闘技場から戻り、さっきと同様に杖を桃明呪に渡してベンチに腰掛ける。
今回は無傷なので、霊力だけが回復した。
あの虚の対処は卍解さえ使えば正直どうってことなかったが、真咲を無傷の状態で戦い抜けと言われると、結構負担が重たかった。
ただでさえ神経を尖らせないといけない中、真咲の言葉によるちょっかいが厄介すぎて集中力が削がれてしまう。
正直卍解よりも精神力が鍛えられるような気がした。
「・・・なーーんて思ってるでしょ、口囃子くん!」
「うぉぉおおおおおえあぁっ!!何でここにいるんですか!」
「すぺしゃるあどばいざー」
「す、すぺ?何それ・・・」
桃明呪の言うカタカナ語が全く理解出来なかったが、どうせ聞いても理解出来なさそうと判断してわざとらしくため息をつき、精一杯の嫌そうな顔で真咲を睨めつける。
負けじと真咲も嫌な顔。
「何そのカオ」
「いや~、こんな所で油売ってなくてもいいんじゃないかな~って思って」
「あたしのここでの役回りは口囃子くんをイラつかせることだから。頑張って耐えてね」
「うわぁキリっとした目で堂々と言いやがったよ。・・・・・・一護くんとは大違いだな」
「何か言った?」
「いいえぇ~~~~なぁんでも~~~」
平子顔負けの顔芸で逆に真咲を挑発してやろうかと自分なりに小憎たらしい顔をしてみたのだが、どうやら全く上手く行ってないようで真咲の表情に変化は無かった。
構っていると逆に疲れるので、体を回復させたらすぐに自動ドアの前に移動して真咲から離れる。
そしてもちろん、ついてくる。
(・・・・・・)
ベンチに戻るとその後をしっかり追い、「ねぇあたし暇なんだけど」と突っかかってくる。
こっちの修行だコラと言いたいが、我慢して無視。黙るのが一番。
「・・・変態童貞」
「よーーーし!!!!こうなりゃ決闘だ!!!血を見るぞこのアマぁぁぁ!!」
「えっ!意外と短気だね!!」
と血みどろの死闘が始まろうとした所で、「次、始めるよ」と桃明呪から強制的にストップのお達しが来た。
*****
「残り2戦だから、応援してる。大丈夫、後は普通に勝てばいいだけだから」
「うん。・・・あと2戦か」
「頑張ってね~!」
何か、わざと薄っぺらくしているようにすら感じてしまう。
「貴女の応援はむしろ皮肉がこもってそうですねぇ」
「やだひっどーい!乙女の声援をちゃんと受け取らないとモテないよ?」
「・・・心が乱れる!」
もう真咲のちょっかいから逃れたくて仕方が無かったため、開いた自動ドアに向かい走っていき、次の対戦相手を待ち構えることにした。
今回も例に漏れず、こちら側の自動ドアが閉まると向こうのドアが開く形式だ。
出てきたのは。
「今日は、逃げずに僕と戦ってくれるかな?」
「・・・・・・石田くんか・・・」
そうは言うものの、石田の身なりは一護と一緒に銀城と戦った時のものと同じであり、2年前から格段に実力を上げていることは容易に予想がつく。
既に霊子兵装も持ち、いかにも準備万端、といった雰囲気を醸し出している。
自信満々。ドヤ顔が何とも現世の人間というか、高校生というか、若さに満ち溢れている。
「じゃあ今日も逃げよっかな」
「へぇ・・・それはつまり、二度も僕に敗北を喫することを意味するんじゃないかな?」
「違うよ。二回もみすみす取り逃した石田くんの浅慮が明らかになるんだよ」
「・・・随分と口が達者だね。でもその余裕、いつまで持つかな!?」
「!」
こめかみに若干の青筋を浮かべて、石田が矢を撃った所から戦いは始まった。
まず隼人は、自分の霊圧に干渉して他の隊長格に比べると鈍い機動力を飛躍的に上昇させる。
これにより、瞬歩を使わずとも連射してくる矢に障壁を使わず躱しきることが出来るようになる。
滅却師の矢に鬼道の防御は我慢比べになってしまい、そうなるとやはり攻撃する矢の方が強くなってしまう流れになるのは明らかだ。
全部矢を爆発させられていればいいのだが、そんな器用な真似をするにはもう少しちゃんと石田の霊圧を読まねばならない。
