「イヤや!ぜっっっったいイヤや!!!!!」
「そんなこと言わないでよひよ里ちゃん・・・アタシと二度と会えなくなるわけじゃないんだよ?」
「でも急に昇進でいなくなるなんてありえへん!イヤや!イヤやーーーーーー!!!!!」
「もう泣かないのひよ里ちゃん・・・。」
十二番隊隊長・曳舟桐生は、『義魂』の概念と、それを『体内にとり込む技術』の創出を評価され、王族特務・零番隊への昇進の命を下された。
だが、それは十二番隊隊長を退位することと同義であり、彼女を母親のように慕っていたひよ里にとっては非常に気に喰わないものであった。
「ウチとこの隊長は曳舟隊長しか考えられへんねん・・・。」
「大丈夫。あと七日はここにいるから。一応アタシも後任の隊長が誰になるか見届けようよ思ってるんだよ!」
「七日しかおらんかいな・・・・・・。」
今まで心から慕い毎日共に仕事をしていた上官との突然の別れ。
しかもあと七日。仕事なんてしていたらあっという間だ。
何とかしてここに留めたいと思っていたが、上からの命令に逆らうことなど不可能であることはひよ里にも当然分かっていた。
曳舟が創り出した技術を実際に見せてもらったが、それはあまりにも画期的で優れたものであった。後々は作った魂を義骸に入れて動かし、虚討伐の効率化が出来るかもしれないと曳舟は教えてくれた。
今までにない新たな『義魂』の概念。それを生み出したからこそ護廷十三隊にいてほしかった。
ウチの隊長ほんまにすごいんや!って皆に広めたかったのだ。
なのに突然の昇進命令。隊長のことを考えると笑顔で送りたかったが、寂しさを考えると泣かずにはいられなかった。
「ひよ里ちゃんもまだまだ子どもだねぇ。あと七日間、たくさん一緒にいてあげるよ!」
「うぅ・・・曳舟隊長~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
真子には決して見せない顔である。おそらくこの瞬間を見たら確実に笑われるか引かれるだろう。
ひよ里が曳舟の昇進を知った日から、新隊長の選任が始まった。
各隊隊長に通達が渡り、その翌日に二番隊隊長・四楓院夜一が同隊第三席の浦原喜助を推薦した。
総隊長、四番隊、六番隊、十三番隊、そして前十二番隊の隊長が立ち会いの下隊主試験が行われ、能力・人格共に申し分なしと判断されたため正式に浦原は隊長に就任したのだ。
その隊主試験の間、まだ新隊長が誰になるか知らされていないひよ里はストレス発散のため、隼人を冷やかしに行くはずが、逆にストレスを生み出していた。
「邪魔するで!隊舎におっても暇やからウチの相手せぇ!!」
「びっくりした!仕事は?ひよ里ちゃんこんな所いて大丈夫なの・・・?」
「やからひよ里様と呼べ!」
毎度の如くタメ口なのは気に喰わないが、ひよ里は隼人おちょくりのためのいいきっかけをみつけた。
「・・・は~~~~ん?勉強しとるんか。ウチが教えたるで。」
「えっひよ里ちゃん勉強教えられるの?」
「じゃかぁしい!!!!!ウチをなめんな!!!!!」
そんなこんなで家庭教師ひよ里の勉強会が始まったが、むしろひよ里が教えられていた。
どちらかというと鬼道よりも武闘派なひよ里は、鬼道の組み合わせ方による戦術構築方法はからっきしであったのだ。
「だからねひよ里ちゃん、黄火閃は攻撃目的で使う破道じゃないんだよ。大地転踊もそうかもしれないね。相手めがけて放つ鬼道だけど目くらましぐらいにしか使えないよ。」
「へぇ~~~。今の時代変わったもんやな~~~。」
「それ昔から言われてると思うんだけど。」
「はぁ!!!???イチイチ余計なこと言うな!やかましい!!」
「痛いな~~いちいち拳骨しないでよ・・・。」
そもそも霊術院に入学していないにもかかわらず、やけに鬼道の知識だけ詳しいのもいいとはいえないが、それでもひよ里は人にアホと言う割に自分もアホであった。
「ウチはな、感覚派や。考えるよりも感じて戦うんや。その方が虚もばっしばっし倒せるんやで~。」
「関係ないでしょ。そんなんでよく卒業できたね。」
