星十字騎士団のトップを苦戦させる程の結界を数時間持続させたのだ。七緒の成長は京楽にとっても想定外の域に達していた。
「よく頑張ったね、七緒ちゃん」
「・・・総隊長を護るのが、私の仕事ですから・・・・・・」
長年共に働く中で、自分の力を使って脂汗をかいて息を切らす七緒の姿も初めて見た。
だが、それにふさわしい力を今までずっと七緒は使っていた。
ハッシュヴァルトの力について具体的に理解することは出来なかったが、彼が聖文字の力を引き出しても白断結壁は一度であるが防ぎきったのだ。
そんな中で性質の違う別の壁も生成し、ハッシュヴァルトの動きを止める。
京楽を護るためとはいえ、防御に関しては隊長に匹敵する程の活躍を見せた。
「全く無茶しちゃって、そんなにボクが大事なのかい♡」
「総隊長として、私は大事に思っていますよ。一個人としての貴方は・・・・・・」
言葉に詰まる七緒にいつもなら「あれれ~~♡」とエロオヤジの顔をしていたが、疲れ切って思考がままならないのかもしれないと判断した京楽は、優しく声をかけるだけだった。
「少し、休憩しようか」
「・・・ありがとうございます、総隊長・・・」
ハッシュヴァルトとの攻防戦の中で入った建物の中にある椅子に座って一息ついたところで、窓から風が吹いてきた。
外を見ると、見たことのない巨大な鳥の頭部が、暴風を生み出している。
「あのような術、一体誰が・・・」
七緒の言葉に京楽は「誰だろうね?」と適当にはぐらかしたが、これが兵主部一兵衛の隼人に託した『裏破道』であることは勿論分かっていた。
現在地と鬼道の発生地ではかなりの距離があるにもかかわらず、二人のいる場所まで風が届いているなら、威力は台風や竜巻などと比べてはいけないだろう。
卍解習得で得た隼人の力に安心しつつ、京楽はこの場所を新たな拠点にするために沖牙を電話で呼んで新たな対策を練ることにする。
先鋒として出したのは卍解を奪われた二、十番隊の隊長格だったが、彼らは霊圧が消えているため滅却師にやられてしまったのだろう。
他にも、京楽が確認しただけで数名の席官の霊圧が弱まっている。
だが、今のところ持ちこたえているようにも思えた。
さっき強く感じた拳西の霊圧は残っていて移動しているため、滅却師相手に勝利したと読んでいい。
五番隊二人の霊圧も残っている。負傷者の運び屋を彼らに任せているが、上手い事敵に遭遇せずに乗り切っているのだろう。平子の逆撫は、滅却師相手にもしっかり効果があるようだ。
今戦っている隼人も、さっき会った時の霊圧を見たら余程の曲者でない限り負けるとは思えない。
そして、霊王宮から戻ってきた二人の副隊長もいる。白哉も、そして一護もそのうち戻ってくるだろう。
さらに、まだ出陣させていないローズ、マユリ、そして更木剣八もこちらには控えている。
この状況で、どうすればさらに優位に立てるか。
地の利を覆されたため、滅却師との戦い方について朝になるまで結論を出したいところだった。
*****
「うーーーーん、まだ息はあるねッ。よかった、細胞も新鮮だしとってもありがたいよ!」
同じ頃、ジゼル・ジュエルは自らの舌を嚙み千切っていた。
大量の血が口から流れ出るが、自身の力『The Zombie』の力の副次的効果で、ほぼ不死身ともいえる状態なので、舌を切ろうとピンピンしていた。
目の前には、十番隊のトップ二人が壁にもたれかかって意識を失っている。
キャンディスが連れてきた松本は、目をカッと開いたまま意識を失っていた。
「で?死神の隊長もゾンビに出来んのかよ」
「当ッたり前じゃーーーーんッ!皆見てて見てて」
そのままジゼルは日番谷の顎に手をかけ、動じない唇に、己の唇を重ねる。
噛み千切った自身の舌を日番谷の口内に捻じ込んでいき、唾液と血液を注ぎ込む。
意識の無い日番谷の口から、唾液の混じった血液が溢れ出ていた。
ねっとりとした
「んっ・・・・・・、ッんっ」
「どうでもいいから早くしろ」
「おーふほひあおひはへへお(もー少し楽しませてよ)」
「もう十分だと思いますよぅ」
