爆発音を感じ取った隼人は仕事を放り出し、射場の静止をも振り切って隊舎を出る。
向こうにある霊圧を始解して読んでみると、雀部の霊圧とそれ以上に濃い滅却師と思われる霊圧を確認した。
黒陵門は七番隊から遠く、自分の瞬歩では増援に恐らく間に合わない。
ショートカットのために空間移動を行おうとしたところで、向こうから何かが一番隊の方向に飛んでくるのが僅かながらに見えた。
巨大な矢。あんな技を今の護廷十三隊の中で扱う死神はいない。
だとすると、滅却師か。
「えっ・・・?ちょっと、ちょっとちょっとちょっとちょっと!!」
その矢は、吸い込まれるかのように、一番隊執務室と思われる場所に入っていき、再び瀞霊廷中に響き渡る鈍い音を立てて壁に突き刺さった。
とにかく、矢を撃った滅却師と思われる者の所へ、と思ったが、いくら探してもその霊圧の持ち主は、瀞霊廷の中から発見することは出来なかった。
同時に一番隊舎から流刃若火の業火が広がっていき、一番隊においても何かあったことが窺い知れた。
向かった現場は、あまりにも凄惨なものだった。
200人分いるのではないかと思われる程の死体の山や、焦げ付いた建物の跡、人体が叩き込まれ衝撃で陥没した壁、地面など、僅か数分の間で恐ろしい程ハイレベルな戦闘が行われていた。
生々しい血の臭いに、ほんの少し胸が悪くなる。
一番隊では、丁度雀部の霊圧が消え、命を終えたことが遠くからでも分かった。
(あの雀部副隊長が・・・数分の戦闘で殺されるって・・・。)
指折りの実力者であり、並の隊長以上の戦闘力を持っていた雀部の死に、戸惑いを隠せない。
九番隊調査部門と、十二番隊の阿近らが来たのに気付くのも僅かに遅れる程だった。
「何ぼさっとしてんだ。ここに来たからにはしっかり霊圧調査しろ。誉望の方が先に動いてるぞ。」
「ごっごめんなさい阿近さん。」
頭のゴーグルから伸びたケーブルを死体、焦げ付いた舗装道路、壁に当ててすぐさま調査を始めた九番隊の若い席官を見て、隼人も立ち止まる事なく空気中に未だ漂う霊圧調査を進める。
九番隊の一般隊士もカメラで写真を撮り始めており、足手まといになってはいけない。
(二者の霊圧が混じってるけど、霊圧自体の捻れは無い。藍染みたいに感覚に干渉してくるタイプの敵ではないか・・・。)
むしろ、力と力のぶつかり合いという正統派の戦いをとことん突き詰めたものか。
また、死体を見ると違和感を抱く。己の実力を誇示したかったのか、死体は一箇所にまとめられて山を築いているのだが、
「外傷の大きさにパターンがあるっスね。」
「やっぱりか。山の土台にある死体の傷と比べると、上に被さっている死体の傷の方が圧倒的に大きい。」
「殺傷力の違いっスか。下の方は多く矢を撃たれた死体が中心的ですが、上に行くにつれて矢が当たる数が少なくなってますね。その代わり、体には大きな穴が開いてますが。」
数年前に藍染にやられた傷を思い出し、ちょっと胸が苦しくなる。
「とにかく、十二番隊で詳しい検死してもらった方がいいね。阿近さーん!検死お願いします!」
「おう、今機材持って他のヤツ来るトコだから待ってろ。」
遠くで何やら機械をいじくっている阿近の返事を聞いた後、隼人は再び空間の霊圧をより詳しく調べ上げる。
(霊圧を見た限り、雀部副隊長が終始圧倒されていた訳では無さそう・・・?一応攻撃の痕跡はあるし、雷の焦げ跡もあっちこっちにある。)
だがそれ以上に、敵の能力が掴めなかった。
炎を操る、水を操る、などの力なら痕跡が残るものだが、敵は一切の痕跡を残していない。
あるとしても、あの巨大な光の矢ぐらいか。
「阿近さん、遮魂膜に変化ありましたか?」
