ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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人間!

慰安旅行で色々あってから暫くの間、所用で八番隊に行くだけで京楽に勝ち誇った顔をされ、五番隊に行けば平子に毎度の如くギャハギャハ笑われながらイジられ、九番隊に行けば情けない行動録として何度も突っ込まれる日々が続いた。

 

だが、そんな慣習も飽きが来れば廃れていき、気付けば年を跨いでいた。

年を跨ぐまで続いていたのかとは言ってはいけない。

痣城剣八の件で瀞霊廷がゴタついた時、隼人は瀞霊廷と融合していた痣城に気付けず、かなり歯痒い思いをした。

その件は十一番隊や滅却師の石田雨竜、さらにはドン・観音寺がどうにかしたとかいう話を又聞きし、あのジーさんが絡んでいたことに驚きを隠せずにいた。

 

 

さらに時は過ぎ、隼人が目覚めて約1年程経過した。

 

またも所用で十三番隊に赴いたところ、隊舎に入る前からかなり珍しい霊圧の持ち主が現在十三番隊に立ち寄っていることが分かった。

この霊圧の持ち主は。

 

以前旅禍騒ぎがあった時以来、まともに話したことも無かった女の子。

平子から聞いた話によると、あの藍染が神の領域をも侵す能力の持ち主と評したらしい。

 

 

「こんにちは~~。」

「あっ!えーっと・・・朽木さん、この人誰だっけ?」

「口囃子隼人三席だ。100年程前から七番隊所属に所属しているお方だ。」

「あっ!分かった!石田くんを撃った死神さんだね!」

「そんな覚え方かい・・・。」

 

 

少々複雑な気持ちになる覚え方をされているのは悲しいものの、変に敵意を持っているわけでもないので、初対面ではあるがそこまで滞りなく会話は進んだ。

実は拳西が現世の人間の中で最も苦手な奴だと知って爆笑するのは、後の話である。

 

 

「貴女だよね?僕が死にそうになってたのを助けてくれたのって。助けてくれて、どうもありがとうございます。」

「えっ?・・・あっ!!もしかしてあの時の血だらけのお兄さん!?でもそれにしては雰囲気が全然違うような・・・。もっとこう、闇属性を抱えた感じだった気が・・・。」

「(闇属性とか初めて言われたな・・・。)あの頃からはばっさり髪切ったから、雰囲気は変わるよ。ルキアちゃんだって髪切ってるし、阿散井くんも伸ばしてるでしょ。」

「皆変わってていいな~。口囃子さんも、闇属性から光属性持ったみたいでいいと思いまーす!」

 

 

自分も髪を伸ばしたことを棚に上げて人の変貌を羨ましがるあたり、自分のことには無頓着なのだろうか。

ともかく、即席で何らかのお礼を井上にはするべきなので、本当に即席でできるお礼として、自らの特技を伝授することにした。言葉だけでのお礼は心許ない。

興味を持ってくれるだろうか。

 

 

「じゃ~~ん!!最近身に着けたんだけど、現世の漫画でよくある目が3の形になるやつ!( ³ω³ )」

「えっすごーい!!口囃子さん、それどうやってやるの!?」

「実はそんなに難しくないんだよ。イメージが大事でね・・・。」

 

 

レクチャーを重ねている様子を浮竹がニコニコ見ていたのだが、浮竹の存在を思い出した隼人は仕事を忘れていたことに焦り、すぐさま仕事モードに戻る。

 

 

「まずいまずい。浮竹隊長、こちら先月の合同演習の報告書です。確認したら印鑑を押して、一番隊に届けて結構と狛村隊長が仰っていました。」

「ああ、ありがとう。すごいな、隼人君は急に仕事に切り替えられるのか。」

「そうでもしないと、色んな人に怒られちゃうので・・・。」

 

 

もういい大人なのに(自称)年上の死神から何度もオーディエンスがいる中で怒られるのはこの上なく嫌なのだが、以前とは打って変わって昔みたいにそそっかしくなったりおっちょこちょいになったりすることが増えて仕事のミスも増えてしまったため、すっかり以前のデキる男イメージは消えてしまった。

悪い意味で余裕が生まれてしまった。

 

特に隼人の自慢の父親、晴れて死神復帰した九番隊隊長・六車拳西が厄介で、大小かかわらず粗相をしでかす度に自分の仕事を放り出して叱責に来るのはいい加減止めて欲しい。

昔霊術院でやらかす度に怒られたのを思い出してしまうのだ。

 

