今回から修行篇、スタートです。
新たな一歩
「君も、四番隊に行くことになったのかい?山田清之介くん。」
「ええ。四十六室の厳命を受けて。自らの保身しか考えていないあの方達も、護廷十三隊が壊滅的被害を受けていると知った以上、僕をこっちに帰してくれましたよ。期限付きですが。」
「阿万門さんがいるからね。期限付でも寛大な処置だと思うよ?」
雨の中豪奢な笠をさして歩く山田清之介の隣には、カエル顔の真央霊術院元学長がいたって普通の緑の笠をさして共に歩いている。
傍から見れば貴族と平民が共に歩いているようにも見え、緑の笠をさした男に対し身の程を弁えろと怒る貴族がいるかもしれない。
しかし、豪奢な笠をさした山田清之介は、緑の笠の持ち主に
持ち物とは真逆の上下関係が形成されていた。
「
「何言ってるんだい?僕よりも君の方が力はあるんじゃないかい。」
「僕も真央施薬院に向かってから回道の研究を重ねましたが、今現在『冥土返し』の異名を持つ貴方程の力はありません。貴方の霊子縫合は最早神の域ですよ。だから貴方も四番隊に行くよう招聘がかけられているんですよ。」
「買い被りすぎだよ。」
現在は仕事を辞めて隠居生活を送っている元学長は、清之介に会うといつも手放しで褒めちぎられることが少々恥ずかしくもあった。
確かに昔真央施薬院に移動になると聞いた時に教え子として彼本人に直接回道を教え、卯ノ花以上の回道スキルを身に付けさせたが、その時から清之介は元学長に会う度に普段のやや意地悪な面はナリを潜め、一人の死神として敬意を払っている。
「僕もまともに力使うのは久しぶりだからね。以前程上手く出来るかどうか。」
「とんでもない。『冥土返し』の神業、拝見させて頂きますよ。」
はぁーっ、と露骨に元学長がため息をついた所で、二人は綜合救護詰所に着き、笠を下ろす。
四番隊の一般隊士一名が、二人を迎える。
「お待ちしておりました。阿蘭殿、山田清之介殿。」
「迎えが一人しかいないということは、余程人手不足と見るべきかな。花太郎もひいひい言いながら治療していそうだ。」
「もっ・・・申し訳ございません・・・。」
「いいんだ。ここまで瀞霊廷が滅茶苦茶になったのは、初めて・・・いや、1000年ぶりかな?だから仕方が無いよ。重傷者の許に案内してくれるかい?それと、清之介くんもその癖止めなさいよ。」
「申し訳ございません。」
「もう何度目だろうね、このやりとり・・・。」
もう一度盛大にため息をついた元学長は、四番隊に置いてあった手術着を着て朽木白哉の手術に途中参戦する。
山田清之介は、損傷の激しい日番谷冬獅郎の身体の修復に取り掛かり始める。
護廷十三隊には所属していない二人の重鎮がわざわざ四番隊に馳せ参じる程に、隊員が最も多い四番隊ですら人手不足だった。
*****
「・・・勘弁してよ・・・・・・・・・。」
八番隊舎に戻った京楽は、伝令書を読んで知った四十六室から下された裁定にため息をつく。
“京楽 次郎 総蔵佐 春水 右の者を護廷十三隊総隊長及び一番隊隊長に任ずる”
山本総隊長の死、七番隊隊長、副隊長の死、六番隊隊長、副隊長、十番隊隊長、十一番隊隊長、三席の瀕死の報を聞いた中央四十六室は、真っ先に真央施薬院総代・山田清之介と真央霊術院元学長・阿蘭を四番隊に派遣すると同時に、新たな総隊長も瞬時に決めた。
四番隊隊長である卯ノ花を除き、総隊長を任せられるのは、京楽しかいなかったのだ。
「・・・山じいの後釜が、ボクかい・・・・・・。」
でもこれが、四十六室から下された裁定。断ることなど出来ないのは暗黙の了解だ。
1000年以上も護廷十三隊総隊長を続けていた前総隊長と比べると、格落ちでしかないのは京楽自身が一番に分かっている。
だからこそ、決心する。
「・・・だったら、ボクの好きなように、やらせてもらおうかね・・・。山じいとは違うボクのやり方で、次の戦いを乗り切らせてもらうよ。」
