「すっご・・・。こんな霊圧感じるの初めてだよ・・・。」
ドリスコールを討ち取りユーハバッハへの許へ移動を始めた時の総隊長の霊圧を感じた隼人は、藍染惣右介の最終形態直前にも似た霊圧に恐れをなす。
しかし、その霊圧の持ち主が味方ともなれば、自然と力が漲ってくるように感じる。
自分も役目を果たさねば、と思い、滅却師の霊圧に探りを入れると、
ズン!!!という地響きで形容される程の圧力が、突然隼人に襲い掛かって来た。
(!!)
後ろを振り向くが、そこには誰もいない。
(まさかここがバレたのか・・・?何重にも結界張ったぞ・・・!?)
戦闘準備を始め、付近の霊圧を探索すると、一人の滅却師が近くにいた。
ここまで侵入を許した以上、隼人は本気の迎撃措置に入る。
元々隊士がいた時は隊士を全員逃がしてから隼人も逃げるつもりだったが、隊士達を外に出した今では基本方針を180度変える。
始解の力を掻い潜って結界の中にまで侵入されたとあっては、術専門の死神としての沽券に関わるため、藍染戦の序盤と同様に、縛道の遠隔操作で滅却師を捕えようとしたのだが。
(なかなか、捕まってくれない・・・。それに、何だこの圧力、相手の技か・・・?)
思考すら若干たどたどしくなる程の圧力を受けながらも鎖条鎖縛を使って滅却師を追い詰めていく。
同時に三つの鎖条鎖縛を遠隔操作しながら霊圧の場所を特定しつつ、隊舎の壁まで追い詰められれば後はこちらのモノ。
この結界を突破した以上かなりの危険人物であることは間違いないため、生け捕りにした後尋問し、即殺す。
生け捕りに出来なくとも、向こうを弱らせてから姿を現し、相手の実力を改めて判断する。
格上なら逃げる。実力が拮抗していれば戦う。
様々な事態を頭の中で巡らせながら考えていった。
しかし。
さらに強い圧力が隼人の身に降りかかり、ついに縛道を維持することも出来なくなってしまった。
「ッ!!!何だこれ・・・!」
「へぇー、
「!!!!」
さっきまで外にいたにもかかわらず、僅かに縛道を維持できなくなった一瞬で、今目の前にいる滅却師は外から隊首室の入り口まで入り込んでいた。
「酸素の
「何・・・言ってんだ・・・?」
「簡単に説明すると、あんたは今酸素中毒であり窒素中毒である、以上!」
余計ワケが分からない。
酸素も窒素も、普通なら人体に害など無い筈だ。
特に酸素は、吸わないと生きていけないのに。中毒など言われると益々意味不明だ。
「このプールに入れば、俺の指定した物質に対する耐性を下げることが出来るんだ。」
「・・・だから、酸素と窒素の耐性を下げたのか・・・?」
「そ。簡単だろ?」
能力の説明を受けた時点で、この滅却師が格上であることに隼人は気付いていた。
そして、小手先の策ではこの男から逃げられないことも隼人には十分理解出来ていた。
「じゃあ、何であんたは僕の所にわざわざ・・・?」
「質問に質問を返すようで悪いが、あんたは何故だと思う?」
そう言われた所で、確かにそれは考えてもいなかったと自分で改めて気付く。
今まさに瀞霊廷中を震わせる霊圧を放っている山本総隊長の所でもなく、年長の隊長である京楽、浮竹、卯ノ花でもなく、指折りの頭脳を持つマユリでもなく、虚化という特殊な力を持つ平子、ローズ、拳西でもなく、圧倒的な卍解の力量を持つ狛村でもなく、始解、卍解も持たずに護廷十三隊トップの戦闘力を持つ更木剣八でもなく。
何故、
とっさに思いついた一つの可能性をまずはぶつける。
「藍染惣右介と、戦ったからか・・・?」
「いや。完全なハズレではねェけど、当たっているとは言えねえな。」
苦しみながらも、更に可能性を推測していく。
「じゃあ、僕が鬼道出来るから・・・?」
「だったら俺はあんたなんかより鬼道衆の頭目ントコ飛んでってる筈だぜ?」
「ッ・・・。」
いい加減、立っているのも苦しくなりそうだ。
それを見越した滅却師の男は敵とは思えない行動を起こした。
「しょうがねえ。酸素だけは切ってやるよ。」
「・・・は?」
