「久し振り~~!!!見違えるくらい垢抜けちゃったね!」
「ご・・・ご無沙汰です・・・」
衝撃すぎる再会で頭の中がぐっちゃぐちゃになりかけるが、何とか気を留めて虚への意識もしっかり向け続ける。
まだ戦闘開始のブザーが鳴っていないからか虚も静止しているが、虚なのに
身体の中央の白い物体も、ぐにゅぐにゅと生き物のようにうねっており、改造された虚である可能性が濃厚になっていく。
しかし、真咲からも空気を読まない話がぶち込まれる。
「髪短くして前髪あげたらそんなに変わるんだぁ~へぇ~。ひょっとして口囃子くんモテモテじゃないの?」
「全くですよ。あれからまだ一度、も、・・・・・・」
尻すぼみになる言葉と共に、そっぽを向いて青ざめているのか恥ずかしくて真っ赤になっているのかよく分からない顔になってしまう。
思い出したのだ。彼女が何度も突っかかって来た時に発せられた屈辱の言葉を。
「なぁーんだ!じゃあずーっと童貞なんだ!あたしの予想通りだわ」
「予想通りかよ!!っていうか貴女は何でソコばっか気にするんですか!」
せっかく雰囲気変えてそう思われない見た目になれたかなって思ってたのに、と思わず小声で呟いてしまう。修兵から鋭いツッコミが飛んできそうだ。
真咲には聞こえていなかったため、そのまま彼女のペースで会話が続く。
「死神って何百年も生きてるんでしょ?だったら色々経験しないと人生損しちゃうよ」
「いいんです!既に波瀾万丈な人生過ごしてますから!」
やっぱり振り回されるのだ。この女の子には。
話の切り口が海燕と若干似ているように感じられるのも、あの当時と変わらない。
ただ、あの時とは違って何かに吹っ切れたような顔つきになっていたのは、少し安心した。
こんな状況でそんな話をされるのも困ったもんだが。
そして、要領の悪い隼人は虚に対する集中が切れている事に気付いていなかった。
戦闘開始のブザーが鳴っていることにも。
「というか僕だって一回イイ所までちゃんと行「口囃子くん、」
「虚閃来るよ」
「!!!」
既に発射された虚閃は10m先まで迫っていたが、さっき戦ったウルキオラのものに比べると少し遅かったので、瞬歩で躱すことは出来た。
勿論修行をきっちり遂行するために、真咲の身体を同時に運びつつ空中に移動し、彼女の負傷を防ぐ。
お姫様抱っこで。
「意外と度胸あるね。いきなり姫抱きなんて。・・・右手に杖持ってるせいで背中痛いけど」
「普通そうするでしょう・・・。嫌なら俵みたいに担いでやってもいいんですよ。虚にパンツ丸見えですけど」
夏服かつわざわざスカートを短くしているせいで、角度によってはがっつり見えてもおかしくない。
計算された巧妙な角度でギリギリ見えない、なんて器用な真似が出来そうではあるが、支えている死神が死神なので、そんな計算はすぐに崩壊してしまうだろう。
それを分かっていたのか、やっぱりぶっ飛んだ話を投擲してくる。
「だったらあたしが口囃子くんお姫様抱っこするからパンツ丸出しにしてよ」
「意味分かんねえ提案すんなコラ!つーかパンツじゃなくて下帯!」
「ほら来るよ!」
ツッコミどころはそこじゃない。
今度は虚閃ではなく、虚が直接二人の元へ飛びかかって来た。
空中に移動してしまったため、腕の中から彼女を放して落とす訳にはいかない。
そのため、強引に身体の向きを変えて虚を右側に見るようにし、簡単な鬼道の障壁でワンクッション置く。
壁の破壊で怯んだ隙に、察した真咲が身体を右に捻りつつ数十本の矢を同時に放った。
再び瞬歩で距離を取り、一旦小休憩という名の戦略変更を行う。
「ちょーっとこの態勢無理あるんで変えてもいいですか」
「えーー!せっかくあたしお姫様気分味わえてたのに残念・・・」
「・・・じゃじゃ馬お姫様」
「何か言った?」
「いいえ、何でもございませんお姫様~」
とは言いつつ、問答無用でお姫様抱っこから、真咲のお腹を左手で抱えるやり方で変えてやる。
そうじゃないと卍解が上手く出来ない。
でも単独行動させるのは心許ない気がしてならない。
