卍解を手にした時から、隼人は一つ違和感を感じていた。
何故か、目に見えた身体の変化を感じられなかったのだ。
もちろん攻守、回復全ての力は上昇しているのだが、他の死神の卍解に比べれば力不足感は持ち主の隼人が一番に感じていた。
何故なら、京楽が釣り合いに出した更木剣八に比べれば、屁にも満たない力だったから。
たしかに真咲の力に干渉した時はかなりの効果を発揮していた。一本の矢を雀蜂雷公鞭並の威力まで引き上げたのは、真咲と隼人の高い実力が組み合わさった所産であるだろう。
だが、それが更木剣八に匹敵するかと言われた場合、間違いなく意見が分かれてしまうだろう。
それ以前に当の本人に全否定される可能性の方が十分に高い。
そして今、ようやく隼人は京楽の
「破道の六十三 雷吼炮」
鬼道が放たれると同時に、空間全体が真っ白に包まれる。
片手に握った細い杖から、雷の壁が一護に向かって押し寄せてきた。
(!!!)
向かってくるのが砲撃ではなく、最早壁なので、躱すことは不可能。
始解の状態で斬ることも、出来るわけがない。
「卍解!!!」
一護自身(といっても本人ではないが)、こんな焦りを持った状態で卍解を唱えたことなど初めてだった。
斬魄刀の力を上昇させる段階で一護の周囲には風が吹き乱れるが、その力をも使ったまさに全力の太刀で、一護は迎撃にかかった。
「月牙天衝!!!!」
いつもの癖である言葉の溜めもする余裕が無い程に、即時的に最大限の力を押し寄せるてくる雷の壁にぶつけたが。
そして、隼人の放った雷の壁が猛スピードで押し寄せてきたからか、一護は月牙天衝が打ち消されたことをも気付かぬままに雷に呑まれていった。
*****
もはや鬼道の概念すら変えかねない程の凄まじい砲撃が放たれた現場は、原形を留めていなかった。
円形闘技場の壁は丁度半分を境に完全に無くなっており、隼人のいた場所から向こう側にかけて真っ暗な暗闇のトンネル状態になっていた。周囲には若干の電流がビリビリと走っている。
横にあったガラス窓の向こう側にいる研究員は、何やら大慌てで動き回っている。
むしろ壁が大破している以上強化ガラスの向こう側も巻き込まれてもおかしくないが、余程安全なのだろう。
雷吼炮が直撃した一護は、卍解の状態で倒れていた。
が。
「いやーすっげえな!!」
何やら嬉しそうな顔をして、跳び起きて隼人の許へ駆け寄ってきた。
「俺の月牙天衝があっという間に消えちまったぜ。剣八と闘った時みてえだったぞ」
「・・・まだ終わってないんだけど」
「止めてくれ。
「は・・・?」
隼人の困惑の声が漏れると同時に、自動ドアの開く音が聞こえた。
「合格。これで私の修行は終わり」
「えっ・・・、えっ!?終わり!?一護くん殺すんじゃないの!?」
「闘技場が壊されたら試合は続行できない。十分こばやしの力がついた証明になった」
少々投げやりに隼人に説明した後、桃明呪は一護に向かって言葉を綴る。
「・・・ありがとう。こばやしの中にある本当の力を引き出してくれて」
「・・・ああ」
桃明呪が最後の相手に一護を選んだのは、真に身体の内から発せられる隼人の力を真に受けられるのは、現時点で一護しかいないと判断したからだ。
更木剣八も候補に入っていたが、まともな斬術を知らないという理由で候補から消した。
しかし、一護は浦原喜助に数日間指導されたおかげで、基本的な斬術は既に備わっている。
二枚屋王悦の
「大丈夫だよ、いちご。・・・陰ながら、応援してる」
「・・・そうか、ありがとな」
「・・・色々気付かせてくれてありがとう、一護くん」
「別にあんたが間違ってるって言いてえワケじゃねえからな。あんたの考えも十分わかるぜ。でも過去に囚われすぎんなよ。前見て進め」
「もうそれ、何回も色んな人から言われてるよ。耳が痛いね」
「じゃあな、頑張れよ、口囃子さん!」
と励ましの言葉をかけた一護は破壊された壁の方へ歩いていき、暗闇へと消えていった。
