ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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蘇生回道

安置した石田の死体は既に死後の霊圧を放っていたが、構わず隼人は回道で溶けた肉体の修復を行う。

錫杖の先端から発出された緑色の光は石田の身体を覆いこみ、見る見るうちに無くなった身体を修復していく。

卍解で使う回道は、井上織姫の双天帰盾をも優に上回る速度だった。

 

(とりあえず傷は全部治ったな。あとはどうやって命を取り戻させるかだなぁ・・・)

 

本来戦闘が終わったらブザーが鳴って自動ドアが開くのだが、桃明呪が察したのかブザーが鳴ることはなかった。

これも修行の一つとしてカウントしてくれるようだ。ならばとにかく、石田の命を取り戻さねばならない。

 

(まずは純粋に回道の出力を最大まで上げてみるか・・・)

 

咄嗟に思いついた方法を使ってみるが、結局修復された身体が動き出すことは無かった。むしろ過回復で身体を逆に痛めつける危険があった。

 

 

「え~やっぱ無理かなぁ?じゃあ霊圧からいくしかないか・・・」

 

 

思わずでた独り言に答えてくれる人もいないためにちょっぴり寂しいが、諦めず別方向からアプローチする。

 

死体の霊圧を媒介にして魂魄に干渉し、止まった心臓の拍動を再起動させる。

これがダメならもう方法は無いだろう。

別にやる必要も無い行動なのに、ちょっとした負い目があったからか少しばかり隼人の心は燃えていた。

左手に杖を持ち、右手は石田の胸に触れて心臓の拍動の有無をチェックする。

 

(行けるか・・・?)

 

力を籠めると同時に、死体の霊圧が大きく揺らぐ。

まずは魄睡に霊圧を直接送り、それから送った隼人の霊圧を操作して石田の魄睡と鎖結を再び結合させる。

 

(繋がったぞ!)

 

鎖結は霊力発生のブースターなので、この二つが繋がればとりあえず霊力については少しずつの回復が見込める。

だが心臓の拍動は未だに止まったままなので、こっちをどうにかしなければ生き返ることは無いだろう。

 

(とりあえず、死神の魄動を再生させるのと同じ考え方でやってみるか)

 

とは考えるものの、一度止まった魄動を人為的に再生させることの前例など一つも無いため、我流で攻めるしかなかった。

現世では心肺停止の人間に電気ショックを与えて心臓を動かすとかいう話を拳西から聞いたことがあったが、鬼道の力で扱う電圧では強すぎて感電死してしまう。

 

それ故、隼人は石田の止まった心臓に、自らの魄動と同じタイミングで霊圧を注入し、循環する流れを作り出そうとした。

自分の魄動など知る由もないので勘になってしまうが、大体のタイミングというか間隔は、一般常識として染みついていた。

同じ姿勢のまま、霊圧を注ぎ込む。

 

(・・・頭が、キツイな・・・)

 

綿密な霊圧操作は同時に脳への負荷を強くかけてしまい、修行の最初の頃よりも相当に強い痛みが頭の中で木霊する。

僅かな霊圧量の誤差も許されない中、30回霊圧を注ぎ込んだ所で一度心臓に耳を当てて様子見する。

 

(動いてるけど、段々音が弱くなってる・・・)

 

今度は仰向けに寝る石田の胸に耳を当てた状態で同時に心臓に霊圧を注ぎ込む。

適当なタイミングで心臓に霊圧を注げば拍動がぐちゃぐちゃになり、心臓が破裂する可能性もあるので細心の注意を払う。

 

(ッ・・・!頭痛いな・・・!)

 

激痛の中何とか今度は60回霊圧を注ぎ込んで再び様子見すると、弱いながらも心臓の拍動が安定してきた。

ここまで来れば既存の回道でイケる。

立ち上がった隼人は昔斬魄刀に願掛けした時と同様に、卍解に祈りを捧げる。

以前卯ノ花から教わった回復力として最高の回道を卍解で強化することで、究極の蘇生回道を石田に発動させた。

 

全細胞の完全修復が一瞬で行われ、石田は戦闘前の無傷の状態に遂に戻った。

同時に、失っていた意識もすぐに取り戻す。

 

 

「っ・・・、・・・ん・・・?」

「やっと気が付いたみたいだね」

「!!!」

 

 

目覚めた石田はすぐに隼人から距離をとって霊子兵装を作り出し、あっという間に矢を撃つ準備を整える。

あんな仕打ちをされた以上、敵意を示さない方がおかしいのでこれは順当な動きだと言える。

 

 

「身体、動くでしょ?僕が治したんだ」

「・・・何だ、何の真似だ。君は何がしたいんだ!」

「ちょっとさすがに悪い事したなって思ってさ。ごめんなさい」

「そうやって僕を騙すつもりか!油断した所で再び僕を融けた床に―――」

 

 

と石田は横を見たが、熱で赤かった床はすでに焦げて真っ黒になっており、湯気も出ていない。

 

 

「氷の鬼道で冷やしといた。だからもう石田くんには何もしないから。というか頭痛くて何もできない」

「信用できないな。その武器を置いて両手を上げろ。さもないとすぐに撃つぞ」

「!!・・・いいよ」

 

 

石田の要求をすぐに呑んだ隼人は卍解の杖を床に置き、両手を上にして攻撃をしない意思を示す。

 

(何かこれ、現世の刑事ドラマで見たことある・・・!)