なので、とにかく両方の問題点を即時的に解決する方法を取ることにした。
こうすれば真咲も両手が空いて矢を簡単に打てるし、隼人も卍解の力を普通に使えるので戦いやすい。
それと、真咲と行動を共にした理由はもう一つあった。
「来るぞ!」
「あたしの出番っ!」
真咲が霊子兵装を作り上げて
石田雨竜の銀嶺弧雀と同様に同時に数十発の矢を連射することができたが、隼人が干渉することで矢の数は飛躍的に上昇する。
隼人の力によって、真咲の矢は3000発放たれることとなった。
思いがけない物量に、干渉された真咲はおろか、隼人ですら「うえっ!?」と間抜けな声をあげて驚いてしまった。杖の形状が錫杖とは違う物に変化していることにも気付いていない。
3000発の矢を躱しきることなど虚には不可能であり、蜂の巣のように体中に穴があけられる。
だが、その様子を見て隼人は自分の力に一つの特徴を見つけた。
この卍解は、対象との距離と、霊圧の解析具合によって出来ることが変わってくる。
つまり、対象に触れるか霊圧を完全に解析すれば最大限の力が発揮でき、味方に触れていればずっと強化することも可能になってしまう。
しかし、敵に触れることはほぼ不可能なので、敵の弱体化に関しては時間をかけて霊圧を読まない限り期待できない。
故に、今の状態で虚に出来ることは、虚閃の方向を無理矢理反らす程度の事しかできなかった。
それから、干渉された真咲も驚いているようだった。
「それ、口囃子くんの力?」
「はい。真咲さんが矢を撃つタイミングに力に干渉して、至極単純に強化しました」
「ふーん、なるほどね・・・」
何か思案する素振りを見せるが、重傷を負った筈の虚が不気味な動きを見せた所で二人の意識はそちらに向かう。
「体が、再生してる・・・?」
真咲の恐怖を孕んだ分析に対して、その動きに見覚えのあった隼人が簡単に解説する。
「・・・超速再生か」
「何それ、聞いたことない。虚ってそんな能力あるの?」
「虚というより、破面の力です」
「・・・破面・・・?」
聞いたことの無い種族の名に混乱する真咲を尻目に、隼人は目の前の虚の分析を続ける。
戦闘の動き方は死神のものであるのだが、虚の霊圧を強く感じる。刀剣解放した破面か。
だが、破面の超速再生に比べると、かなり速度が遅い。発展途上の力のようにも見える。
また、基本的に破面は意思の疎通ができるが、この虚と会話できるようには思えない。
こうした虚の内実から、未完成の破面という形で結論付けた。
(海燕さんと同じで、この虚も藍染の実験に使われたってことか・・・?)
この実験によって犠牲となった死神に対して哀悼の意を捧げると共に、再び藍染に対する強い怒りがメラメラと湧きたってきそうだ。
また、ひょっとしたら真咲がこの虚と現実の世界で何らかの因縁があった可能性も否定できない。
さっきの戦いも違いこそあれ、空座決戦を模した戦いだった。この修行も現実にあった戦いと関係あるのかも。
20年程前に彼女と会った後に、彼女がこの虚によって負傷してしまったのであれば。これはある意味過去を変える戦いになるのではないか。
「(・・・尚更、負けられないな)」
「どうしたの?」
「いえ、とにかく勝ちましょうってことです」
「そんなフツーの事わざわざ思わせぶりに小声で言う必要あった?」
真咲のお気楽かつちょいちょい突っかかってくる言動のせいで最早精神鍛錬と化しつつあったが、気を取り直して今度はこちらから攻める。
はずだったが。
「ねえちょっと待ってストップストップ!」
「おうぇぇえっ!何ですか急に・・・」
「あたしにいい考えあるんだけど、乗らない?」
「はぁ?」
真咲からの想定外の提案は、やっぱりぶっ飛んだものだった。
*****
「ほっ・・・ほら~~、こっちこっち~~!!」
隼人の下手糞な誘導で注意が向いた虚は、超速再生で回復させた身体をフルに使って距離を詰める。
何だか超速再生をきっかけに全体的な能力が底上げされており、並の隊長なら苦戦してもおかしくないぐらいの強さになっている。