「何も探知してねえ。」
「敵の力も謎、移動手段も謎。あーこれ完全にやられましたね・・・。」
「雀部副隊長が生きていれば事情訊けたんスけどね。」
まるで、力が無かったかのように嘲る口調で呟いた誉望にムッとした表情を向けるも、阿近に注意されて押し黙る。
「・・・って、仕事!本来の仕事放り出しちゃったよ・・・。」
「どうせあっち戻っても副隊長死んだから仕事もクソもねえぞ。だったらこっちで調査してろ。その方が精度が上がるしな。」
「・・・分かりました。」
十二番隊の調査隊増援が来たところでいよいよ調査も本格化し、九番隊にも混じる形で隼人も現場の調査を粛々と行うことにした。
*****
翌日。
午前中に雀部の隊葬が行われることになり各隊隊長・副隊長が参列することになっていたのと、昨日で調査自体は全て終わったため隼人は通常業務へと戻っていた。
「落ち着き、ないですね。いつものことですが。」
「曽田くん。・・・一言余計だなオイ。」
昨日の流魂街住民大量失踪や、雀部副隊長の死亡など、色々ありすぎて頭が混乱してしまい、何だか浮足立って落ち着かないのだ。
旅禍侵入当時の感覚を思い出し、嫌な予感が頭中を駆け巡る。
夜も眠れず、勝手に拳西の私室を訪ね、色々話に付き合ってもらった挙句ようやく眠れるようになったのだ。
年の大分離れた後輩にも心配される程だ。
苦手なコーヒーを渡されたものの、頑張ってまずい顔をせず飲む。
「理吉の弟の竜ノ介も、空座町から緊急帰投命令出たらしいですよ。理吉から電話で聞かされてうるさかったですよ。」
「あぁ・・・。君、阿散井くんの舎弟の同期だったか。何か言ってた?」
「死神代行の黒崎一護さんの家にお世話になってたみたいですよ。井上さんが持ってきたパンが美味しかったらしいです。」
「あの子、何しに空座町行ってるの?」
いつもだったら「いいなー一護くんの家面白そうだし行ってみたいなーー。」ぐらい間抜けなことを口にするのだが、最近色々あって気が滅入っているせいで、やけに静かになっているのだ。
だからこそ後輩皆隼人のことを心配するのだが、中々戻るには時間がかかりそうだ。
感情の上下が激しすぎると、対応に困ることもあるのだ。
もちろんそれは隼人も分かっており、空元気を出そうとしたことがあるのだが、下手すぎて狛村と射場に見抜かれてしまったので、そのままに振る舞うことにしている。
後輩と喋っていると、懐に入れていた伝令神機が震える。
「何だ?書簡か・・・。って、射場ちゃんじゃん。隊葬もう終わったのか・・・?」
「射場副隊長からですか?こんな時間に・・・。」
通知から画面を開くと、隊葬の後そのまま隊首会を開くことになり、午前中、もしくは午後になってもしばらく隊舎に戻ってこれない可能性があるため、伝えといて欲しいとの旨が記されていた。
今回は隊長のみの会議のため、副隊長は全員別室待機らしい。
「隊葬の後そのまま直で隊首会議って、相当切羽詰まってるな・・・。十二番隊の調査済んでるのか・・・?」
後輩の隊士も心配そうな顔をしていたが、「気にする事ないから仕事戻んな。飲み物ありがとう。」と言って早々に退散させ、大量に残ったコーヒーはコーヒー好きの別の席官にあげた。
*****
昼休みは、いつも持ってくる弁当も作る気になれず定食屋で一人寂しくご飯を食べることにした。
いつも何だかんだ自分から後輩を誘ったり、気の知れた隊長達を誘う事は多々あるものの、皆隊首会だったら誘っても仕方がない。
昼飯の鮭定食を食べた後、どうせ伝わっているだろうが、一応連絡のつもりで浦原に電話することにした。
どうせ出てこないだろうと思ったが、今回は四回目の音の後すぐに繋がった。
