ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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ぶっ倒れた身体は、一発矢を撃ってスッキリした石田が運んでくれたらしい。

目を覚ました時はベンチに横たわっていて既に完全回復していた。

すぺしゃるあどばいざーの真咲も結局いなくなっていた。

 

 

「次が最後。応援してる」

「了解!」

 

 

杖を貰って闘技場に入り、修行で最後の戦いの敵に備える。

 

(最後は一体誰だ・・・?拳西さんか・・・?いや、山本総隊長?それとも雀部副隊長?)

 

と考えていたら。

 

 

閉じていた自動ドアを突き破って、特濃の霊圧の刃が猛スピードで押し寄せてきた。

 

 

「!!ってこれ、防げねえかも!!!」

 

 

ウルキオラ戦のように眼前に障壁を置いて錫杖を回転させることで、壁の耐久度を上昇させるが間に合うか。

だが、そんな賭けはするまでも無かった。

 

前から向かってきた霊圧は少し斜めに発射されたらしく、隼人の頭上を掠めて直接吞み込まれることは無かった。

だが、壁にはヒビが入っていた。

 

いきなりこんなべらぼうな攻撃をしてくる奴など、一人しかいない。

 

 

「よぉ、口囃子さん!」

「・・・なんで最後が一護くんなの・・・」

 

 

負け試合確定じゃねえかよ!!とめちゃくちゃ文句を言いたい所だが、そりゃあ修行の最後はこれぐらい強い相手と戦えなきゃダメでしょという思いも勿論あるので、不満は心の中に留める。

ここで一護に負ければ、京楽の期待に応えることも出来ないし。

あのツルッパゲのおじさんがくれた鬼道の本も、モノにできなくなってしまう。

 

 

「いやぁー、悪りぃな外しちまって。今度はしっかり狙って当ててやるよ」

「堂々と殺害宣言しないでくれ・・・月牙天衝真に受けて生きてられる自信まだ無い・・・」

「あ?何言ってんだよ?」

 

 

()()()()()()()()()()?」

「・・・へ?」

「ほら」

 

 

と一護が言った時には、既に目の前は真っ白だった。

瞬間、全身が焼けるように斬り刻まれ、危険すぎる剣圧から強引に逃れるために隼人からも攻撃して相殺する。

 

 

「らァッ!!!」

(!)

 

 

杖の先端から霊圧の光線を放ち、とりあえず一護が適当に放った剣圧を相殺する。

 

 

「何だよ、あんたも俺と似たような技使えんのか。だったら手加減する必要無えな」

「いやぁうーん、ちょっと違うと思うよ?だから手加減出来るならしてほしいなぁ、なんて・・・無理か・・・」

 

 

あの真咲の息子だ。どうせ御託を並べて聞く耳を持たない予感しかしない。

それならもう、正々堂々戦ってやろうではないか。

凄まじい潜在能力を持つ一護相手に勝てたなら、それはもう限りない自信になるし、ほとんどの隊長と対等に渡り合えるようになるだろう。

 

 

「・・・ええい!ままよ!!どうにでもなる!やろう!!」

「俺とやり合う覚悟が出来たみてえだな。ッしゃあ!いくぜ!!」

 

 

自分に回道をかけて回復させた後に一護が一瞬で距離を詰めてきたので、即席の鬼道の膜で体を覆って耐久力を増大させる。

一護相手に斬術と拳打では到底張り合えそうもないので、殆どの斬撃を器用に躱しつつ、たまに壁を作って一護の動きを怯ませようとする。

杖なんかで鍔競り合いしてしまえば絶対に杖が折れてしまうので、防御はやはり鬼道の壁という手段しか無い。

 

 

「俺ばっか攻撃してんじゃねえか。避けてばっかじゃつまんねえよ」

「でっかい刀に杖で張り合えるわけないじゃん!」

「知るかよ!やってみなくちゃ分かんねえだろ!」

 

 

そんな挑発に乗るつもりなどない。

完全に向こうのペースになっているので一度距離を取りたいが、隼人の狙いを見透かした一護は絶対に隙を作らせず、逃さない。

鬼道で作った壁があろうと全て勢いのままに一刀両断し、狼狽えるどころか怯みもせずに立て続けに斬撃を当てようとする。

このままじゃ、躱すだけで全ての力を使いかねない。

 

しかし、煮え切らない隼人の態度に業を煮やした一護は、一連の動作と全く同じ動きで高密度の剣圧を至近距離から撃ち放った。

 

 

「ふっ!!」

「ッ!またかよ!」

 

 

だが、これは隼人にとってまたとないチャンスであり、一護が剣圧を放つことを狙っていた。

傷を負うのを覚悟の上で、再び杖を切り替えて迎撃にかかる。

 

 

「黄火閃!」

 

 

