苦節二百
口囃子隼人、人生における崖っぷちは、星十字騎士団約10名に囲まれたことです。と、堂々と言える。
こんな経験二度とないだろう。というか、したくない。ピンチはチャンスどころじゃない。
「で、コイツ誰だよ?こんな隊長いたか?」
「口囃子隼人だ。あの犬隊長の後釜らしいが、藍染惣右介相手に独りで粘るような奴だぞ。黒崎一護と同じくらい警戒すべきだ」
「へェー・・・」
何だか滅却師の男女が耳打ちで喋っている。付き合っちゃえよ。
じゃなくて。
男の方は、何だか変な髪型だ。変色したパインみたいだ。それも、果物嫌いな子どもがパインの側だけを軽く齧ってペッて捨ててしまったような感じで、前髪が垂れ下がっている。
じゃなくて!
その男と目が合った瞬間、腕に生成されたボウガンから大量の矢を連射された。
「!」
勿論壁に全部阻まれるが、それが合図となったのか、他の滅却師も小手調べのような攻撃を始めた。
拳銃を構えるロマンスグレーの滅却師は、数発撃つと、「素晴らしい術だ・・・」と感服しているようだった。
別の滅却師はU型の霊圧を放出したが、結界の前で四散したため何やら考え込んでいるようだった。
ありきたりな反応に、正直飽き飽きする。
他の死神の霊力底上げに使おうとした力を全て自らに回し、再び自己強化をしてこちらからも攻勢に出た。
杖の形状を変化させるだけで、滅却師の間に一瞬で緊張が走る。見ていると少し面白い。
「裏破道・一の道 廚魔陣」
「縛道の六十二 百歩欄干」
二倍の数となった百歩欄干を一気に同心円状に放出し、結界をするっと通り抜けて滅却師の身体へと直撃する。
力のある滅却師はスレスレで避けたようだが、半分程はふるい落とせた。
百歩欄干が当たった後に態勢を立て直して上手く逃げ切った者もいたが、最終的に光の棒に当たってそのまま壁に縫い付けられたのは、3名の滅却師だった。
見事に三方向に分かれているため面倒だが、新技の実験としては丁度いい。
宝珠杵に卍解を変えて祈りを籠め、白断結壁と性質の同じ力を再び生成していく。
その様子を見た滅却師は、隼人が何をしでかすか分からない危険のせいで、動けなくなった滅却師の救助に行けなくなっている。
他の滅却師などどうでもいいという思いがあるのは事実だが、それ以上に、自分が動くことで場を作り出す糸がプツリと切れ、自分の身を滅ぼす可能性を考えてしまう。
未確定要素の多い死神は、卍解を得ることで更に謎に包まれてしまったのだ。
(何だよコイツ・・・
対象の霊圧に干渉する力は、自己干渉による自己強化だけを使っていると、相手にとって見抜くことは困難を極めた。
自分が干渉されればすぐに理解されてしまうため、力の詳細を伏せたまま戦うのは都合がいい。
尤も、その事を意識せずに戦っていたのが玉に瑕だが。
「まずは3人か」
小声で口走ってから、隼人は宝珠杵を攻撃用の杖に変え、同時に正確な霊圧探査を行う。
更に力を溜めていくと、身体の周囲から白いオーラが発せられ、そよ風に流されるように周囲を漂っていく。
この技は、七緒から教えてもらった白断結壁を応用し、対滅却師用に完全特化した攻撃用の鬼道だ。
作戦会議の後、皆と別れた後に練り出したものだが、上手くいくか完全に賭けだった。
(暴発しても最悪撒き散らされるだけだし、一応滅却師には効くはずだし、大丈夫でしょ!)
と、まあ突貫工事感は否めないものの、自身のスキルアップも兼ねてだ!と重く考えすぎないようにした。
そして、周囲のオーラを巻き込むように左回りのターンをしながら、杖を持った両手を頭の上に掲げて薪割りのように振り下ろして技を発動させる。
「
シンプルな技名を唱えた瞬間、百歩欄干から逃れられなかった3名の滅却師の周囲に、12個の真っ白な光の弾が突然発生する。
真珠のような輝きを持った弾が、空へと向かって一度地面にいる者の視界から外れた後、音速で落下し、全ての弾が滅却師に激突した。
奔流のように空から落ちていく弾を喰らった滅却師の身体には、新たな傷は一つも無い。
だが、技を受けたキャンディス、ロバート、シャズの霊圧パターンを見たナジャークープが、冷や汗を垂らして怒りを浮かべた。
「おいあんた・・・何しやがってんだ・・・!
