「檜佐木副隊長、現在六車隊長はどちらに・・・。」
「あぁ悪いな、隊長は暫く空いてないんだ。書類なら俺が代わりに見といてやるぜ。」
「了解しました。こちら被害状況の書類です。ご確認御願い致します。」
拳西からしばらく卍解の修行に入るから仕事に出られないと聞いたため、基本的には自身の修行を中心にしつつ修兵は戦後処理の手伝いも行っていた。
九番隊調査部門を率いる誉望が中心となって霊圧調査を行っていた所に先輩として様子を見に来ていた。
「檜佐木副隊長、修行しなくていいんスか?」
「隊長が隊首室で刃禅組んでガッツリ修行してるからな。俺までずっと修行したら隊が持たなくなるだろ?」
「まぁ、確かに・・・。」
ほら調査しろしろ!と部下を仕事に集中させ、修兵は隊の巡回を続ける。
(隊長・・・。俺も強くなって、足引っ張らないように頑張ります・・・!)
青空を見て、心の中で上官の補佐に値する強さを持った死神になれるよう、決意を固める。
*****
「ん・・・んんん~~・・・。・・・どこだ?ここ。」
気を失って意識を取り戻すと、隼人は見慣れぬ場所にいた。
現世にしては、かなり文明が進んでいるようにも見える。
大きな白い風車がいくつもあり、夜なのにビルの電気から漏れる光で眩しいくらい。
気付いたら、ベンチの上に寝転がっていた。
去年訪れた空座町とは、比にならない程の煌めきで覆われていた。
「何あれ・・・電車か?」
高架に走るモノレールなど知りもしない隼人は、頭上に見える夜景に思わず目を丸くする。
体を起こして道路を見てみると、大通りだからか多くの車がひっきりなしに走っていた。
「いつの間に、現世に?いや、そもそも本当にここ現世「おはよう、こばやし。」
「おわっふ!!!びっくりした!」
夏仕様でTシャツにピンクのジャージのズボンを履いた桃明呪が、遠くから声をかけてきた。
その姿を見て、先ほど尸魂界で京楽と話をし、卍解修行をする手筈になっていたことを思い出す。
「こっち来て。道路に出たら死ぬから。」
「えっ、ああ、そうだね。・・・ここどこ?」
「私の世界。」
「ここで修行するの?」
隼人の問いかけに、彼女は首を振る。
「それを含めて今から話をするから、しっかり聞いてくれる?」
「うん。了解しました。」
「私の修行、ちょっと変わり種。歩きながら話すからついてきて。」
先導され、近未来的な街並みに興味津々になりつつ、置いて行かれないようについていく。
途中で渡されたタブレットには、ある施設の写真が載っていた。
「病理解析研究所?なんだこれ?」
「ここでこばやしは修行する。私の力を使いこなす練習。」
「あ、それ!そうそう!」
思い出したように隼人は、第一次侵攻の時からずっと気になっていたことを当の本人に問いかける。
「僕の本当の力って、一体どんな力だよ?」
「それは、向こうに着いてから。大丈夫だよこばやし。」
「私の本当の力があれば、皆を護ることが出来るから。」
「皆を、護る・・・・・・。」
始解を習得する時は、皆を護れる力ではないと明言していた。
だが、卍解は皆を護れる力。力の性質が根本的に変わる以上、戦い方も根本的に変わるだろう。ひょっとしたら、
「僕でも、前線に出られるかな?」
「うん。前線で戦える。一人で力を使って戦うこともできる。でも大丈夫だよこばやし。後ろで補助することも出来る。その方が私を使いこなせると思う。」
「やっぱり?」
「だから皆を護れる力。前で戦って弱い死神を護れるし、後ろからこばやしより強い死神を補助して護ることができる。」
「ほうほうほう、成程・・・・・・。」
ここまで言われれば期待に胸がふくらむ。
始解習得の時は力を受け入れこそしたものの、他の死神の能力が羨ましくなったことは何度もあった。
拳西や狛村、修兵みたいに、自分から前に出て戦う姿が何と羨ましかったことか。
卍解を習得し、隊長になることで、同時にかねてからの願いも達成できるとは。死神冥利に尽きるではないか。正直よく分かっていないけれど。
そして頭の中で考えている途中、もう一つ気になることがあったのを思い出した。
