とある冬の日。
瀞霊廷通信も無事発行し、隊全体が落ち着きを取り戻したことで長らく取れていなかった休日をやっとの思いで確保し、久々の休みを満喫していた。
普段なら七時前には起き忙しなく仕事の準備をするが、今日は八時半に起床し、家事をのんびり行うつもりだ。普段できない掃除などもゆっくり行うつもりである。
たまにはこうやってだらけるのもアリだ。何せ自分は直接係わっていないが瀞霊廷通信絡みでえらく忙しかったのだ。休みを強奪したのは正解だったといえよう。
隼人の鍛錬、勉強も今日は休ませた。自分が休みたいのもあるが、いつも鍛錬で気を張り詰めさせるのもよくない、と自分に都合よく解釈し、二人でのんびり過ごしていた。
こたつで浮竹の著作『双魚のお断り!』を読みながらみかんを食べていた隼人は、相当間抜けな顔をしながら休日を楽しんでいた。
「スゲェだらけてるな。真子みてぇな顔してるぞ。」
「そうですか?こたつが温かくて気持ちいいんですよ~。」
「まぁわからなくもねぇけどよ。つーか否定しねぇんだな・・・。」
こういう時にキレッキレの文句を言う平子もいないため、完全にツッコミのいない場と化してしまっている。
だがこたつの気持ちよさのためにそんなことを気にする思考力も奪われ、完全にふにゃふにゃのへなへなになってしまっていた。
もう今日はずっとこのままでいたい・・・。と思っていた隼人に拳西は悪魔のような一言を投げかけた。
「あと少ししたら家の掃除するぞ。」
「えっ!!!何で今日!!!」
「今日しか出来ねぇんだよ!明日からまた普通に仕事だしな。縁側とか庭とか大分汚れてるぞ。」
せっかく気持ちよく温まっていたのに何という所業だ。
あぁ・・・。こんな幸せな空間を奪わないでくれ・・・!と思ったが、汚いまま放置するのはもっと嫌なので、あと少しまでこたつで粘りつつ渋々掃除を手伝うことにした。
やっとの思いでこたつから出た時は、あまりの寒さに体が震えていた。
情けねぇなぁと拳西に笑われたが、当たり前のことに笑わないでほしいものだ。だって寒いもん。
部屋用の半纏を着て何とか暖を確保し、一日の行動を開始した。
上階の方から掃除をすることになっていたので、まずは屋根裏の埃取りからにした。
こういう時一応まだ子どもの体格をした隼人がいるおかげで、屋根裏に直接乗って埃を取ることが出来た。
「どうだ?久々だから埃スゲェだろ。」
「これは中々・・・ゲホッ!たくさん・・・ゴホッ!」
「とりあえず鼻と口塞いで埃落とせ。じゃねぇとずっとむせてるぞ。」
「うぅ・・・。せっかくの休みがなんでこんな埃まみれに・・・ゴホッ!」
あぁ何で僕はこんなほこりっぽい所で掃除に勤しんでいるのだろう。
さっきまであんなにこたつで幸せにしていたのに。『双魚のお断り』の続き読みたいのに・・・。
もうこの際投げ出してこたつに戻ろうかと思ったが、拳西がこたつ用布団を取り外していたのを思い出し、どうしようもない状況にいることには変わりないと気付いた。
適当にやったらやり直しさせられるので、諦めてしっかりやろうと決めた。
何度もむせつつ何とか屋根裏の掃除を終わらせた後は、自分の部屋の掃除をした。
普段からなるべく綺麗にしていたので特別ごみが出てくることも無かった。
窓を開けて換気し、本棚の整理をしたところで拳西に呼ばれ、縁側の雑巾がけをすることになった。
北側は一面縁側になっており、数人が余裕で歩ける横幅と、結構な長さのあるものだ。
ここで暮らし始めてからいつも縁側雑巾がけ競争を行っており、負けた方が縁側の残り全てを雑巾がけするものだ。
これは神聖な男の戦いである。起源は神聖もクソもないが。
2人とも床の拭き掃除が嫌だったためにこの戦いが始まった。
妨害など何でもアリのため、いつも隼人は負けていた。
大人げないと言われようが知ったことか。今まで全勝している拳西は今回も負けないよう決して油断をしなかった。
「今日もやるぞ。覚悟はできてんだろーな・・・?」
「ええ。もちろん・・・。」
お互いに邪悪な笑みをこぼしつつ北西側の角にスタンバイした。
向かいにある時計の秒針が十二を指したら競争開始だ。
五、四、三、二、一・・・零!!