益々目の前の男が解らなくなり、より恐ろしくすら感じる羽目になってしまった。
この期に及んで攻撃(と呼べるのか分からないが)を緩和するのは、どう考えても得策ではない。
にもかかわらずこんな愚行をする意味が分からない。
「何・・・、目的は何だよ。」
「俺はあんたと話がしてぇ。あんたの人となりを知る、それだけのためにわざわざ
「意味わかんない。話になんないよ。」
「だったら無理やりにでもあんたを俺の話に巻き込んでやるだけさ。」
そして滅却師の男は、まず自己紹介から始めた。
「俺はアスキン・ナックルヴァールだ。星十字騎士団で聖文字は“D”。指定したものの致死量を操って敵を殺す能力を使うんだが、その影響からか俺は霊圧に敏感でな、」
「
「は・・・?」
開いた口が塞がらない。
今まで現世で戦闘行動を行っていた破面の霊圧を何度も読んできて、向こうは一切気付く素振りを見せてこなかった。
完現術者の霊圧を調べた時もそうだ。誰も、何も遠くから変な気配を感じるようなことを言いもしなかった。
なのに。
何故この男は、結界で存在をくらませていた自分が霊圧を探っていたことを見抜いたのか。
「・・・どういう、ことだよ・・・。」
「おっ。食いついた食いついた。おもしれーな、マジで鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるぜ。じゃああんたの力は何だよ、口囃子隼人。」
何故名前を知っているのかと思ったが、それ以上に何から何まで一切読めないこの男が厄介で仕方ない。
その不敵な笑みが。
道化師のような振る舞いが。
全てが解らない。
こんな人間に出くわしたのが初めてで、どう対応すればいいのかの最適解が思いつかないのだ。
故に、提示された質問に答えるしかなかった。
「僕の力は霊圧を記憶してその対象の位置情報をいつでもどこでも探査・捕捉する能力だよ。今では現世、尸魂界、虚圏全部賄える。あんたみたいな強い滅却師が注目するような力じゃないんだけど、それが何か?」
「おい・・・マジかよ・・・。」
「は?」
隼人の言葉に、ナックルヴァールは敵なのに本気で心配する顔を見せる。
ナックルヴァールが次に投げかけた言葉に、隼人はいよいよ混乱を隠せなくなってしまった。
「あんた、
「――――――――。」
「えっ、マジで、何その顔。オイオイオイオイマジで?」
目の前が真っ白になるような気がする。視界の焦点が合わなくなる感覚がしてくる。
一人で混乱し、思考がぐちゃぐちゃになっていく隼人を見て、ナックルヴァールは呆れとともに、最大級の失望感を抱いていた。
「・・・もういいわ。興醒めって、こういう事を言うんだな・・・。止めだ止めだ。俺は今のあんたとは戦わねェ。自分の力も解ってねェひよっ子と戦うなんて、俺の戦闘スタイルには受け付けないね。」
「は・・・?いきなり現れといて何言ってんだよ。」
「あのさぁ、あんた今のまんまじゃ俺達誰にも勝てねェよ?確かにあんたの実力は副隊長を越えてるさ。でも勝つことは出来ないな。あんたより力の劣る副隊長が俺達に勝てたとしても、あんたは絶対に勝てねェ。根本的な問題なんだよ。」
「だから、あんたに僕の何が分かるんだよ!」
「分からねェよ?俺はあんたじゃねェからな。だからこそ分かることがあるんだよ。」
「あんたの本当の力はもっと別の所にある。それだけは伝えといてやるさ。」
その言葉を皮切りに、ナックルヴァールは流れるように
「ッ!!」
「一応こんだけ敵と一緒にいて、一つも攻撃しなけりゃ陛下に怒られるんでな。あんたの力じゃ、そんな傷すぐに治せるんだろうけどさ。」
「逃がすと思うか!!破道の九十一 千手―――――――」
詠唱はそこで、止まることになった。
いや、止めてしまった。
山本総隊長の霊圧が、一瞬にして瀞霊廷から消えた。
「―――――!!!!!!」
「どうやら、陛下がやったらしいな。じゃあな、もうあんたに用はねェ。」
「まっ、待ちやがれ!!千手皎天汰―――」