伝令書を懐にしまい、新しい笠と女物の羽織を引き被り、京楽は隊舎を後にする。
滅却師との戦いに勝つためのあらゆる計略は、既に京楽の頭の中で形成されつつあった。
*****
「総隊長の遺体は、発見されなかったそうだ。全て敵の手で、消滅させられていた――――。」
全隊長格が一度四番隊で治療を受けた数刻後、雨の中隊長数名が一番隊舎に集まっていた。
そこにいたのは、二、三、五、九、十三番隊隊長。中でも砕蜂は未だに松葉杖を使って歩いていた。
外では未だ雨が降る中、僅かに濡れた裏挺隊の一人が一番隊舎の会議場にやってくる。
「・・・ご報告致します。山田清之介真央施薬院総代、阿蘭元真央霊術院学長のご助力により、朽木白哉六番隊隊長、日番谷冬獅郎十番隊隊長両名一命を取り留められました。ですが二名の隊長がこれから隊長業務に復帰する可能性は―――」
「退がれ!!!!」
裏挺隊の報告に対し、砕蜂は悔しさと怒りのないまぜになった口調で叫び、取り乱してしまった。
「今はそんな報告聞きたくもない!解らぬか!!総隊長殿が亡くなったのだ!これ以上何を受け入れろと言うんだ!!!」
取り乱し、叫ぶ砕蜂を一瞥する浮竹の目は、やるせない色に満ち溢れていた。
「ひっ!」と声を上げた隊士も、大慌てでその場を退散してしまった。
「よせ、みっともねえ。」
「みっともないだと!?貴様らは総隊長殿に恨みがあるからそう落ち着いていられるのだ!!!」
「何だと・・・!」
浮竹の存在を無視した砕蜂の叫びに、平子やローズすら難しい顔を浮かべたが、突然の来訪者が手を叩きながらその場の隊長全員を仲裁する。
「はーーーーーーーーいはいはいはいはい。ケンカしなーーーーーい。今の流れだと確実に、砕蜂ちゃんと六車クンだけじゃなくって、全員並んで山じい拳骨だよ。遺品を前に泣いたり怒ったり、情けなくて震えが来る、ってね。」
数刻前、隊長副隊長含め七番隊のほぼ全ての隊士を亡くした口囃子隼人にかける言葉が見つからないと言っていたが、総隊長ともなれば勝手が違う。
たった一日で護廷十三隊全隊士を
この中で最も総隊長と近く、誰よりもその死に対して泣きたい筈の男が、誰よりも前を向いていたのだ。
理解出来ない砕蜂は、京楽にも怒りの表情を浮かべるが、
「護廷十三隊は、死人を悼んだり、壊れた尸魂界を思って泣くためにあるんじゃない。」
「尸魂界を、護る為ににあるんだ。」
京楽の言葉に、先ほどの自らの姿を思い出した浮竹は、鼻でため息をつきながら僅かながらに俯く。
他の皆も、その言葉に忘れていたものを気付かされたような顔をしていた。
「――――前を向こうじゃないの。僕らは、護廷十三隊だろう。」
雨が上がると同時に、その場にいた隊長格全員が新たな決意を抱く。
皆の顔を見た京楽は、自然と笑みをこぼした。
新生護廷十三隊の歩みが始まろうとしていたいい雰囲気だったが、
「あ、忘れてた。皆が集まってる今報告するけど、ボク、総隊長になったから。」
突然すぎる報告に、平子が大いにズッコケた。
浮竹を除いた他の面々も、いや今かよ、という顔をしていた。
「何で今報告すんねん!!もうちょっと時ってモンがあるやろ!!」
「元々ここに来てすぐに報告するつもりだったんだけどさ、雰囲気悪かったから仲裁したらそっちが主になっちゃったんだよ。いやァ、ゴメンゴメン。やっぱ山じいじゃないと上手くいかないなァ。」
せっかくいい雰囲気だったのにとは思うが、ある意味京楽らしい振る舞いに安心感を抱く。
「そんなんじゃ、元柳斎殿みたいな立派な総隊長にはなれないぞ。」
「参ったな、ボクもこれから頑張んないと。」
「大丈夫だ。俺達がついてる。皆でこの戦いを乗り越えよう。」
「そうだね。じゃあ、行こうか。」
新総隊長、京楽春水の号令で、護廷十三隊は再び歩み始めたのだった。
*****
京楽がまず向かったのは、七番隊舎だった。
正確には、七番隊舎