一護が軽く放った剣圧よりも圧倒的に出力を上げて全て打ち消し、剣圧を放って油断した一護に霊圧で火傷を起こさせる。

だが、もちろん一護は黄色い霊圧を縦に真っ二つにし、再び瞬歩で距離を詰める。

もちろんそれも、織り込み済みだった。

 

 

「おい、何だよそれ、すげぇな」

「卍解すればこれぐらいの工夫ぐらいどうってことないから。・・・一護くんには効かないかもだけど」

 

 

空中に瞬間移動した隼人は杖に祈りを捧げ、廃炎に手を加える。

まるで土星や木星の輪のように、自分を中心に円盤状に無数の火球を作り上げて巨大な廃炎を作り出し、そのまま一護に向かって自分もろとも特攻する。

これなら剣圧で防ぐことは出来ない。

だが、

 

 

隼人は、剣圧に意識をとられて一護の使う()()()()の存在をすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「これでやっとあっちのペースから解放・・・、(!)」

 

 

お馴染みの構えをとった一護の身体から青白い霊圧が炎のように迸り、空間全体が彼の霊圧に塗り替えられていく。

天に向かって伸びていく霊圧が部屋に満たされていき、隼人の周囲に巡らせていた火球は一護の霊圧によって逆に焼き切れていった。

 

(まずい!距離とったら月牙天衝のチャンス与えちまった!)

 

直撃したら、間違いなく死ぬ。

断空で防ぐことは今の実力では不可能。

ならば、これしかなかった。

 

 

「月牙・・・天衝!!!」

「破道の九十 黒棺!!!」

 

 

月牙天衝を黒棺の中に閉じ込め、その中で爆発させる。

咄嗟に思いついた方法はこれしかなく、成功する確証など全くなかった。

そして、案の定悪い方向に事態は進んでしまう。

 

 

一護の月牙天衝は、黒棺の霊子ごと斜めに一刀両断。

詠唱破棄の黒棺では、月牙天衝を棺の中に閉じ込める強度すら持ちえなかった。

 

(――――最悪だ・・・)

 

黒棺を斬った月牙天衝は、そのまま隼人の体に吸い寄せられるように直撃する。

もちろん、土壇場で作った壁など雀の涙の効果も無かった。

 

 

「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッ!!!!!!!!」

 

 

空中でまともに月牙天衝を喰らった隼人は、斜めに斬られた上半身から大量の血を流しつつ落下していく。杖も持てず、カランカランと落ちた杖から金属音が響き渡った。

卍解で力をつけていたからこそ致命傷でとどまった。

以前のままだったら、体を真っ二つにされて息絶えていた。

 

 

「おい、卍解しといてそんなモンかよ。2年前の恋次より弱いんじゃねえの?」

「・・・・・・、」

「俺、卍解してねえんだけど。あんた全然大したこと無えのな。弱すぎだろ」

 

 

床に倒れた隼人の許に歩いて近寄り、無傷の一護が格の違いを見せつける。

本来の一護ならそんな事しないはずだが、きっとこの世界にいるから強い言葉をぶつけるのだろう。

隼人の眠れる力を引き出すために。

 

 

「俺の月牙天衝も防げねえから藍染にも簡単にやられちまうんだよ。んな中途半端な力で他のヤツ護ってやるなんて考えてんじゃねえよ。出しゃばんねえで大人しく引っ込んでろ」

「・・・引っ込んでろ、だと・・・?」

 

 

近くに落ちた杖を必死の思いで手に取り、腹に回道を当てようとする。

そんな中発せられた一護の言葉は、到底承服できかねるものだった。

 

 

「僕が、どれだけの思いで強くなろうとしてるか、知らんクセにそんな戯言言いやがって・・・!」

「復讐のためだろ?」

 

 

 

 

「ガキじゃあるめえし、馬鹿かよ」

 

 

 

冷めた一護のぞんざいな言葉に、プツリと理性の糸が切れる。

嫌な感情が頭の中に流入し、全身を駆け巡っていく。

荒々しく回道を身体に廻して強引に傷を回復し、無理矢理開き直った隼人は暴虐的な思いに駆られてしまった。

 

 

「ああそうだよ、ガキで何が悪いんだよ。お子ちゃまみたいな理由で何が悪いんだよ!」

「そんな適当な理由で次の戦の間中持つのかよ」

「ッ・・・!そうやって、拳西さんと約束したから!」

「答えになってねえよ」

 

 

ぴしゃりと一蹴され、遂に反論の言葉を考えられなくなってしまう。

そもそも他人を持ち出した時点で、一護からしたら呆れたようなものだった。

 

 

