「さらばだ、山本重國。」
直後、言葉を発するまでもなくユーハバッハが山本総隊長の亡骸に対し、数千、いや、数万ともいえる莫大な
「貴様の全てを
昔話をする割に、一切の感慨を消去してユーハバッハは続ける。
嘗ての山本総隊長を、剣の鬼と評し、ユーハバッハ以上に部下の命を顧みない、悪辣とも呼べる男だったと述べていく。
しかし、安寧を手に入れると同時に平和に迎合し、正義、誇りの為に二の足を踏む惰弱の一群に護廷十三隊が成り下がったと、今の護廷十三隊を見て蔑如の言葉をぶつける。
「尸魂界はこれから死ぬが、護廷十三隊は千年前、我等と共に死んだのだ。」
大穴の空いた地に向かい、ユーハバッハは怒りをも込めた目で山本総隊長の
皮切りに、遂に最後の仕上げに突入する。
「
その伝令を受け取った、現在交戦中ではない滅却師の数名が地に手をつけて横にスライドし、影を拡張させていく。
「進め、『
合図と共に、星十字騎士団一般隊員がぞろぞろと現れ、死神の一般隊士だけでなく、瀞霊廷の建物など、辺り構わず破壊活動を繰り広げていく。
数多くの死神が命を落とし、数多くの建物が爆発し、崩壊してゆく。
瀞霊廷は、たった一日で見るも無残な戦争跡地へと変貌を遂げる。
「くっ・・・何てことだ・・・!」
「隊長!とにかく一度隊舎に戻りましょう!」
「・・・分かった・・・。」
小椿が肩を貸して雨乾堂まで浮竹の負担を減らそうとし、清音が回道を使って出来る限り浮竹を回復させる。
しかし、周りで繰り広げられる破壊活動のせいで、浮竹はより心を傷めてしまった。
総隊長の死、愛する風景の喪失、これを同時に体験してしまった浮竹は、海燕の死の時と全く同じ表情をしていた。
*****
時は少し遡り。
「ふむ・・・中々骨のある悪党よ。それ程血を流していながら、ワガハイのスター・フラッシュを避けてみせるとは。だがそれも関係ない。10カウントでは仕留められなかったが、すぐにでも貴様を消し飛ばすことは可能だ。」
「まだ底なしかよ・・・!ったく、卍解出来ねえと思うように戦えねえ・・・!」
とは言うものの、敵が言葉一つで回復し、言葉一つで自己強化を行ってしまう以上自分の卍解ではいずれ効かなくなってしまうだろうな、という予測が出来てしまう程には自分の卍解が未完成で脆弱なことを拳西は知っていた。
要するに、負け試合確定。
最大限の力を尽くしても逆算では敗北しか考えられず、隊長でありながら実力の差を思い知らされてしまい、悔しいという言葉一つでは表しきれない程の思いが頭を駆け巡る。
(こんなんじゃ、隊長失格だな・・・。)
脳内で自嘲こそするものの、だからと言って簡単に負けてやるわけにはいかない。
山本総隊長の霊圧が瀞霊廷内を震わせている中、拳西は再び始解だけで滅却師相手に抵抗を始めた。
「そのような小細工など吾輩には効かぬと何度言えば分かるのだ!」
「小細工だろうと何だろうと負けるワケにはいかねえんだよ。」
一切その場から動かず斬魄刀だけを動かす拳西に、マスクは再び頭から突撃し、スター・ヘッドバッドをお見舞いしてやろうとしたが、突如マスクの目の前の空気が大爆発し、全方位視界を奪われる。
「何と!姑息な真似をする!どこへ消えた悪党め!!」
その隙に、無防備だったジェイムズをもう何度目か分からなかったが爆散させて、少しの間だけでもバフをかけられないように時間稼ぎをする。
その後、未だに狼狽えるマスクを尻目に拳西は上空へと移動し、右手に霊圧を籠めて勢いをつけ、マスクの体に直接ばくだん突きを打ち込む。
同じ威力のこの技を序盤に使った時はいくつかの建物を貫通してまで吹っ飛んだが、何度も強化してしまった今では、ダメージこそ受けるものの当たった部位を少し手で押さえれば済む程度の技へと成り下がってしまっている。