滅却師の一般兵によって壊された隊舎は原型を留めておらず、爆発によって火が燃え盛っている所には水流系の斬魄刀を扱う一般隊士や他隊席官が消火活動を行っていた。
雨が降っていても、消えない程には大きな炎だった。
「一先ず七番隊は、隊舎も人員も全部立て直しが必要そうだ・・・。」
独り言ちた京楽は、そのまま隊首室跡地と思われる場所に入っていく。
ここは実際的被害こそ少ないが、さっきまで降っていた雨で資料などがずぶ濡れになっており、机や革製のソファ等家具一式も全てダメになっているようなものだった。
一通り見終わってその場を立ち去ろうとすると、机の書類整理をしていた隊士が京楽に声をかけてきた。
「何だい?」
「引き出しの一番奥に眠っていたのですが・・・。隊長、これって・・・。」
「・・・・・・。」
封筒には、“隼人へ”と書いてあるのみで、中には固形物が入っているようだった。少し躊躇われたが糊付けを破って開封することにした。
中には鍵が入っていた。
金庫用の鍵だった。
「開けてみよっか。」
「えっ、い、いいんですか!?」
「後でボクが言うから大丈夫。隼人クンはそんなことで怒るような人じゃないから。」
周囲を見渡すと、それっぽい金庫を発見する。
一切臆することなく京楽は鍵を回し、金庫の中身を見た。
風呂敷包みが入っていたが、緩く縛っていたため中の物は筒抜けだった。
「・・・・・・成程。」
一瞥し、すぐに金庫に鍵を掛けた。
「封筒と鍵はボクが持ってていいかい?」
「それは・・・口囃子三席にお渡しするのであれば・・・。」
「勿論渡すよ。」
「ボクがやろうとしていたこと、全部狛村隊長に先越されちゃったな。」
懐に鍵をしまい、隊士に手を振って京楽は七番隊を後にした。
次に京楽は、四番隊に赴いた。
「お久し振りです、学長。」
「やあ、久し振りだね。総隊長になったんだって?」
「ええ。山じいの後釜です。ボクなりに好きにやらせて頂きますよ。」
「四十六室が困りそうだね?それと、僕はもう学長じゃないよ?」
どこから聞いたのか解らないが、既にこの男は京楽が一番隊隊長になったことを知っていた。
その京楽に対して自分の役職の間違いを窘めつつ、学長は京楽が求める情報を先に述べる。
「
「そうですか。お変わりないようでしたか?」
「年々うるさくなっていくよ。困ったものだ。」
実は、元学長が長年勤めていた真央霊術院を辞めた理由の一つは、零番隊関係の事も含まれていた。
基本的に、零番隊は隊長どころか上級貴族ですら直接対話することなどほぼ不可能なのだが、零番隊も
通信相手として白羽の矢が立ったのが、零番隊の頭目、兵主部一兵衛と個人的関わりのある唯一の下にいる死神であった、真央霊術院元学長の阿蘭だった。
あとの理由は単純に、隠居生活を送りたいというものであったのだが、しょっちゅう連絡が来るためその対応に疲れることもあるとかいう。
あの零番隊相手に堂々と悪態を吐くなど、並の死神どころか隊長、ひいては四十六室の上級貴族ですら許されないことであるのが尸魂界での常識なのだが、この男はそれすら平気でやってしまう。
「それより、どうだい?君の事だから色々策を弄すつもりだろうけれど。」
「もう廷内にいくつか細工はし始めていますよ。大きく動き出すのは明日からですが。」
「頑張るんだよ。君には期待しているからね?」
「ありがとうございます。それで学長、少し頼み事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「面倒事で無ければ、構わないよ?」
京楽の頼みを聞いた元学長はちょっとだけ面倒そうな顔をしたが、新総隊長の頼みであればしょうがない、という事で快く引き受けた。
実は、そのお願いが元々零番隊から頼まれていたという話があったために引き受けたようなものだったが。
そして、四番隊を去った後、京楽は全隊長に地獄蝶で零番隊来訪が翌日になることを知らせて、今日の仕事は終わりを告げた。