「霊王宮には宮廷内にしか存在しない超霊術がある。その業を用いて
天鎖斬月の修復の可能性に関して問いかけた一護に対し、一兵衛は瞼を目一杯開いて答える。
少し考え、一護はすぐに決断した。
「――――――分かった、連れて行ってくれ、霊王宮へ!」
「おう!」
だが、
「・・・ちょっと待っててくれぬか?」
一兵衛の言葉に思わずズコー!とコケてしまった。
昨日の京楽に対して盛大に突っ込んだ平子は、何も言わなかった。
修多羅千手丸、
先に行った死神達とは向こうで合流する算段になっている。
天示郎が卯ノ花と砕蜂にガンを飛ばし、曳舟は平子、ローズ、拳西相手に好き勝手喋り、一兵衛は京楽、浮竹に頑張れよ、と肩を叩いて励ましの言葉をかけている。
マユリはコンを連れて隊舎に帰り、麻酔なしの改造手術を始めようとしていた。
気の抜けた声の主、浦原喜助の介入が余程許せなかったようだ。「すぐに終わらせるヨ。」と言いながらニタァ・・・と笑む顔が凄まじく恐ろしい。
そんな中、遅れて二人はやってきた。
「おう!やっと来たわい!」
「全く、何で僕までここに来る必要があるんだい、
「おーーっす!!お久し振りっす、オッさん!!!」
「そうだね、久し振りだね、
「って!!俺昨日も通信でオッさんと喋ってたわ!!!いやー!やっぱ久々に直接会っても変わりませんなあ!!」
「はぁーっ・・・。何で言うんだろうね・・・。」
隠しておきたかった零番隊とのパイプラインについて早速べらべらと喋る天示郎に、元学長は睨みつける。
「まあいいや。とにかく、連れてきたよ、一兵衛。彼が、
「こっ口囃子です!」
その顔を見た曳舟は、相当に大人っぽくなった隼人の風貌を見て昔と比較する。
「あら!あらあらあら!!隼人ちゃんったら、髪型変えたのかい!?大人っぽくなっちゃって!彼女でも出来たかい!?」
「出来てないです。」
「あっ・・・・・・。ごめんね・・・・・・。」
マジで謝られてしまい、逆に隼人は焦るが焦る自分が情けなくちょっと落ち込む。
何でこんな状況でプライベートなことをツッコまれにゃいけないんだ。
ちなみに曳舟の風貌も相当に変わっていたが、敢えて何もツッコまないでおいた。
昔の隼人なら、太りましたね!とでも言うだろうが大人になった以上口を噤む。
「ほう、おんしがか。んーーーー?ふーーーーん?」
一兵衛は、髭を触りながら隼人の姿を間近でまじまじと舐めるように見る。
「何照れてんだよ。」
「こんな至近距離で他人に見られたこと無いからですよ!」
拳西のツッコミにいつも通り返したが、何故か隼人の反応を見た拳西がひどく安心した表情をしているのを見て、昨日のアレを思い出す。
一日経つと、自然と受け入れられてきたように思えた。
一兵衛の評価は、中々に辛口だった。
能力とは関係ない、見た目の点で。
「何じゃ、もっと歴戦を潜り抜けた戦士の風貌漂う男かと思って居ったが、ただの小童か。」
「えっ。」
「せっかくだ!もっと強そうな見た目にでもなったらどうかのう。」
「は、はぁ?」
その様子を見た元学長は、「あー・・・。」と言いながら諦めた顔をする。
「さっきの一護に比べれば、おんしには『ぱんち』が足りぬ。」
「一兵衛、意味分かって言ってるのかい?」
「何!わしは現世の言葉も色々と勉強しておるぞ!」
「まぁまぁまぁまぁ、和尚。時間も無いですし、本題に入られてはどうですか?」
「うむ、そうじゃ。阿蘭につっかかっていては時間が無くなるわい。」
普通ならそんなこと言われてたまったもんじゃないのだが、一兵衛の性格を熟知している元学長は、一切反論する気は無かった。
余計に面倒になるから。
「おんしの見た目は改善の余地が残っておるが・・・。」
「じゃあおじさん、僕これで一つの完成形だと思ってたんですけど、どうすれば・・・。」
「おじさんって、お前なぁ・・・。」
「おうおうおう気にせん気にせん。むしろ変に畏まられるよりそっちの方がいいわ。」