*****
「・・・壁、もう少し、壊れると思ってた」
「え?」
「さっきのは及第点だよ」
「うそぉーーーん!あれで!!?」
ベンチに戻って回復すると、まさかの辛口コメントが桃明呪から投げかけられてしまった。
彼女曰く、闘技場全部が大破するのが文句を言わない合格であり、半分ちょいの破壊だけだとギリギリだったらしい。何か堂々と合格って言われたので褒められるかと思っていた。
そもそも、闘技場の壁を貫かなかったら不合格として卍解を与えることも止めていたそうだ。
また、壁を貫いても一護が倒れていなければ、試合を続行させていたらしい。
「でも、こばやしの卍解はまだ完成していないから、もっと鍛錬すればさらに強くなれる」
「じゃあもっとやろうよ!そうすれば「時間無い。外の世界でやること無かった?」
「あ・・・、そうだったね・・・」
兵主部一兵衛からもらった鬼道の教本をしっかりモノにすることや、七緒と一緒に対滅却師用の鬼道を作り上げることなど、卍解習得後もやることは山積みだ。
敵の居場所も探りを入れねばならない。
今後の仕事を思い出しつつ身の振り方を考えていると、桃明呪から重要な情報が話された。
「外に出る前に、卍解の副作用について教える」
「・・・やっぱあるよね・・・」
頷いた彼女は、端的に卍解のデメリットを伝えた。
「一回卍解を使って解いたら、こばやしは暫くの時間
「・・・、――――・・・マジかよ」
ある意味、今まで使っていた力を一切行使出来なくなると言っても過言では無かった。
一定時間の霊圧知覚消失は、正直な話隼人にとって生命線を絶たれるようなものだった。
強大な力にデメリットがあるのは、やはり避けられないようだ。
「まさかだけど、皆の姿が見えなくなるって訳じゃあないんだよね?」
「大丈夫。死神とかの姿は見える。霊圧を感じられなくなるだけ。だから、滅却師の矢は霊覚では感知できないから気を付けて。視覚で対処できるよう、応援してる」
「ヤバすぎだよ・・・、卍解を解いたら単独行動は危険だな」
「でも、副作用の時間は卍解の時間に応じて伸びるから、短ければ大丈夫」
つまり、短期決戦か、戦いの最初から最後までずっと卍解し続けるかのどちらかを選べということだ。
勿論前者を選ぶに決まっているが、状況次第ではずっと卍解も考えないといけない。
連戦にならないことを祈るしかない。
そして彼女は、最も大事な情報を隼人に伝えた。
「最後に教えるね。私の卍解の名前」
「うん」
「私の名前は、―――――――。・・・大丈夫、こばやしならきっと、皆を護れるから。」
「分かった。行ってくるよ」
そして視界は開けていき―――――
*****
目を覚ますと、眼前に大きな握り飯が4つ置いてあった。身体には毛布がかかっており、寝返りを打っていたのか横臥していた。
大きさからして拳西が握ったものだ。きっと京楽が置いといてくれたのだろう。
数日眠ったままでどうしようもなくお腹が空いていたため、流し込むように栄養分を摂取する。
普段の倍近く食べても、まだ胃の中には余裕があるように思えた。
食べながら兵主部一兵衛からもらった鬼道の教本を見たが、違う意味で絶句してしまう。
『序文:この本を使えば、おんしはおニューの鬼道で敵などイチコロじゃ!死神の中でもブイブイ言わせることができるぞ!イマいおんしにも・・・・・・』
「今風の言葉って・・・、ちょっと古くね?」
他にもいちいちチョベリグだったりナウい鬼道だったり、死語満載の教本に共感性羞恥に似た感情が生まれてしまう。
そもそも序文がある時点で少し嫌な予感がしていたが。
でも、死語に目を瞑り(といっても限界はある)教本の内容を抽出すれば、やはり裏の題がついた鬼道が既存のものとは別次元に属していることは本を読むだけでも理解出来た。
番号の数値が小さいものは八十、九十番台のものと親近さを感じさせるものだが、半分を超えたあたりからは最早死神が扱えるのか疑問に感じるレベルの技まである。
