ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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不和

「―――――以上が、今回の賊軍侵入案件についての顛末報告全文です。」

「ご苦労、阿近。退がって良いヨ。」

「はい。」

 

 

昨日、十二番隊の阿近率いる調査隊、九番隊の誉望万化率いる調査部門、そして、七番隊第三席の口囃子隼人が(たまたま)一同に会して行われた、雀部長次郎忠息と滅却師の戦いに関する現場調査、そして一番隊舎で起きた謎の賊軍からの宣戦布告、それらの顛末に関する詳細を阿近が各隊隊長に向けて報告した。

 

阿近が会議場からいなくなってから、マユリが改めて総括を行う。

 

 

「――――賢明な隊長諸兄には既に判断がついている事と思うが、賊軍の正体は、滅却師だ。」

 

 

隼人を伝って事前に情報を聞かされていた狛村や、拳西、さらにその二人を伝って情報を知った平子やローズなども、納得の表情を見せる。

一方、自ら得た情報から推測していた京楽、卯ノ花、白哉もとりわけ過剰に反応することは無く、他の隊長も阿近が話した情報からおおよその予測は出来ていた。

 

 

「警戒すべきは奴等がどうやら遮魂膜を通過する方法を持っているという事と、雀部副隊長の遺言によれば、どうやら卍解を封じる・・・もしくは無力化する手段を持ってい「もうよい。」

 

 

山本総隊長がマユリの発言を遮ったのに対し、マユリ本人は如何にも不服そうな顔をする。

また、元仮面の軍勢の隊長三名や、さらには京楽も、総隊長の会話の遮断に不信感を抱いた。

 

 

「情報の共有はもう充分であろう。お主に求めるのはその先。」

 

 

「奴等の根城は、何処に在るのか。」

 

 

総隊長からの質問に、マユリは僅かに歯を食いしばる。

 

 

「・・・残念ながら、それはまだ・・・。」

「・・・そうか、ならば此方から攻め入る術も無し。」

 

 

「・・・全隊長に命ず。これより戦の準備にかかれ。賊軍の尖兵は『開戦は五日後』と告げたが、急襲を掛ける奸佞邪智の徒輩の言葉など信ずる可くも無し。直ちに全霊全速で戦備を整えよ!!二度と奴等に先手など取らせてはならぬ!!!」

 

 

その総隊長の宣言で隊首会自体は終わりを告げ、続々と自らの隊舎に戻っていく。

 

 

「涅隊長、さっき山じいが遮っちゃった話の続き、教えてもらってもいいかい?」

「構わないヨ。」

「オレもマユリん話聞いとくわ。敵サンの力、思っとった数倍厄介そうやしなァ。」

「全く、貴様は何時になったら私の事をよそよそしく涅と呼ぶのだ・・・!」

「真子が聞くなら俺達は別に居なくてもいいな。後でメールしてくれ。」

「ボクにも頼むよ。」

「構へんで~。」

 

 

この時から、護廷十三隊の分岐点が始まっているとは、まさか思いもしなかった。

たった一つの情報を知るだけで、大きなリスクを回避できたことに。

 

 

 

*****

 

 

 

一方副隊長達の集会でも、とある議論が進んでいた。

 

 

「賊軍侵入、虚の大量消失は繋がるものだが、十二番隊の報告によれば、失踪について単なる民衆同士の仲違いとされ、未だに失踪が続いているにもかかわらず、早々に調査は打ち切られた。」

 

 

吉良が切り出した問題提起に、居合わせた副隊長全員が耳を傾ける。

 

 

「僕は三つ全てが一つに繋がると考えていて、他にもそう考えていた副隊長もいるだろう。だからこそ、納得がいかない。この中に、五十地区より外側を調査した副隊長は居るか?」

 

 

吉良の質問に対し七緒は、何故今突然?とほんの少し訝しんだが、声を出そうとした所で元気な声が飛んできた。

 

 

「はい!うちとこのつるりんとゆみちーが行ったのが六十四だったよ!」

 

 

やちるの言葉を皮切りに、更に二人の副隊長も反応する。

 

 

「写真が口囃子の伝令神機に送られたわ。」

「俺達んトコの調査部門にも現場の写真が送られてきたぜ。」

「写真、持ってたら見せてもらってもいいですか?」

「おう!待ってろ吉良!んーーと・・・これじゃ!」

 

 

射場が伝令神機をいじって隼人から送ってもらった書簡を見つけ、そこに添付されていた写真を見ると一瞬で吉良の表情が変わる。

 

 

「裸足と草履か・・・!」

(!)