秒針が十二を指した瞬間、拳西による足払いを受けそうになったが何とか躱し、いいスタートダッシュを切った。
初めてリードを奪うことに成功したが、単純な速度ではまだ拳西の方が速いため油断は出来ない。
そのためリードを奪った後は、浦原からもらった煙幕を使い拳西の視界を完全に奪うことにした。
テメェ!道具使うなんてせこいぞコラ!!と後ろから聞こえたが、妨害に何でもアリの規則を作ったのは拳西だ。
もう残りは四分の一程度だ。これなら勝利確定。
策士策に溺れる。せいぜい自分の作った規則で苦しむがいい!はーーっはっはっは!!!!
なーんて思っていたせいで。
目の前の床が完全に凍っていることに気付けなかった。
「わっ!!!わぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!!!」
全速力で走っていたために止まることも出来ず、見事なまでにツルっと横に滑って転び、ついでに庭に落ちてしまった。
盛大にコースアウトしたせいで、もちろん敗北決定。縁側に上がった時には既に拳西は向こう側に到達していた。
「お前もまだまだだな。道具隠してるのを俺が見抜けねぇとでも思ったか。甘ぇんだよ。」
「いやそっちこそずるくないですか!?床凍らせるとか信じられません!罠の範疇超えてますよ!」
「知らねぇなぁ?俺はただ水を撒いて放置しただけなんだが・・・まさか凍るとはな・・・。」
「あぁぁぁぁぁぁぁ腹立つーーーーー!!!!!」
だがいくら文句を言おうが結局負けたのだ。今回もかなり不満の残る結果となったが、残りの雑巾がけをやることにした。
雑巾がけが終わったところで昼飯の時間になった。
こたつ布団のないいつもよりちょっと寂しい机で握り飯(相変わらずでかい)と、昨日の残りの漬物を食べ、昼からは庭掃除に入った。
最初は伸び放題の雑草の手入れをした。半年近く放置していたので伸びているところはかなり伸びており、抜くのもかなり力が必要だった。
次に折れた枝や枯葉の掃き掃除を始めたが、朽木邸ほどではないものの隊長の邸宅なのでまあまあ広く、これだけでかなり時間がかかった。
のんびりするはずの休みだったのに結局かなり体力を使った気がした。
「今日ってのんびりできる休みのはずですよね・・・。あれ・・・何か凄い疲れてるんですけど・・・。」
「だからあと残った時間はのんびりしてていいぞ。こたつもあたらしい布団つけといたぜ。」
「えっ本当に!!!・・・でも動いたから暑い・・・。」
動いて体が熱くなったためあまりこたつの恩恵は受けられないが、しばらく部屋でゴロゴロできるのは最高だ。
手を洗って茶の間に戻り横になった時は、何とも言えない達成感に包まれていた。
まだ夕方にもなってない状態から家の中でぐうたらしていることが久々で、背徳感も少しあったがとても幸せであった。
すこし寒くなったのでこたつに入ると丁度拳西も掃除から戻ってきたところで、持ってきてもらったお茶とみかんとともに隼人は朝のようにこたつでまたふにゃふにゃのへなへなになっていた。
「また真子みてぇになってるぞ。」
「やっぱこたつは最高ですよ・・・。」
「最高な気分なのはいいが寝たら風邪ひくから気をつけろよ。」
「わかってますよ~~~~~。ふへへへへ・・・。」
もうこの上なく最高の気分だ。頭を横向きにして机にくっつけていたら顔にも温かさがじんわりと伝わってくるような気がしてまた気持ちいいのだ。
まだお酒は飲めないが、お酒が飲めるようになればきっともっと最高の気分になるだろう。