「・・・これなら、1時間もあればいけるな」
しかし、卍解習得後に基礎霊力を著しく上昇させた隼人には、到底無理難題な課題ではなく、むしろ得意分野を更に伸ばせるいい機会だった。
ちょっと気になる死語から目を逸らし、今度は現実世界でまた新たな自己鍛錬を始めることとなった。
*****
「・・・何よ、あたしに隠れてコソコソ調べちゃって。あたしを出し抜くなんてあんた達にさせるワケないでしょ」
バンビエッタは、リーダーの自分に隠れて他の女性滅却師が調べものをし、その情報を自分にシャットアウトしていることは既に気付いていた。4人の工作に気付かない程には鈍くない勘を持っていたのだ。
部屋から出て行ったフリをして彼女達の後をつけ、こっそりと聞き耳を立てて先ほど話していた死神をタブレットで探る。
検索履歴を見ると、すぐに目当ての死神を見つけた。
「へぇー・・・、口囃子隼人、ね・・・」
地味な顔に冴えない能力。
情報だけ見れば、正直バンビエッタにとって敵では無かった。
相手の位置情報を記憶するだけの奴など、爆撃で吹っ飛ばせば何てことないではないか。
「ダッサい能力ね。こんな奴を危険視するなんて、リル達もまだまだね。いや、むしろリーダーのあたしがぶっ殺してやれ、ば、・・・」
と独り言ちながらある部分を見て、バンビエッタの言葉が止まる。
【所属:七番隊第三席】
すぐに彼女はこの前殺したワンちゃんを探して彼の所属を見てみると、七番隊隊長だった。
画面をスライドして出てきた副隊長も、あの時のグラサン男。
そしてあの時、バンビエッタは戦った場所一帯を全て更地にした。
「何!?もしかしてみんな、もう死んだ奴相手に怖がってたの!?!?バカにも程があるでしょ!!」
特にキャンディスは近くであれ程の大規模な爆撃を見ていたにもかかわらず、死んでいないと思い込んでいるのか。ジゼルのゾンビかよ。
思わず大声で爆笑してしまい周りの目が無いか慌ててしまったが、部屋には一人しかいなかったので誰も咎めたりする滅却師はいない。
(討ち損じなんてありえない。生きてるワケないわ。心配するまでもないじゃない)
タブレットを乱雑に置いて部屋を出た所で、ビーーッ!ビーーッ!とブザーが鳴り響いた。
*****
「やーだー!あたしも行く!しゅーへーだけ連れてくなんてズルっこじゃん!ズルズルズルズル~~~~~!!」
修行から帰った拳西は、次の滅却師との戦いにおける作戦を白に伝え、案の定猛反発を喰らってしまう。
前回の戦いでは四番隊の守護についたものの、結局滅却師が誰も来なかったために一切戦闘行動をおこすことは無かった。
次の戦いでは藍染にやられてからさらに鍛錬で力をつけた、その成果を発揮したかったが、よりによって来るなと言われる始末。
有り余った力が暴れ出しそうだった。
「ちょっとしゅーへーと
「あいつなら何か知らねえが流魂街で墓参りに行ってるぞ」
「ぶ~~~!イミわかんない!」
曰く、院生時代に現世演習で亡くなった仲間の墓に久々に
その後もイヤだイヤだと隊舎の床でのたうち回っていたが、一度ため息をついた後に拳西は膝を折り、白と目線を合わせた。
「霊術院に行け、白。行って未来の死神を護れ」
お手製の副官章をつけた左腕を掴み、拳西は駄々をこねる白を立たせる。
【SUPER 9】の刻印を見た拳西は、今まで散々馬鹿にしてきたこの副官章に、死神の未来を託す。
ただの副隊長じゃない、スーパー副隊長である白の目に、強い輝きが生まれていく。
「頼んだぜ、スーパー副隊長」
言葉と同時に背中を叩かれた白は、未だ戦いが始まっていない中、すぐに霊術院に移動を始めた。
*****
他隊の様子見を一通り終わらせて一番隊舎に戻ってきた京楽は、中から感じた一つの霊圧に思わず笑みを零す。
隊長会議の時にお馴染みのあの場所で、二人の鬼道の使い手がまさに研究を終えた所だった。
「七緒ちゃんただいまァ~」
「もう少し、緊張感を持って頂けませんか?