 

鬼道を使える以上両手を上げても全く意味ないことに気付かない程、今の状況に隼人は少しテンションが上がっていた。

確かドラマを観た後、白と刑事ドラマごっこをして平子に怒られた後さらに拳西に怒られた気がする。

 

(何て思い出してる場合じゃねえ!早く石田くんの気をなだめないと!)

 

 

「ほっ、ほらっ!もう攻撃しないから!いいだろ!?(早く戻りてえ・・・)」

「いや、君が武器を置いてもスッキリしないな。軽く一発撃たせてくれ」

「えっ、ちょっ、ちょっとダメ!」

「問答無用!!」

 

 

元々撃つ気満々だったのだろう。たった一本の矢だが、石田の集中力の影響でかなりの速度が出ている。

床に置いた杖を拾いつつ、鬼道で壁を作って何とか防ぐ。

 

だが、壁を作った所で石田の回復に力を使い過ぎた隼人は力尽き、倒れてしまった。

壁に当たった矢は止まったが貫通しており、いかに自分の霊力が弱まっていたのかが如実に伝わってくる。壁は、信じられない程脆かった。

 

(もう、限界だよ~~・・・)

 

倒れた所でブザーが鳴り、石田を相手にした色んな意味での修行はようやく終わった。

 

 

 

*****

 

 

 

「石田雨竜、この世に生き残った最後の滅却師だ。私は、」

 

 

「この者を、()()()()()に指名する」

 

 

ユーハバッハ(陛下)の報せで見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)に激震が走った後、個人主義色の強い星十字騎士団(シュテルンリッター)の多くは強い不満、蟠りを心に抱えざるを得なかった。

 

 

「で?どうすんのリル?あの石田って奴ゾンビにしちゃう?」

「止めとけ。出しゃばった真似したら殺されるぞ」

「私は別に、次の皇帝が誰であろうと構わないの・・・」

「・・・っていうか、誰もこの前の戦いに関してあたしに訊こうとしないのかよ・・・」

 

 

呆れながらいじけるという面倒くさい反応を見せるキャンディに、これまた冷静にリルトットが応じた。

 

 

「キャンディが戦ったのは朽木ルキアだろ?大した事ねえ奴と戦った結果なんか聞いてもムダだ。」

「まぁ確かに大したこと無かったな。あたしが本気の本気出す前に倒しちまったし」

完聖体(フォルシュテンディッヒ)も持ってないキャンディちゃんが倒せちゃうならボクたちの敵じゃないもんねぇ?」

「・・・悪かったよ、弱くてさ」

 

 

いつもの癇癪持ちな性格はナリを潜めてキャンディがしょげていたところで、通り過ぎようとしていた部屋から「かっ!ぱあああ~~~~!!!!」という男の情けない叫び声が響き渡ってきた。

 

全員が「ハーーーーッ」とため息をつきながら、部屋の主の許へ訪ねた。

 

 

「あーあーあーーもーー!またこんなに汚してーーーー!!」

 

 

部屋の中にいたのはもちろん、気に入った男を誘惑して殺すある意味クレオパトラ真っ青のような女、バンビエッタ・バスターバイン。

縦に一刀両断された男はもちろん聖兵(ゾルダート)の中ではかなりのイケメンだ。

確かに部屋は血で汚れたが、今しがた来訪した四人の女性もバンビエッタの部屋に来ては大いに汚すことはあるので、意味分からないといった感じで返答したが。

 

 

「お菓子の食べこぼしと血しぶきは別物だろうが、クソビッチが」

「せめて外でやればいいんじゃないかと思うの・・・」

 

 

リルトットとミニーニャからは案の定辛辣なツッコミが返って来た。外でやるべきなどごもっともとしか思えない。

いや外で性行為するのかよというツッコミは勿論届く筈もない。

一方のキャンディは部下をつまむクセを止めろと苦言を呈し、ジゼルは逆にキャンディをイジる。

二人のどうでもよくどうしようもない論争が始まろうとした所で、かしましい空間に耐えられなくなったバンビエッタが壁に爆弾をぶつけた。

 

 

「・・・ちょっと、静かにしてくれる?あたし今悩み事あるんだから」

「・・・何よ?悩みって」

「決まってんでしょ」

 

