ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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折衷

初めてとも思える程に仕事に行くのが憂鬱だったが、この異常事態に休むもクソも無く、万が一侵攻が始まったら結局駆り出されることに変わりないため、いつも通り仕事に向かう。

 

隼人が出勤したと同時に丁度狛村が五郎の散歩を終えた所で、目が合った瞬間、どうにも気まずい空気が流れる。

 

 

「・・・おはようございます・・・。」

「・・・。」

 

 

昨日の言い合いもあるのでどうせ挨拶も返してもらえないだろう、と考えていたら。

 

 

「・・・隊首室に来い。」

「えっ?」

「二度は言わん。」

 

 

まさかの呼び出しをくらうことになった。

さらに怒られてしまうのだろうか。

ひょっとしたら、七番隊から出ていけ、と言われるかもしれない。

ゴタゴタにさらにゴタゴタを増やしてしまえば、他隊からの印象もかなり悪くなってしまう。

 

などと色々考えつつ隊首室に入ると、予想外の言葉を狛村は紡ぎ出した。

 

 

「・・・昨日は、済まなかった。」

「・・・え?」

「雀部副隊長の死を聞いてから、儂はどうも頭に血が上り、柔軟な考えを出来なくなっていたのだ・・・。貴公の話をまともに取り合わず、あのように怒鳴りつけてしまい、本当に申し訳ない。」

「えっ、ちょっと、隊長?そんな、頭下げないで下さい!」

 

 

これまたいつもの狛村らしくない。部下の自分に頭を下げるなど、80年一緒に仕事してきて初めてだ。

 

 

「儂も自室で再び考えてみたのだが、卍解の封印をされた場合、封印を解く鍵を見つける確証が無いことに気付いたのだ。雀部副隊長が同様のことをしたとすれば、あの方は見つけることが出来なかった。ならば、儂が封印を解く鍵を見つけるなど出来る筈がない。」

「隊長・・・。」

「無策で猪突猛進、貴公の言う通りだ。それこそ元柳斎殿に迷惑を掛けてしまうことに、何故あの時儂は気付けなんだが。」

 

 

自嘲気味に呟く狛村に対し、隼人は戸惑ってしまったのだが、どんな形であれ狛村との関係はこれ以上悪くならずに済みそうだ。

 

 

「僕も、あの時あんなに叫んでしまって、申し訳ございませんでした。」

「儂の卍解が封印されることを、ここまで心配してくれるとはな。」

「あのっ、それで昨日考えたんですが、涅隊長の調査結果を待つべきではないでしょうか。」

「涅隊長の・・・?」

 

 

隼人も昨日の夜改めて卍解の使用について考えてみたのだが、滅却師らがこのまま卍解を使わずに勝てる相手だとは思えない。

それなら、恐らく現在も色々調査しているマユリが出すであろう、卍解の封印に関する調査結果を待つべきではないか。

 

マユリ程の頭脳であれば、恐らく今日か明日には結論を出してくれるだろう。

結論が出たら卍解の使用可否を決める。ひょっとしたら侵攻前に結論が出るかもしれない。

 

勿論その結論から卍解の使用が危険であれば、使わずに戦うしかない。

また、万が一命に危険な状態ともなれば、起死回生の策として卍解を使い、瞬間的に相手を倒すことも考えられる。

 

お互いの意見を何とか折り合わせた隼人の考えを、狛村はすぐに受け入れた。

 

 

「いい案だ。乗らせてもらうぞ。だが、万が一の場合は儂も卍解を使う。いいな。」

「隊長の判断にお任せします。戦うのは隊長自身ですから。」

「・・・ありがとう。やはり儂は、貴公の補助に助けられてばかりだ。」

「めっ滅相もございません・・・。」

 

 

気恥ずかしさと嬉しさが綯い交ぜになったような表情で、隼人は言葉尻を弱くしつつ狛村の言葉に答えた。

 

いつも通りの様子になった隼人を見た射場も、心から安心した様子だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「あたしこれいーらない!キャンディにあげるわ。」

「はぁ?」

 

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)

 

現在出撃準備の真っ只中であるのだが、この一角だけは状況とは真逆な非常に締まりのない空間と化していた。

 

ドリスコール・ベルチが雀部の卍解を見た瞬間、意気揚々と取り出した道具に対し、彼女達は押し付け合いにも似た真似をしていたのだ。

 

 

「最初に欲しいって言ったのバンビでしょ?」

 

 

緑髪の女性滅却師・キャンディス・キャットニップが呆れた顔で言葉を発する。

 

 

「だって、どうせならあたしの能力で死神共を殺したいし。他人の力で殺すのとか性に合わないのよね。」

 

 

勝気な振る舞いでワガママな口ぶりを見せるのは、黒髪ロングの女性滅却師・バンビエッタ・バスターバイン。

 