「本題に入るんじゃなかったのかい、一兵衛。」
「・・・・・・全ッ然、話進まへんわ。」
皆呆れた顔でその場の様子を見ているのを察し、ようやく一兵衛は今度こそ本題に入った。
「先ほどおんしの霊圧を見たが、問題無い。故におんしにはこれを託そう!」
またもババーン!という効果音が鳴りそうなポージングをして一兵衛は懐からいかにもな分厚い書物を取り出し、隼人の前に差し出した。
「これは・・・。」
「これには
「へ・・・?」
聞いたことも無かった。
鬼道なんて各々九十九までしかなく、最強の鬼道は五龍転滅だと思っていたのだ。
霊術院でもそうやって教えられていた。
なのに、突然出てきた裏破道、裏縛道という存在を知り、意味が分からなくなってしまった。
「初めて聞いたんですけど!?破道と縛道の、裏・・・?何ですかこれ!」
「それは・・・・・・・・・、」
「秘密じゃ。」
「気になる!!」
「とにかくおんしはこれを使って力をつけい!詳しいことはこの本に書いておる。わしが今風の言葉で書き直した故、読み取ることは容易い筈じゃ。読み取る力に長けておるなら、その本の中身も一日かからずにモノにできる筈よ。」
ピンとこないが、押し切られるのに弱い隼人は結局今回も押し流されてしまった。
「う~~・・・、気になるけど、頑張ります!」
「そうじゃ、それでいい。何度も読んで、しっかりその本をおんしの魂に叩き込め。これで用件は全て済んだ。さらばじゃ護廷十三隊諸君!皆励むのだぞ!」
「じゃアな!!ヒヨッ子共!また元気で会おうぜぇ!」
「皆、頑張るんだよ!隼人ちゃんバイバイ!」
「さ、さようなら・・・。」
そうして、嵐のように現れた零番隊は、嵐のように去って行ったのだった。
*****
同日午后3時。
中央四十六室に赴いた京楽は、総隊長としての仕事を始める前提条件の時点で、既に四十六室と対立を作りつつあった。
「副隊長を二人!?」
「ええ。沖牙三席は一番隊の実務を。伊勢副隊長はボクの扱いを。それぞれ一番よく分かってる。共に補佐の任を果たしてもらいます。」
「ならぬ!そのような勝手――――――」
否定しようとした貴族に対し、貴族が決めた法律で京楽は対抗する。
「副隊長の任免権は同隊隊長にある、それをお決めになったのは
「・・・・・・・・・・・・・・・!」
ある意味、山本総隊長よりもやりづらい相手を総隊長にしてしまったことに気付くのはそう遅くはなかった。
唯一、阿万門ナユラだけが番号の書かれた御簾の内側から、納得した表情を見せていた。
「・・・それじゃ、進めていいですかね。総隊長としての最初の仕事を。」
「更木剣八に、斬術を教えます。」
「なにっ・・・!!」
白哉達がたとえ霊王宮に向かって行ったとしても、無事に戻ってくる保障があるといえば、それは嘘だ。それに、現在瀞霊廷で未だ眠っている日番谷冬獅郎や、松葉杖を使わねば歩けない砕蜂の存在などもあり、現在の隊長格は残っている面々がそのままでいては確実に尸魂界が終わってしまうことは京楽の目で見て明らかだった。
四十六室の面々が自分で自分の身を守れない以上、この提案を呑むしかなかった。
たとえ、反乱によって更木剣八の存在を止められなくなったとしても。
そして、それを任せられるのは一人しかいなかった。
「入っておいでよ。更木隊長の件はあんたに任せたいんだ。」
普段とは全く違う、暗く、翳の強く表れた表情を孕んだ、
「初代『剣八』、
「・・・お許しが、出たみたいですね。」
一切表情を変えずに、卯ノ花は小声で、低く呟く。
「斬術の手ほどき、よろしく頼むよ。」
「・・・場所について、私から一つ進言させてくれますか、総隊長。」
「・・・?」
この時点で、既に二人の頭から四十六室の存在は抜け落ちている。
四十六室への許可を取る為の会議が、単なる二人の相談に変貌を遂げていた。
貴族達の介入の余地は、一切無かった。
「私が、更木剣八に斬術の手ほどきをするのであれば、