(ちょっと、考える時間が欲しいな・・・)
この石田との戦いは次の戦争で勝ち抜くために最も重要な修行になる予感がするので、一度鬼道で姿を消して身を隠し、しっかりと戦略を練ることにする。
お決まりの伏火と曲光のコンボで姿を消し、柱の陰に移動すると、「何処だ!!何処に隠れた!」と以前逃げた時と殆ど同じ台詞で隼人の姿を探しに入る。
(お互い遠距離での戦闘が得意なら、あえて距離を詰めて戦うか・・・?いや、こっちに近接戦闘の隠し玉が無い以上、霊力いじって戦闘乱すしかないか・・・)
うーんうーんと必死で焦りながらじっくり考えつつ石田を探ると、まだ見つけた素振りを示してはいない。
もっと考えたいとは思ったが、これからの実戦で隠れられる保証も無いため、いつまでも隠れるわけにはいかない。
(そろそろ、ちゃんと戦うか)
「破道の四十六
杖の先端から射出された氷のビームはしっかり石田の位置を狙ったにもかかわらず、掠りもしなかった。
「君が自分から出てくるとはね・・・。怖気づいてビクビク震えていたかと思ったよ」
「だってかくれんぼしてずっと見つけてもらえなかったら隠れるのに飽きるよ。鬼が無能だと一気に面白さガタ落ちだよね」
「・・・無能だと?この僕を、無能だと!?僕は黒崎
「・・・やっぱ、一護くんライバル視してるんだね・・・」
「うるさいっ!!!」
動揺した石田がすぐに霊子兵装から矢を連射するが、器用に縦横無尽な動きをして全ての矢を躱す。
時折隼人があちこちに光の盾を設置して、移動の最中その陰に隠れながら鬼道で反撃してずっと石田に攻撃させず、石田も防御のために
そして移動の最中、隼人は大技のための詠唱を分解しながら続けていた。
「―――湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる、(!!)」
一箇所に留まった場合すぐに石田から1000本以上の矢で撃たれてしまうため、瞬歩と空間移動を切り替えつつなるべくランダムに移動して石田を疲れさせようと画策する。
そうやって躱し、詠唱をしながらも、更に石田への攻撃も止めずにいた。
「絶えず自壊する泥の人形、・・・廃炎!!・・・結合せよ 反発せよ―――」
未だに石田の攻撃は一撃も当たっていないため、本気で狙っているか怪しく感じてしまう。
一方で隼人の攻撃はやはり卍解によって霊力が底上げされてパワーアップしており、廃炎で石田の矢を溶かすこともできた。
これなら変に躱さないで真っ向勝負でもいけるのではと思った所で、詠唱完了。
「地に満ち己の無力を知れ! 破道の九十 黒ひつ―――――」
だが、石田も同時に矢を撃つのを止め、不敵な笑みを浮かべる。
石田がポケットから取り出したのは、さっき真咲が持っていた銀筒と全く同じだった。
もちろん隼人の周囲には、五つの特殊な矢が地面に突き刺さっていた。
「ッ!」
「遅い」
瞬歩で逃げようとしたが、既に光の壁によって囲まれ、石田の作る
「自分の詠唱に気を取られて油断していたツケが回ってきた所かな?いやはや何とも、ダサい男だ」
「こんなの僕の鬼道で!破道の九十一 千手皎天汰炮!!」
だが、隼人の撃った霊子の矢は、石田の作った陣壁によっていとも簡単に崩れてしまった。
むしろ、
「何で・・・鬼道が、」
「
「何だと・・・!」
その場合、瞬歩で強引に結界を破ろうとすれば、最悪自分の体の霊子縫合が解けて吸収されてしまう。そうでなくとも大怪我する可能性は十分にあるだろう。
だからといって攻撃しようにも、隼人の場合全部の攻撃が鬼道になってしまうため、陣を破壊することはできない。
いくら何でも自分を巻き込んだ黒棺など、自爆行為だ。
打つ手なしに絶望の顔を見せる隼人を一瞥した石田は、左手で眼鏡をクイッと直し、霊子兵装を解いた右手で銀筒から液体を流し込む。
「終わりだよ。安らかに眠るがいい」
よりによって、さっきの修行で真咲が使った技が、まさか自分を倒す決定打になることまで頭が及ばなかった自分が悔しくてならない。
