「ねえ。何のためにあんなの見させられたんだよ」
「修行の説明のため」
「じゃあその修行って何だよ!!拳西さんがぐっちゃぐちゃになって殺される姿を見て強くなれるってか!?その過程は本当に必要なのかよ!」
「
冷静に、きっぱりと言い放つ姿を見て隼人はさらに鋭く睨みつけ、手の力を強くする。
「こばやしが卍解を習得して、
「あんな風に!?拳西さんがボコボコにされたのをそんな言い方すんじゃねえよ!!」
「他人の心配より自分の心配できないの?」
言い放つと同時に、桃明呪は隼人の手を左手で払いのけ、右手で隼人の頬に平手打ちする。
「分からないの?こばやしが死んだら、私も死ぬんだよ?私は死にたくない。生きる為ならこばやしを苦しめることだって何でもやる。死にたくないって前に言ってたの、忘れたの?席官で戦うのと隊長として戦うのは別物だよ」
「・・・・・・。」
考えていなかった盲点を突かれ、思わず言葉を噤んでしまった。
止まらず、桃明呪は甘い考えでいた隼人に彼女なりの願いを伝える。
「隊長になるなら、いつ命を落とすか分からない。さっきのむぐるまみたいに闘いの途中で殺されるかもしれないし、突然奇襲されて一瞬で殺されるかもしれない。でも私はこばやしに力を与えたい」
「だったら、何も言わずに力だけ渡せばいいだろ。答えになってないよ」
「味方が殺された状況を見て嘔吐するぐらい動揺するこばやしに、安易に私の本当の力は渡せない。無防備に動揺している間に殺されていたらどうするの?こまむらといばが死んじゃった時も、敵地の真ん中にいたらこばやしも死んでいたよ」
「ッ・・・・・・」
正直、ぐうの音も出なかった。
さっき嘔吐したのが敵地のど真ん中であれば、それこそ滅却師の矢で蜂の巣にされていると隼人でも思う。
戦争では、隙を見せた瞬間がもうおしまいなのだ。
「空座町の藍染惣右介は、手加減していたと思う。あれでもこばやしには本気じゃなかったんじゃないかな。こばやしは隙だらけだったよ。皆からは褒められていたけど、その場にいなかったから、三席だから凄いって褒められていたと思う。状況に甘えないで。そんなこばやしは、応援できない」
状況に甘えるな。
そう言われて初めて、副隊長にならなかった自分が三席という状況、立場に甘えていたことを思い知った。
三席から隊長に飛び級昇進するのであれば、それこそ副隊長以上に生半可な気持ちでなってはいけない。
力で皆の上に立つためには、相応以上の覚悟を背負う必要がある。
ただ技を身に着ける、霊力を上げるだけでは、卍解を習得しても、隊長にはなれない。
強靭な精神が無ければ、隊長職など務まらない。部下の死でいちいち強く動揺していては持たないだろう。
「・・・・・・ごめん、ありがとう。隊長になること、何にも分かってなかったな。覚悟が足りなかったよ」
「大丈夫。・・・覚悟を背負う分だけ、こばやしは可能性を手にできる。私はこばやしに、たくさんの可能性を与えたい。最初は辛いけど、動じないで。修行を続けていくうちに、辛い思いをすることも無くなるから」
「・・・分かった。もう逃げない。向き合うよ」
隼人の言葉に頷いた桃明呪は、隼人の手を取って再び巨大なガラス窓の前に連れて行く。
窓の先の闘技場は、さっきの血や壊れた壁などが全て処理されており、来た時の状態に戻っていた。
再び二つの自動ドアが開き、拳西とレスラーが入って来た。
「私の本当の力、教えるね。」
「えっ、」
「私の本当の力は、」
「
「!!・・・それって、つまり、」
「うん」
「本来負ける筈だった人を、勝たせることが出来る能力だよ」
今まで読んでいた霊圧を媒介に、霊力に干渉できるという代物だ。
霊圧を伝って味方の霊力を底上げすること、敵の霊力を下げることができるのだ。
運命すら捻じ曲げてしまえる程の、とんでもない能力が桃明呪には備わっていたのだ。
彼女は更に自分の力に説明を加える。
「あの時は、完現術者と滅却師の要素が足りなかったから、完全な卍解が出来なかった。でも今のこばやしは、完現術者と滅却師の霊圧も、十分に読んでる。だから卍解を使える条件は整っている」
「へぇ・・・。卍解がそんな代物か・・・」
その隼人の言葉に、桃明呪は首を振る。
「それは始解だよ。思い出して。今までに私の本当の力の片鱗はこばやしにも使えていた」
