ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

149 / 182
卍解

パキン、という音が聞こえて後ろを振り返ったときには、既にさっき倒したはずの滅却師は立ち上がって再び背に翼を生やしていた。

 

 

「!?何が起きて―――」

 

 

再び大量の爆弾が飛んできたが、あまりにも瞬間的な出来事だったせいで隼人は緊急時のいつも通りの対処法を取ってしまう。

躱さず、力に干渉せず、目の前に鬼道の障壁を作ってしまった。

 

 

「!!しまっ――!」

 

 

着弾の瞬間に気付いたものの、それでは遅かった。

目の前の壁が一瞬で爆弾へと変化し、大爆発。瞬歩を使って後ろに急いで距離を取ったが、間に合わず巻き込まれてしまった。

身体が吹っ飛ばされ、コンクリートの建造物に凄まじい音を立ててぶつかる。

 

 

「・・・痛ってぇ・・・」

 

 

骨は折れていないが、腕や脚、顔など身体の至る所から血が出ている。一つ一つの傷が小さいために傷の痛みよりぶつかった痛みの方が辛いのは不幸中の幸いか。

しかしそれよりも、全く動けなかったはずの滅却師が動けている方が問題だ。

しかも、さっきより反応速度なども上がっているように見える。

 

 

「一回死にかけた後にこんなに動けるとかズルだろ・・・ってまた来た!!」

 

 

様子見中の独り言を呟いたその間には、さっきいた場所から隼人が吹き飛ばされた場所まで一瞬で移動できる程に速力を上げている。

爆弾の弾速も、さっきまでの数倍だ。

躱すだけでは到底持たないので、無詠唱の大地転踊を使って適当に迎撃するしかなかった。

 

 

「ちょっとなによ!!さっきの威勢はどうしたのッ!!逃げんじゃないわよ隊長のクセに!!ワンちゃんの部下なら正々堂々戦いなさいよ!!あたしの攻撃は当たらないんじゃない、のッ!!!!」

「うっそぉ爆弾速すぎ!」

 

 

焦ったが、近くに巨大な岩石があったので、天から隼人の正面に降り注ぐ爆弾めがけて大地転踊で岩石をぶつけ、何とか相殺することができた。

爆発した岩石も上手いこと小さくなったので、破片が落ちて当たっても痛くなかった。

 

だが、痛む身体で全力疾走したので消耗が激しい。

霊力は有り余っているのに、体力が徒に消費されているのだ。

いっそのこと霊力で身体を動かせるようになればいいのにと思う。

息を切らしてゼーハーしていると、再び自信満々な顔をした滅却師が空から降りてきた。

 

 

「乱装天傀よ。石田雨竜も使ってたから知ってるでしょ?」

「あぁ・・・、霊力使って身体動かせる奴か。羨ましいことこの上ないな。でもそれって効果切れたら滅却師の力全部失うんじゃないの?」

「はァ?それは滅却師最終形態だし!そんな捨て技使わなくても身体動かせるっつの!!」

「うるっせえ女だなほんと!」

 

 

噛みつき方が尋常ではないため、より敵意が強まっていると見る。

そして、滅却師だけ独自の術を多用するのが、隼人にとっては羨ましかった。

バカみたいに鬼道を使う死神が何を言っているんだとツッコまれそうだが。

しかしまあ、千年の間に、滅却師と死神はここまで基本的に使える術に差をつけてしまったのか。

だったらこっちも、本気を出すしかない。

 

 

「そっちが捨て身できてるなら、僕も本気でやらないとダメだな。僕もこんなビッチに殺されたくないし」

 

 

空を飛んでいる間、本人が全く意識してないところで頻繁にスカートの中が見えているのだ。

むしろ見せびらかしているようにすら思われるので痴女にしか思えないが、小さい声だったのでバンビエッタの耳には幸運にも届かなかった。

 

 

「・・・もうそろそろ、身体も慣れてきたかな。頼むから、あんまり身体に負荷かけないでくれよ・・・」

 

 