しかし結界越しの石田は既に動作を終え、何にかは分からないがカッコつけて結界に背を向けた。
何も出来ない隼人などお構いなしに、破芒陣は青白く眩い強烈な光を放つ。
そして、隼人を囲う巨大な結界は、柱を幾つか破壊する程の大爆発で、陣の中の地面ごと全てを吹き飛ばした。
「減らず口を叩いといて、油断するなんて僕からしたら考えられないな」
背後で爆発する風圧をその身に感じ取りながら、石田は自身を無能扱いしてきた男に対して小馬鹿にした態度をとる。
風が止んでから振り返り、爆心地に近付いて注意深く周囲を眺めてみると、床が抉れて融けており、赤くなった部分からは湯気も出ている。
(爆発で溶けていなくなったようだな。霊圧も無いし、死んだと見て間違いないようだ)
こうして、石田は隼人に勝利し闘技場から退出するために自動ドアに向かって歩いていく。
「ありがとう、僕のために戦ってくれて。君の死は決して無――――――」
融けた床から振り返ったその時。
眼前に、満面の笑みの口囃子隼人が立っていた。
「・・・!?」
「うぉらぁぁっっ!!!!!!」
全力の張り手で隼人が石田の体を赤い床に倒そうとするが、ギリギリで飛廉脚を応用した石田は、空中で静止することに成功した。
そこから態勢を持ち直してすぐさま離れ、安全地帯へと真っ先に移動しようとする。
だが、隼人の行動はそんなことを考えさせない程に俊敏かつ、残忍だった。
空中に跳躍した隼人は、上空から何とか踏みとどまった石田目がけて垂直落下。
1000℃以上の灼熱の床に、石田の身体は押し当てられてしまった。
「あ゛あ゛あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
肉が灼ける激痛に苦しみ、石田は熱から逃れるために隼人が直接踏んでいる腹以外の足と頭を少しでも床から離そうと試みる。ところがそれに気付いた隼人が石田の体の上をまるで平均台の上を歩くかのようにバランスを取りつつ移動し、石田の頭を足で床に押し付けた。
右頬を足で踏みつけたため、顔の左側全体を焼き鏝で押されているようなものだ。
肉が焼ける匂いが立ち込めるが、人肉の焼ける匂いは全くもって食欲がそそられない。
地獄のような苦しみに石田の目は血走るが、すぐに顔から血の色が消える。
顔の筋肉まで全部熔けてしまうと、終いには声すら上げなくなってしまった。
触れていた石田ごと空間転移して別の場所に移り石田の様子を窺うが、顔半分だけでなく、背中側の身体全体が融解していたため、生命活動は完全に止まっていた。
「うわっ・・・いくら何でも、ちょっとやりすぎちゃったかな・・・」
*****
実はあの時石田の破芒陣に囲まれ万事休すかと思われたが、結局空間転移をすればそれは瞬歩のように結界の内と外を通り抜けるのではなく、内側の一点から外側の一点に移動するだけなので、何の問題も無かった。
爆発を石田とは真反対の位置から眺め、巻き込まれていたら死んでいたなと悍ましい恐怖に身震いするが、とりあえずそのまま霊圧を消して石田に接近し、油断の隙を突こうと時機を窺う。
そんな時に。
『減らず口を叩いといて、油断するなんて僕からしたら考えられないな』
別に大したこと無い台詞なのに、言い方のせいで何だか物凄くムカついてしまった。
これでは真咲に短気だと言われても、ぐうの音も出ないだろう。
だからこそ、あんな残酷なやり方を取ってしまったのだ。
ただ、いくら滅却師でも、藍染と戦った時は味方側だった人間に対してあんな所業をするのは、今考えると自分でも恐ろしく感じてくる。
別に裏切っているわけでもないし、特別憎しみを持っているわけでもないのに、こんなえげつない死体にしてしまうのは若干の申し訳なさすら感じていた。
そこが、自分の甘さであることにまだ隼人は気付いていない。
「・・・・・・治すか。寝覚め悪いし」
一度殺した相手を治すという、思いがけないまさかの方向に修行がシフトしてしまった。