「くたばれ悪党!!正義の鉄槌を喰らうがいい!!!」
まるで獲物に飛びつく野生動物のように距離を詰めるマスクに対して、拳西は再び
「油断するのも今のうちだ!ワガハイのワン・マイル・アーツで吹っ飛んでしまえ!セッ―――――」
だが、直接拳西の身体に触れた途端、バキン!!という音と共にマスクの拳は完全に折れ曲がってしまった。
拳をぶつけた振動で、両腕の骨全てがボロボロに砕けてしまう。
「ぐっ・・・ぎゃあああああああああ!!!!!!!」
さっき股関節を裂かれた時とは比にならない激痛が両手に降りかかる。
それでも諦めることなく間髪入れずに右脚で拳西の鳩尾に蹴りを入れたが、同じように右脚の骨が全て砕け散った。
断末魔の叫びを上げるマスクの身体を拳西が掴むと、掴んだ箇所の骨がベキベキベキ!!と音を立てて崩壊していく。
更に投げ飛ばして瓦礫にぶつけると、這い上がって来たマスクはキャラを捨てて激昂していた。
「くそがっ、くそがっ、くそったれがあああああああああ!!!!!!!!意味分からん力使ってスターの身体をへし折りやがって!!!テメェぜったいに許さんぞ三下がァ!!正義とか悪とか関係ねえ!!!!グッチャグチャにして脳髄ぶち抜いて何から何まで全部ぶっ壊してやる!!!!!」
「意味わかんねえってか。じゃあ親切に伝えてやるよ」
「俺の卍解は大気を自由自在に扱う力だ。だから俺は周りの空気を使って身体を頑丈にもできるし、触れたものを振動させて崩すこともできる。風で爆炎を自由に操作することだって出来るさ。あと、あんまり暴れるとやべえぞ」
「酸欠で動けなくなっても知らねえぜ?」
そこまで言われて、ようやくマスクは息を何度吸っても酸素を取り込むことができず、周辺一帯の大気から酸素だけが綺麗に無くなっていることを理解した。
むしろ、理解してしまったと言うべきだろう。
「あ゛、あぁ゛、―――――――・・・・・・、」
屋外にいるのに、窒息死してしまう。
根源的な命の危機に陥ったマスクは、最後の手段である乱装天傀の発動に踏み切る。
その動きを見逃さなかった拳西は、遂に命を奪うことにした。
「ワリーな、大気組成を変えちまったら時間が無えんだ。だから手短に済ますぜ」
喉に手をかけて酸素を欲するマスクに向かい、拳西は右腕に霊圧を籠める。
風が塊となって右手に集まり、見えないはずの大気が具現化されていく。
集まった大気は熱を帯び、僅かに赤く染まっていた。
「未だにお前は俺の力を理解してねえようだから、今回は特別に
口から涎を垂らしてまで酸素を欲するマスクに拳西の言葉は届いていたが、酸素が吸えず極端に苦しい状況で、拳西の方に目を向けることもできなかった。
「どんな生物にも風は見えねえ。感じられるが、見えねえんだ。だが俺は修行を経て、風を見て読むことができるようになった。お前と俺では、見えている世界が既に違えんだよ」
拳西が右手に携えたのは、大気で作られた一本の巨大な槍だった。
乱装天傀さえ間に合えば、最悪逃げることなら出来る可能性がある。
もうスターとかヒーローとか関係なく、今のマスクはただただ命拾いしたかった。
にもかかわらず、頭が動転してジェイムズの名を呼ぶことも出来なかった。むしろ酸欠で声が出なかったかもしれない。
しかし無慈悲にも、拳西の手から槍が放たれてしまった。
「
持ちうる全ての力を使って投げられた槍はマスクの腹に突き刺さり、腹を中心に全身が一瞬で真っ黒に焼け焦げた。
翼、光輪含め全てが灰燼と化し、塵となって消え去っていく。
「勧善懲悪のヒーロー物語なんて使い古されていい加減飽きただろ。悪党が主人公でも人気が出ることを学びやがれ、滅却師」
卍解後、僅か数分足らずにして一人の星十字騎士団をあっさりと倒すことが出来る程に、拳西は修行で力をつけることができた。
他の敵を探してどんどん倒したい所だが、卍解の性能が変わって霊力消費が段違いに激しくなったため、一息つく必要があった。
すぐに戦った場所を後にして、身を隠しつつ移動する。
日が暮れて闇が深くなっていく中、向かう場所はただ一つだった。
*****
遠くからマスク・ド・マスキュリンの霊圧が消えたことを適当に確認しつつ、見えざる帝国の外も完全に日が暮れたため、5人の女性滅却師はようやく行動開始した。
もちろん陣頭指揮はリーダーのあの女の子。
「全く、やっとあたしの出番ってワケね・・・。ホント、蒼都もマスクも自分の実力と相手の力量見極めないで戦うなんてバカでしかないわ」
その周囲には幾つもの爆撃の跡があり、大勢の死神が身体の一部を欠損して倒れ込んでいる。
