ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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零番隊

翌朝。

睡眠薬が思いの外強かったのか、そのままずっと朝まで寝ていた隼人が目覚めたら、見慣れた天井が目に入る。

 

(四番隊の病室か・・・。)

 

 

昨日あれだけ荒れて心を苦しめ泣いていたにもかかわらず、今日は特別悲しいといった気持ちがせり上がってくることは無かった。

一度強引にでも体が落ち着くと、その影響で心も落ち着いたのだろうか。

自分で自分の事がよく分からなくなってくると、引き戸ががらがらと開く音がしてそちらに目を向ける。

 

 

「やあ。僕の事、覚えているかい?」

「あ・・・学長!お元気そうでなによりです。」

「病室で眠っていた人に言われるのはちょっと心外だけど、まあいいか。」

 

 

右手には風呂敷包みを持ち、左手はいつものように白衣のポケットに突っ込まれている。

100年前以来だが、あの時と全く変わらない風貌が隼人にとってはちょっとだけ不思議に思ったりしていた。

ご飯用の机を作り風呂敷包みを置き、学長も丸椅子を取り出して横に座る。

 

 

「六車君が来て君に渡そうとしていたけど、時間無さそうだったから預かっておいたよ。別に病気している訳ではないし、元気そうだからこれを食べても問題ないと思うよ。患者に必要な物は何でも用意するのが、僕の仕事だからね。用意したのは六車君だけど。」

「おにぎりだ・・・。」

「中々、大きいね?こんなおにぎり初めて見たよ。」

「すみません、拳西さん手が大きいので・・・。昔からこの大きさなんですよ。」

 

 

2個あって全部食べたのだが、それだけで満腹になる程にはずっしりとしたおにぎりだった。

食べている間も、大きくなったね、お父さんに再会出来て良かったね、など親戚のおじさん目線で色々と褒められ、何だか気恥ずかしくなってしまった。

ぼちぼち世間話をしながら食べ終わると、死覇装に着替えるように言われた。

 

 

「君に会いたいって人がいるんだ。僕からしたら面倒でしかないんだけどね?京楽総隊長からも君は来て欲しいって言われてるんだよ。大丈夫かい?」

「京楽隊長が、総隊長になったんですね・・・。僕は全然いつも通りなので問題無いですが、誰ですか?」

 

 

「零番隊だよ。」

 

 

一瞬で隼人の全身に緊張感が走った。

王属特務の死神達が、わざわざ会いたいと言うなんて、一体どういう風の吹き回しだ。

もしかして、あの道化師のような振る舞いをした滅却師が言っていた、自分の本当の力について何か知っているのだろうか。

などと考えていると、

 

 

「あまり緊張しなくていいよ?でも、もうそろそろ来る頃だから、少し急ごうか。」

「はっ、はい!!了解しました!」

 

 

少し慌てながらも死覇装に着替え直し、ベルトを締め、斬魄刀を差して学長と共にやや駆け足で指定の場所である瀞霊壁の外側へと急いだ。

 

 

 

*****

 

 

 

マユリと共に一護が隊長格の面々の許へ向かい、零番隊を待ち構えていると、天から巨大な塔のような物体が皆の前に落ちてきた。

 

天柱輦(てんちゅうれん)という、零番隊の移動用の乗り物から出てくる零番隊は、威厳に満ちた、途轍もない迫力のある死神であるのかもしれない、と彼らに会った事のない隊長達は少し身構えていた。

自分たちの情けない失態を、強く詰られることも覚悟の上でいたのだが。

 

 

「ィよッしゃア――――――!!!!!来たぜ来たぜいよいよ来たぜ!!零番隊サマのお通りだぜ――――ッ!!!」

 

 

黒光りしたリーゼントを携える麒麟寺(きりんじ)天示郎(てんじろう)が、まるでチンピラというかヤンキーのような口ぶりの叫び声をあげ、護廷十三隊の度肝を抜いた。

特に一護にとっては、想像とはあまりにも違い過ぎる零番隊の有り様に完全に固まってしまっていた。

 

 

「久しぶりだなァ!護廷十三隊のヒヨッ子ども!ちゃんと飯食ってよく寝て元気にしてたかァ!?」

 

 

実際に初めて見た平子も、生粋のツッコミしたい欲が今にも出てきそうなのだが、必死にこらえて感想をぼそっと言うだけに留めた。

巨大な手によって頭部をそのまんま平手打ちされてしまうのだが。

べちん!!!!という音が、やけにグロテスクだった。

 

 

「痛あ!!!何すんねんコラァ!!」

「久しぶりだねぇ真子!ひよ里ちゃんは一緒じゃないのかい?めずらしい!

