ルキアと恋次の霊圧を探っている最中、突如バキバキバキ!!という音が遠くから響き渡ってきた。
一区画の地面がせり上がり、周囲の建物を巧妙に巻き込んで立方体の巨大なブロックが出来上がる。
まるで、舞台のようだった。
「あそこにいるのは、更木隊長ですか・・・」
「大怪我したって話は聞いていたケド、戻ってきたみたいだね」
頭に包帯を巻いているためローズの見た目は痛々しいが、吉良の回道のおかげで傷は大方治っている。
「隊長も無理しないで下さいよ」
「強くなったイヅルが一緒にいるから、何も問題無いさ!」
「あんまり期待かけないで欲しいです」
「謙虚だねホント・・・」
そうこうしている内に、吉良が二人の霊圧の位置を捕捉する。
「二人とも見つけました。まだ戦っているようですね。すぐに行きましょう」
「オールライッ!」
ローズの右手を腰に当てて左腕を真上に上げながら、親指と人差し指を伸ばして腰を横にフリフリする謎の決めポーズを無視して、吉良は一目散に霊圧の方向に向かって行った。
*****
「済まぬ・・・私はもう大丈夫だ。助かった。」
「だっ・・・駄目ですよ砕蜂隊長!確かに傷は塞がりましたが、だからといって万全に動ける状況ではございません!」
「他の死神の方が傷が深い。後は自分でどうにかできる」
救護詰所では、一足先にある程度回復した砕蜂が気を遣って戦線復帰しようとしていたが、伊江村の目からすれば完全回復しているとはまだ言い難く、もう少し治療を加えたいところだった。
ベッドの強奪をしていたやちるも、心配の目を向ける。
「ふぉんふぉん、本当にいいの?」
「今は四番隊も分散してしまって人手が足りていない。そんな中回復した私がお前のような高等席官を足止めする訳にもいかないだろう。行かせてくれ」
どうしても押しに弱い伊江村は、ここで砕蜂を治療するための決定打になりえるような一言を言えない。やちるも砕蜂の顔を見て、無理に止めようとはしなかった。
そして絶えることなく、詰所には負傷した死神が運ばれてくるのだ。
「寝床も一つ空けられる。私がここに立ち止まる理由も無いだろう」
「・・・分かりました、ご無理はなさらぬよう」
「迷惑をかけたな・・・ありがとう」
「ふぉんふぉん・・・」
ベッドの上に置いてあった斬魄刀を背中に差し、準備を整えた。
丁度負傷者が運ばれてくるラッシュの時間にかち合ってしまったため、落ち着いてから出ようとしたが、
「あ゛あ゛ア゛ァ゛ッッッ!!!!!」
「!」
救護室の入り口に怪我人を抱えた一般隊士が入った瞬間、彼は何者かによって全身を銃撃された。
「えっ・・・!何!?」
「滅却師か!?」
「侵入されただと!?」
四番隊士が揃ってパニックに陥り、入口とは反対側に逃げて押し寄せそうになるのを見かねて、砕蜂は喝を入れる。
「落ち着け!!私が様子を見るからお前達は一旦守備を固めろ」
「あたしも行く!」
簡単に指示を出した砕蜂は、やちるを連れて瞬歩で撃たれた死神の許へ移動する。
二人とも斬魄刀を構えて侵入者を迎え撃つつもりだったが、銃を撃ち込んだ滅却師がいると思われた場所には、何もない。
霊圧も残っておらず、もぬけの殻だった。
「にげちゃったかな・・・?」
「いや・・・何処かに隠れていると見るべきだ。わざわざ猟奇的な殺し方をする奴が、一人殺して満足して逃げるとは思えんな」
「大当たり」
「「「!!」」」
救護室の中から聞いたことの無い声が聞こえたために中に戻ると、少年の滅却師がある死神の横たわったベッドの脇に座っていた。
花太郎も伊江村も、訳が分からないといった顔をしている。
本当に、虚空から突然姿を現したのだ。
「貴方は誰ですか・・・!」
「彼らが心配かい?」
「寝床からどいて下さい!!今すぐに!!」
「そんなに心配することないよ。だってこの中に、隊長さんいないでしょ?」
「貴方が近くにいれば危害を加えるつもりでしょう!?すぐに消え去って下さい!!僕たちの仕事は彼らの治療です!!」