「こいつほんまに生意気やな!!!それともあれか!えっらい口悪いんか!!腹立つわ~~!!!親の顔ぉ見せろや!」
「九番隊隊舎に行ったら会えるよ。」
「いちいち答えんでええわ!!!!!」
息の合った漫才を行っているが、平子が来たらより混沌と化してしまうだろう。
正直かなりうるさいひよ里に隼人は引いてしまっていた。
「ねぇ僕勉強してるんだけど。いちいちうるさくて正直邪魔だよ・・・。」
「あぁん!!やったらいくらでも邪魔したる!!今日のウチはめちゃくちゃイライラしとるんや!!やからお前がウチのストレス発散のための生贄になってもらうで!!」
「はぁ~~~~・・・。」
隼人が引いているのは分かっていたが、こうでもしないと明日の曳舟との別れを考えてしまい辛くなってしまう。
平子のところに行くのでもよかったが、悟られたくないので夜まで隼人の家で気を紛らすことにした。
夕暮れ時にひよ里の霊圧を探知した曳舟は隼人の家に来てひよ里を迎えに来た。
「ひよ里ちゃん、曳舟隊長来た・・・」
その時のひよ里の表情は、今まで誰も見たことがないような不安な表情をしており、事情は知らないが心配になった。
何かあったのか聞いたが、「アホくさ!ほんならウチは帰るで。邪魔したわ。」といいすぐに帰っていった。
曳舟隊長の前ではいつも通り笑顔のひよ里だったので、大丈夫かなと思い隼人は見送りをしてそのまま部屋に戻っていった。
「新しい隊長ね、とってもいい子だったよ~。あの子ならアタシも任せていけるから心配しなくて大丈夫!ひよ里ちゃんも仲良くしてあげてね!」
「そうなんや・・・。曳舟隊長が大丈夫言うならウチも仲良うできそうやな!」
完全にからげんきなのは自分でも分かっていたが、数日前にあんなに泣いてしまったのだ、これ以上心配させたくなかったので、最後は笑顔で送るつもりだった。
そして、ひよ里は今までの感謝を伝えることにした。
「隊長。今までほんまにありがとうございます。隊長いなくなってもウチ頑張るで!いや、もっともっとや!!!」
「うんうん!その意気だよひよ里ちゃん!それでね・・・。」
曳舟はそれまでとは一転して真剣な表情で伝えた。
「何があってもアタシはひよ里ちゃんの味方。それだけは絶対に忘れちゃダメだよ。たとえ会えなくてもアタシはひよ里ちゃんのこと応援してるからね!」
ひよ里の味方。その言葉だけで我慢していた思いが溢れ出してしまった。
涙がとめどなく溢れ、止めることが出来なくなった。
「たい・・・ちょう・・・。そんなん・・・・・・反則や・・・。ウチ・・・もう・・・うええええええええええん!!!」
「やっぱりひよ里ちゃんもまだまだ子どもだね・・・。」
曳舟に抱きつき幼い子どものように涙を流すひよ里を、彼女は本当の母のように慈愛を込めて包み込んだ。
結局最後の日もひよ里は号泣していたが、お互いの想いをより強く感じ取ることができた。
それにここでしっかり悲しい思いを吐けばひよ里は明日の朝の合流の際に号泣せずに済むかもしれない。
新しい隊長にも早く馴染んで欲しかった曳舟は、今日のうちに今までの想いを受け止められてとても嬉しかった。
翌日。
朝に曳舟をしっかり笑顔で見送ったひよ里は新隊長就任の儀式のため、一番隊にいつもより早めに来ていた。
もちろん一番乗りの京楽達よりは遅かったが。
「あらぁ?ひよ里ちゃん珍しく早いねぇ。」
「当たり前や!新しい隊長サマはどんな面しとるかしっかりこの目で見とこう思ってなぁ!」
「人に会ったらまず挨拶しろバカ!」
なぜか保護者ヅラしたラブに拳骨をくらった。
「全くオメーは・・・。」
「何すんねんラブ!!いきなりウチの頭殴りおってぇ!!」
「隊長がいねーんだ、誰かが面倒みねえといけねぇだろ。」
「ガキみたいに言うなっ!!」
いきなり殴ってきたラブに子ども扱いされて不満だったが、それ以上にひよ里には不満なことがあった。
まだその新しい隊長が来ていないのだ。
「つーか何でウチよりも先に新しい隊長は来とらんねん・・・!普通先に来て挨拶するもんやろ!」
「まぁまぁきっと緊張して遅れてくることもあるでしょ。」
「ありえへんわ!!!ウチ絶対仲良うできん!」