「そういえばさ、」
「何で、
あの時、具象化が出来たならついでに斬魄刀を屈服させて、卍解できればもっと藍染相手に粘り、大怪我を負わずに一護にバトンタッチ出来たかもしれないのだ。
加えて、藍染が自分の卍解について何らかの興味を示していたことは、あの時の反応でうっすらと気付いていた。
まだ持っていないと告げた時、失望とほんの少しの安心が顔に表れていた気がしてならなかった。
それに対しても、何だか含みを持たせた言い回しで桃明呪が返す。
「要素が足りなかったから。」
「要素?」
「あの時のままじゃ、不完全な卍解になるから。私が卍解を使わせるなら、出し惜しみしないで全力で使って欲しい。」
「じゃああそこで屈服させれば使うには使えたんだ。」
「うん。でも、あの時使ったら卍解は壊れて、二度と元に戻らなくなっていた。」
「・・・・・・・・・ありがとうごぜます。」
身を案じて卍解を使わせなかったことに感謝した所で、目的の施設・病理解析研究所が見えてきた。
大きな鉄製の門があるが、鍵は開いており、押すだけで普通に門は開いた。
「ねえ、こういう所って、何か勝手に入ったら警報とか鳴ったりしないの?十二番隊もヤバイ所入ったらビービーうるさいらしいんだけど。」
「・・・・・・大丈夫だよ。漫画の見過ぎで感覚がおかしくなってるこばやしを、私は応援してる。」
「えっ。・・・ちょ、えっ?嘘、そんな漫画に影響受けてる?」
何度も聞くが、それ以降返答は無かった。
*****
中に入ると全くもって人の気配を感じないが、照明はどこもついていた。
「ここは私の世界。私のルールで動いているから、私に出来ないことはない。」
「何か、すごいね・・・。現世に比べても機械というか、文明が発達してるというか。」
普通にお喋りして通路の中央を歩いているが、世界の主が歩いているのであればセキュリティなどお構いなしという所なのか。
むしろ、貸し切りにしてもらっているような雰囲気だ。
重厚な自動ドアも、横に10キーがあり本来は暗証番号入力が必要と思われるが、彼女はそれを目にすることもなく通過する。
いくつかドアと通路を通り抜け、様々な機械が設置された部屋に辿り着いた。
「おぉ、真っ暗・・・。」
「ちょっと待ってて。」
桃明呪が壁際に移動して手をかざすと、パソコンのキーボードのような画面が出てきた。
修兵が使っていた所に見覚えがあったため、何か打ち込んでいることはすぐに理解する。
通路に繋がるドアが開きっぱなしなため、そのおかげで中の様子がちょっと見える程度だ。
巨大な機械があるものの触れて暴走でもしたら大変なので近付くだけにとどめる。
そんなこんなで室内をうろちょろしていたら、ようやく部屋に電気が点いた。
「おっ電気が・・・って、何これ!!すっげー・・・!」
桃明呪がタッチパネルに打ち込んでいた先にはガラス窓があり、その先にだだっ広い空間があった。
円柱型の広い空間には、出入口と思しき二つの自動ドア以外何もなく、無機質な空間を形作っている。
一方で、古代の闘技場を彷彿させるような、血の雰囲気も若干ながら感じていた。
ひとしきり目を奪われていると、目の前の広い空間ではなく、今自分達がいる部屋のドアからぞろぞろと白衣を着た人間が入って来た。
「・・・誰?」
「私一人じゃ大変だから。私が
10人ぐらいの白衣を着た人間が、それぞれ持ち場の椅子に座って慣れた手つきで機械を操作し、すぐに闘技場の自動ドアが開いた。
左の自動ドアからは拳西が、右の自動ドアからは、プロレスラーみたいな男が出てきた。
プロレスラーの男の後ろには、小さなぷっくりした子どもがついていた。
同時に隼人がいる部屋の自動ドアには、ロックが掛けられる。
「まずは見てて。」
「???どういうことだよ?見るって――――」
言い切る前に、既に闘技場にいる二人は闘いを始めていた。
拳西の卍解が発動し、レスラーの男の腹を殴りつける。
ガラス越しのため声は何も聞こえないのだが、レスラーの男は物凄い形相で苦悶の表情浮かべる。
ぐおおおおおお!!とでも叫んでいるのだろうか。
