ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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大敗

実質、意識を失っていたのは数分ぐらいだった。

目を覚ました隼人は体を覆う重さが大体取り除かれているのを確認した後、再び隊長格の霊圧を確認する。

 

あのキザな滅却師に相手する前は総隊長の霊圧に感化されたのもあって皆一時的に士気が上がり、霊圧量も上昇していたものの、今は惨憺たる状況だ。

拳西はまだしも、京楽、浮竹の霊圧すら僅かにしか感じられない程なのだ。

今動けるのは、平子、ローズくらいか。といっても、二人がまともに動ける確証は無い。

 

そんな中、ある場所から死神の強い霊圧を感知する。

 

(――――!!)

 

狛村の卍解だ。

居てもたってもいられず、隊舎をあとにして瞬歩を使おうとするが、さっきの滅却師の技の影響からか、走れるものの、瞬歩が使えなくなっていた。

 

 

「何でこんな時に限って使えねえんだよ!!」

 

 

一人で苛立ちつつも、どうしようもないため普通に走って外に出て狛村の許に向かう。

 

 

「隊長!隊長!!」

 

 

必死に叫ぶも、届く筈などない。

それどころか、破壊活動を繰り広げる聖兵(ゾルダート)に見つかってしまう始末。

無数の矢が背後から飛んできた。

 

 

「死神がいたぞ!!すぐに殺せ!」

「断空!」

 

 

背後に光の盾を設置して矢を防ぎつつ、鬼道を使って霊圧ごと自分の身を一旦消す。

一度静止して状況確認をすべきなのは分かっているが、一刻を争う事態のためそのまま全速力で走り続ける。

つくづく、筋肉をつけてから足が遅くなったのが悔やまれた。

それでも隼人は走り続けた。狛村の卍解を最も優れた形で補助できるのは、自分だと分かっていたから。

 

だからこそ、隼人は狛村と対する滅却師の存在を確認し、その霊圧解析、位置情報追跡を始める。

同時に、伝令神機片手に狛村に電話を繋ぎ、位置情報を伝えることで黒縄天譴明王の斬撃の正確性を格段に上昇させる。

 

 

しかし、その計略は実行に移せなかった。

 

 

突如、黒縄天譴明王が白い光に包まれる。

1秒も経たずに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「え――――――。」

 

 

前から衝撃波が来るのに気付き、慌てて路地裏に隠れて難を過ごす。

その間、全ての思考が止まった。

何が起きているのか、理解できなかった。

藍染にやられた時だって、自分の体にいくつもの大穴が空いていたことを一瞬で理解できていた。

 

慌てて向こうの狛村の霊圧を探すも、一切探知できない。

 

(だったら射場ちゃんは・・・!)

 

見つかった。

だが。

 

 

見つけた瞬間、射場の霊圧も一切探知出来なくなってしまった。

 

 

「・・・・・・な、んで・・・。なんで見つからない・・・?」

 

 

空間移動は二人とも出来ない。一瞬で現世、虚圏に行ったという考えも荒唐無稽だ。

でも、もっと近くに行けば二人の霊圧を感じられるかもしれない。それ程までに霊圧が弱まっているのかもしれない。

だったら自分が助けないと。前七緒に助けられたように、急げば二人とも助かるかもしれない。

 

 

自分にかけた鬼道が切れているのも忘れて、隼人は再び全速力で走りだす。

少し時間が経ったからか、瞬歩も使えるようになってきた。速度を上げて回道の準備も始める。

 

その途中、真上からドォン!!と爆発音が響き渡った。

びっくりした隼人は立ち止まって真上に否応なく目を向けると同時に、霊圧も探る。

 

 

「一護くんだ・・・!やっと来た!!」

 

 

すぐに霊圧が消えたものの、一護が来たという出来事だけで、隼人にとっては一縷の望みと化す。

一護が来てくれたならきっと狛村と射場も大丈夫。

思い込んだ隼人は再び走り始めようとしたが。

 

 

 

 

 

直後、七番隊が戦っていた場所全体が大爆発を起こし、辺り一帯全てのものが消失してしまった。

 

 

「――――――――――――。」

 

 

今度こそ、二人の生存を確証づけるものは何も無くなってしまった。

前に進めば、現実が襲い掛かってくる。恐怖で足が竦み、誰もいない空間でただ一人動けずにいる。

今攻撃を受ければ、何も対処できず一瞬で殺されてしまうだろう。周りに敵がいないのがせめてもの幸運だ。

ずぶ濡れになり、死覇装が重たくなる。より一層足が動かなくなる気分だ。

手に持っていた伝令神機も雨で水分が中に入ってしまい、画面が切れている。

 

