ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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死人

数十分移動して漸く丁度いい建物を見つけた拳西は、早速中に入って爆睡した隼人を壁に凭れかけて座らせ、中から人払い用の結界を張る。

前に教えたい教えたいとぎゃんぎゃん喚かれた時に隼人から教えてもらった鬼道が、こんな形で役立つとは思いもしないだろう。

鬼道はマスターしていないが、斬魄刀自体はどちらかというと鬼道系のものなので、それなりの難度の術を習得するのに苦労しなかった。

やけに得意そうな顔をしながら教授された鬼道を、教えの通りにしっかりと発動させる。ちゃんと発動していれば、隊長格程度の死神でもかなり注意しなければ探知できないらしい。

 

再び隼人を担いで中に入っていくと、これまた運がよくベッドがあった。

しかも、自分たちが今まで横になったことの無いような、キングサイズでふかふかのベッドだ。

 

 

「いくらすんだよこれ・・・俺が寝てえな」

 

 

思わず独り言が出てしまうレベルの高級感だが、新品の羽織を脱がせて適当に隼人をベッドに投げてみると、思いの外二人分横になれるスペースがある。

どさっと衝撃を受けた隼人は一瞬目を覚ましたっぽかったが、雲の上にいるかのようなふわふわ加減に逆らえずそのまま眠ってしまった。

 

満足そうな顔でベッドを独占して眠る隼人に、少しイラっとする。

何でこんな奴にキングサイズの高級ベッド(それも現世にいた頃は絶対に手を出せなかった)を譲らねばならないのだ。

 

霊力消費は拳西も激しいので、休めるものなら休みたい。

だが他の死神が戦っている以上・・・・・・、

 

(座るだけ座ってみるか)

 

少し中央寄りに寝返りを打った隼人をかなり強引に押しのけ、空いたスペースに座る。

あまりの心地よさに感覚が麻痺しそうだ。これだけでも疲れが取れてしまう。

さすがに二人とも寝た場合は無防備になるため、このままの状態で外の様子に気を配りつつ時間を潰すことにした。

 

 

 

*****

 

 

 

「・・・成程、バズビーに殺された死神か。一体どのようにして生き返った」

「機械の君が僕に興味を示した所で、何も益は生まれないよ」

「回答拒絶か。ならお前はどのようにしてその力を得た」

「・・・・・・、」

 

 

この質問に対して吉良が黙ることは、BG9にとってお見通しだった。

 

 

「お前の霊圧には、複数の死神の霊圧が混じっている。大方他の滅却師に殺された死神の魂魄でも捻じ込まれたのだろう。人体実験の産物とでも言うべきか」

「それを知ったところで君に何か変化があるのかい?」

「当たり前だ。霊圧だけを増やされようと、お前の戦力は大したことないのだから」

 

 

雷撃を浴びたBG9は体中の接続が若干不安定だったが、吉良の霊圧量を見て問題無いと判断したため、全身に装着したミサイルを全て発射させる。

 

 

「破道の三十二 黄火閃!」

 

 

隊長並みの霊圧で放たれたため広範囲を霊圧で迎撃できたが、BG9のミサイル軌道はそれ以上に広かったため、3分の1程度取り零してしまう。

奥歯を噛みしめて苦い顔をしながら避けようとしたが、ここで思わぬ助太刀が入った。

 

左に取り零したミサイルには鋭い金色のムチの先端が突き刺さり、一つの爆発で左に取り零した全てのミサイルを一気に撃ち消した。

右に取り零したミサイルは氷で全て固められ、「狒骨大砲(ひこつたいほう)!」という声と共に巨大な霊圧の弾丸で全て爆発した。

 

 

「・・・イヅル・・・!生き返ったのかい!?」

「死んでますよ、鳳橋隊長」

「そうかい・・・、わざわざ強調しなくてもいいんだよ?」

 

 