「これは手厳しいなぁ・・・。」
ひよ里の頑固な突っ張りに京楽と浮竹が苦笑していると、外からひよ里にとって聞き馴染みのある間抜けな声が聞こえてきた。
「もっしもォ~~~~し!五番隊隊長の平子真子ですけどォ~~~!」
ひよ里はおもちゃを見つけた子どものように急に笑顔になって入口に駆け出し、平子の顔目がけて鮮やかにドロップキックを決めた。
拳西に並んで待てと言われ、新隊長以外は皆隊主会議場に集まり、並んでいた。
なんで来るのが最後やねん!社長出勤しやがって!と思って非常にイライラしているところでようやく「ありゃ?」という声とともに姿を現した。
「え~~~~~~~っと、もしかして・・・。ボク、一番最後っスか?」
第一印象の時点で無理だと判断した。
浦原喜助。彼が新しい隊長だと知らされてから、彼に対する評価は最悪だった。
夜一から「ヘコヘコするな!」と喝を入れられ、総隊長から杖で背中をぶたれる。
曳舟とは全く違う、こんな情けない者が自分の上官になるなんて運が悪いどころじゃなかったのだ。
「え~~~~~~~・・・と、そんな訳でボクが皆サンの新しい隊長っス、ヨロシク。」
隊士たちはどう声をかけようか迷っているようだったので、アハハハハ・・・と笑いながらひよ里に声をかけてきた。
「ヨロシク。」
声をかけられた途端、今までの怒りでもう我慢の限界だった。
「ウチは認めへんぞ!急に曳舟隊長がおらんなっただけでも気に喰えへんのに!!」
だがそれ以上に浦原に対して気に喰わないことがあった。
「二番隊て何や!隠密機動やんけ!!コソコソ人殺してたような奴にウチとこの隊長なんかつとまるかい!!」
周りの隊士がひよ里を止めようとしたが、それにもイラっときたのだ。自分が彼らの声を代弁してるはずなのになぜ止めるのか。
さらに自分の古巣をけなしてもアハハハハ・・・。とヘラヘラしているこの男もより一層気に喰わなかった。まったくどこまでウチの気持ちを逆撫ですれば気が済むんやこいつは!!!!
「うちはあんたの古巣けなしてんねんぞ!なんでキレへんねん!悔しないんかこのフヌケ!!」
どうせまともな返事はこないと思っていたが、その予想をさらに上回る想定外の返事がきた。
「だって、ボクもう十二番隊隊長っスから。」
そこから浦原は自分の気持ちの切り替えについてをひよ里に丁寧に話した。
朝布団を出たら自分は十二番隊、これからは十二番隊の悪口で怒れる人になる、と宣言していた。
決して自分の思い通りにならない男に対しより気に喰わない思いが強くなった。
何としてもこの男を苦しませようとおもったひよ里は、奥義・金的蹴りを実行した。
「なんやそれ!!しょーもな!!」
本来金的をされた浦原は悶え苦しむはずだが、彼は平然としており、逆に部屋を出ていったひよ里が激痛で脚を痛めてしまった。
「あいつハカマの下に何はいてんねん・・・。」
十二番隊隊長が変わったという話を聞いた隼人は、ひよ里の不安そうな表情の意味をようやく理解した。
慕っていた隊長がいなくなり、ほとんど知らない人に代わってしまったのだ。
自分なら浦原でも別に問題ないが、ひよ里と曳舟の一心同体ともいえるほどの信頼関係を見ていると、ひよ里にとっては相当辛いと思ってしまうのだ。
それに自分も突然拳西がいなくなったら目の前が真っ暗になるだろうなと思った。
もちろんこの頃は完全に他人事にしか考えられていなかったが。
そんなわけで数日後、十二番隊の様子を遠目で観察してみようと思い、赴いてみると。
見たこともない設備が運搬され、以前とは様変わりした隊舎となっていた。
せっせと忙しなく皆働いており、キケンな物体がたくさん運ばれているように見えた。
見たことの無い隊員も数名いるようだ。
あわわわわこれは一体・・・なんて考えていると、真新しい隊長羽織を着た浦原が丁度出勤してきたところだった。
「オハヨっス~口囃子サン。朝早くにどうかしたっスか?」
「いや・・・何かすごい変わってるんですけど・・・ここ本当に十二番隊ですか?」
「はい!そうなんですよ。実は技術開発局というものを立ち上げたんスよ。よければご覧になってほしいっス。」