4人には手出しさせず、リーダーのバンビエッタが親切にも進む道を開拓してあげているのだ。
「いたぞ、滅却師だ!!」
「やられる前にやっちまえ!!」
「・・・あんた達ザコが生意気言ってんじゃないわよ」
いかにも怠そうな素振りを見せながら、掌で生み出した爆弾を投げつけてすぐに無力化させていく。
「あーあ、ほんと死神って、どいつもこいつも仲間意識が高くてうじゃうじゃ集まって、ゴキブリみたいだわ。前あたしが殺したワンちゃんたちも真っ黒の集団が集まってウザくてしょうがなかったわよ!っていうか、なんであたしたち5人が集まってるのに誰も隊長来ないのよ!ねえ!聞いてんのあんたたち!」
と、後ろを振り向けば誰もいなかった。
目の前にあるのは建物に挟まれたただの虚空。
団体行動を取ると言ったのはリルトットなのに省かれてしまった怒りと大声で一人で喋っていた恥ずかしさで、感情が爆発してしまった。
「リル!ジジ!ミニー!キャンディ!出てきなさいよっ!!」
「いい加減、出てこーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!」
感情の爆発は物理的な爆発へと昇華され、バンビエッタを中心に桃色の衝撃波が広がっていった後、近くにいた死神全員が巻き込まれ、一瞬にしてただの霊子へと姿を変えてしまった。
「リーダーのあたしに恥かかせたらどうなるか・・・忘れてんなら思い出させてやるわ・・・・・・、このへん一帯更地にして、全員あぶり出してやるからねッ!!!」
「そいつは困るな」
「!」
背後から男の声が聞こえて振り返るが、一切の人影は無い。霊圧も確認できなかった。
「今見えてるのは
再び背後から声が聞こえたので元の向きに戻ると、黒髪の副隊長が姿を現した。
「何よ、姿を消す能力?つーかあんた誰?」
「九番隊副隊長・檜佐木修兵だ」
「副隊長?じゃああんたに用はないわ。カオだけ残してとっとと消えなさい」
ちょっとイイ顔をしていたので、頭ではなく脚に照準を定める。
再び掌から爆弾を生み出し投げようとしたその瞬間、手の上にあった球体に一本の緑色の光線が貫かれた。
霊子バランスが崩れ、掌の中で反応してしまう。
「何!?」
急いで適当な方向に爆弾を投げたため腕が吹っ飛ぶことなく済んだものの、星十字騎士団専用のマントはボロボロになってしまった。
せっかく戦勝記念に仕立てた特製のマントが破けて煤だらけになってしまい、短気なバンビエッタは再び強い怒りで顔を歪める。
脱ぎ捨てたマントで修兵の視界を一瞬奪ってあらぬ方向から攻撃をすることを予感させながら、バンビエッタはその場から動かずにマントごと修兵の身体を爆発させようと再び爆弾を生成する。
隊長をも殺した自分が、副隊長如きに手古摺るなどあってはならない。
なのに。
「よそ見は感心しないな」
「ッ!」
再び背後から耳元に声が囁かれ、条件反射で後ろに爆弾を投げてしまう。
前に存在した霊圧が動きを見せた。
「ッ!!しまっ・・・」
鎖で繋がれた漆黒の鎌が、バンビエッタの左頬を掠めた。
あの副隊長が片手に今も一方の鎌を持っている以上、力は直接攻撃系か。
だが緑の光線などを操っているのを見ると、鬼道とかいう霊術も扱えるようだ。
ということは、言ってしまえば全体的に中途半端な能力だ。
一芸に秀でたタイプではなく、オールラウンダーなら、その力には限度がある。
それも副隊長程度なら、やはり敵ではない。
だがさっきの囁き声には、少なからず違和感を抱いた。
微妙に声が・・・と考えていた所で、バンビエッタの右側から猛スピードで鎌が飛んできた。
「何でこっちから鎌が!チッ!!」
幾つか爆弾を即席で作ったが、投げてもただ単に相殺されて余波で自分も吹っ飛んでしまう。
故に、少し爆弾の性質を変更した。
複数の爆弾を一手に集めて拡張し、絶えず霊力を注ぎ込むことで
能力の性質を応用した最強の壁で、あらゆるものがバンビエッタの身体に当たる前に爆発して消えてしまう。
爆弾で壁を作っているため、自身が吹っ飛ぶことも無い。
自分自身へのファインプレーに思わず笑みが零れる。
しかし、鎌はバンビエッタの
「あ゛ッ゛!!」
深い傷にはならなかったが、手で傷を押さえる程度には痛みを感じていた。
だがここで、バンビエッタは一つ確信する。
見えない敵の存在だ。
目の前の副隊長はデコイ。後ろから来た緑の光線は、別の死神が撃ち込んだものだったのだ。
囁き声だから分かりづらかったが、副隊長とは微妙に声が違う。もう少し若い声だった。