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の未来についてよ」

 

 

部屋から出て行ったバンビエッタを見送る四人は、再び盛大にため息をつく。

新参者ともいえる自分達の中でここまでふんぞり返っているのは、恐らく星十字騎士団の中で自分だけが隊長を一人殺したという自負があるからだろう。

他の出軍した星十字騎士団より、私の力は優れている。そう思い込んだバンビエッタは、時々他の騎士団に突っかかってイラつかせたりもしていた。

この四人も、戦争後からは明らかに彼女に下に見られているなと感じる程には心の動きに敏感で、皆直接口には出さないが心の内にモヤモヤは残っていた。

 

結局行くアテもそんなにないので、前と同じように情報室(ダーテン・ツィマー)で更新された敵の情報をチェックすることにした。

 

 

「一、六、七、十、十一は壊滅したのか。思ったより死神は大したこと無えようだな」

「えーーーーッ!!ボクたくさんゾンビ作りたかったのになァ、残念・・・」

「雑魚のゾンビ大量に作るだけでも十分ですよぅ~~><」

 

 

と、ミニーニャがいい加減な励ましをジゼルに投げかけている所を一瞥し、リルトットは先の戦前にキャンディに話したことを思い出す。

あの最も危険な死神について。

 

 

「おい、口囃子隼人には出くわさなかったか?」

「あぁ、遭ってねえよ。バンビが七番隊と戦ってたところに行ったけど、この顔の死神は見てないな」

「でもさでもさ、七番隊ってみーーーんなバンビちゃんが殺しちゃったんでしょーーッ?」

「だったら、その中に紛れてるかもしれませんねぇ」

「そうだといいけどな・・・」

「こんな地味な顔の子、大勢死神がいたら分からないと思うなァ。きっとバンビちゃんの爆弾に紛れて死んじゃったんだよ」

 

 

うんうんとミニーニャとキャンディも頷き、タブレットも自動的に八番隊隊長に移ったため、場の流れは完全に京楽の方に移ってしまった。

リルトットだけが不安視していたものの、結局他の四人に合わせて、卍解不明の京楽の危険性についてあれこれと適当に談義することにした。

 

 

 

*****

 

 

 

「チッ・・・まともに戦ってねえ奴が横槍挟んでくンじゃねえよ」

「戦ったぜ?矢一本撃った」

「それのどこが攻撃なんだよ!!」

「攻撃だぜ?毒入りプールも使ってるし十分俺は戦ったなァ、肩が痛い肩が痛い」

「だったら最初っからそう言えよ・・・!」

 

 

バズビーは、浮竹にみすみすやられ、総隊長相手にも重傷を負い、銀架城(ジルバーン)に帰れば謎の滅却師が後継者に指名され、文句を言いに行こうとすればハッシュヴァルトに止められ、戦おうとしたらナックルヴァールに止められ、全くもって事が思い通りに進まず苛立ちが限界を超えていた。暴走せずに我慢出来ているのがむしろ凄い。

些細な事でも火に油を注ぎかねない状況の中だが、隣にいたナックルヴァールは落ち着いて諭した。

 

 

「余裕持った方がいいぜ?こんな所で暴れりゃまず陛下が黙っちゃいねェ。あんたの暴走をきっかけに星十字騎士団に悪影響が及んで石田雨竜が殺されれば大問題だ。」

「あァ?だったらその方が俺にとっては「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)にとっては不都合だ」

「―――・・・」

 

 

石田の力はユーハバッハ本人がその力に対して全幅の信頼を寄せているという噂もナックルヴァールの耳にはとっくに入っていた。

それに加えて。

 

 

『異論は認めぬ、懸念も要らぬ。この者の力はこの先の戦いで、ここに居る全員がその身を以て知る事になろう』

 

 

ここまでの言葉を滅却師相手に発するユーハバッハの姿を見たのは、ナックルヴァールにとっても初めてだった。

ただ、自分なんかよりも大昔に陛下に付き従ったリジェ、ジェラルド、ペルニダあたりは言われてもおかしくなさそうだが。少なくとも、自分が言われた記憶は無いと、ナックルヴァールは自身の記憶を辿る。

 

 

「ひょっとしたら、俺やあんたの力なんかちっぽけに見えるかもしれねェ。いいから黙ってカフェオレでも飲んどけ」

「・・・ンなモン要るか!」

 

 

水筒のカップに注いだ甘めのカフェオレを差し出したが、バズビーは突っぱねてその場を後にする。

ナックルヴァールも、とりあえずいざこざが起きなかったことを安心しつつ、次の戦でも傍観を決めこむつもりでいようかなどと、傍から聞けばすっとぼけたことを真面目に考えてカップのカフェオレを口に含んだ。

 

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