「はぁ・・・。忙しそうなんですけどいいんですか?」
「ええ!構いませんよ。将来こちらにお世話になるかもしれませんし・・・ささっどうぞどうぞ。」
残念ながらこんな奇妙に変わったところにお世話になりたいとはすぐに思えなかったが、浦原の少々強引な勧誘で建物に入ることになった。
中に入ると奇妙な色をした液体や見たこともない透明な道具などがたくさんあり、いかにも難しく危険そうな建物と化していた。
一体なぜこんな急に様変わりをしたのだろうか・・・。と考えていると、今までに見たことの無い隊員に出くわした。
「オヤ、こんなところに年端もいかない童がいるヨ・・・。私の実験材料にでもされに来たのかネ?」
「違いますよ涅サン。彼は六車隊長のところの口囃子サンっス。」
「あぁあの筋肉しか取り柄のない隊長のところの童か。それなら私には関係のない・・・」
なぜか自分を見て言葉を止めた金色の瞳をした不思議な顔の男は、しゃがんでじっくり自分の顔を見たあと満面の笑みで恐ろしいことを言った。
「私は
「は?」
「少々私にその身を差し出して切り刻まれるだけで「はいはい涅サンそこまでっスよ~~。」
「くっ・・・。私の邪魔をしおって・・・。」
身を・・・切り刻まれる・・・!?
倫理観の欠片もない信じられない言葉を生まれて初めてかけられて恐怖でしかなかったが、浦原が止めてくれて助かった。というかこの場に浦原がいなかったら死んでいたかもしれない。
その後も涅は「いつでも私に体を差し出してくれても構わないのだヨ?」と言いつつ去って行ったが差し出すつもりは毛頭ない。こんな所もう行くか!と決心した。
「怖がらせちゃいましたかね?スミマセン。」
「怖いってもんじゃないですよ~!もう行けません・・・。」
「えぇ~たまには来てくださいよ~。」
浦原にからかわれていたところで、今度会ったのは装いを新たにしたひよ里だった。
何かよくわからない白いものを着ていた。
「ひよ里ちゃん、何その恰好。」
「白衣や!えっらい危険なクスリ・・・ってお前笑っとるやろ!!!!ええ加減にせぇ許さん!!!」
「あぁひよ里サン!せっかくの道具壊さないで下さいよ~!」
「知るかボケ!!!!!」
危うく乱闘になりかけたがこれもまた浦原が止めてくれた。止めてくれなきゃ実力差的にボコボコにされるのは明らかなのでまたまた非常に助かった。
というか浦原さん部下に曲者ばっかで大丈夫なの・・・?と思っていたところで、貴賓室に着いた。
「お菓子出しますからちょーっと待ってて下さい。十二番隊特製自慢のお菓子っスよ。」
浦原に促され大きい椅子に座ったが、壁一面に置いてあるものは貴賓室には到底相応しくないものだった。
瓶詰めにされた得体のしれない生物たちの死骸が並んでおり、食欲もへったくれもなかった。
さらに浦原は笑顔でとんでもないお菓子を出してきた。
むちゃくちゃリアルな毛虫の形をしたパンのようなものだった。
「これ・・・何ですか。」
「現世にあるパウンドケーキ?とでもいうのでしょうか。それを作ってみたっス。美味しいっスか?」
「すごく美味しいですよ!でも問題はこの形ですよ!なんでこんな本物みたいな毛虫を・・・!」
「あぁ・・・それは・・・遊びっス!」
ダメだこりゃ。ここまで浦原が変わり者だとは思わなかった。下手したら一番狂っているかもしれない。
というかこれ以上ここにいたら精神的に虐殺されてしまうだろう。
身の危険を感じ取った隼人は、半泣きで「帰ります・・・。」と伝え、十二番隊から退散することにした。
「また来て下さいね!皆サン歓迎してるっスよ。」
「考えておきます・・・。」
やけに美味しい毛虫(のデザイン)のパウンドケーキを当たり前に出したり体を切り刻もうとしたりする人のいる隊なんて二度と行くか!
なぜこんな禍々しい隊に変貌を遂げたのか。理解に苦しむものだ。
もうあと数年で自分も霊術院に入学できるはずだからここに来ることも無いだろう。とは思ったが。
「心を鍛えるために行こうかな・・・。」
心の鍛錬の場にするのはアリかもしれないと考え、ひとまず今日は帰って勉強することにした。