「久しぶりて!誰やねんお前!?」

 

 

突然殴ってくるという礼儀作法の欠片も無い行いにキレるが、ある言葉でもしやと平子は推測した。

 

“ひよ里ちゃん”

 

あのひよ里をそう呼んでいた女性死神は、たった一人しかいなかった筈。

 

平子の言葉に悲しむ素振りも見せず、何だ残念、といった口調で豊満にも程がある女性は100年振りの再会を楽しんでいた。

 

 

「何言ってんだい!忘れちまったのかい!!アタシだよ!桐生!!」

 

 

110年前に昇進した曳舟桐生は、物凄い贅肉を携えた状態で皆の前にカムバック。

ローズや拳西も少し引き気味の顔をしていた。

 

 

「いや、桐生さん、変わりすぎでしょ・・・。」

「スゲェな・・・。言葉が思いつかねえ・・・。」

「あら!ローズに拳西も!懐かしいねえ!あーハラへった!」

 

 

お腹をポンポンと叩くと、贅肉が振動してまるで初期微動と主要動みたいになっている。

マシュマロのような、お餅のような、はちきれんばかりの腹の肉が、死覇装を圧迫していた。

 

また別の場所では、

 

 

「オウ、久し振りだなァ卯ノ花、どうだァ?俺が教えた治療の技はキッチリやってんだろうなァ!?」

「勿論です。」

 

 

そこからも天示郎は、まるで年上の女性相手にカツアゲでもするヤンキー高校生のような勢いで死人が多いことをあげつらい、キレながら卯ノ花に詰問を続けようとしたが、ツルピカで濃い髭、太眉の中央にたっていたおじいさんが天示郎を止めにかかる。

山本前総隊長よりも若く見えるにもかかわらず、彼と比べても放つ霊圧、雰囲気は引けを取っておらず、むしろより死神の長らしさを放っていた。

 

 

「まァまァ!久方振りの再会じゃ!つもる話もあろうが後にせい!」

 

 

話を止められた天示郎は舌打ちをし、卯ノ花はそのまま目を瞑る。

そこで、新総隊長となった京楽が、本題に斬りかかった。

 

 

「いや~~~零番隊の皆さんは相変わらずだねぇ和尚!」

 

 

「で?今回はどんな用件で来られたんです?」

 

 

天示郎の肩にかけた腕を解いた和尚こと、兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)は、一番後ろの真ん中に立っていた一護と目線を合わせる。

 

 

「おんしが黒崎一護か。今回は、霊王の御意思で護廷十三隊を立て直しに来た。」

 

 

一兵衛は、にかっ、と満面の笑みを浮かべ、皆にこれからやるべきことを言い渡した。

 

 

「まずは黒崎一護、おんしを霊王宮(うえ)へ連れて行く!」

 

 

ババーン!という効果音が似合いそうなポージングを取って一兵衛は一護を指さしたのだが、そんな自分勝手とも言える零番隊の行いに我慢の限界を迎えた隊長がいた。

 

 

「ふざけるなッ!!!零番隊がどれだけ偉いか知らぬが、瀞霊廷がこんなになるまで上で呆けていた連中が、今頃出てきて十三隊を立て直すだと!?ふざけるのも大概にしろ!!!」

「うるせえよ。」

 

 

砕蜂ですら反応出来ない速度で彼女の後ろをとった天示郎が、砕蜂の腕を指三本で簡単につまむ。

 

 

「ふざけんじゃねえはこっちのセリフだ。お前ぇらは何だ?“護廷”十三隊だろうが!おォ!?そんな連中が―――――」

 

 

しかし、一兵衛の凄絶な拳骨で、天示郎の言葉もろともぶちっと切られてしまう。

ゴッ!!!と頭を打つ音が響き渡り、漫画とかでよくある特大のたんこぶが出来てもおかしくない強さだった。

 

 

「あとにせいと言うたろうが、こっちの用件を済ませるのが先じゃ。」

 

 

しかし、用件の一つは既に済まされていた。

 

 

「連行名簿にあったものは全て、既にここに揃えてある。」

 

 

修多羅(しゅたら)千手丸(せんじゅまる)の身体から伸びた複数もの機械仕掛けの腕が、人間を格納できる程の球体を支えていた。

 

そこには、朽木白哉、朽木ルキア、阿散井恋次の三名と、一護の卍解、天鎖斬月が入っていた。

その場にいた全員が、一瞬で行われた離れ業に驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「全く、私の研究室に勝手に侵入するとは、嘗めた真似を。」