だが、さっきと違って真咲とは別行動を取ったため、今の隼人には何の制約も無い。
「破道の五十八 闐嵐」
術名を唱えると同時に、卍解の形状が再び変化した。
どうやら攻撃する時は、両端に円環のついた杖に変化するらしい。
そして、卍解状態で放つ闐嵐は、凄まじいものだった。
たった数秒の設置型の竜巻を置いたが、風速80m程の暴風が周囲に吹き荒れる。
遠くから真咲の文句っぽい声が聞こえてきたが、無視してそのまま追撃する。
「破道の七十 氷牙征嵐」
風とくれば、次は渦。
これもまた桁違いのスケールになりそうだったので、渦のサイズを小さくする代わりに威力をグンと高める。
竜巻で吹き飛んだ虚に自ら向かって行き、杖の端を虚に押し当てて氷の渦を生み出した。
渦の中に作られた氷の刃と、対象を急速に冷凍させる冷気で虚の動きを止めようとする。
だが、そう簡単に上手くいかないのが戦いだ。
氷に呑まれたにもかかわらず、剣となった腕が氷を突き破って外に出てくる。
「あぶねっ!!」
右腕を斬り落とされそうになった。
氷から出てくると、また超速再生で身体は元通りになる。
「キリが無いな、こりゃ・・・」
再び獣のように斬りかかってくる虚に対して、次は炎で立ち向かう。
「破道の七十三 双蓮蒼火墜」
卍解状態で使うと、火力アップの他に炎を扱う自由度が格段に上昇した。
以前のように直線状に蒼い炎をぶつけるだけでなく、流刃若火のように自在に扱うことが出来るようになった。
山本総隊長に比べれば出力は劣るが、戦術の幅が格段に広がった。
今回は足止めのために、炎の壁で虚の周囲を囲う。
「真咲さん!!まだですか!」
「今出来たところ!」
「了解です!」
ここでようやく本丸の作戦に入ることが出来た。
虚が壁を無理矢理抜けてきたが、それは予想の範囲内なので何も気にせず真咲の許に空間移動。
真咲の隣に着いた所で、準備は整った。
「これで、どうかな!」
何やら隠れてコソコソやっていた真咲は腰に見慣れない刀を装着し、ポケットから取り出した銀筒の蓋をあけて謎の液体を取り出す。
同時に、床に描かれた
丁度真ん中にいた虚は、陣の中に閉じ込められる。
その瞬間、真咲の描いた
爆発と同時に、隼人は再び真咲をお姫様だっこして距離を取り最後の作戦に取り掛かる。
爆発に巻き込まれはしたものの、やはり超速再生で虚の傷は癒えてしまう。
空中に飛んだ二人を見つけた虚は、やはり虚閃ではなく直接飛びかかって来た。
殺傷力の高い虚閃は、相手を追い詰めた段階で高濃度のものを打ってくると読んだ二人は、空中に留まって虚を待ち構える。
「来るよ、口囃子くん!!」
「大丈夫だ!」
再び杖の形状が変化し、真咲の霊圧を媒介にして霊力に干渉した。
桁違いの静血装を扱う真咲の霊力を強化し、彼女自身一度も出来なかった事を隼人の干渉で達成した。
二人を中心に作られた黄色い球状のバリアは、強化された虚の刃を止めるどころか、腕を折る程の堅さだった。
「這縄!!」
動きが止まったタイミングで虚を這縄で捕縛し、真咲の眼前に突きつける。
「よし、つーーーかまーーーえたっ!」
再び隼人の干渉を受けた真咲の矢は、雀蜂雷公鞭を思わせる程に絶大な威力だった。
矢が虚に突き刺さると同時に勢いで這縄が切れ、二人とも余波のせいで後ろに吹き飛ばされる。
クッション状の障壁を後ろに展開していなければ、大怪我するところだった。
矢を撃たれた虚は、壁まで縫い付けられると同時に身体ごと爆発した。凄まじい爆音だった。
「終わったか・・・?」
「倒せたみたいだね、良かった・・・。」
だが、修行は敵をただ倒せばいいだけではない。
「真咲さん、怪我してない?」
ここで怪我してたらやり直しだ。流石にちょっとそれは堪えるが・・・。
「うん。無傷だよ。ほらっ。」
座っていた状態から立ち上がって両手を広げ、真咲はいかにも私無傷です!アピールをする。
同時にブザー音が鳴り響き、目標を達成したことが脳内に直接桃明呪から伝えられた。