焦りながらも花太郎は謎の滅却師に声を荒げる。
そこまで言われるならと滅却師は立ち上がったが、誰しもが予想だにしなかったことを彼は言葉にした。
「でも、隊長さんいないならどうでもいいかなって思ってさ」
「殺しちゃった」
「―――――――、」
花太郎の思考が、瞬く間に停止する。
唯一この状況で動けた伊江村が大急ぎで治療中の死神全員の生死を確認したが、
「――・・・全員、死んでいる―――――――・・・!」
「ね」
六番隊席官の行木、九番隊席官の誉望、十一番隊席官の斑目と弓親を含めた十数名の高等席官だけでなく、滅却師の座ったベッドに横たわっていた大前田までもが、皆一瞬にして絶命していた。
「貴様!!一体何をした!!!」
「簡単だよ、彼らの命が無いものと想像しただけさ」
「想像だと?そんなちんけな物で死神を殺すなど不可能だ!!」
「じゃあ君も殺してあげようか?」
「!!」
滅却師の口ぶりは、決して荒唐無稽なことをのたまって時間稼ぎをしようとしているようには見えない。
本気で、想像だけで殺せるのだ。
顔から脂汗が出てくる。言葉を発することもできないくらい、滅却師の存在だけで圧倒されている。
「今ここにいる君達全員の命は、僕の掌の上にある。僕が想像すれば、君達全員一気に殺すことが出来るよ。治療部隊だからちょっとの想像で十分だ」
その言葉を皮切りに、一人の死神が意識を失って倒れてしまった。
「ちょっと・・・!ちょっと、しっかりしてよ!しっかりしてよ麻衣!」
また別の死神が倒れていく。
「しっかりしろ!目を覚ませよ!」
また一人、また一人。
じわじわと迫りくる死の恐怖に、残った一般隊士は気持ちを落ち着けることなどできず、パニックが伝染していく。
怯えて奇声を上げ、叫び狂う者。
立つこともままならず、失禁して意識を失う者。
毒を飲んでしまったかのように、嘔吐が止まらなくなる者。
安全地帯であった救護詰所は、地獄のような場所へと変貌を遂げてしまった。
花太郎も伊江村も、彼らのフォローで手一杯だ。
唯一しっかり戦える砕蜂が動き出したが、
「あ゛ッ・・・!!!」
右脚を踏み込んだ瞬間、足の骨が一気に粉々になった。
激痛で左足を重心にしてしまい、同じように左足の骨も粉々になってしまう。
「ふぉんふぉん!」
手近にあった寝床を引っ張り、砕蜂が倒れそうになった場所に上手い事スライドさせることで、何とか他の骨を守ることができた。
そのままやちるも攻勢に出ようとしたが、やはり踏み込むと足の骨がバキバキ!と粉々になる。
「足が、バキバキ・・・」
「想像してごらん。もし、“君達の腕の骨が、クッキーだったとしたら”」
「「!」」
だから、踏み込むだけで骨が一気に折れたのか。
それならと思い砕蜂は縛道を使おうとしたが、腕を振るっただけでボキッ!と骨が折れてしまう。
「クッキーだよ?脆いに決まってる。それとも、落雁って言えば分かるかな?」
再びやちるが動こうとしても、力を入れたらその部位の骨が折れてしまうため、何も手を出せなくなってしまう。
「この世界で一番強い力は“想像力”だ。僕の想像したことは、
身動きの取れなくなった二人の女性死神を仕留めようとした瞬間、救護室の屋根が一瞬にして吹き飛んだ。
「なっ・・・!今度は何だ一体―――――!」
その禍々しく、殺気に満ちた霊圧は、死神なら誰しも覚えがあり、恐れ慄くものだった。
ある意味、招き寄せられた客とも言い表せるだろう。
空間全体の霊子の主導権を握り、搔き乱すかのようだった。
「何だァ?やちるの霊圧が随分グラついてやがるから捜して来てみりゃ、ガキが一匹騒いでやがるだけじゃねえか」
「更木・・・!!」
砕蜂の声にはさして気にも留めなかったが、ベッドの上に見覚えのある顔が横たわっているため、縁から降りて二人の許へのっそのっそと歩いて行ったが。
「もう死んでるよ」
「――――・・・・・・」
「剣ちゃん」
声に振り返ると、やちるの他には砕蜂と、花太郎やその他大勢の四番隊の死神がいる。