 

 

隠された意味を察した七緒も、驚きを顔に浮かべる。

 

 

流魂街の民の生活水準は、五十地区が大きな境目となる。

それよりも大きな番号の地区では生活水準が急激に低下し、裸足や襤褸衣を纏う民が中心となっているのだ。

 

 

要するに。

六十四地区に草履の足跡があれば、それは()()()()()であることになる。

九番隊調査部門や、七番隊の口囃子隼人の推測が、流魂街の研究を裏付けに証明されたことになる。

 

 

「おどれが考えとったこたぁ、口囃子が電話越しに綾瀬川に話しちょる。じゃけえ報告にゃおかしいと思っとったわ。儂も皆集まった時に話しておきたかったんじゃ。」

 

 

「おどれんとこの隊長は何を隠しておる。涅。」

 

 

副隊長全員の視線が向けられたネムは、一瞬目を瞑った後に少し顔を沈めて答える。

 

 

「・・・分かりません。マユリ様は、その件について私には何の情報もお与えになりませんでしたので。」

「・・・僕はこれを総隊長に報告するよ。」

「・・・お好きになさって下さい。マユリ様が間違った事などなさる筈がありませんから。」

 

 

ネムの発言後すぐ、隊首会が終わった旨を知らせる伝令が地獄蝶で飛ばされ、皆一番隊の会議場に向かう。

 

 

隊首会と同様に、少し後味の悪い形で、副隊長の集会も終わりを告げた。

 

 

 

*****

 

 

 

最終的に、七番隊に二人が戻ってきたのは夕方になった頃だった。

 

 

「お疲れ様です、狛村隊長、射場ちゃん。」

「ああ。隊首会での会議内容をお前にも話す。時間を借りてもいいか?」

「了解しました。すぐに伺います。」

「鉄左衛門には道中で話したが、一応もう一度いてくれ。」

「押忍!」

 

 

一度自分の机周りを整理してから、再び隊首室に伺った際、狛村は少し考え込んでいるように見えたものの、隼人の姿を確認するやすぐにいつもの調子に戻った。

 

 

「隊長、隊首会では一体何を・・・。」

「総隊長からの命令だ。今すぐ戦闘準備にかかり、敵からの先手を許してはならぬという事だ。」

「承りました。では今回も、以前の旅禍侵入と同じように僕は狛村隊長の補助に回りますか。」

「その事についてだが・・・。」

 

 

さっきと同様に考え込む表情を見せたが、どうやら結論を出したらしい。

少し申し訳なさそうな顔をして。

 

 

 

「お前には今回、隊舎に残ってもらう。」

「え・・・?」

 

 

思いもしない発言に、当惑を隠せず言葉が思いつかなくなってしまう。

大きく動揺が表情に出てしまったため、狛村も更に申し訳なさそうな顔をする。

 

 

「済まん・・・。今回隼人と行動を共にする訳にはいかぬ。」

「だ・・・だったら、僕は・・・。」

「隊舎に残り、隊長格の霊圧確認、賊軍・・・あらかじめ言っておくが、滅却師だ。その滅却師らの霊圧調査を貴公には行ってほしい。」

「それは、狛村隊長と一緒にいる上で出来ます。」

「駄目だ。戦場の中心地にいれば、それだけ集中力を調査に費やすことが出来ず、精度が落ちる。それに隼人、お前は破面との戦いから霊圧調査の力を十分に成長させることに成功しているではないか。今のお前の役目は儂の補助ではない。自分で敵の霊圧を調査することではないのか。」

「・・・。」

 

 

確かに、以前の旅禍騒動の時は霊圧調査をすることは出来たが、現在と比べて詳しい調査ではなく、質も低いものだった。

どちらかというと狛村の補助としての方が力を発揮できていたが、現在は逆だ。

狛村の補助ではなく、自分の力で調査する方が力を発揮できる。

狛村はそれをしっかり見越して、隼人に直接の戦闘から外れることを求めたのだ。

 

 

「案ずるな。儂の補助には鉄左衛門を連れて行く。それに半分以上の席官も連れて行くつもりだ。儂の心配をするな。むしろ自分の身を守る心配をして欲しい。多くの席官を連れて行く儂が言うのも何だがな。」

「・・・射場ちゃんが行くなら、僕の必要はないですね。」

 

 

空座決戦での射場の活躍は隼人も聞いていた。

巨大化した破面を始解の力で終始圧倒し、敗北した斑目に喝を入れたとか。

さらに毎日鍛錬を欠かさない射場は、今では副隊長の中でも十分な実力を持っていると他隊からの評価も高い。

 

 

「分かりました。隊舎に残ります。」

「済まんな・・・。貴公がしっかり調査すれば、これからの戦闘に役立つ筈だ。頑張ってくれ。」

「はい!」

 

 

そして、次の話に移る。

 

 

「涅隊長が調査を総括する時に発言していたが・・・。滅却師らは卍解を封印、もしくは無力化する手段を持っているようだ。」

(!!)