「はい、どうかしましたか?」
「あの、浦原さん。聞いてますよね、こっちの事。」
「ええ、勿論。」
事も無げに言う姿が、不安な隼人にとっては何故か安心できた。
「珍しいっスね。こんな時間に電話なんて。最近電話無かったんで寂しかったっスよん♪」
「貴方は僕の重い彼女ですか。変なこと言わないで下さい。」
「あれーー?口囃子サン彼女いましたっけ?」
「い・ま・せ・ん・よ!!!例えです!何で昔の隊長の人は何回も何回も・・・!」
アッハハハ、と高笑いする浦原は、声音から隼人の不安を既に感じ取っており、少し気持ちを和らげた上で会話にとっつきやすくする。
前の藍染との戦いでも、浦原は隼人の不安をひしひしと受け取っていたため、最早拳西並みに対処に慣れ切っている。
「取り敢えず、こちらの状況を説明しますね。空座町でも虚の数は
「石田くんは・・・?」
「もちろん彼も虚討伐は行っていますが、常識の範囲内っスよ。最近は黒崎サンに任せることが多いですし。彼は何の関係もありません。」
「そうですか・・・。」
「ですが。」
浦原は悪い意味で気を緩めようとした隼人に釘を刺す。
「虚圏はどうなっているか分かりません。空座町で虚が大量に滅却師によって倒されている以上、虚圏でも何らかの動きがあるのは当然でしょう。」
「・・・やっぱり、そうですよね・・・。」
「雀部副隊長が亡くなられた以上、もう事態はとんでもない所まで来ています。数日後、大規模な戦闘が起こる可能性を考慮に入れるべきっス。」
「それは・・・、」
「無理っスよ。今から戦闘が起きないようにするなんて。こっちは副隊長の一人奪われているんだ。アタシが総隊長だとしても戦闘準備は行います。このままじゃ護廷の面子丸潰れっスよ?話し合いで済まそうなんて甘い事、考えないで頂きたい。」
「・・・すみません・・・。」
確かに、甘い気持ちは持っていた。雀部の死を見ても実感が湧かず、虚の大量消失や、流魂街の住民消失も、どこか非現実的で遠い世界のようにしか考えられていない。
「大丈夫っスよ!口囃子サンは藍染に一人で時間稼ぎ切ったじゃないっスか!だからこれからは、何でも細心の注意を払って下さい。何か命令されたら一回考える。当たり前だと思うことでも鵜呑みにせず一度疑ってみる。そうすればきっと、どう動くべきか、分かる気がしますよ。」
「・・・浦原さんって、気を引き締めさせるのか、励ましているのか、よく分からない時ありますよね。」
「え~~!助言っスよ!せっかく不安で一人シクシク泣いてる口囃子サンを元気だそうとしたのに!」
「え、ええっ。あ、まあ、ともかく、ありがとうございます。」
鵜呑みにするなと言われたにもかかわらず、浦原の言葉を鵜呑みにしてしまうあたりやっぱりまだまだ人として未熟なのだが、それでも浦原からの言葉はいつも貴重な助言として受け取っているのだ。
一人シクシク泣いてもいないし、そこまで怯えているわけでもないが、一回浦原と喋ったらかなり気持ちは落ち着いた。
「そろそろ仕事のお時間でしょう?」
「あーはい。まあ隊首会あるのでトップ二人はいませんが、一応取り仕切らないといけませんからね。これでも僕、三席ですよ。隊首会の間だけですが一応隊舎のトップですからね。」
「三日天下ならぬ、三時間天下っスね。」
「もうちょっと短いです。では失礼します。そちらでも何か動きがあったら、平子隊長でも京楽隊長でもいいので、伝えてもらってもいいですか?」
「勿論っス。
ピッと通話を切ってから、さっきよりは不覚にも安心した気持ちで仕事に臨むことが出来た。
それから二~三時間後。
隊首会、副隊長会議から戻ってきた二人から、会議内容の報告を受けた。