「ちぇーー」と不満そうな顔をしながら日番谷との一方的な接吻を終えた時には、既に全身の肌が浅黒く変色しており、ジゼルが立ち上がると同時に日番谷は再起動する。
しっかりゾンビになったことを確認したジゼルは同じ要領で松本とも接吻し、新たなゾンビを作り上げていく。
「かーんせいッ!!」
「コイツらどうすんだよ?すぐに戦力に使うのか?」
「んーーー、死神だし、まだ生きてるまんまでゾンビにできたから、どうしよっかな、考え中」
キャンディスの疑問にはっきりしない口調で答えたが、ジゼルのプランは既に脳内で完成されている。
ゾンビの中でも生きている死神、それも隊長格となれば、かなり貴重な戦力になるため、ここぞという時のために温存するつもりでいるのだ。
敵の強い動揺も誘えるため、安易に出陣させてはいけない。
故に、ゾンビとして再起動した二人の死神は適当な場所に姿をくらますよう指示を出した。
もちろんジゼルの一声ですぐに参上できるように、常に近い場所にいるよう重ねて指示を出す。
そして次は、適当に使える戦力の調達を行う。
かなり遠くで発生した暴風が止んだのを見て、ジゼル達4人はその場所にのんびりと移動を始めた。
「・・・今助けにいくよ、バンビちゃん」
大事な仲間を助けに行くようには見えない足取りと表情で、歩みを進めた。
*****
「・・・もう大丈夫ですね。動きますか?」
「ああ、問題無えな。ありがとう」
四番隊一般隊士に腕の火傷を治してもらった修兵は、野戦病院と化している即席の救護詰所を見て言葉を失う。
花太郎、伊江村の二人が陣頭指揮を執る中、荻堂など高等席官も必死に倒れた死神の治療を行っていた。
身体の一部が欠損した死神や、ミイラのように全身に包帯を巻いた死神。
骨折した死神はギプスやコルセットを装着しているが、それも全身となればあまりの痛々しさに目を向けるのも辛くなる。
身体が爆発した誉望がまだマシに見える程だ。
そんな切羽詰まった状況の中、気の抜けた軽い声が詰所内をつんざく。
「はなーー!!やっちん!!新しくねどこに使えそうなの見つけてきたよー!!!」
「草鹿!声がでか・・・って、青鹿!!」
「お前も声でかいぞ檜佐木」
と、軽く窘めてから修兵の同期である青鹿は淡々と布団をセットし、これから運ばれてくる死神に対して備えを固める。
どうにも話しかけられる雰囲気では無いため、修兵はそのまま黙って同期の仕事ぶりを眺めていた。
明らかに自分が普段使っている布団よりもいい材質のものがたくさん敷かれており、顔には出さずに少し落ち込む。
セットし終えた青鹿は、再びやちるに先導されて布団の奪取に向かったようだ。
「檜佐木副隊長!」
「おお、花太郎か。抜けて大丈夫なのか?」
「ずっと働きっぱなしだったので、頼むから休憩してくれって隊士から言われまして・・・」
えへへ・・・と苦笑する姿はいつもと変わらないが、霊圧を見ればヘトヘトなのはすぐに分かる。
中心となって一般隊士に指示を出しつつ、重傷者の治療をこなす姿は以前に比べると物凄く成長していることは理解できるが、最初から勢いをぶっ放せばどんな奴でもガス切れしてしまう。
目の舌にはしっかりクマがあり、死覇装も汗で濡れているようだ。
「指揮とってる以上無理しすぎんなよ。虎徹副隊長はいないのかよ?」
「多分、他の場所で僕たちみたいに治療しているんだと思います。連絡しても全然出てくれないので・・・」
「あぁ、なんか他にも四番隊の奴らが出入りしてる建物あったな」
ここに来る途中で、席官クラスの死神の霊圧が集まった場所に四番隊の出入りがあった場所を見た記憶があったので、おそらく勇音もそこにいるのだろうと考えたが、きっとそっちでもたくさんの死神が運ばれて治療されているのだろう。むやみに足を運ぶわけにもいかないが、
「あの!時間があったらでいいので、虎徹副隊長がどこにいるか探してもらえませんか!?」
こんなお願いをされても、修兵にとっては困るだけだった。
「・・・別んトコで死ぬ気で働いてる中引っ張り出して来いってか?」