「えっ」
「この前の戦い。覚えてない?」
この前戦ったのはピエロのようなキザな滅却師。あれは戦いと言えたものかはわからないが。
本当の力がどんなものか分かってない自分をひどく困惑させると同時に、ある意味何故かヒントを与えてくれた滅却師だった。
その時の言動を思い出していくと、一つ今の説明に合致する点があった。
『あんたが俺の霊圧探ってんの、バレバレだぜ?』
つまりこの時、ナックルヴァールは自分の霊圧、霊力が干渉されていることに気付いていたというのか。
さらに桃明呪は別の戦いを思い出させた。
「空座町での戦い。覚えてる?」
「藍染が・・・本当の力を知ってたのか・・・?」
無言で彼女は頷く。
空座町での戦いの時の藍染の言動を必死に思い出してみると、やはり重なる言動があった。
『いいね。優れた干渉力だ。』
そして、藍染達が離反する時にも。
『究極の干渉力を持つ君の始解は、・・・』
あの時、まだ破面の霊圧すら読んでいなかった隼人を見て、藍染は既に隼人の本当の力に気付いていたのだ。
だったら何故その事を伝えなかったのかが気になり桃明呪に問いかけるが、それは本人に聞けと言われてしまった。
霊圧は読めても心までは読めない。それこそエスパーになってしまうだろう。
「マジかよ・・・藍染が気付いてたのか・・・」
「でも大丈夫。藍染はもう無間にいるから。気にする必要はない。早く修行始めよう」
「そうだね。僕はどうすればいいの?」
「最初は簡単。始解を使ってむぐるまの霊圧に干渉して、相手の攻撃の威力を相対的に下げて」
「防御力バフってことか!拳西さんをあんな目に遭わせるわけにはいかないよっ!!」
戦いのパターンは基本的に同じだった。
まずは拳西が圧倒し、レスラーは腹を陥没させて意識を失った。
そしてお付きの子どもが何かを叫ぶと共に、拳西は一度吹き飛ばされる。
ここからが勝負だ。
「普通に霊圧を読もうとしたら何も変わらない。祈って。こばやしの力が、むぐるまに届くように」
「祈る・・・?」
「護るんでしょ?呪っちゃだめだよ」
全くピンとこないが、言われた通りに拳西の霊圧を読みつつ、防御力が上がりますように!的な感じで祈ってみる。
とにかくやってみるしかないのだ。
すると。
レスラーが当てた筈の膝蹴りは、拳西には全く効いていなかった。
「えっ・・・マジで!?」
「これが私の本当の始解」
攻撃が効かなかったことに驚きを見せたレスラーは、その隙を狙われて鐵拳断風を顔にねじ込まれる。
炸裂する力が顔にねじ込まれ、眼球や鼻の骨などが一挙に弾け飛ぶ。
正直、敵がそんな状態になっても何の感慨も無く、気分すら悪くならなかったことに気付くのはかなり後の話だ。
実質脳幹をぶち抜かれたため、心臓は動いていても死んだようなものだった。
だが、お付きの子どもがいる以上簡単な話ではない。
「拳西さん!あっちの子ども殺さんとダメだってば!!」
「聞こえないよ。戦闘中はこっちの声は一切聞こえない」
「だったらもう一度拳西さんの防御力を「無理だよ」
「何でだよ!!」
「今の段階じゃ、こばやしは対象に一回しか干渉出来ない。もっと練習したら出来るようになるから」
「じゃあ、どうすれば、」
「次に移るよ」
「あの子どもの力、
「分かった!!」
この力がどれ程までに危険で恐ろしいものかを理解するのも、次の戦いの最中だった。
*****
滅却師の霊圧に干渉するのは死神に比べると少し勝手が違った。
術式か何かで血管の中に霊子を流しているからか、死神に比べると祈る際に若干バリアがあるように感じたのだ。
これも桃明呪曰く、力に慣れないうちの苦労らしい。
だが、相手が子どもだからか何とか間に合わせることができた。スーパースターと叫んでも一つもレスラーは身動きせず、そのまま死体となった。
尚も叫ぶ子どもを拳西が卍解で潰したことで、この試合は終わりを告げた。
ビーッ!!とブザー音が鳴ると同時に闘技場の自動ドアが開き、戦後処理が始まっていた。
ブザー音と同時に隼人はへたり込みそうになるが、これまた察していた研究員が身体を支えてくれて、ふかふかの椅子に座らせられた。
「お疲れ。私の力は消耗が激しいから、無理しないでね」
「・・・・・・うん・・・。頭が痛い・・・」