(わらわ)にとってはあの程度の鍵など、すり抜けるものと変わりはないがのう。そして黒崎一護。あとはそちが入れば万事完了じゃ。」

 

 

その言葉を聞いた一護は、現在球体に入っている三名を見て違和感を抱く。

自分と、他の三名では、怪我の度合いが全く違うのだ。

怪我を直すためなら、自分が上に行く理由は無いのではないかと考えずにいられなかったのだ。

 

 

「ま・・・待ってくれよ!!俺の傷はみんな程じゃねえ!瀞霊廷で十分治るだろ!それに、だったら、俺なんかより剣八や冬獅郎とか、一角が上に行くべきだ!何で俺まで連れて行くんだ!?俺にはまだやらなきゃいけねえ事が―――――」

「残念じゃが、天柱輦で運べるのは最大で十人程度じゃ。その中で妾達零番隊が選別して()()()()()()()()()()を決めた。後の動けぬ隊長格はそち達が治せ。ユーハバッハとの次の戦い迄に妾達が立て直せるのは、四名が限界じゃ。」

「大丈夫じゃ、おんしの言いたい事は分かっとる。」

 

 

千手丸と一兵衛の言葉に、反論の言葉が止まってしまう。

そんな事予想済みだという一兵衛の言い方に、困惑を隠せない。

 

 

「おんしだけは別の理由で連れて行く。」

「別の理由・・・・・・?」

 

 

さらに一護が困惑したところで、それをぶち壊すかのような気の抜けた声が後ろから響き渡って来た。

 

 

 

*****

 

 

 

「あぁ、もう天柱輦降りちゃってるよ・・・。また、文句を言われそうだね。」

「あの・・・。」

「?」

 

 

零番隊の到着点に向かう途中、元学長と喋りながら駆け足で移動していたのだが、好奇心旺盛な隼人にとってはどうしても気になることがあった。

 

 

「何故そんなに、零番隊の事をご存じなんでしょうか?いくら元学長といえども、そこまでの繋がりを持っているってのが、衝撃的で・・・。」

「あぁ、実はね。」

 

 

「僕は護廷十三隊の創設当初、四番隊の隊長だったんだよ。」

「えっ、・・・えっ!!そうだったんですか!?」

「詳しいことは、あっちで零番隊の口から洪水のように溢れ出してくるから、これ以上僕が言うまでもないと思うね?全く、彼らも他人の過去をべらべらと喋るのも大概にして欲しいよ・・・。」

 

 

そんな含みを持たせた言い方をされては、尚更気になってしまうではないか。

だが、正直それだけではそこまで濃い繋がりを零番隊と築き上げることが出来るのか半信半疑だ。

 

まだきっと何かあるのかもしれないと相変わらずの耳年増を発揮して訊きだしたくなってきたが、思った以上にこの男のバリアは堅かった。

 

 

「本当にそれだけですか?」

「それだけだよ?」

「山本総隊長はあまり零番隊と交流を図っていたようには見えませんでしたが。」

「そんな事は無いよ~。彼だって零番隊と話したりしていた筈だよ?それも仕事の一つだったと思うね。」

「学長だけの秘密の何かがあるのでは?例えば、零番隊直通の電話番号とか!」

「無いよ。たとえあったとしても、君みたいな普通の死神には教えられないね。」

 

 

本当はガッツリテレビ電話をしているのだが、気取られて変に興味を持たれては非常に厄介なので上手い事煙に巻くことにした。

訊いてくる相手を“普通の死神”とでも決めつければ、違いを見せつけられて皆結局折れるのだ。

そもそも今は創設当初の四番隊隊長と言ったが、それも追及を撒く手段の一つだ。

並み居る貴族相手に何度も零番隊との連絡を求めて交渉されたが、そんな事実は無いと言って突っぱね、未だにバレたことは無い。

 

それが今日多くの隊長達にバレそうで本当は行きたくなかったのだが、直々に通信で言われては行くしかなかったのだ。

 

 

「何だ・・・でも、凄いですね。貴方が護廷十三隊創設当初の四番隊だったなんて。」

「僕は一切戦闘しなかったよ。皆を治すので忙しかったからね。患者の必要な物を何でも用意してあげるのも大変だったよ。」

「はぁ・・・。」

 

 

感心する隼人に、元学長は少々申し訳ないような気持ちになったが、そうも言ってられなくなる。

 

少し先では、零番隊数名が護廷十三隊の隊長達と共に喋りながら二人を待っていたからだ。

 

 

「ちょっと、身構えた方がいいよ?」

「えっ。」

「いや・・・ね?」

 

 

「彼ら、かなり変わってるから、話すだけで活力全部持っていかれないようにするんだよ?」

 

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