左わき腹を斬った鎌は、その見えない死神がキャッチして投げ返したのだろう。
副隊長の両手には、二刀の鎌が握られている。
壁に触れる直前で戻されてしまったか。
思い通りにいかず、イライラが溜まっていく。
「・・・こんな奴らに、あたしが遅れを取る訳がッ・・・!」
「悪かったね、だが、君を殺すのは」
「
霊子の剣が、後ろからバンビエッタの胸を貫いた。
剣の現出の後やや遅れて姿を現したのは、九番隊第六席・誉望万化だった。
念動力を使って自身の体を霊圧もろとも感知されないようにして攪乱し、様々な攻撃を注意の逸れた後ろから当てることで、少しずつダメージを与えることが出来たのだ。
修兵が直接手を下すことは無かったものの、彼無しではまともに勝負をつけることが出来なかったのは事実だ。
能力の適材適所をしっかり吟味した二人の連携は、見事なものだった。
修兵の目の前に移動して次の指示を待ったが、思いがけないお褒めの言葉を頂くこととなった。
「よくやった、誉望。お前の手柄だぜ」
「・・・何言ってんスか、俺なんて全然・・・、檜佐木副隊長無しだったら俺何もできなかったっスよ」
「自分の力だけで霊圧ごと姿を消すなんて誰にも出来ねえぞ。口囃子さんも霊圧遮断外套付けねえと無理らしいし」
「へぇ~、そうなんスか」
戦闘スタイルが似ているあの三席をライバル視している誉望は、いつかこの力を使って下剋上でもしてやろうかと半ば本気で考え始める。
七番隊の三席は鬼道全フリのため、斬術、白打ではまともに戦えないとかいう話を拳西から聞いたことがあった。
心の中に対抗心を秘めていた誉望は、修兵に頼み込んで霊子の剣での戦闘や、白打の訓練の相手をしてもらい、十分実戦で使える程の実力を身に着けた。
接近戦は大の苦手らしいので、距離さえ詰めればずっと俺のターン状態で戦えると思われる。
そうやってライバルに現を抜かしているから、背後におきた突然の変化の予兆に一切気付けなかった。
「!」
修兵の驚いた顔に誉望も後ろを向くと、先ほど仕留めたはずのバンビエッタを中心に、天へ光の柱が伸びていく。
上端には円環とX型の十字が柱と交わり、少し経つと根元の柱がまるでガラスが割れるかのようにヒビが入り、中が露になっていく。
脇腹と胸の傷全てが完治し、桃色の翼と星形の光輪を新たに携え、バンビエッタは再起動した。
「へぇー・・・、姿を隠してたのはあんたみたいね・・・」
「・・・何だ、その力は・・・」
時間が取れなかったため、完聖体に関する詳しい情報は隊長副隊長と一部の席官にしか行き渡っておらず、誉望は完聖体について全く事前知識が無かった。
傷が全て治っているため誉望は再び刀を作り出して攻撃に入るが、完聖体の発動に気付いた修兵が一瞬で顔色を変えた。
「逃げろ誉望!!!」
「副隊―――――」
既に遅かった。
二人が反応できない速度の爆弾を誉望の胴体にぶつけ、爆弾へと変化した身体の一部は首から下全てを巻き込んで一気に爆発した。
「あんたもよ!!」
「!!」
大急ぎで動かなくなった誉望を抱え、修兵は全速力で爆撃から逃げる。
辺り構わず爆撃しているため、爆炎で上空からだと地上の様子を確認できないのが不幸中の幸いだった。
瓦礫の中に身を隠し、どのように撤退すべきか思考を巡らせる。
「あーあーあーあー!!どこ行ったのよあの死神!これでもまだ隠れる気でいるの!?たとえあんたたちが姿を隠そうと、全方位あたしがまとめてブッ壊してやるっての!」
「あたしの
そのままバンビエッタは、仲間に恥をかかされた時にやったのと同様に、桃色の衝撃波で同心円状に周囲を爆撃していく。
誉望を抱えた修兵は僅かに反応が遅れてしまい、空いた左腕に火傷を負ってしまった。
少し離れた場所に黒服二人を見つけ、バンビエッタは距離を詰めながら翼から数十個の爆弾を投げ放つ。
「ブッ壊れろ!!」
「ッ!」
百歩欄干で爆弾を狙い撃ちするために掌を前に構えたが、左腕の痛みで霊力が集まらず、散らばってしまう。
普段の半分以下しか光の棒は生まれなかったが、それでも発射して相殺するしかない。
「縛道の六十二 百歩ら――――――――」
だが詠唱の途中で、狙いを定めていた球体が全て何かにぶつかって爆発した。
透明な壁っぽく見えたので、おそらく誰か別の死神が作った断空だろう。
壁ごと爆発してしまったので、強烈な威力であることが推察できる。
そして、こうも軽々と八十番台鬼道を乱用するのは、あの死神しかいない。
「何とか、間に合ったみたいだね」
「こっ、口囃子さ―――――」
聞きなれた声に振り返ったが、見慣れない姿に困惑せざるを得なかった。