動不審でもあり、タチの悪い酔っ払いの行動をストレートに突き進んでいる。
こんな調子が一時間も続くと、周りが疲れてしまう。
前みたいに暴力振るわれるよりはマシだが。
「も~!君達さぁ!僕には今しかないとか散々言っといてさぁ!何で行動移さねぇの!?他人には偉そうに言っといて君達告白出来ねぇの!?」
「うっ。」「それは・・・。」
「まぁでも修兵なら大丈夫かもね。だって僕が入院してた時あやう「はい水入りま~~~す!!!!!」
「ん~!!ぶびゅぶぼぼぼぼ!!」
やっぱダメだ。
「おどれはもう酒終わりじゃ!水でも飲まんか!」
「う~~~・・・。」
「これじゃあ、二次会無理そうっスね。」
「そうですね。これ以上いても迷惑になりそうですし、帰りましょう?口囃子さん?」
「嫌だ嫌だ嫌だよ~~!もうちょっと一緒にいてくれよ~!」
「あ~~もう!しつこいっすよ!じゃあもうちょっとだけいましょう!それでいいですか!」
「あひゃりまえだろぉ~~!」
まるで子どもの相手をするかのような気分に晒されてしまったため、吉良達は疲れ切ってしまった。
「(よし、後は檜佐木さんに任せるぞ。)」
「(僕はもう帰るよ。)」
「(なら、飲み直しじゃ、阿散井。)」
「(そうっスね。)」
射場、吉良、阿散井の三名は修兵と隼人に気付かれないようにお代だけを残し、酔っ払って泣き出した隼人の目を盗んで個室から出ることに成功する。
「檜佐木さん、後は任せましたよ。」
厄介事を先輩に押し付けて吉良はそのまま直帰し、射場と阿散井は飲み直しに夏のおでん屋に向かって行った。
「うええええええええん!!!やっぱフラれたのは辛いよおおおお!!」
「今度は泣き出しちまったぞ・・・?おい阿散井、何とか・・・って、いない!!!」
わんわん号泣しながら修兵の胸に顔をぐりぐり擦りつけて涙を拭いている隼人の対応をしていたら、いつの間にかお代を残して同伴していた奴ら全員消えていた。
お代を少し多めに置いて行ってくれただけ良いっちゃ良いのだが、それ以上にこの酔っ払いはしがみついて離れようとしない。
自分が半年以上前に目の前の男に似たようなだる絡みをしていたことを知らず、修兵は目の前の男の対処法を一人で考えねばならず、万事休す。
前よりも筋肉がついたからか少しずっしり感が増しており、背負うことは難しそうだ。
どうせならこんな先輩ではなく、松本に抱き着かれたかった。などと修兵は気落ちする。
己の面倒見の良さが今となっては邪魔でしかない。
「全く、引き摺りすぎっすよ。どうせ明日になったらいつも通り仕事で会うかもしれないのに。」
「うぅ~~・・・僕会えないよ・・・。修兵助けてよ~~。」
「子どもじゃないんすよ。それぐらい自分で何とかして下さいよ!」
「何だよ!告白する前は今しかないとか何回も言っといて!いざフラれたら後は自分で何とかしろってかよぉ!」
「あ~~!!もう面倒くさいなぁこの人!!」
我慢の限界を迎えそうなので、隼人の死覇装の懐を探って財布を取り出し、置き土産の代金と自分の金を合わせて先に会計を済ませる。
現在地の居酒屋から七番隊舎までよりも九番隊舎の方が圧倒的に近いため、迷うことなく修兵は後者を選ぶ。
向かう先は一つしかなかった。
「こんな遅ぇ時間に何だよ・・・。」
「隊長、俺には手に負えません。預けさせて頂きます。」
一言だけ残し、修兵は運んできた隼人を上官の私室の玄関に座らせ、滑らかな動きでそそくさと退散する。
一方、まさに寝ようとしていた拳西は、酔っ払いの息子という、睡魔に襲われている只中には刺激の強すぎる修兵からのお土産に、半ば絶望を感じる程であった。
「ん・・・おしっこ、漏れそう・・・。」
「はぁ!?テメェどんだけ飲んでんだよ!」
実際は全然飲んでいないのだが。
翌日、目を覚ました隼人は飲み会の次の日のいつも通りこっぴどく叱られ、いつも通り朝ご飯をご馳走になっていつも通り少し遅刻した。
数週間後。
出来立てホヤホヤの瀞霊廷通信を送ってもらい真っ先に見た隼人は、絶句することになってしまう。
「なっ・・・!なんじゃこりゃあああああああ!!!!」
「あぁ!?何かあったんか口囃子!!」
「いっ、いや、何でも・・・。」
女性死神協会慰安旅行の様子は特集記事として載せられていたのだが、最後のページが七緒と二人でいた時の写真だったのだ。
夕日をバックにしていたおかげで誰が写っているのかは一般隊士には分からないのだが、分かる人には分かってしまう。
ひと夏のアバンチュールの締めくくりがどったらこったらという、修兵が書き起こした文章にも苛立ちが止まらない。
それよりも諸悪の根源は、この写真を撮りやがった拳西だ。
「許さん!!マジで許せねえ!!!九番隊カチコミ行くしかねえわこれ!!!」
「落ち着け口囃子!落ち着くんじゃ~!!!」
「これが落ち着いていられるかよクソヤロー!!」
結局仕事が終わってからカチコミという名のただの文句をぶつける会に馳せ参じたものの、もう印刷して発行している以上修正は不可能と宣告され、大泣きしながら自宅に帰っていった。