一度深呼吸してから、右腕を真横に伸ばす。

握っていた拳を広げると同時に身体全体から桃色の霊子がオーラのように放出され、右手を中心に棒状に集束していった。

 

 

 

 

 

 

 

「卍解  桃祈(とうき)宝珠杵(ほうじゅしょ)

 

 

斬魄刀世界にいた時と同様に、シルバーピンクの至って普通の杖が形成された。

身体に重さは感じられず、さっきまでの始解で十分に慣らすことができたようだ。

 

狛村の卍解とは全く違う、小さな卍解に余裕を崩さないバンビエッタは嘲笑する。

 

 

「何それ!魔法のステッキ?・・・ってまさかそんなちっぽけなモノがあんたの卍解ってワケ!?ダッサい魔法少女じゃない気色悪ッ!!!」

 

 

滅却師の完聖体とは違い、卍解には発動時に傷を回復させる効果はない。

負傷した状態で発動すれば、必然的に最初から使える力も弱まってしまう。

しかしこの卍解には、そういった既存の法則など関係ない。

 

 

「それじゃあ早速、いかしてもらおうか」

 

 

杖の形状をまずは錫杖に変える。

両手に持ち直して今までのように杖に祈り、回道が身体を覆って一瞬で己の傷を全て回復させた。

 

 

「!!!」

 

 

バカにして笑っていた卍解の力を目の当たりにして一瞬で顔色を変えたバンビエッタは、一心不乱に爆弾を投げつけていく。

それに対し、隼人は錫杖を右手で振り回して障壁を作り上げた。

 

 

「バカなの!?意味ないって何回も言ってんじゃん!!」

 

 

さっきと同様、バンビエッタの放つ爆弾は障壁に触れ、爆発する。

 

はずだった。

 

 

「なっ・・・何よそれ・・・・・・!」

 

 

霊子でできた壁にバンビエッタの爆弾が触れた途端、爆弾はただの霊子の塵へと分解されてしまった。

 

技が通用しない。

軌道修正された時は、隼人の身体や障壁に卍解を当てた時は十分な効果を発揮した。

当たらなかったが、もしちゃんと隼人の身体に一発でもしっかり当てていれば致命傷になっていた。

だが、今回はそれとは違う。

障壁で、爆弾が打ち消されたのだ。

今まで、一度も防がれなかった難攻不落の爆撃が、防がれた。

 

その瞬間、考えもしなかった忍び寄る死の気配を感じ取ってしまった。

 

 

「イヤ・・・・・・!嫌、嫌嫌、嫌イヤイヤイヤ!!イヤいやいやいやいやイヤイヤ!あたし死にたくない!!!」

 

 

すぐに、バンビエッタは逃亡を始めてしまう。

いつもの隼人なら逃亡した敵を追うことなどしないが、しっかり七番隊の仇を討つため、柄にもない追跡を始めた。

卍解の形状を変え、両端に宝珠の装飾がある杖でバンビエッタの力に強く干渉する。

バンビエッタの身体を覆っていた霊子の糸が、ボロボロになった衣服のように破れていく。

 

 

「ああああああああ!!!!!!!」

 

 

強引に身体を動かす道具となっていた霊子が剥ぎ取られ、全身の皮膚が捲れ上がるような激痛に苛まれる。

ブチブチブチブチ!!と身体が悲鳴を上げているが、死を恐れるバンビエッタは尚も逃げ続ける。

身体が風を切るだけで、全身に針が刺さるかのようだ。

翼から爆弾を撃つごとに、霊子が乱れて圧砕された時の痛みがぶり返す。

 

そして撃った爆弾も、隼人が杖の形状を変えて防御の障壁を立てれば全て霊子の塵へと形を変える。

 

唯一の自慢できる武器が、全く通用しないのだ。

 

 

「何でよ!!何であたしの爆撃が効かないのよッ!!!」

「もう僕の方が優位っぽそうだからネタばらししてあげるよ。白断結壁。これで滅却師の力を完全に断つことができるんだ。だからお前の攻撃は僕には効かない」

「そんなはずない!!!滅却師の力を断つとか、ありえないわよ!!!」

「じゃあ矢でも撃ってみろよ!」

 