 

「別にキャンディじゃなくてもいいわよ。リルでもミニーでもジジでも。」

「オレ今回出ねえよ。」

「ボクもだよーーーッ。」

「右に同じですぅ。」

「はぁっ!?」

 

 

リルトット・ランパート、ジゼル・ジュエル、ミニーニャ・マカロン、()()()()()滅却師がバンビエッタの声に適当に応答する。

てっきり五人全員出る、というか幹部全員出るものだと思っていたバンビエッタは、完全に寝耳に水だ。

 

 

「あんた達出ないって、聞いてないんだけど!」

「他にもリジェとかペルニダとかも出ねえぞ。何だよ知らなかったのかよ。」

「何でリーダーのあたしに報告しないのよっ!信じられない!」

 

 

勝手にバンビーズという集団を作り、勝手にリーダーぶっているバンビエッタの空回りが見ていられないのだが、軽んじられていることに全くもって自覚が無いため、どうしようもない。

自分が知らなかったことを他のメンバーに責任転嫁するあたり、信頼度の底が知れる。

 

 

「でもまあ、今回はいいわ。あたし優しいから許してあげる。」

「さっすがバンビちゃん。」

「で?そのメダリオン結局どうすんだよ。あたしが持ってていいのかよ?」

「あんたが持ってなさい。そもそも、完聖体(フォルシュテンディッヒ)使えなくなるとか意味無いし。対戦相手が卍解使えなかったら持ってるだけムダじゃない。」

「でも、卍解奪えるのは、それはそれでいいと思うの・・・。」

 

 

ミニーニャの発言にちょっと揺らいだものの、つまらない卍解だったら嫌、という理由で結局バンビエッタはキャンディにメダリオンを渡し、自らは完聖体(フォルシュテンディッヒ)を使って戦うことを決めた。

 

基本的に、メダリオンを持つか持たないかは、星十字騎士団(シュテルンリッター)各自の判断で任されていた。

忠誠心の高い団員は、陛下から賜った、それだけでメダリオンを持つ理由が出来てしまう。

エス・ノトや、BG9等、陛下を恐れる者もメダリオンを手にしている。

 

一方で、バンビエッタのように自分の力で戦いたいと考えている滅却師も一定数いるのだ。

自分の力に自信がある場合は、敢えてメダリオンを持たずに死神を殺そうと考えている。

そこには、死神の卍解よりも自分達の完聖体(フォルシュテンディッヒ)の方が強いという自負もあった。

 

最初はメダリオンを持っていたバンビエッタも、自分の信念を貫きキャンディにメダリオンを押し付けた(渡した)

ロバート・アキュトロンや、アスキン・ナックルヴァール等も、今回の侵攻でメダリオンを手にしていない。

尤も、ナックルヴァールに関しては他の者とは別で何らかの意図があるだろう、とリルトットは踏んでいた。

 

 

「ってゆーか、何時になったら尸魂界に侵攻するのよ!あーーーなんかタマってきたわ!ちょっと外出てくるからあんた達も一回出てって!」

「・・・またあの悪い癖が始まったよ。」

「この一瞬でタマるとかとんだクソビッチだな。」

「キャンディちゃんがつまめる部下のコいなくなっちゃうよーーーッ!」

「はあ!?」

 

 

やいのやいの騒いでいたが一応リーダーの指示に従って四人とも出て行き、行き場の無くなった四人は適当に情報室(ダーテン・ツィマー)に入って敵の情報を探ることにした。

 

 

「そういや何でリルは今回出るの止めたの?リルが止めるならってボクもミニーも止めたけどさっ。」

「情報見たら死神の中に厄介な奴がいてな。」

 

 

そのリルトットの発言に対し、この中で唯一第一次侵攻に参加するキャンディは、げっと嫌な顔をする。

 

 

「えっちょっと、あたし囮!?」

「心配すんな。お前にはそいつの情報伝えるから、絶対そいつとは当たらねえようにしろ。当たったらすぐに距離を取れ。まぁ、意味無えかもな。」

「リルがそう言うならそうするよ。で、そいつの力は何?」

 

 

誰もバンビエッタの名前をここで出さないあたり、完全にどうでもいい存在と化している。最早あの滅却師は生きてようが死んでようが構わないのだろうか。

タブレットを操作して目的の画面を表示した瞬間、ジゼルは両手を頬に当てて首を横に振り、「うわぁ~~~!」と恐ろしそうな声を上げる。

 

 

「お前まともに読んでねえだろ。」

「ばれちった。テヘッ☆」

「でも、確かに厄介だと思うの・・・。」

「これって、最悪()()()()()()()()()()()()()()()じゃないの?」

「分かんねえから直接当たるなっつってんだよ。こいつの情報には確定要素が少なすぎるんだ。」

 