そのまま吹き飛ばされたレスラーの男は、壁に激突する寸前で態勢を立て直し、壁に足をつけて反動で拳西めがけで猛スピードで距離を詰める。
口の動きから何か技名を叫んでいるようだが、拳の溜め動作をしている以上、パンチをするのはすぐに分かった。
拳西に直撃し、辺り一帯の瓦礫も同時に吹き飛ぶ。
「うわっすご・・・。」
だが、拳西はそのパンチを左腕だけで防ぎきっていた。
再び拳西が手に携えた刃でレスラーの腹を殴りつけ、喀血と同時に臓器も抉れているのが別カメラに映る映像から判別出来た。
そのまま吹き飛ばされたレスラーは、倒れて身動きが一切取れなくなっている。
「これで終わり・・・?ねえ、一体なんでこんなの僕に見せるの?これが修行と何の関係が「まだ終わってない。」
「は・・・?」
「まだ。闘いはまだ終わってないよ、こばやし。ほら。」
桃明呪が示したカメラ映像には、小さなぷっくりした子どもが震えて涙を流している。
何かを叫んでいた。音が聞き取れないため口の動きで言葉を判断するしかないのだが、「スーパースター」と口を動かしていることだけは理解出来た。
瞬間、ガラスの向こうで大爆発が発生する。
レスラーがのびていた場所に煙が立っており、拳西が立っていた場所にはさっきのレスラーがふんぞり返っていた。
そこにいた筈の拳西は姿を消していたのだが、壁に一つ新たな穴が開いていた。
「え・・・?まさか、」
そこから出てきた拳西は、頭と鼻から血を流しており、
それでも拳西は、首の調子を無理矢理治して再びレスラーに向かって行く。
だが、拳西が鐵拳断風の一撃を与える隙も無く、レスラーが空中で膝蹴りを拳西の腹に当てる。
直撃した拳西はノックバックするが、レスラーが強引に頭を鷲掴みにして強烈な頭突きをぶつける。
その際に生まれた若干の隙を、拳西は見逃さなかった。
何とか空中で態勢を立て直してメリケンサックをレスラーの腹にねじ込む。
その一撃に、やはりさっきと同様にレスラーはひどく苦しんだ表情を浮かべる。
(拳西さんの攻撃は効いているのか・・・?)
だが、再び付き人の子どもが笑顔で声をかけると、それすらも効かなくなってしまった。
驚愕の表情を浮かべる間もなく、拳西は手刀で首と右腕を真横に折られる。
その時点で既に意識を失っていたのだが、構わずレスラーは拳西の体に攻撃を叩き込む。
腕や足を強引に捻じ曲げて折り、体中から絶えることなく血が流れている。
一発特大のドロップキックを入れると、ただの肉袋のように拳西の体は受け身を取ることなく壁に激突する。
一瞬見えたレスラーの口から、「これでトドメだ悪党!!」という言葉が叫ばれたのは口の動きだけで明らかだ。
最後にレスラーが最大威力のパンチを拳西の身体に叩き込んだ瞬間、拳西の身体は壁にぶつかると同時に反射し、場内に幾つかある太い柱に体を衝突させながら広場の中央にぐったりと倒れ込んだ。
卍解など原形すらとどめておらず破壊され、体は血まみれで、手足は普通の人体ではありえない方向にひしゃげている。
柱にぶつけた左腕は吹っ飛び、遠くに無残にも転がっていた。
腹には数か所大穴が空けられており、そこから大量の血が流れ、体内の臓器がはみ出ていた。
最初の時点で首を折られていたからか、最後の死体には首から上がなく、首の骨が肩の上あたりに断片として転がっていた。
頭部も、肉体からかなり離れた位置に、血まみれで転がっていた。
闘いが終わったからか、ビーッ!!とブザー音が鳴り響く。
「うっ・・・うっ・・・うぶっ。」
ひどすぎる死体に我慢できず、手で押さえていた口から嘔吐してしまった。
こうなることを事前に察していた研究員が近くにゴミ箱を設置していたので、迷わずそこに流す。
背中をさすったのは、桃明呪か。
残虐な攻撃と、なす術もなく殺される拳西の姿を思い出し、更に気持ち悪くなって嘔吐すると共に、桃明呪にこの上ない怒りを抱いた。
これは修行と呼べない。ただ家族が残虐に殺される光景を見させられて、一体何が修行なのか。
こんなことをして、一体どうすれば自分の卍解に辿り着けるのか。
一度落ち着くと、隼人は彼女の胸倉を掴んで詰問にかかった。