一試合に干渉するだけで、繁忙期の一日を過ごしきった時ぐらいの疲れがどっと押し寄せる。
特に頭、というよりも、脳に疲れが出ているように思える。
成程、これは力に慣れて戦闘のために十分使いこなすには、かなりの労力が必要になるだろう。
研究員からバナナシェイクを渡されて飲むと、見違える程に疲れが取れた。
「何これ!さっきの疲れが嘘のようだ!」
「ここは私の世界だから、こばやしが疲れても簡単に疲れは取れる。でも準備が整うまで休憩して。次は対戦する人変えるけど、勝たせる方だけ私が指示するから、後は全部自分で考えて力を使って」
さっきはサポートがあったものの、次は最初から自分で考えて力を使うよう求められる。
相手の能力を霊圧解析でしっかり理解する速さなどが求められるだろう。
加えて、適切な強化と弱体化も、自分で考えないといけない。
力を使った自分にかかる負荷も抑えていく必要がある。
課題は山積みだが、今はお言葉に甘えて、シェイクを飲みつつ少し休憩することにした。
*****
「いらっしゃーーーーーーーい♡♡♡」
二枚屋王悦によって鳳凰殿に迎えられた途端、一護と阿散井、麻酔なし超激痛の改造手術を経たコンはたくさんの女性陣に囲まれる。
コンだけが目を輝かせ、二人は困りつつほんのり顔を赤くする。
「キャーーーー!!!」
「ねえねえ超はだけてるんだけど!エローーーーい♡♡♡」
「顔赤くしてるのカワイーーーーー!!」
「私ちょっと久々に本気だしちゃっていいかな?いいかな!!」
多種多様な髪型をしつつ、顔面偏差値の高い彼女達が一護達に群がり、キャッキャと騒いでいる。
「オレンジ髪が一護くんだよね?めっちゃカワイイんだけど♡♡」
「すぐにご案内しまーす!!ほら、あっち連れてって!」
「了解しましたっ!!」
黒服の男に両腕を掴まれて、一護はあるベンチに無理矢理座らされる。
入れ替わりに、一人の女性がやって来た。
他の女性と服装は変わらないものの、かなり巨乳で可愛い顔をした、黒髪で肩までいかない程度のおかっぱの女の子だった。
「彼女に癒されてねーーーーーっ♡♡♡」
「は!?」
近くにいた別の女性が、一護に声をかけて颯爽とバックヤードに入っていく。
阿散井も別の女性を宛がわれて無理矢理喋らされているようだ。
フードか何かを被っているように見えるため、頭部は隠れて一護の方からは何も見えない。
そして、一護の隣に座る女の子は、簡単に言えば地味だった。印象が薄い。
こっちに体を向けようともせず、ただただ一護の真隣に座って前を向いているだけだ。
一護に照れているわけでもなく、ぼーーっとしているようにも見える。
「なぁ、ここ何なんだよ。あんた誰だよ」
「・・・・・・北北東から霊圧が来てる」
「は?」
「いちごの霊圧、私は嫌いじゃないよ」
「は?」
「私も今、修行中。いちごも修行?」
「ああ。・・・ってか、」
「大丈夫だよ、修行のために頑張るいちごを、私は応援してる」
「いや、だから「どーーーーですか?癒されました???」
「癒されるもクソもねえよ!!!!!!!」
また別の女性が一護に話しかけた瞬間、カオスな空間に耐え切れず大声をあげる。
噛み合わなさすぎる、というかマイペースすぎる会話を展開する女性を見ていると、自分が何をしにここに来たのかわからなくなりそうだ。
「いやーーーん♡怒った姿もカワイイ♡♡」と言われて更に顔を赤くするが、もう我慢ならねえ!!ってなってきたところで、王悦がメラちゃんと呼ぶ女性が来て茶番は終わりを告げた。
「おーやーかーたーサマーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
盛大なドロップキックが襲い掛かり、王悦の身体は壁に激突する。
コントみたいな画ヅラだ。
「本ッ当に!!!御館サマは!!!いつまでこんなことやってんだゴラァーーーー!!!!!」
「痛い!!痛いYoメラちゃん!!そんなに殴らないDe!!・・・って待ってそこはダメ!!金的はダメSa――――!!!!Ah!!!!OH!!!!!Damn――――――!!!!!!」
「「・・・・・・」」
王悦がメラちゃんに金玉を何度も蹴られて蹲り悶えたところで、この茶番も終わりを告げたのだった。