また、射場も地味に厄介だった。

普段は以前と変わらないのだが、ちょっと数値を打ち間違えたり、聞き間違いをしただけで血相を変えて怒るようになってしまい、昔のノリで「ごめーん」何て言えば、「昔のおどれはもっと真面目じゃったわ~!」という発言をきっかけに小言のオンパレード。

 

本来注意すべき立場である狛村からまさかのフォローが入る始末だった。

 

 

でも、それでも。

 

数年前に比べたら、毎日が全然違った景色に見えるのだ。

やはり、心の支えだった仮面の軍勢の面々が尸魂界にいることは、隼人の精神にとって大いにプラスの影響を及ぼしている。

 

さっきみたいに、ほぼ初対面の女の子に最近身に着けた特技を伝授する程には、以前の活発で元気な性格を取り戻していた。

 

浮竹と暫し会話した後にルキアと喋っていた井上の所に向かうと、既に目が3の形になっていた。

 

 

「口囃子さーん!できてますかね?( ³ω³ )」

「すごっ!もう身に着けたんか!」

「一体どんな原理なんだ・・・。私には出来ぬ。」

「やった!黒崎くんにも今度見せよーっと!」

 

 

そうして一護が織姫の目を見て「うーーーっ!それどうやったんだ!?目が3みたいになってんぞ!!」と驚かせるのも後の話である。

 

何気なく井上が発した言葉は、実は隼人にとって非常に重大な案件とも繋がることだった。

 

 

「そっそうだ!ずっと聞きたかったことあったんだけどさ、一護くんって、力失ってからどんな様子なの?」

「黒崎くんですか・・・。」

 

 

隼人の何気ない一言をきっかけに、場の雰囲気が一瞬にして張り詰める。

質問に対し、井上は慎重に言葉を選びつつ一護の様子を伝えてくれた。

 

 

「黒崎くんは、今の幽霊が見えない生活を、『望んでいた』ものだって言ってました。でも、黒崎くん、今も戸惑っているように見えて、時折淋しそうな顔をしていて・・・。」

 

 

言葉を綴っていくにつれて、何かを思い出したのだろう。井上は目に大粒の涙を浮かべ、我慢が出来なくなってしまった。

突然泣き出した井上に、さすがに隼人も焦る。

 

 

「ごっごめんなさい・・・。そんな、泣かせるつもりじゃなかったんだけど・・・。」

「あたしも、六花の力で戻せるかもしれないって思って、何度かやってみたんです・・・。でも、何度やっても出来なくて、その度に黒崎くんは、『大丈夫だ』って言ってたんですけど、すごく辛そうな顔を出しちゃうのを我慢しているようにしか見えなくて・・・。」

「――――・・・。」

 

 

一護に計り知れない程の恩義がある隼人にとって、今の話は聞いているだけで辛くなった。

藍染にやられ、死の淵を彷徨っていた隼人に対して少しでも時間を稼いでくれ、鉄裁と七緒が来るまで藍染に追撃をさせなかっただけでも十分な恩義と言えるだろう。

隼人が目覚めた後一護にすぐにでもお礼を言いたかったのだが、死神の力を失ったと狛村から聞かされ、どうにもお礼を言う機会が作れなかったのだ。

 

義骸に入ればもちろん会うことも出来るだろうが、正直それは瀞霊廷側にとってあまりよろしい行動とは言えない。

現在の一護は霊力を一切持っていないため、尸魂界に住む死神が無能力の人間に会うのは四十六室等から難癖をつけられれば反論できないのだ。

だからこそ、阿散井やルキアなど、一護と親しい間柄の死神も、義骸に入って一護に会うことはしなかった。

 

 

「力、取り戻せるといいね。」

「そう、ですね・・・。」

「あ~あ、浦原さんどうにかしてくんねぇかな~!・・・って、あの人頼りになるのも良くないか。でも涅隊長がどうにかしてくれるとは思えないし・・・。う~ん・・・。」

 

 

浦原の名前を出した途端ルキアが僅かにピクりとしたが、気付かなかった他の二人はそのまま話を続ける。

 

 