「おい砕蜂、やちるを頼む」
「・・・分かった。頼むぞ、更木」
完全回復といかない中で新たに骨折しているため、下手に強情になって粘るような真似はしなかった。
空中に浮かび上がって霊子で足場を作れば、骨折の影響も減って動きやすくなった。
「ふぅん、これが“更木剣八”かぁ。“更木”から来た“剣八”で、更木剣八。強そうだ、『想像通りに』ね」
そして、三番隊の二人が目の当たりにしたように、二人の戦闘舞台が形成されていく。
「地面が、動いて・・・!?」
それと同時にベッドごと舞台から零れ落ちていき、たくさんの死体が自由落下していく。
「手の空いた人は皆さんを抱えて下さい!危ない!!」
気を取り直した花太郎が一般隊士に声をかけ、亡くなった席官や気を失った死神へのフォローを皆に頼んだ。
ここで、砕蜂は
やちるを抱えても、骨が折れたような音は一つも聞こえなかった。
「ふぉんふぉんはもう、大丈夫?」
「ああ、どうやら私達の骨は元に戻ったようだな・・・」
そして、意識を失っていた四番隊の一般隊士も、落下しながら皆目を覚ましていく。
彼らはどうやら殺されたのではなく、ただ意識を失っていただけのようだ。
想像したこと全てが現実になるとはいえども、さすがにピンピンした人間を一瞬で殺すまでは出来ないのだろうか。
などと砕蜂が考えていたところで地面に近付いてきたため、霊圧を解放して速度を落とし、空中に足場を作った。
「砕蜂隊長!草鹿副隊長!すぐに治療致します!」
「草鹿から頼む」
「はっ!了解しました!」
伊江村にやちるを引き渡した砕蜂は最初に殺された大前田の様子を見に行く。
先程生死の判断をした時は完全に死んでいたが、改めて砕蜂が確認してみると、何と微弱な生命反応が出た。
一度想像した事象であっても、想像する暇が無くなった、もしくは想像すること自体を忘れてしまった場合には、効果が切れてしまうのだろうか。
何はともあれ、あんな死に方では浮かばれないので生き返って良かった。
他の者も、大前田と同じであれば皆息を吹き返しているだろう。
一通り皆の様子を見て最初に降り立った場所に戻ると、伊江村がやちるの身体の治療を一通り終えた所だった。
「ここまでやれば、どうにか動かせるでしょう」
「ありがと、やっちん!」
立ち上がったやちるは滅却師と更木が戦っている舞台を仰ぎ見た。その上で激戦が繰り広げられているのは、真下にいれば音で伝わってくる。
その様子から、砕蜂はやちるが更木の許へ向かいたいと思っていることは容易に読み取れた。
舞台から降りる時も、砕蜂の腕の中で更木を見ながらうずうずしていたのだ。
予想通り、やちるは「あたし行くね!」と言ってその場を後にしようとした。
「・・・行くのか、草鹿」
「うん・・・、」
「やっと・・・・・・やっと、剣ちゃんに呼んでもらえる・・・・・・」
胸に手を当てて発したかすかなつぶやきから、砕蜂は様々な疑問が脳裡に浮かんだが、追及しなかった。
ただ一言。
「・・・行ってこい」
「うん!ありがと、ふぉんふぉん!じゃあね!!」
跳躍するやちるを、砕蜂と伊江村は見送るしかできなかった。
そして二人が見上げた空には、突如巨大隕石が出現したところだった。
想像力が切れたことに関しては、僕も原作を読み進めていく中で気になっていました。やちるに対する想像力が切れたのであれば、原作で殺された拳西とローズに対する想像力も切れていることになります。
そして、ジジのゾンビとして再登場した時、十番隊の二人と同じように、生前にゾンビ化させた文脈で出てきたように見えました。
二人の能力が落ちた描写や、ジゼルの好きな性格に変化した描写も無いので、想像力は凶悪な一方で、本人次第で簡単に効果が切れちゃうのかもしれないと思いました。
なので、今回は想像力切れで一応生存させています。といっても、普通の人間からすれば心肺停止からの回復みたいなものなので、動けませんが・・・。