「そっ、そんなつもりはありません!三席の指示よりも副隊長の指示があれば、もっと皆動きやすくなると思うんです。ただ、僕の力では掴趾追雀も天挺空羅も出来ないので、・・・お願いします!!」
「霊子ばらまかれてる時点で俺も索敵できねえんだけどなぁ・・・・・・」
伝令神機に出ない以上、自分の足で探すことになる。
便利屋的役割など御免蒙る。
だが。
「・・・仕方ねえな。敵探すついでだぞ。あんまり当てにすんなよ」
「ありがとうございます!連絡するよう伝えるだけでいいです!!よろしくお願いします!」
誰であろうと頼られるのは悪い気がしない性格であるため、結局断れなかった。
あくまでもついでであることを強調して、変に期待されるのも避ける。
そうこうしていると、また新たな死神が運ばれてきた。
五番隊の席官が、脚を吹き飛ばされて倒れていたところを運ばれたらしい。
「それじゃあ僕は戻りますね」
「おい、まともに休憩してねえだろ!」
「休むのも大事ですが、怪我人は放っておけません。大丈夫です、無理だけはしませんから」
有無を言わせない圧を感じ取り、修兵は黙ってしまう。
そのまま花太郎はベッドの上に寝た席官の脚を見て、霊圧による施術を始めた。
(・・・俺もこんなトコで止まってちゃダメだな)
治療してもらった一般隊士に改めてお礼と励ましの言葉を授け、修兵は臨時救護詰所を後にする。
敵を探しつつ花太郎からの頼みをしっかり果たすために。
*****
夜が更けていき、闇が深くなる中、一人の死神が暗闇の中空中を駆けていた。
音もない空間で風を切る音が嫌にさざめき、思わず苛立ちを見せる。
ばら撒かれた霊子のせいで周囲の索敵も上手くいかず、何時でも敵に襲われていいように準備だけは怠らずにいた。
空中を走っていると、建物から電灯の光が漏れていた。
足を止めて窓から中を見てみると、四番隊の下位席官が回道で死神を治療しているところだった。
すぐにその場を後にして、再び暗闇の景色と化すように空中を走り続ける。
しかし、死神は完全に景色に同化することはできなかった。
囲むように、四方八方からミサイルが飛んできた。
「破道の十二 伏火」
僅かな音でミサイルの存在に気付いたため、彼は蜘蛛の巣状にした霊圧を同心円状に広げていき、ミサイル全てを相殺する。
「暗闇に紛れて移動しているつもりだろうが、お前の存在などマイクロ波を使えば体温で感知できる。浅はかだな」
「勝手に喋る君の口弁なんて、聞きたくもないし興味もないよ」
「興味など持つ必要は無い。だがお前の胸に填められた機械は、私にとって興味深い」
普通の人間、死神などとは違う体温をマイクロ波で感知したBG9が急襲した死神には、胸に生命維持装置のような棒を装着されていた。
人型にもかかわらず異常値を示したために、BG9は興味を持たずにいられなかった。
「・・・お前は何者だ」
「
錆びて朽ちた機械を見下ろすような目で、死体のまま蘇った吉良イヅルは
「破道の六十三 雷吼炮」
「!」
詠唱せずに放つ鬼道は副隊長の域を優に超えていたため、油断したBG9を吞み込んで凄まじい雷撃を浴びせる。
そして。
「この霊圧・・・、イヅルのかい?」
見えざる帝国に変化する前は隊舎だった場所に待機していたローズは、いてもたってもいられず吉良の霊圧を辿る。
「恋次・・・感じたか?」
「ああ。何が起きてんだよ、吉良・・・!」
同じように霊圧を感じたルキアと阿散井も、死んだはずの吉良の霊圧に向かって足を向ける。
しかし、招き寄せられたのは死神だけではなかった。
「アはッ。向カッテヰル。向カッテヰルね。君ナラ、知ッテヰルカナ、僕ノ千本桜ヲ」
朽木ルキアと阿散井恋次の霊圧を見つけたエス・ノトも、二人の向かう先へと移動する。
美しい卍解を取り戻すため。妹も同じ恐怖に陥れて白哉をさらに絶望させるため。
エス・ノトの足取りは、いつにも増して軽いものだった。
エスノトは・・・文字を打つだけで大変・・・。
そしてジジのゾンビ化シーンは、こうであったらいいなという願望がちょっとだけあります。
死体のバンビちゃんにディープキスするジジ・・・。