終業後大急ぎで九番隊舎に向かうと、拳西と共に平子、ローズ、白、修兵、吉良が隊舎から出てきた所だった。
雛森は七緒と一緒に行くことになっており、二人は京楽の原稿が書き終わってから行くつもりらしい。
半泣きで原稿を書いている姿が目に浮かぶ。
一方朝の忙しさを見ていた隼人は何故修兵がこの場にと訝しんだのだが、一般隊士に比べて副隊長ともなると霊圧の質、量は段違いのため、早く行ってくださいと編集部から追い出されたらしい。
「俺って・・・一体何なんだ・・・?」
「いや、編集長でしょ。」
「副隊長やろ。」
「両方ですよ、口囃子さん、平子隊長。」
「二足の草鞋って、大変だよね。ボクは
「あたしに副隊長譲ってくれてもいーーんだよーー!?」
「何一人で自分探しの旅出ようとしてんだ。のんびりしてたら時間無くなるぞ。」
「はっ!すんません!」
何故か自分を見失いかけていた修兵の気を取り戻しつつ、やや駆け足で流魂街の志波空鶴邸へと向かって行く。
「マユリに気付かれりゃあ厄介やしなぁ~。」
「彼、何故か一護のこと嫌ってるよね。」
「朽木隊長から聞いたんですけど、一護くんが涅隊長のことを、浦原さんに似てるって言ってからカンカンに怒ってるらしいですよ?」
「相変わらず喜助の奴嫌いなんか・・・。」
戦いが終わった暁には、あらゆる非人道的な人体実験を一護に対して行うつもりでいたらしいのだが、一護が力を失ってしまったことで尸魂界に来ることも出来なくなり、実験が行われることはなかった。
命拾いしたと言えよう。ただ力を取り戻した後どうなるかは分からない。
一先ず十二番隊を避けて流魂街へと出て行き、志波空鶴邸へと辿り着いた。
「おい、何だこれ。すげぇ行列だな。こんなトコ並ばにゃいけねぇのかよ・・・。」
「行列苦手ですか!?分かりますそれ!我慢できませんよね!並ばなくてもいける自由券みたいなのあればな・・・。」
「口囃子さん・・・。ここは現世のテーマパークじゃないんすよ・・・。」
「んなこと分かってるよ。でも並ぶのだるい・・・。」
そうは言いつつ横入りをするのは七番隊に所属する者として絶対にあってはならないので、ちゃんと皆で後ろに並ぶ。
並んだ直後、前から丁度非番で早めに霊圧の注入を終わらせた射場と、早めに業務を終わらせてさっさと霊圧を注入した四番隊の伊江村、花太郎が戻ってきた。
「おう!口囃子!おどれは今から並んだんか。」
「うん。どんぐらいかかった?」
「一気に霊圧を注入するけぇすぐ終わりはするんじゃが、こがいな行列でありゃあ相当時間は掛かる筈じゃのう・・・。」
「げぇ~~~・・・。マジか・・・。」
伊江村と花太郎も他の隊長格達に同じ説明をしており、皆隼人と同じように辟易としていた。
行列自体はかなり長いため、いくら所要時間が短くともあと1時間以上はかかりそうだ。
「お菓子持ってくればよかったなぁ・・・。」
「食い過ぎだぞ九南。太ったらどうすんだ。」
「修兵が食わなさすぎだよ!もっとちゃんと食べないと、そんなヒョロヒョロじゃだめだよ!」
「俺だってちゃんと食ってるぞ!」
「修兵は働き過ぎだ。食う以上に働いてるからいつまでもヒョロっちいんだよ。」
「なっ!隊長が編集長業務をなさってくれれば俺はもっとマシな体型に・・・!」
「マシな体型って何ですか、檜佐木さん・・・。」
拳西程ではないものの、現在の隼人以上に筋肉がついた自身の理想的な姿を想像する修兵は、届きそうにない姿に少々落ち込んでしまったが、それもこれも全部編集長業務を代わってくれない隊長のせいにして自らの意見を頭の中で勝手に正当化する。
それ以上にヒョロヒョロの吉良からしたらどうでもいい内容で理解もそんなに出来ない内容なのだが、勝手に苦しんでて大変だな、といった気持ちで修兵のことを見ていた。
十分程経って少し進むと、威勢がいいものの、ぞんざいにも聞こえる女性の張り上げた声が聞こえてきた。
「現世の書籍に興味はありませんかー!どんな書籍も取り寄せます!顧客情報や購入情報を漏らすことは決してございませーん!いかがですかー!現世のしょ「ここでも商売ですか、矢胴丸さん。」
「当たり前やろーが!新規販路の拡大の様子、しかとその眼に刻みこみいやあ!」
実際数名の男性死神はパンフレットのラインナップを見て「ウッヒョー!」と声を上げる者も数名おり、販路は着々と拡大しているようだった。
また、女性死神に向けても少女漫画や一部死神の需要に応えて二次創作の漫画、小説の取り扱いを始め、爆発的な売り上げを叩き出したそうだ。
最近は、一部の一般女性死神が護廷十三隊の隊長格を登場人物にした二次創作が秘密裏に出回っているという噂もある。尤も当の本人らは全く知らない話なのだが。
新隊長三人組も、健全な雑誌、漫画、CDなどをリサから買うことも度々あるようだった。
「拳西さんの買ってる健康雑誌、あれいいですよね。あそこから男としての身だしなみとか色々学ばせてもらってますよ。髪セットするクリームとかもあの雑誌で勧められたやつ買えば問題ないですし。」