「・・・ちゃんと自分で考えてねえのかよ」

「ふざけんじゃねえ!!考えてるよ!!狛村隊長たちを殺した滅却師を僕の手で殺してやる!隊長たちの分まで僕があいつらをぶっ殺してやるんだよ!!」

「だったら皆を護るでいいじゃねえか!もっと仲間のことを考えろよ!今のままのあんたが卍解手にしたら何やらかすかわかんねえんだよ!」

「テメェに僕の何がわかるんだ!!銀城空吾に力奪われてびーびー泣いてた癖に、僕達が力あげた途端イキりやがった中途半端な奴の癖に、上から目線で調子乗ってんじゃねえよ!!!!」

 

 

考えもしなかったどす黒い感情が、溢れ出してくる。

数か月前の出来事を見た時嬉しかった反面、どこか引っ掛かる点があった。

一体何故、他人からの力でこんなに自信を持てるのだろうか。

自分の力でもないのに、どうしてさも当然の如く力を振るうのか。

恐らく誰もが暗黙の了解として黙っていた絶対に言ってはいけないことをぶつけた隼人に対しても、一護は強い怒りこそ感じていたが冷静だった。

 

 

「分かる訳ねえだろ。」

「何だよそれ、だったら他人の心の中にズケズケと割り込んでくんなよ!」

「だったらあんたは俺の何が分かんだよ」

「ッ・・・、それは・・・」

 

 

一護の纏う霊圧が、次第に濃密なものへと変貌を遂げていく。

棘のある霊圧を真に受け、反論のために考えた言葉が舌の上で散らかっていくようだった。

 

 

「俺の地獄はあんたに分かる訳ねえだろ。死神の力を失った後に、モノにした完現術の力を奪われた俺の地獄が、あんたみたいな普通の死神に分かってたまるかよ。つーか簡単に理解されたくもねえよ」

 

 

だが、霊圧とは対照的に、一護の言葉は隼人を諭すものに変わっていった。

 

 

「俺と口囃子さんはただの他人だ、住む世界も違う。あんたにはあんたの辛い記憶があるんだろ?簡単に他人に分かってもらいたくない地獄があるんだろ?」

「――――・・・・・・、」

「でもよ、いつまで過去の地獄に縛られてんだよ。口囃子さんが苦しんでんのを見て狛村さんも射場さんも喜ぶのか?復讐するために力使うのをあの人達が願ってんのか?」

 

 

違う。それは拳西とぶつかった時に絶対に違うと理解はしていたが、結局心の奥底では未だ消化しきれていなかった。

 

そして今の言葉は、度重なる絶望を這い上がって来た一護だからこそ言えたのかもしれない。

乗り越えられないような困難に対して、他人に助けられながらも自力で立ち上がって克服してきた一護の姿が、隼人にとってはひどく眩しく、羨ましかった。

100年前隼人に襲い掛かって来た絶望は、本人が戻ってきたことで解決してしまったため、結局自力で克服できたとは言えなかったから。

100年前皆がいなくなっても、生きていると信じていたから。

 

最も近しい人の本当の意味での喪失が初めてだった隼人は、内心動揺が収まらないあまりに狛村から託された言葉の意味を曲解していたのだ。

 

 

「復讐だけじゃ力も持たねえよ。もっと軽く考えてみたらどうだ?あんたが自由に力を振るうのを、あの人達は望んでるはずだぜ?」

 

 

全く同じ意味の言葉なのに、今では見え方が180°違った。

狛村の手紙はむしろ隼人に独り立ちして自分の思うままに動いてもらうことを願うものだったのだが、滅却師に無残に殺された恨み、怒りが勝ってしまい、復讐が第一になっていたのだ。

戦の後のことを、全くもって何も考えていなかった。

 

不必要な身体の詰まりが、取れていくような気がする。

それと同時に身体の強張りも解けていき、身体からどんどん霊圧が溢れ出てくる。

 

ようやく、狛村の言葉を文字通り受け入れることができた。

他人のためではなく、自分のために。

自分が護りたい仲間のために、力を使う。

霊圧探査に乏しい一護でも、隼人の身体に大きな変化が訪れたのをすぐに感知できた。

 

 

「ほんと、何考えてたんだろ。隊長の言葉をあんな間違った解釈しちゃうなんて、部下として失格じゃん」

 

 

奥底に眠っていた力が、濁流のように体の表面に押し寄せてくる。

その霊圧量は、放っておけば持ち主を自壊させてもおかしくない。

並の隊長格など優に上回る極大の霊圧が、杖の先端に集約していく。

 

 

「破道の六十三 雷吼炮」

 

 

一護に向けて放たれた雷吼炮は、闘技場全体を覆いつくす程の暴力的な砲撃へと大変貌を遂げたのだった。

 




卍解の形状について改めて説明すると、回復、防御の時は錫杖に変化し、攻撃の時は魔導士が使うような西洋杖に変化します。攻撃時の杖のモチーフは、FF7REMAKEのエアリスのミスリルロッドです。
また、味方(自分)の補助や敵の弱体化の時も杖の形が変化していますが、この形状は卍解の名に関わるので修行の段階ではぼかしています。

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