無言で再び瀞霊廷全体の霊圧を調べると、残っていた滅却師の霊圧は全て消えていた。

瀞霊廷を滅茶苦茶にされ、撤退まで許してしまった。

 

何の言葉も思いつかない。

たった一日にして、長年、育ての親以上とも言える程に信頼してきた上官、霊術院時代からの心の友と呼べる程の仲であった同期の男が、すべて滅却師の手によって奪われてしまった。

 

あまりにも、突然すぎた。

 

100年程前の絶望が、再び隼人に降りかかってこようとしていた。

 

 

そんな折に。

 

 

100年前に何も言葉をかけてやれなかった拳西が隼人の目の前に現れるのは、何の巡り合わせだろうか。

 

 

 

*****

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

目の色は完全に失われ、こちらを見ている目の焦点も一向に定まらない。

「あ、」と言った口の形が変化することもなく、ただただ焦点が定まらないまま口囃子隼人は拳西の姿を視界に入れるだけだった。

 

 

「け・・・けん・・・、」

「―――――――・・・。」

 

 

言葉すら満足に発せられないのは、決して大怪我をして喋ることが出来なくなった訳ではない。

むしろ怪我などしておらず、拳西の痛々しい姿を見れば普通の人なら拳西を心配するだろう。

 

喋れなくなった理由はただ一つ。

七番隊の壊滅による、尋常ではない程の絶望感に苛まれ、心が壊れてしまったから。

思考もままならず、体に力も入らず、心を乱しながら拳西の姿をみつめるだけで、今の隼人には精一杯だった。

 

痛々しい姿に、昔隼人の心を壊した自分の苦い行いを嫌でも思い出してしまう。

だからこそ。

 

その絶望から救い出してやるのは、拳西にしか出来ない事だった。

荒療治になるが、我慢してもらうしかない。

一先ず隼人の手にある伝令神機を奪い取り、これ以上壊れないように一旦預かる。

己の左手で隼人の伝令神機を懐にしまいつつ、隼人の左腕を強引に引っ張る。

 

 

「行くぞ。」

「・・・何処、に・・・?」

「七番隊が戦ってたトコにだ。死んだ上司と同期の許に一度でも行かねぇと後悔するぞ。」

「―――――。よくもまあそんな、簡単に言えますね。」

 

 

拳西の手から、強引に腕を振り払われる。

何十年も上司として慕ってきた死神を。100年近く同僚として一緒に仕事してきたかけがえのない友を。

たった三文字の修飾詞でこき下ろされ、我慢などできる筈ない。

 

 

「・・・行けるわけ、ないでしょ・・・!あそこに行って本当に何も無かったら、僕はどうすればいいんですか!!」

「しっかり受け止めろ。狛村も射場ももう死んでるんだぞ・・・!」

「死んでる死んでるって!見てもいないのに勝手な事言わないで下さい!!」

「だったらお前の自慢の力で狛村達の生存を証明しろ。」

「ッ・・・!!!」

 

 

普段感情に身を任せやすい拳西が冷静に事実を突きつけるのが、余計に隼人の苛立ちを助長する。

優しい言葉などかけるつもりは毛頭ない。

目の前に起きた絶望的な現実と逃げずに向き合い、それを克服させるつもりでいた。

そして、二人の生存を証明できないことなど、誰よりも隼人自身が分かっている。

逃避したい現実を、拳西は何度も隼人の眼前に示す。

 

 

「始解してんだろ?だったら今すぐやれよ。それで見つかったらあいつらは生きてる。見つからなけりゃ死んでんだよ。早くやれ。」

「―――――――・・・。」

 

 

このやり方は場合によっては大変な事になりかねないのだが、隼人の本質を知っているからこそ出来る芸当だ。

そして、隼人が次に発する言葉も全て拳西にはお見通しだった。

 

 

「もう、しましたよ。黒縄天譴明王の爆発から何度も何度も・・・!何回霊圧を探しても、もう二人は探知できないんですよ!現世と虚圏を探してもどこにも見つからない!!他の七番隊士だって!僕意外全員霊圧消えてるんですよ!!」