「お前いい加減自分で買えよ・・・。」
「エロ本買ってるって思われたくないですから。」
「俺はリサからエロ本買ってねぇぞ。」
「うっ。」
後ろを振り向くと少し修兵が居心地悪そうというか、そっぽを向いて冷や汗を流していたが、昨年の海水浴でリサがうっかり言ってしまったことを大分前に吉良から聞かされてしまったため、特にツッコミはしないようにした。
「あんたらに売り込みかけとっても仕方あらへんしなぁ、あたしは後ろん方行くで。じゃあな!」
颯爽と売り込みに走り去っていく姿は、商売人そのものでしかない。
後ろの方から同じようにぞんざいな売り込みの声が聞こえてきて、商魂の逞しさを感じさせられた。
また更に少し歩くと、拡声器を使った浦原の声が聞こえてきた。
どーんと短時間で注入して下さい、と何度も繰り返しているあたり、そんなに時間も無いのだろう。
これ程までに死神が並んでいる以上、手短に済ませることは不可能だが。
そして、タイムリミットは来てしまった。
地獄蝶が、浦原達の許へ飛んでいくのが見えた。
それから数秒遅れる形で、隼人と一緒にいた隊長格の面々にも同一の内容の伝令が伝えられた。
“各隊隊長・副隊長は、即時一番隊舎に集合。浦原喜助は件の刀を隊主会議場へと運び入れるように。”
「あぁ~~・・・。やっぱダメなのかな・・・。」
「まだ落ち込むんは気ぃ早いでぇ!」
「何故ですか?」
落ち込んだ隼人や、疑問に感じた修兵、吉良の言葉に平子が安心させるつもりで飄々と答える。
「総隊長のジーさんが刀を入れろっちゅうことはなァ、あのジーさん、頭ごなしに否定するつもりやないねん。喜助に詳しい事聞いてから決めるんとちゃうか。」
「だとしたら、あの人も、変わったよね。」
「一護がジイさん含め護廷十三隊を変えたんだろ。」
「昔のままだったら、あたし達こっちに戻れなかったよね。」
ならば、まだ諦めてはいけないということか。
万が一罰せられる場合のことを考えると少し遅めに来て良かったのだが、それでもやはり一護のために刀に力を入れたいのだ。
「取り敢えずオレ達は一番隊舎に行くで。白と隼人も隊舎前で待ってればええ。」
「リサも呼んでおこうよ。多分これから一番隊に刀が置かれる筈だしさ。」
そんなことになってしまい、一行はすぐに瀞霊廷に戻り、一番隊舎へと向かうことになった。
一番隊舎に着き外で待つ間、リサは再びいそいそと準備を行っている。
「矢胴丸さん、本当に時間を無駄にしないんですね。」
「最近おはぎに誘っても全然乗ってくれないんだよ~~!はやちん行こーーよー!」
「僕も仕事あるのでお断りさせて頂きます。」
「ぶーー!けち!はやちんの分からず屋!!そういう所拳西にそっくりだね!!」
「七番隊の隊風には文句言われてもどうにも出来ませんからねぇ。」
そりゃあ昔は子どもであり、九番隊に連れて来られた身だったので親の仕事を邪魔してはいけないと思い、白に連れられる方が色々と隊にとって都合が良かったのだが、働く身となっては白についていくことは厳しい。
分からず屋と言われても、拳西にそっくりと言われても、こればかりは仕方ない。
しばらく白とお喋りを続けている間も何度もおはぎやドーナツを誘われてやんわりと断り続けていると、一番隊舎のドアがギイイ、と鳴り響いた。
誰が出てきたと思えば、マユリだった。
かなり機嫌が悪く、腹の虫が収まっていないようだ。
相変わらず、浦原絡みになると小物臭くなってしまうのが一部の隊士の間の萌えポイントとなっているのは、本人の知らない所だ。
破面との戦闘ではかなり頼りになる存在だったのに、ギャップが激しすぎる。
「涅隊長、先ほどのお話は「何だネ!!私は今史上最高に機嫌が悪いのだヨ!!私の片手間を取ろうとでも言うのならすぐにでも八つ裂きにして薬品漬けにでもして・・・。」
びっくりした隼人の顔を見たマユリは、それ以上に驚いた顔をした。
一瞬の驚きを隼人に見せた後、すぐにニタァ、と笑みを浮かべた。
「いい所にいたヨ口囃子隼人!!!貴様の力が直ぐにでも必要だ!私と共に今すぐ十二番隊へ来い!」
「えっ、急になんですか?早く刀に力入れたいんですけど・・・。」
「浦原喜助の刀にか。そんなもの早く済ませてしまえ!貴様が黒崎一護に恩義を抱くのは私の想定内であるのでネ。変に連行して恨みを持たれては困るのだヨ!」
早く済ましてしまえ。
ということは、総隊長直々に許可が下りたのか。
「許可、下りたんですか!?」
「ああ。全く気に喰わない話だがネ。いいからつべこべ言わず早く済ませて来るんだウスノロ!!」
「やったーー!よかったー!じゃあすぐ行ってきます!」
相変わらずイライラした様子で、マユリは十二番隊へ急ぎ向かって行く。
白とリサにも知らせて三人とも一番隊舎の会議場に進んでいく。
やっとだ。
やっと自分を救ってくれた一護に、恩返しが出来る。
これ程嬉しいことは、拳西が尸魂界に帰って来たあの時以来かもしれない。
会議場へ向かう途中、逸る気持ちを抑えるのが大変だった。