一呼吸置いた卯ノ花は、自らと更木剣八の戦いの場所として、これ以上ない場所を進言した。
「――――無間。字の如く一分の間もなく閉ざされ、音の如く無限に等しき広さを持つ。ここしか私達罪人が、自在に剣を振るえる場所は無いでしょう。」
「今の更木剣八には力がありません。故に、無間の使用許可を下さいますよう、お願い申し入れます。」
「・・・ですって。どうでしょうか、皆さん。」
貴族達は、認めるしかなかった。
二人の間に割って入り止めることなど、誰にも出来なかったから。
この二人の放つ雰囲気に。皆が既に負けていたから。
ここで要求を撥ねつけることなど、誰にも出来なかった。
「無言は了承と受け取らせて頂きますよ。では、よろしく頼みますよ。卯ノ花隊長。」
「ええ。」
その言葉と同時に髪留めを解き、京楽の手に渡した。
「勇音にこれ
「・・・分かりました。」
「では、・・・・・・・・・失礼します。」
礼もせず、卯ノ花はくふっ、と笑い、会議場を後にする。
その背には、『十一』の数字が刻まれた隊主羽織を着ていた。
身体の前に下ろしていた髪を全て乱雑に払うと同時に、『十一』の数字は髪に隠れてしまった。
「・・・・・・では、次の仕事に移ります。」
「七番隊の立て直しを行います。」
「立て直し・・・?」
更木剣八の件で不信感を抱いた四十六室は、またも懐疑的な視線を御簾越しに京楽に浮かべる。
「あそこは隊長も副隊長も、殆どの席官も死んだ。」
「聞けば、隊士も殆ど死んでいるではないか!取り潰しして、新たに再編するのが早いのではないか!?」
「いいえ、
一度潰して再編するのではなく、立て直しを断固推進しようとする京楽のやり方に、一部の四十六室は自分たちの意見を反故にされたと猛反発を始める。
「何故だ!!隊舎も崩壊している以上、立て直せる訳ないではないか!」
「むしろ、建物が潰れている以上、隊そのものを一度潰せばいいのだ!!」
「無駄ですよ。」
冷静な京楽の声に、怒号を上げた貴族達全員がしんと黙る。
「もう立て直しは始まっています。」
「何・・・!?」
「では立て直しの為の最終的な方策を伝えます。」
「七番隊第三席・口囃子隼人を、条件付きで同隊隊長に任命します。」
遂に、四十六室は一つの言葉も発せなくなってしまった。
荒唐無稽という言葉では足りない程の異常な策に、開いた口が塞がらない。
それを知って、京楽は言葉を続けた。
「固まるのも無理はないでしょう。護廷十三隊と深い関わりを持たない貴方達に、あの死神がどれ程の潜在能力を秘めているのか、分かる筈もない。」
「何だと・・・!我々を愚弄するつもりか!!」
「いいえ、貴方達の有り様そのままを申しているだけです。」
「貴様・・・!!」
紛糾しそうになった所で、阿万門ナユラが言葉を発した。
「ならば、聞かせてもらってもいいか?京楽春水、そちがそのような言葉を使って迄期待する、その男について。」
京楽は初めて言葉を発した死神の方向に首を向け、承諾の意思を表した。
「彼を隊長に任命するのは、彼が卍解を会得したその日からという条件にしています。」
「何!?奴は卍解すら出来ぬというのか!!何故そのような小童を隊長などに!」
「彼の卍解会得が、次の侵攻を耐え切る為の鍵になるからですよ。」
理解に苦しむ京楽の発言に、特別声を上げない貴族達も内心では不満を募らせてゆく。
「口囃子隼人が、次の侵攻における護廷十三隊の核となります。」
「・・・・・・その死神は、卍解を習得できそうなのか。」
「それは僕には分かり兼ねます。僕は予言者では無いので。」
ナユラの質問に答えた京楽の発言に、またも他の貴族は激怒しそうになったが、
「ですが、彼が卍解を出来るようになるだけで、尸魂界が次の戦争に勝つ可能性をぐんと引き上げることが出来ることは、僕が保証しますよ。」
「そうか・・・・・・、ならば、
一人が堂々と宣言したことで、結局他の人間もそれにならい、七番隊の立て直しも京楽の策略の一部に含まれることとなった。