「だったらいつまでぐずぐずしてんだ!いい加減受け入れろ!!」

「100年も現世でブラブラ逃げ続けてたあんたによその隊の事口出しされてたまるかよ!!!」

 

 

いつまでも口答えばかりして前を向かない隼人に、遂に拳西も手を出した。ちょっと聞き捨てならない発言だったのもあるが。

我慢の限界を迎え、拳で思いっきり頬をぶん殴る。

いつもの拳骨に比べれば威力など半分以下であるものの、動揺していた隼人の体は吹っ飛んで平屋の壁に激突する。

啖呵を切ったものの大いに心を乱されていた隼人は、そのまま座り込んで立ち上がることは無かった。

 

 

「100年も面倒見てなかったから何だよ。お前の事情に口出しする権利無ぇってか。じゃあこの100年でお前は何か変わったのか?俺が口出し出来ねえ一人前になったとでも思ってんのか!?信用できる奴がいなくなって動くこともままならねえ男が成長して一人前になったと他人に自慢できんのか!!一人でもたつきやがって!!オメー昔からちっとも成長してねえだろうが!!!」

 

 

その言葉に対して、いくらでも反論の余地はあった。

別に隼人自身他人に自分の成長をわざわざ大っぴらに自慢して振りかざすような人間ではない。

それに拳西がいなくなったときの事情など、いなかった本人が知る由もないのに何を言ってるのか。

あの時苦しんでいた気持ちなど分かる筈なんてない。

 

 

でも。それでも。

今の隼人が、あの時と全く変わらないことに気付かされたのは事実だ。

100年前、拳西がいなくなって絶望し、誤った選択肢に向かおうとした自分と、今現在何も出来ず、思考停止状態になっている自分がひどく繋がって見えてしまうのだ。

そして。

 

 

「だったら・・・だったら、僕は・・・・・・。」

 

 

八方塞がりになってしまったこういう時、必ず暗い部屋の中から引っ張り出してくれる人がいるのも、あの時と同じだった。

いつも誰かがヒーローになって、自分を救い出してくれるのだ。

あの時は確か、海燕だった気がする。

 

 

「僕はもう、どうすればいいんですか・・・・・・。」

 

 

言葉を発している途中で、遂に拳西の目を見て話すことすら出来なくなってしまった。

 

 

「隊長と射場ちゃんが死んで・・・他の隊士皆死んでしまって・・・。たった一人僕だけ残されて、何が出来るんですか・・・・・・。」

 

 

僅かに体を震わせ、必死に泣くのを我慢している姿は痛々しく見るに堪えないが、構わず拳西は強引に隼人の腕を掴んで立ち上がらせる。

ようやく二人の死を受け入れる心の態勢が出来てきた。

それでも一向に俯いたままなので、わしっとやや強すぎる力で両肩を掴み、無理矢理びっくりさせて顔を上げさせた。

 

 

「お前が死んだ奴等の分強くなれ。くっだらねえ綺麗事なんか要らねえだろ。狛村達を殺した奴等に復讐するために強くなる。お前にはこれだけで十分だろ。」

 

 

その言葉を聞いた途端、隼人の目の色は明らかに変わっていった。

先の見えない不安に怯える目から、だんだんと復讐の色が宿ってゆく。

 

 

「忘れんじゃねえぞ。お前が信頼してた奴等の事を。そいつらを殺したふざけた滅却師共を。それを焼き付けるために現場に行くんだよ・・・!」

 

 

滅却師への復讐のために、自分が強くなる。

明確な目標が遂に定まった隼人は、歩みを進めることを決める。

 

 

「・・・・・・そうですね・・・。復讐・・・。確かに、僕ならそれで十分理由になりますね。藍染に備えて修行した時も、藍染への復讐のためにやってたようなものですし。」

 

 

自問自答するように呟いた隼人は、拳西の腕を掴んでもう大丈夫と合図する。

一度下を見て鼻で深呼吸を一度してから、再び前を向いて言葉を紡ぎ出す。

 

 

「・・・行きます。現場に。」

 

 

こんなところで潰れてしまえば、それこそ敵にとって思う壺だ。

自分が強くなった所で役に立てるか分からないが、復讐のためには強くならねばいけないのだ。

絶対に勝てない、と豪語した滅却師に対して、狛村を殺した滅却師に対して、自分が手を下さねば気が済まない。

 

止まっていた足を再び動かし、拳西と共に雨の中戦闘現場へと歩みを進めた。

 




次回で第一次侵攻は終わりです。
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