 

 

卍解の無力化。想像以上に強力で凶悪な力を持つことに、焦らずにはいられない。

 

 

「じゃあ、卍解を使って戦えないってことですか・・・?」

「何を言う。卍解を無力化・封印するのであれば、それを破る術を探せばいい。それこそが戦いの鍵だ。そのために鉄左衛門を連れて行くつもりだ。」

「・・・?」

 

 

何だろう。何か、違和感がする。

 

 

「今回雀部副隊長を殺す程の敵がいるという事は、卍解を使わずして倒せる敵ではないことは明らかだ。」

「え・・・?」

「まあ、儂の卍解で、封印される前に倒してしまえば、それも問題なかろう。」

 

 

ということは、

 

 

「隊長は・・・これからの戦いで、卍解をするつもりですか・・・?」

「ああ。問題でもあるか。」

 

 

狛村の堂々とした宣言から、嫌な予感はより強くなっていく。

簡単に封印が解けるなら、雀部は死ぬことなど無かった筈だ。

短絡的に卍解する位なら、マユリや浦原の意見をしっかり聞くべき。

 

 

 

「・・・・・・使わないで下さい。」

「何?」

「使わないで下さい・・・。卍解、しないでください・・・!」

「訳の分からないことを言うな。」

 

 

平然としながらも、隼人の言葉に怪訝な様子を見せる。

対する隼人は、狛村が卍解を使うことに強い恐れを抱いていた。

 

 

「駄目です!狛村隊長の卍解は強力です!封印されたら大変なことになります!」

「まだ言うか!」

「言います!言いますとも!!絶対に駄目です!嫌です!!狛村隊長の卍解が封じられるのだけは嫌です!そんな犠牲、隊長が払う必要無いです!!」

「犠牲だと・・・!」

 

 

我慢ならず、狛村は初めて、長年の付き合いの隼人に激昂した。

 

 

「元柳斎殿が全霊全速で準備せよと命じたにもかかわらず、お前は儂の全霊全速の準備を否定するつもりか!!」

「無策で猪突猛進することが全霊全速の準備なんて言えません!!!冷静になって下さい!!」

「儂が卍解を使って封印され、その鍵を解くことで、元柳斎殿が心置きなく卍解出来るようにするためだとまだ分からぬか!!!」

「っ・・・。」

「口囃子・・・。」

 

 

口を詰まらせ、歯を食いしばる隼人に射場は諭す。

 

 

「落ち着け。らしくないぞ。」

「・・・ごめん・・・。隊長、差し出がましいことして、申し訳ございませんでした。」

 

 

隼人の謝罪に対して狛村は一切聞き入れず、目を合わせようともしなかった。

 

 

「失礼しやした。」

「失礼します。」

「・・・。」

 

 

最後の挨拶にも、一切狛村は反応せず、最悪な形で隊首会の報告は終わった。

 

 

「口囃子・・・。どうした。そげな大声出しおって。」

「嫌な予感がするんだって・・・。」

 

 

能力の性質に伴って、隼人は最近勘が鋭くなった。

それも、嫌な予感限定で。

それは、色々と調査に参加し、経験を積んだからかもしれない。

雀部がやられたのも、おそらく卍解に何らかの影響が出て使えなくなったからかもしれない。

 

だったら自分なら、怖くて卍解を使う事が出来ない。

 

それに、雀部の遺体を見たのだが、単純に卍解を封じられたとは思えない傷の重大さであるように感じたのだ。

狛村も同じような目に遭い、深手を負ったらどうすればいいのか。

 

浦原のおかげで和らいだ不安が再燃し、またも押し潰されそうになった。

 

 

「今日は帰れ。」

「でも・・・。」

「今のお前が隊舎に居れば悪影響じゃ。」

「・・・。」

 

 

きつい言い方にまたも怒りが湧き上がるが、一旦頭を冷やさないと余計な対立を生んでしまう。

結局隼人は何も言わず自宅に帰ることにした。

 

 

「・・・済まんのう。言い方きつくして・・・。」

 

 

ため息をついた射場は、初めて隊の雰囲気が悪くなっていることに戸惑いを隠せず、それを忘れようと仕事に打ち込むことにした。

 

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