 

言われるがままにバックルから霊子兵装を取り出そうとしたが、一度強く力に干渉されたせいで弓矢を作るだけで激痛が襲い掛かった。

 

 

「う、あ゛あ、あああああああ!!!!!!」

 

 

動きを止めた隙に隼人は再び杖の形状を変え、再びバンビエッタの力に強く干渉する。

乱装天傀を使っている時に干渉すると、かなりダメージを与えられるようだった。

 

二度目の干渉で、バンビエッタを包んでいた霊子の糸は3分の2程度が剥がれ落ちた。

それでも、生きたいという執念だけで、彼女は速度を落とさずに逃げ続けていた。

 

建物と建物の間の裏路地みたいな場所にバンビエッタが逃げ込んだ所で、隼人は自己干渉で霊力を一時的に強化してから、卍解を攻撃型のものへと変化させた。

 

 

「せっかくだし、使ってみるか!」

 

 

両端に円環のついた杖をバトンのように片手で回していき、霊力を杖に集中させていく。

杖を回すと、自然と散らばっていた霊力が集束するのだ。

力を集中させ、隼人は新たに手に入れたもう一つの力を行使した。

 

 

「裏破道・一の道 廚魔陣(じゅうまじん)

 

 

術名を唱えると同時に杖から霊力が地面に注がれ、梵字に似た形状の文字で形作られた魔法陣のようなものが隼人を中心に形成された。

何故陣なのに破道の一種となっているのか。それは重ねて放たれたもう一つの鬼道を作り上げた時に明らかとなった。

 

 

「裏破道・三の道 鉄風殺!」

 

 

巨大な鳥に似た動物の頭部が具現化されて暴風を巻き起こす術だが、陣の中で発動したことにより、動物の頭部がもう一体出現する。

 

廚魔陣は、尸魂界を流れる霊脈の力を借り受けて、鬼道の発動する回数を倍に増やす術だった。

陣の発動にしか霊力が割かれないため、コスパのいい鬼道だ。

陣は小さい上に発動時間もまだまだ短いが、一気にケリをつけるのには十分向いていた。

二つの頭は、バンビエッタが隠れた建物を丸々囲むように移動する。

 

 

「いよぉぉらあああああ!!!!」

 

 

横から前に杖を振り払うと同時に二つの鉄風殺が同時に発動し、途轍もない暴風によって建物は一気に崩壊した。

吹きすさぶ風にバンビエッタは地に足をつけることもままならず、なす術もなく吹き飛ばされてしまう。

同じように吹き飛ばされた大量の巨大な瓦礫に何度も身体を打ち付けられ、最初の黒棺では流すことのなかった血が大量に流れ出ていく。

最後は巨大な尖頭が首の左側に突き刺さった状態で風の渦の外へと吹き飛ばされ、乱装天傀の力も使えなくなってしまった。

 

 

「・・・・・・、」

 

 

飛ばされたバンビエッタを見た隼人は彼女の着地点へ瞬歩で向かい、地面に墜落した後に首に刺さった尖頭を強引に引き抜いた。

動脈に刺さっていたからか、引き抜いた瞬間首から血が大量噴射された。

 

 

「うえっ!汚ったねえ!!」

 

 

瞬歩で避けたため返り血は何とか浴びずに済んだが、グロテスクな光景は苦手なので慌てて目を逸らす。

霊圧だけで彼女の姿を見ていたが、流れる血と同じように霊圧も物凄い速さで弱まっているため、今度こそ討ち取れたはずだ。

これ以上の隠し玉はさすがに無いだろう。

 

考えていると、一つの霊圧が近づいてきた。

高濃度の霊子空間に慣れてきたからか、それとも卍解をしているからか、今となっては普段通りの探査ができるようになっていた。

少し変質しているが、この霊圧の持ち主は間違いない。

 

 

「おう、お疲れ」

「拳西さん!」

 

 

瞬歩でやってきた拳西は、羽織を着た隼人の姿に少し微妙そうな顔をする。

眉間にマイルドな皺が寄った。

後ろに倒れた滅却師のグロい瀕死体を見れば尚更だ。

 