「ご免ご免。それと、」
「お帰り、隼人クン」
「只今戻ってきました!」
戻ってきた隼人の霊圧は、数日前と比べるのも阿保らしい。
京楽の読み通り、いやそれ以上に強くなって戻ってきたようだった。
「これで条件は整ったね。今から君を七番隊隊長に任命する。隊長羽織持ってきてるかい?」
「はい、持ってきました」
八番隊舎の机には京楽からの指示の手紙が残されており、鬼道の教本をきっちり習得した後に羽織を持って一番隊舎に来て欲しいと書かれていた。
正直、もう一連の修行を全部終わらせていることが京楽からしたら異常なのだが、さも平然とした様子で隼人が立っているため特に言及はしない。
「別にもう羽織着てても良かったんだよ?」
「いや、さすがにちょっと・・・、まだ任命されてませんし」
「今回の任命も特例中の特例だから関係ないよ。もしかして、ちょっと恥ずかしいんでしょ~~?照れ屋さんだねェ~」
「ん゛ッ゛、違いますよ!」
林檎のように顔を真っ赤にして反論するので、全くもって反論になっていない。分かりやすすぎる。七緒にも苦笑いされてしまい、余計恥ずかしい。
下手に抵抗するとボロが出るので、いそいそと風呂敷包みから新品の羽織を取り出す。
まさか自分が副隊長を超えて隊長になるなど、可能性として頭に留めたことすら一度も無かった。
でも、今目の前には【七】の字が書かれた真っ白の羽織があり、手に持っている。
色々な思いが脳内を駆け巡った。
「本当に、僕が隊長に・・・、」
ぼそっと呟いた後、遂に羽織に腕を通す。
袖付きの羽織は最初に見た時の予想通り、身体のサイズにピッタリだった。
「・・・いいね、似合ってるよ。隊長就任、おめでとう」
平時の隊長就任式は隊長格全員が集まって新隊長を迎えるものだが、今回立ち会ったのは一番隊の二人だけ。
どうせなら、射場や狛村にこの姿を見せたかった。
狛村が隊長を引退するという形での昇進なら、自分が隊長となって先頭に立つ姿を彼にも見せられたのに。
それでいて自分が隊長になり、射場が副隊長になれば、隼人にとって最も安心できる体制となっていただろう。
彼らに見せることは叶わない。
だからこそ。
「隊長就任の儀式、全部落ち着いたらもう一回ちゃんとやって欲しいです。」
「勿論そのつもりだけど、どうしてだい?」
少し言葉が詰まりかけたが、三日月形の笑みを零していつもの元気な口調で喋る。
「拳西さんに、自分の子どもが同僚になってしまうというちょっと複雑な思いをさせてみたいからです!」
「どんな野望ですかそれ・・・」
「まぁ、隊首会議の立ち位置の隣が自分の子どもって、中々キツいかもね・・・」
しんみりしかけたが、結局いつもの調子に戻り簡易的な就任儀式もつつがなく終わった。
*****
「そういや隼人クン、敵さんの居場所掴めたかい?」
「あ、すみません。今からやります」
卍解を習得しても、以前の力を使う時はやはり目が桃色になり、瞳孔が限界まで開くことに変化は無い。
10数名の滅却師の霊圧は完全に記憶していたため、何処にいるか分からない、今回も敵を待ち構えるしかないといった受動的な準備にならなくて済む。
数秒後、隼人は記憶していた滅却師の霊圧をほぼ全て捕捉することができた。
「対象の滅却師は、
一瞬にして、第二次侵攻は幕を開ける。
これにて修行篇は終了です。
第一次侵攻より長いってどういうこっちゃねん。
次回より遂に第二次侵攻に入ります。
霊王宮侵攻前までを書くつもりです。鋭意制作中なのでお待ちください。