「そういえば、口囃子さんの力って、どんな力なんですか?」

「僕の始解の能力は記憶した霊圧の持ち主の魂魄を探知、捕捉する能力だよ。浦原さんとか夜一さんの居場所だって始解すればすぐに見つけられるんだ。」

「じゃあ、黒崎くんの居場所も・・・?」

「あぁ、それ前何回かやってみたけど無理だったよ。」

 

 

前といっても去年の話だが、興味本位で一護の居場所を見つけられるかやってみたことがあった。

もちろん、一護の霊圧は尸魂界からならまだしも、現世で調査しても見つけることは出来なかった。

そもそも痣城剣八の融合にすら気付けなかった以上、元死神代行で、今は普通の人間の霊圧を見つけることなど不可能だろうと現時点では考えていた。

 

 

「はぁ~・・・いつになったらお礼言えるんだろ・・・。せっかくだからこの技を一護くんにも伝授したいのに・・・。( ³ω³ )」

「一護は恐らく嫌がる気が・・・。いや、口囃子三席は押しが強いからな・・・。う~む・・・。」

 

 

そんなとりとめのない話を続けていると、昼休憩の鐘が鳴り響くのが聞こえた。

そろそろ戻らねば、また射場に怒られてしまう。いや、もうアウトだろう。

 

 

「じゃあ時間になったから僕は戻るよ。ルキアちゃん、僕の伝令神機のアドレス井上さんに渡しといてもらってもいい?また何か技身に付けたら教えるよ!」

「了解しました。・・・井上の顔のレパートリーが増えそうだな・・・。」

「口囃子さん!またお喋りしましょう!」

「またよろしく~。浮竹隊長、それでは失礼します。」

「ああ。こんなに長居していれば、射場副隊長に怒られるのではないか?」

「ええ・・・。もう諦めました。」

 

 

そうして七番隊に戻ってくると、案の定射場が表情を歪めていた。

 

 

「遅いわ!!どこほっつき歩いとったんじゃ!」

「十三番隊に書類を渡しに行ったら、井上織姫ちゃんがいてね、ずっと言えなかったあの時のお礼がてらお喋りしてたらこんな時間に・・・。」

「ちょろちょろちょろちょろ、そんな浮ついた心のままじゃけぇ些細な失敗を繰り返すんじゃ!!」

 

 

それからも30分程射場のネチネチした小姑みたいな説教が続いたものの、ちょっとだけ射場の仕事を手伝うと言えばすぐに怒らなくなるため、多少面倒であれどそっちの方が効率が良かったりする。

 

実際引き受けた射場の仕事でミスをして、とんでもない汚名を着せてしまったことも何度かあるが、それはもうやってしまったことなので仕方ない。

 

射場の怒りも収まったところで二人とも持ってきた弁当を食べていたのだが、そこで隼人はさっきの話題を射場にも話すことにした。

 

 

「一護くんにさ、力また与えられないのかな・・・。」

「無理じゃ。そもそも黒崎の奴は普通の人間じゃけぇ、死神の力を持ってはいかんのじゃ。」

「だったら、僕が「今からおどれが言う事は聞かんかったことにしたるわ。止めておけ。」

「・・・そうだよね・・・。」

 

 

死神の力の人間への譲渡。ルキアがこれを行っただけで彼女は捕まり、殺されかけたのだ。

藍染の策略でそうなってしまったため今の時点でそれをやった場合どのような処置がなされるのかは分からないのだが、重罪であることに変わりはない。

井上と話をしたと聞いた時点で、隼人がそういったことを考えてしまうことは射場には易々と想像ついた。

 

 

「これじゃ、いつまでたってもお礼言えないなぁ・・・。」

「そがいにおどれはお礼を言いたいんか。」

「だって、一護くん来なかったら僕死んでたし。命の恩人だぜ?目覚めた時はもう一護くん一般人だしさ、何か寝覚めが悪いっつーか・・・。」

「・・・20年も生きとらんガキに儂ら全員護られたもんじゃけぇ、ほう考えるんも仕方無いのう。」

 

 

結局、話すだけで何も行動に移せないのが一番もどかしいのだ。

浦原やマユリみたいに並外れた頭脳など無いので(むしろちょっとおバカになりつつある)、どうしても他力本願になってしまうのは仕方ないが、それでも何か出来ることをしたかった。

 

 

そんな隼人の思いを知ってか知らずか、一週間後、あの話が電子書簡で回ってくるのだった。

 

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