 

未確定要素が多い敵と戦いたいなど、滅却師側なら戦闘狂でもない限り誰もそう考えないだろう。

勿論敢えて情報収集をせず、行き当たりばったりで遭遇した敵と戦うことを愉しむ滅却師もいるだろうが、情報が無いことで足元を掬われては本末転倒だ。

それを避けるためにも、リルトットは足繁くこの部屋に通って敵の情報収集を欠かさずにしていたのだ。

 

 

「ちっ。特記戦力だけじゃなく、それ以外にも厄介な力持ってる奴いるとはな。簡単にはいかなそうだな・・・。」

 

 

その言葉を最後に、ビーーッ!ビーーッ!と室内中に音が鳴り響く。

 

“陛下より星十字騎士団に王命。5つの特記戦力の内の1つ、黒崎一護が虚圏にて我が軍との戦闘に入った。侵攻に出撃する者は全名、即時装備を整え太陽の門へ集結せよ。”

 

 

「時間か。」

「気を付けて欲しいの・・・。」

「あたしが死神共に遅れとるかっての!」

「キャンディちゃん、行ってらっしゃーーーーーい!」

 

 

バンビエッタはさておき、この四人はお互いに背中を預けられる希少な存在だと互いを認識しているので、キャンディ一人が行くとなったら何だかんだ身を案じている。

 

ジゼルに手を振られつつ見送られ、キャンディが太陽の門に向かっていると、ナックルヴァールと出くわした。ナックルヴァールも、リルトット同様に情報室にいる所を何度も見たことがあったので、それなりに話す仲にはなっていた。

 

 

「いやさっきよォ、バンビと喋ってたら、相手が動けないなら首絞めればいいって言われてマジでヒイちゃったぜ・・・。」

「しょうがねえよ、あいつバカだからさ。多分あんたとは相容れないだろうね。」

「・・・五人でいること多いし、仲良いって思ってたんだけど、あれっ?」

「色々あるよ。あんたにゃ分からないだろうけど。」

 

 

その後もずっとナックルヴァールは何度も首をかしげて考えているフリをしていたが、特別キャンディがツッコむ訳でもないので普通に戻る。

 

 

「あんたも情報室よく居たけどさぁ、何調べてたの?」

「リルと同じだよ。特記戦力以外に厄介な力持つ奴調べてたぜ。」

「へー。誰かいたの?」

「ああ、まず―――――――」

 

 

 

*****

 

 

 

前回滅却師は門付近で制圧を行ったので、今回戦闘配備を行う上では、門の周りを中心に軍備を厚くする方針を立てた。

一般隊士の多くは門の方へ向かい、いつ敵が攻めてきても備えられるようにしている。

宣戦布告時、五日後とは言われたが、そんなのをアテにしてはいけない。

 

隊長格は未だ隊舎で待機しているが、一般隊士以上に張り詰めた思いで待ち構えている。

むしろ待ち構えることしか出来なかった。

 

 

「敵の居場所、どこか分かればいいんだけどな・・・。」

「どうしようもないじゃろう。調査して掴めなかったけえ、待ち構えるしかない。おどれもいつでも始解出来るようにしとけ。」

「うん。」

 

 

七番隊の多くの一般隊士は門の守備に向かっており、多くの席官は狛村と射場に同行する手筈となっている。

隊舎に残るのは、隼人の他にほんの僅かな一般隊士だけだ。

そのため、今の七番隊はかなりがらんとしていた。

それだけで、普段とは違う異質な空間が形成されている。

 

 

「射場ちゃんも、あんまり熱くなりすぎないようにね。昨日の僕みたいになったら大変だよ。」

「分かっとるわ!隊長と口囃子の関係が改善されんかったら儂ゃどうしようか思うたぞ!」

「心配かけてごめんってば。今度何か――――」

 

 

言葉を続けようとしたが、外から異常な程の地響きが鳴り響いた。

 




個人的に、ジジの声は脳内ボイスで松本まりか様になっています。ジジの普段のあざとさと正体の二面性から、まりか様しか考えられなくなってしまいました。
リル、ミニー、ジジの声は誰になるんでしょうね。どんな人でも楽しみです。

また、wikiなどでは星十字騎士団全員がメダリオンを持っていると記述されてましたが、本作では一部の滅却師だけが持っている状態にしています。キャラ的に皆持ってるのがちょっと違和感というか不思議に感じたのと、完聖体が使えないデメリットは大きすぎる気がします。ナックルヴァールみたいな自分のフィールドに持っていきたい滅却師は、卍解を奪うという小狡い真似よりかは自分の力で安全に殺すことを選びそうに思いました。バンビちゃんなんか、卍解奪うより完聖体の方が圧倒的に強いし・・・。

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