「視界を消して攻撃か。流石悪党だ!小狡い戦闘ばかり行うではないか!!」
「たくさん爆発するんだぜ。派手でいいんじゃねえか?」
「成程、それも一理ある。だが、」
「その爆発はワガハイが作り出すものでなくては意味が無い!!スター・フラッシュ!!」
「っぶねえ!!!」
スター・フラッシュを出したまま頭をしっちゃかめっちゃかに動かし始めてしまったため、読めないマスクの攻撃に拳西は僅かに動きが遅れてしまう。
自分の身は隊長羽織の裾が焼ける程度に済んだのだが、あちこちにしかけた断風の罠が全てスター・フラッシュで爆発してしまい、周到にしかけた策が全て水泡に帰す。
東仙とは違い今回は相手のパーソナルについて全く知らず、しかもよりによって残酷なことを平気で出来るタイプの人間が敵であるため、最初から最後まで容赦の無い攻撃が降りかかってくるのだ。
未だに突破口が見つからず、さらにどんどん自分の力が効かなくなっていくのが、まるでバッドエンド確定のゲームを実世界でやらされている感覚と同じで、更木剣八や黒崎一護などの余程の実力者でない限り勝てない相手にかちあった己の運命すら呪いたくなる。
こんな時、あの喧しい息子である隼人なら真っ先に逃げて誰かに任せるだろうが、それは隊長格ではない死神だからこそ出来る芸当だ。
隊長の自分が敵に尻尾を振って逃げるなど、とんでもない悪評が広まってしまうだろう。
九番隊の地位が、一瞬で地に落ちてしまう。
拳西にとってこの戦いは、ある意味面子を守る為のものになりつつあった。
「こんなに罠を仕掛けていたとは卑怯な!!その性根をワガハイが叩き直してやろう!ジェイムズ!!おーい、ジェイムズ!!」
「――――――はーーい!!!頑張って下さーーい!!」
「!またやりやがったか!!!」
更に強くなったマスクは、今回はジェイムズの取り計らいで速度強化が重点的になされ、飛廉脚のスピードが段違いのものへと変貌を遂げる。
もちろん他の力も強化されたため、さらに頑丈でさらに霊圧が高く、さらに力のついた攻撃が出来るようになっている。
ポツポツと降り出した雨が、自分を窮地に陥れようとしているようにさえ思えてくる。
「とうっ!」
(!!)
「スター・ラリアット!!」
一切反応出来ず、拳西はなす術もなく吹き飛ばされてしまう。
目の前に断風で仕掛けた即席の罠で勢いを中和できていなければ、完全に首が折れていた。
「スター・ドロップキック!!」
(!!)
間髪入れず、吹き飛ばされた先にドロップキックを入れようとしたが、気配を感じ取った拳西は横に転がることで何とか躱す。
「外したか!!だがワガハイに屈する悪党の姿が目に見えてきたぞ~~!!!スター・パンチ!!」
“殺人”という異名を前につけたパンチよりは威力が落ちるものの、初動の速いパンチでさらなる追撃をして殴りつけようとする。
躱した拳西は、追撃の動きを読み切り、断風の切っ先をマスクの方に向ける。
切っ先を向ける時の動きで生まれた風の糸が、マスクと拳西の動きで生じた風に乗って漂い、マスクの顔に近付いていく。
マスクの拳が断風の切っ先に突き刺さると同時に、風の糸がマスクの眼球に触れ、マスクの拳と両目が一気に弾け飛んだ。
斬魄刀を直接突き刺して爆発させれば、たとえ堅い拳であっても爆発させることが出来る。
そして、眼球のような訓練されていない箇所の攻撃には、死神と同様に大ダメージを受けることも分かった。
「ぬっ、ぬぅぉぉぉおおおおおお!!!!ジェイムズ!!癒してくれ!ワガハイの目と腕を癒してくれ!!」
「は~~~~い!元気出して~~!スーパースター!」
治った直後、拳西は再び眼球に断風を突き刺し、頭部を炸裂させる。
ついでに喉を突き刺し、声帯を破壊すればどうなるのかについて試してみようと思ったが、
「・・・効かんな!!」
(!!!)