室内であることなど構わず、大量の矢をナックルヴァールに浴びせかけようとしたが、毒入りプールを強化したことで遂に立つことすら出来なくなってしまう。
作り出された霊子の矢がいたずらに飛び交い、隊舎を内側から破壊するだけで滅却師相手に何の攻撃も出来なかった。
うつ伏せに倒れ込みながら頭だけ上げるも、ナックルヴァールは既に消えていた。
遠くに彼の霊圧を感じ、みすみす取り逃した悔しさで床を拳で殴る。
「何だよ・・・、一体、何なんだよ・・・!!」
激しく自己を揺るがされ、自分の足で立ち上がる感覚すら見失いかけた自分の情けなさに、自己嫌悪する。
そして、自分の本当の力は今の力ではないと断言されたことにより、今まで自らの生き写しとも呼べる程に信頼していた斬魄刀、『桃明呪』が全く分からなくなり、何から何まで疑心暗鬼になってしまう。
それにもかかわらず、山本総隊長の霊圧は完璧に喪失し、探査、捕捉が一切出来ないことが、事実として突きつけられる。
唇から血が出る程歯を食いしばりながら、隼人はそのまま意識を失ってしまった。
*****
山本総隊長の死は、護廷十三隊を大きく揺るがす。
「山じい!!!!!」
人生最大の動揺を見せた京楽は、一瞬全ての動きを止めて総隊長の死に心を大いに乱されてしまう。
その隙を、ロバートは見逃さなかった。
一気に拳銃から霊子の弾丸を連射し、京楽の体を五ヶ所程撃ち抜く。
「うっ・・・うぶっ・・・。」
「トップの死にここまで心を揺るがせるとは、貴方も人の心を持っていた様だ。」
さらにロバートが四発弾丸を撃ち込み、京楽を射抜くことで、今まで深手を負っていなかった京楽ですら滅却師の凶刃に倒れることとなった。
総隊長の死の直後、京楽の霊圧が極度に弱まっていることを瞬時に感じ取った七緒は隊舎で待機する命令を放棄して、一目散に京楽の許へ駆け寄る。
「円乗寺三席!隊舎は任せます!」
「えっ、りょ、了解しました!!」
自身最速の速度で瞬歩を使い七緒は京楽の霊圧がある場所に超特急で駆けつける。
幸いにも八番隊隊舎から近い場所であったため、怪我を負ってからそんなに時間は経っていない。
既に敵の滅却師はどこか別の場所へ行ったのか消えていたが、京楽は壁を使って何とか立ち上がり、歩くことが出来る程度だった。
「隊長!!!!!」
「な・・・七緒、ちゃん・・・。」
隼人を治療した時に四番隊や井上織姫の力を借りる必要が生まれてしまい、うまく自分の力を発揮出来なかった反省から、七緒は以前よりも回道の腕前も上達させていた。
あの時の鉄裁の動きも昨日のことのように覚えているため、京楽への応急処置として全く同じ手順を踏む。
似たような傷ではあるが、隼人よりも霊圧が高く、あの時よりも傷も酷くはないため、京楽の意識はあった。
「七緒ちゃん、・・・、どうしよっか・・・。」
「今は何も話さないで下さい!応急処置を済ませます!」
「・・・山じい・・・。」
七緒にすら伝わる程に今の京楽は動揺を隠せずにいる。
京楽自身もそれを理解しているのだが、尊敬し、全幅の信頼を寄せていた師を失った現実が、ひどく受け入れ難い。
これは夢なのではないかと、普段なら絶対に思わないことですら可能性として考えてしまう程だった。
「隊長!!ダメです!目を閉じないで下さい!」
「七緒ちゃん・・・喋るなって言ったのに、ボク、どうすればいいんだい・・・。」
「とにかく!!死なないで下さい!!つべこべ言わずに起きていて下さい!!」
その透き通った声が、優しかった京楽の兄の妻をどことなく彷彿とさせたのは、偶然ではないだろう。
その言葉の中身が、100年程前に己の副官を務めていた厳しい女の子を彷彿とさせたのも、偶然ではないだろう。
戦いに負け、尊敬する師を失ったにもかかわらず、京楽は己の副官に体だけでなく心も癒されていくような思いがする。
伊勢七緒が、己の全ての弱った感情を、洗い流してくれている。
朦朧とする意識の中そのように考えだして見方が変わってきたのは、この日が契機だった。