『双魚のお断り!』の続きを読み終わり、また八番隊図書館から借りた『瀞霊廷探偵』を読み始めて少し経ったところで日が暮れ、夕飯の準備の時間になった。
「今日は飯作るの手伝うか?こたつでのんびりしててもいいんだぞ。」
「手伝います!!」
最近はご飯支度を手伝うようになった。
毎日拳西がご飯を作っている様子を見て、自分でも作りたくなったのだ。
かなり調味料の配分はいい加減なのに、なぜか美味しくできる秘密を知りたかったが、どうやらその域に達するには相当な経験が要るらしい。
そのため最初はしっかり分量を測って料理を作れと教えられた。
「和食とお菓子は特に分量が大事だ。それも最初は薄めのほうがいいな。」
「なんで薄めの方がいいんですか?濃い味の方がおいしいじゃないですか。」
「最初から入れすぎると取り返しつかなくなるんだよ。俺だって初めの頃はクソまじぃ失敗作ばっか作っちまったからな・・・。」
現に隼人が醤油を入れすぎた際必死に水で薄めた結果、いつもよりも美味しくないものが出来上がった経験があるので、言わんとしていることは何となく理解できた。
今日は好物の肉じゃがなので、絶対に失敗はできないと思い覚悟を決めて台所に立った。
包丁は教えられてかなり使えるようになった。じゃがいもと人参を乱切りにして玉ねぎもくし切りにする。
横から「包丁は難なく使えるクセに刀の扱い下手クソなのは理解できねぇなぁ?」と言われたが無視した。
うるさいこれでも頑張っているんだ自分でもなんでか分かんねぇよ!と言いそうになったが心の中に留めた。
前の失敗を反省して今回は拳西にそれ以降の工程を全てやってもらった。相変わらず調味料の配分はいい加減だがなぜ美味しくなるのだろうか。不思議でならん。
その間、隼人は雀部副隊長からもらった『あすぱらがす』たるものを切っていた。
一緒に貰った『ばたー』を油の代わりにして炒めると美味しいと教えてもらったのでやってみることにしたのだ。
「この黄色い塊が油になるんですかねぇ。」
「牛脂みてぇなもんだろ。しかし雀部さんも珍しいモン持ってんだな。」
「あの人本当に洋食好きですからね~。」
炒め物用の鉄鍋に火をかけ、ばたーを置いてみるとたしかに牛脂のように溶けていった。
おぉ・・・すごい!と子ども並の感想を述べた後、あすぱらがすを炒めた。
牛脂で炒めているのとは違う匂いがした。
「何か牛乳っぽい匂いですね。美味しそうですよ。」
「野菜炒めるのに合いそうだな。たまには変わったモン作るのもいいかもな。」
そんな感じで『あすぱらがすのばたー炒め』が完成したころに、肉じゃがも丁度よく味が染み野菜が柔らかくなったので、こたつに持っていき食べることにした。
「ん~~~~今日はとっても美味しいですね~~~。」
「ったりめーだ!前の水っぽいのなんか最悪の出来だぞ!」
「わかってますよ。でも今日は本当に上手くいきましたね。野菜炒めもいつもと違って美味しいですよ。」
一日の終わりのご飯としては大満足の出来だ。
掃除で疲れた体に染みこみ、癒されていくような気がするのだ。
もったいないと思いつつも、あっという間に食べ終わってしまった。
洗い物を手伝い、綺麗になったお風呂で体をしっかり洗い流し、休日は終わりを迎えた。
また明日から鍛錬、勉強の日々だ。
霊術院入学も手の届く範囲になってきたので、いつも以上に鍛錬を厳しくしてもらっている。
「今日はたくさん寝て明日からまた頑張るぞーーー!!!」
景気づけに叫んだら下から「うるせぇぞ!!」と怒鳴られた。