先程の一瞬でジェイムズによって頭部を回復したマスクには、既に拳西の斬魄刀を上回る力が備わっていた。
静血装を使えば、斬魄刀で貫かれることもない。
一瞬でマスクは拳西の右足を掴み、片腕で思いっきり投げ飛ばす。
最初にマスク自身が吹っ飛ばされた時のようにはいかなかったが、瀞霊廷の建物が大きく陥没する程の勢いがついていた。
ぺっと口から液体を吐くと、全部血液だった。内臓の一つはやられているだろう。
「ちっ・・・野郎・・・!!」
「悪党の技は一切効かぬ!なす術も無し!大人しく死ぬがいい!!」
と、言葉を言い終わらせると同時に。
瀞霊廷を覆いつくしていた山本総隊長の霊圧が、一瞬にして消え去ってしまった。
「なっ・・・!」
「ほう、諸悪の根源が死んだか。ならばこの悪党を倒す必要もないが・・・摘める芽は摘むに越したことはない!!全身の骨を粉砕してやろう!!」
「スター・ドロップキック!!!」
(!!)
一切助走をつけていないにもかかわらず、さっきのドロップキックの数倍の速度で足をそろえて特攻してくるマスクに、拳西は攻撃する隙など無く、出来る限りの防御をするしかなかった。
幾重もの網状に張り巡らせた風の糸を両者の間に設置したが、それも雀の涙ほどの防御にしかならない。
このままでは勢いのままに蹴られ、重傷を負って戦線復帰すら出来なくなる。
悟った拳西は、最終手段を取った。
魂魄、戦闘力のリミッターを一時的に外して霊力を格段に上昇させる、拳西にとっては忌まわしい能力である虚化を使い、マスクのドロップキックからくるダメージを最小限に抑えることに舵を切った。
本来死神に復帰した以上、虚化は原則として禁じられているものの、生き死にをかけた戦いであり、加えて卍解が使えない以上、もう虚化しか頼れる手段が無かった。
両手でマスクの足を掴み、全身全霊の力を振り絞ることで、マスクのドロップキック
しかし。
拳西についた虚の仮面を見たマスクは、一気に顔色を変えることとなる。
「その仮面・・・、貴様、まさか・・・。」
「虚化だ、・・・知らねえのか?」
「虚化だと・・・?成程、貴様は
少し今までと言葉の声音、毛色が変わったことを感知した拳西は、違和感を抱くも考え込む余裕など無かった。
「ワガハイの手で何としても打ち倒さねばなるまい!それも、この世に一切の肉片を残さぬ形でな!!ジェイムズ!!」
名を呼ばれたジェイムズは同じようにマスクを応援し、さらに強化されていく。
完聖体とまではいかなかったが、完聖体前最終段階の強化状態で、マスクは本気で拳西を殺しにかかった。
「スター・イーグルキック!!」
「うぐぅぉっ・・・!!!」
超速の飛び膝蹴りを拳西にクリーンヒットさせるだけでなく、さらなる追撃も怠らない。
「スター・エルボー!!!」
「がっ!!!」
飛廉脚で瞬時に上を取ったマスクは、拳西の背中に霊圧を目一杯籠めた肘打ちを撃ち込み、そのまま地面へと叩き落す。
そこからマスクは、近くを探して2tトラック程の巨大な岩を発見し、それを片手で持ちあげる。
「これなら悪党の貴様の体は、全て血液と化して原形すら残さないだろう!!死ね!!!!」
拳西めがけて投げ込んだ大岩は、物理法則を無視したかのようなすさまじい速度で地に向かって放たれる。
一瞬マスクの目には拳西が始解の力を使って何らかの抵抗をしようとしているようにも見えたのだが、そもそも巨大な岩に潰されればその抵抗すら意味がなく、普通なら臓器や骨など全てがクチャグチャに潰れ、現場には血液しか残らない筈だ。
いくら風の力を使おうと、この勢いの岩を跳ね返すことは出来ない。
そして例外など起きる筈もなく。
拳西のいた場所は、巨大な岩によって蓋をされることとなってしまった。
「これなら、あの悪党も肉の一つ残さずに死んだだろう。むしろ苦しむことなく死ねたことを感謝するがいい。」
岩を一瞥したマスクは、雨の中破壊活動が繰り広げられている場所に興味を抱く。
「ムムム!!あそこで活躍すれば、大勢のギャラリーにワガハイの強さをアピールできそうな予感!!ジェイムズ!!行くぞ!!」
「は~~い!ミスター!!!」
そのままマスクはジェイムズを担ぎ、瀞霊廷中心地へと活躍の場を探しに飛廉脚で向かって行った。