と、なんだかんだ適応しているローズを尻目に、ルキアと恋次は宇宙人を見るような目で吉良を見つめる。

 

 

「本当に・・・吉良副隊長でしょうか・・・?」

「マジで動いてやがる・・・卯ノ花隊長が治したのか?」

「それは・・・・・・」

 

 

説明しようとした所で、BG9の腕で作られたガトリングガンが火を噴いたが、ローズの断空によって全て防がれる。

 

 

「イヅルが何だろうと、ボクは気にしないよ。今のイヅルから深いインスピレーションが得られそうだし・・・!」

「それは関係ないと思いますが」

「相変わらずだねイヅル。でもそれでこそイヅルだよ!」

「いや、意味分かりません」

 

「噛み合ってねえのは、相変わらずだな・・・」

「鳳橋隊長は、新しい隊長の中でもかなり変わっていらっしゃるからな・・・」

 

 

以前、三番隊でオーケストラを作りたいと本気で喋っていた話を聞いてドン引きしたことは記憶に新しいが、何とバンドもやりたいと言っていたようだ。

修兵の耳に入った暁にはまずい事になりそうなので情報統制の必要がある。

恋次の思いとしてはもうバンドに誘われたくない。いくら頼れる先輩でも修兵に色々引っ掻き回されるのは御免だ。

 

 

「今は目の前の敵に集中しましょう?」

「そうだね。霊王宮に行ってたキミ達も合わされば、時間の節約になる。むしろボクの出番無いかな?」

「そうっスね。俺だけでも何とかなるっスよ。コイツ相手に4人でとっかかることが時間の無駄かと」

「恋次!せっかく鳳橋隊長が4人で戦うのがいいとおっしゃったのに失礼ではないか!」

「ボクは気にしないよ。若いキミ達の意見が重要じゃない?」

「おっ畏れ多いです!申し訳ござ――」

 

 

謝罪の言葉を口にする途中で、ぬっ、とルキアの左手と恋次の右手に何かが触れた。

 

((!?))

 

二人とも振り返ったが、その先に人影は見えない。

ただの真っ暗な虚空を見ているのに、心の奥底から怯えが引き出される。

 

 

「何だ、今のは・・・?」

「―――――・・・」

 

 

気味悪い気配に警戒を強めるルキアの隣で、恋次はこの生ぬるい感覚に覚えがあった。

先の戦いで全く歯が立たず、始解の一太刀すら通らなかったあの滅却師。

 

 

「・・・どこにいやがる、エス・ノト」

「!!」

 

 

白哉の卍解を奪った滅却師の名は、もちろんルキアも聞かされている。

兄の仇を取る為に、絶対に探して倒さねばならないと思っていた滅却師が、まさか自分から現れてくるとは。

しかし、以前の白哉を圧倒したその実力は、並の隊長格よりも上手であることは否定できないため、白哉とは未だに実力差に大きな隔たりがある以上厳重注意をしなければならない。

 

そして、恋次の呼びかけにエス・ノトは満を持して現れた。

 

 

「久シイね、阿散井恋次。君ハ朽木ルキアダね。知ッテヰルヨ、朽木白哉の妹」

 

 

まるで水面の上を歩く救世主のように、神聖さと畏怖を湛える足取りで、エス・ノトはじわじわと二人を己の世界に引き込んでいく。

 

 

「デモ淋シイな。朽木白哉ハドこ?」

 

 

「僕ノ、千本桜ハドこ?」

 

 

その言葉に、ルキアは歯を食いしばって静かに憤怒を見せる。

 

 

「・・・貴様に、兄様の居場所を答える義理などない」

「ルキア、今朽木隊長が何処にいるのか知ってんのかよ?」

「・・・・・・・・・、」

 

 

ツッコミに暫し黙った後、斬魄刀から袖白雪の力を恋次目がけて放つ。

 

 

「うぉっ!!危ねえよ!!!」

「そういう貴様は兄様が今何をしているか分かるのか!」

「分かる訳ねえよ!」

 