 

「・・・やりすぎじゃねえか?」

「何言ってんですか、狛村隊長と射場ちゃんの仇ですよ。これじゃあ足りません」

 

 

そもそも拳西だってマスク・ド・マスキュリンを爆殺しているようなものなので、全くもって他人のことを言えないのだが、自分でも知らないうちに棚に上げて難色を示していた。といっても怪訝な顔をするだけだが。

そして、拳西の目はやはり隼人が両手に持つ杖に向かう。

両端に円環のついた、真ん中の握る部分がえんじ色に輝いたシルバーピンクの杖だ。

 

 

「・・・それがお前の卍解か」

「はい。僕の力は、実は対象の霊力に干渉する能力だったんですよ。敵の力を弱めたり、あと拳西さんを強化したり。自分自身を強化して戦うことも出来るんですよ!」

「便利な力だな」

「・・・えっ?ちょっと、反応薄くないですか!?せっかく頑張ったのに・・・」

「知るかよ!あと卍解は習得したてだと力無駄に消費するから使い終わったらすぐ解け!いいな!」

「分かりましたよ~今解きま・・・・・・」

 

 

やべっ、忘れてた。

 

『一回卍解を使って解いたら、こばやしは暫くの時間一切霊圧を感じられなくなるから』

 

頭の中で卍解使用のリスクを思い出した隼人は、一瞬でパニックに陥った。

 

 

「どっ、どどどどどどどうしましょうどうしましょうやばいやばいやばい!!」

「おいいきなりどうしたんだよ隼人!!」

「卍解解いたら霊圧感じられなくなるんですよ!!やばい僕死んじゃう!」

「死なねえよそんな簡単に!とりあえず適当にどっかで姿くらましとけ!」

「そんな都合よく――――」

 

 

と、言葉を続けようとしたら、急に眩暈と頭痛に襲われ、フラッと前に倒れ込んでしまった。

目の前に拳西がいたため支えてくれたが、誰もいなかったら大変なことになっていた。

意識が混濁し、視界が暗闇に包まれていく。

 

 

「えっ・・・うそ・・・・・・、・・・まじか・・・・・・」

 

 

拳西に支えられたまま隼人は意識を失い、右手に持っていた杖は斬魄刀となって左腰へと戻っていった。

 

 

「・・・お前は初っ端から力使い過ぎなんだよ。新しいゲーム買ってもらった子どもみてえだな・・・」

 

 

倒れ込んだ隼人は意識を失った後すぐに、がっつり寝息をかいて爆睡を始めた。

有り余っていると思っていた霊力は、すっかり尽きてしまったのだ。

最初だったからか、卍解が想像以上に力を消耗していたのだろう。

この戦いが終わったら再び体力増強のトレーニングをしなければならない。

 

(情けねえ奴だな・・・)

 

せっかく強くなったのに体力が持たないのはダメだが、むしろ隼人らしい姿にちょっとだけ安心する。

どこかの建物にあるはずのベッドを探すため、拳西は爆睡中の隼人を抱えて移動を始めた。

 




ようやく卍解の名をお披露目です。

シンプルに五鈷杵にしようかと思いましたが、主人公は基本的に刀と肉弾戦を使わない超魔法キャラなので、神聖な加護を持たせるために宝珠杵にしました。
イメージにおいては始解は呪いなど負の側面が強いですが、卍解は祈りなど、正の側面が強くなっています。斬魄刀への祈りが、ようやく届きました。ヤッタネ

基本は霊圧、霊力への干渉ですが、一番の武器は自己干渉です。そのせいで能力自体がやや分かりづらくなってしまいますが、自己干渉すれば卍解中はリスクなしで無限にバフが出来るため、完全にチート級です。そのため、一部鬼道が勝手にリメイクされています。
仲間の強化、敵の弱体化も、霊圧さえ読んでいれば出来るので、能力だけで言えば向かうところ敵なしです。ただ、使い手が使い手なので、これから何度かピンチに陥ってしまいますが・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。