 

さすがに瀞霊廷から霊王宮にいる白哉が今何をしているかの判断は二人にはつかない。

隼人に伝令神機で電話でもすればすぐに解答は出るが、敵の前で電話など馬鹿な真似はしない。

さっき隼人は戦っていたので向こうも疲れているだろうし。

 

ちょっとした喧嘩になりかけたが、エス・ノトが鏃を放ったのを見逃すことはなかった。

すぐに後退し、三番隊の二人を巻き込まないようエス・ノトの気を引く。

ルキアは右へ、恋次は左へと移動することで一人が対処すべき鏃の数を減らしていき、安全に忍び寄る恐怖から身を引いていく。

 

 

「アはっ、君達二人トモ、朽木白哉ト強イ繋ガリアルね?ダッタラ君達ヲ殺シタラ、朽木白哉ハ此処ニ来ルカな?」

「そうかもな。だが、お前が朽木隊長の顔を見る前に俺達が倒してやるぜ!!」

 

 

エス・ノトが引き入れようとする彼の世界に抗うように、二人とも華麗な体捌きで闇夜を突き抜ける鏃を躱していく。

僅かに空気へと染み出る恐怖の力は、その分気配として感知しやすくなっていた。

 

(いける・・・!)

 

磨きをかけた瞬歩で移動しながら斬魄刀に手をかけ、ルキアに気を取られたエス・ノトの死角から身体を斬ろうとした瞬間、恋次は変化を見逃さなかった。

 

まさに身体を斬る瞬間、エス・ノトの身体から瘴気にも似たオーラが滲み出た。

 

(!)

 

斬魄刀には心があり、持ち主はまさに一心同体と言っても過言ではない。

それも、卍解できる死神であれば、斬魄刀と死神の繋がりはより強固なものになっていると言えるだろう。例外はあるが。

 

故に、斬魄刀がエス・ノトの力に触れてしまえば、持ち主の恋次にも影響が出る筈。

コンマ1秒の差で斬魄刀をエス・ノトの身体から離すことで、何とか恐怖の影響を受けずに済んだ。

 

 

「朽木ルキアニ集中シテ君ヲ忘レテイルト思っタカい?」

「あぁそうだ、そうやって俺を見てたら足元掬われるぜ?」

「何・・・?―――!」

 

 

エス・ノトの左手はすでに地面から生まれた巨大な氷に包まれており、空中で身動きが取れなくなってしまった。

だが、

 

 

「意味ナイよ」

 

 

むしろ、予期せぬ形で相手の油断を誘える攻撃をしてくれた。

エス・ノトの恐怖は、無機物も問答無用で浸潤する。

氷の根元にルキアがいるのを確認し、そのまま左手で鏃を発生させて恐怖を染み込ませ、ルキアの心身を恐怖に陥れる。

同時に恋次に向けて大量の鏃を放ち、最初はルキアの処理にかかった。

 

 

「サあ!!君ガ死ンダラ朽木白哉ハドンナ顔ヲスルカな!?妹ヲ失ッテ失意ノママ呆然トシテ動ケナクナルカな?絶望ニ突キ落トサレテ叫ビ悶エルカな?激シイ怒リニ身ヲ滅ボシテシマウカな?君ノ死体ガ、朽木白哉ノ誇リヲ全・・・テ・・・、―――――・・・?」

 

 

確かにルキアの身体には恐怖の力が付着している。

力を受けたルキアの身体は一瞬のけぞり、斬魄刀を持つ手の力も弱まったように見えた。

だが、明らかにおかしい点がある。

 

何故、恐怖の力はルキアの()()()()()()()()()のだろうか。

何故、斬魄刀を手放さずにそのまま持っているのか。

何故、恐怖に陥った者がする、引き攣った震えを見せないのか。

 

 

「・・・効イテナい・・・?」

 

 

恋次のいた場所に向けて再び鏃を発射する一方で、ルキアには空中から直接恐怖の力そのものを漆黒の液体として直接浴びせる。

精神干渉のオーラに近いためルキアの身体が真っ黒に濡れて穢れることはなかったが、表情からは凛とした生命力を感じさせる。

以前白哉を恐怖させた力が、効果を発揮しなかった。

 

 

「馬鹿ナ・・・!僕ノ恐怖ガ通用シナイナンテアリエナい・・・!!一体ナゼだ・・・!」

「理由など、貴様の頭で考えろ」

 

 

ルキアの声が背後から聞こえた時には、既にエス・ノトの右腕が綺麗に斬られていた。

 

(斬リ口ガ凍ッテイる・・・!?)

 

そのままルキアはエス・ノトの左に回り込み、左手首に触れて霊圧の放出口を瞬間冷凍させる。

 

 

「-18度、人体を軽く凍結させるのであればそれで十分だろう」

「僕ノ腕ヲ凍ラセタ所デ・・・!」

「-89,2度、現世の極寒世界で記録された歴史上最低気温だ」

「!!」

 

 

ルキアが近くにいるだけで、強い温度差の影響かエス・ノトの行動が急激に鈍くなる。

まるで、他人に与えてきた恐怖の力が自分に降りかかってくるかのようだった。

寒さが身体に伝わり、思うように身体が動かない。

そして自身の体をよく見ると、

 

 

「脚ガ・・・!腹ガ・・・!凍ッテイる・・・!!」

 

 

攻撃動作を一切とっていないのに、ルキアが近寄るだけでじわじわと身体が凍っていく。

 

 

「兄様の居場所を教える代わりに、貴様に触れればどうなるか、教えてやろうか」

「――――・・・、・・・・・・」

「だが生憎、私が手を下すまでもないようだ」

 

 

そうしてルキアが見上げた目線の先では、()()()()()を携えた恋次が、オロチ王から()()()()を繰り出した所だった。

 

 

「狒骨大砲!!」

 

 

レーザーのような砲弾が、凍りかけたエス・ノトの身体に複数の孔を開ける。

間髪入れず、左腕の狒狒王(ひひおう)も身体から飛ばし、一部が氷と化したエス・ノトの身体を一気に握り潰し、追いついた恋次が狒狒王を腕に嵌め直してそのまま近くの建物に向けて投げ放った。

 

ぶつかったエス・ノトがそのまま地面に落ちていったのを見て、恋次は卍解を解き、ルキアは体温を元に戻していった。

 

 

「ありがとな、ルキア。お前がアイツを無力化したおかげで俺の卍解が通った」

「ああ、そうだな。わ・た・し・の・おかげだな!恋次一人では勝ち目無しだな!!」

「清々しく言うなよ!!仕方ねえだろォ!!お前みてえに自分の肉体殺すこと出来ねえからよ!」

 

 

純粋な力の強化となった恋次とは違い、ルキアは力の性質そのものが変化したので、自然とルキアの方が手の内が増えるのは仕方ない。

また、癪な話だが恋次一人ではまともな対抗策が編み出せたかと言えば無理だっただろう。

直接斬ろうとした瞬間に身体から恐怖の力を発せられるのであれば、残りは大の苦手な鬼道での攻撃しか手札が無くなる。

ルキアが身体を凍結させて恐怖の力が身体から発せられるのを封じたおかげで、恋次の攻撃は臆することなく通せたのだ。

 

 

「とにかく一度身を隠すぞ。そのまま戦えば消耗して動けなくなる」

「おい無視かよ・・・・・・、まァ、打ち合わせ通りいくとするか」

「恋次と違って私のように肉体の生死をも操れるとなれば、力の消費は激しいからなぁ~」

「聞こえてんじゃねえかよ!!」

 

 

いつも通りの調子に戻った二人には、エス・ノトの身体がピクリと動いたことに気付く由もなかった。

 

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