「「!!」」
その一言が滅却師全員の敵意をより一層強める契機となり、黒崎一護や他の死神の存在が頭から抜ける。
他人の力を消す能力を、自らに発動されてしまえば一巻の終わりだ。
それは技を喰らった3名の滅却師が、一切身動きが取れず霊圧も完全に消えていることから容易に推察できる。特に男2人は、無傷の状態から一瞬で戦闘不能になっている。
かといって攻撃特化という訳ではなく、防御も完璧でこちらからまともに手出しすることは、見かけ上無理だ。
解決の糸口は、未だ見当たらない。
「さて、次は誰にする?」
無邪気にも見える青年のニッコリした笑顔が、却って不気味で足が竦む。
力の根本に共通項のあるナジャークープだけは隼人の危険性を誰よりも強く感じているため、持ちうる限り様々な攻撃をしているが、全て結界に阻まれて技が通らない。
バズビーのバーナーフィンガーも、4まで使ったが全て完璧に阻まれた。
「チッ・・・食おうにも食えねえな」
「参っちゃうよねーーーーッ」
「私の力で割ろうとして、私の腕が折れたら無駄になってしまいますよぅ><」
「お前ら、やる気あんのかよ・・・」
キャンディスが戦闘不能になった時こそ顔色を変えたが、それも瞬間的だった。
何をやっても技が効かない相手に、モチベーションを維持するのも大変だ。
ジゼルの血液も弾かれてしまったので、僅かに滅却師の力が混じっていれば全て受け付けないのだ。
ミニーニャも聖文字の力を使わなければ、ただのか弱い少女だ。聖文字を使わず純粋な膂力だけでは、結界を正拳突きしても壊れる筈はない。
そして3人が喋っていると、またもや結界の中から攻撃が飛んできた。
「破道の三十一 赤火砲!」
三十番台の鬼道だが、自己強化で霊力をブーストさせた隼人の腕を以てすれば、杖の先端から無限に火球を放つことだって出来る。
マシンガンで連射するように放たれるため、赤火砲が岩石に当たって爆発すると同時に燃焼されて火が広がり、炎で身動きが制限される。
(まずいな・・・ここで動き止めちまったら・・・)
リルトットの予想通り、結界の中から隼人は再び白滅光弾を出す準備を始めた。
敵が、リルトットにとって予想通りの動きをする簡単な頭しかないのが救いであるが、攻撃一つが必中必殺であるため、予備動作をしている内に攻撃で中断させたいが、相変わらず技は届かない。
静血装全開で備えてダメージを減らすしか無いのかと半ば諦めモードに入りかけたその時。
結界内で、隼人の身体が何者かによって殴り飛ばされた。
*****
あまりにも突然すぎて、状況を掴めずにいた。
二度目の白滅光弾で一気に5人の滅却師を仕留めようとしたのだが、一瞬視界がぐりん、と乱れた後、気付いた時には空が見えていたのだ。
正確には結界の影響でかなり青みがかった半球状の空だが、それ以上におかしな点があった。
何故、自分は地面に仰向けで寝転がっているのか。
何故、顔がじんじんと痛むのか。
何故、手で顔に触れると、大量の血が付着したのか。
「一体何故、
「・・・・・・、」
白断結壁のせいで緩み切っていた警戒心を最大まで強め、隼人は起き上がって声の聞こえた後ろへと首をひねる。
しかし、人影は一切見られず、前を向き直して目だけで周囲を見渡したが、相変わらず誰もいない。
「どこを見ておる、ここじゃよ、ここ」
ここ、と言った瞬間に、隼人の顔が再び殴り飛ばされた。
霊圧か何かで威力を高めているからか、素手の拳西の殴打よりも痛みを感じる。
立て続けに肩や脚の一部を刃物で斬りつけられ、瞬間的な痛みで動きが止まってしまう。
外の壁だけで十分と思ってしまい、自分の身体に白断結壁を付与するのを怠ったせいで、不得手な近接戦に持ち込まれてしまった。
だが、一応近接戦用の特別な技もあるにはあるので、一方的に斬られながらも牽制として発動させる。
「氷牙征嵐・
杖を地面に突き刺すと同時に隼人の周囲から氷の刃を波状に生成し、刃物っぽい攻撃を通せないように物理的バリアを形成する。
見えない敵だが、霊圧の攻撃なら当たると読んで次の鬼道を出そうとしたが、
「・・・あれ、何でこんな技出したんだ・・・?つーか、何で結界の中に攻撃しようとしてんだ・・・?」
敵の存在が、隼人の記憶の中から完全にいなくなってしまった。
動きを止めて思考回路の違和感にもやもやしていると、再びしわがれた声が聞こえた。
「そうじゃろうそうじゃろう。意味が分からんじゃろう。」
にゅにゅにゅ、と氷の波の外から出現した滅却師は、やちる程の背丈の老いた滅却師だった。
不気味なギョロ目が気持ち悪く、剥き出しの歯も真っ黄色でくすんでいる。
「これから何度言うことになるか分からんが、『初めまして』と言っておこうかの」
「『初めまして』を何度も言うの?」
「そうじゃ。わしは星十字騎士団『V』。『
他の滅却師が一切手出し出来ない中、一方的な無敵ゲームが始まった。
*****
グエナエルが現在隼人とタイマンを張っているのは、奇跡だった。
ユーハバッハの力で滅却師も吹き飛ばされて散り散りになってから、グエナエルが最初に見つけた敵は遠くで潜んでいた隼人だったのだ。
余程遠くまで吹き飛ばされたのは小柄で体重も少なかったからだが、さっき目の前にいなかった隊長を、存在を消したまま攻撃して仕留めれば、己の星十字騎士団としての地位が確約されるだろう。
ゆっくりと距離を詰めて刃を死神の身に突き立てようとした時、周囲に変化が訪れた。
蒼玉色の結界に突然包囲され、外界との接続を完全に断たれてしまう。
それから死神が一人で発した言葉に、彼は強い衝撃を受けた。
『滅却師の攻撃を一切受け付けません!無敵ですよ!』
こんなとんでもない術を使う死神を、野放しにできるはずがない。
更に中で敵の能力を見ていれば、3名の滅却師の力を奪い尽くして、無血で戦闘不能にしたではないか。
ますます許し難い。よく分からない真珠みたいな弾で、同胞を事実上殺害するとは。
今度は火の玉を杖から連射して周囲に炎の塊をいくつか作り、滅却師の動きを阻害している。
そして、再び白いオーラが身体の周囲から生じ、あの技の予備動作をしていることは近くで見ていたのですぐに理解できた。
(こんな小童に、わしらがやられてたまるか!)
力を溜めている間は一切身動きが取れていなかったので、その隙を狙って隼人を殴り飛ばしたのだ。
そして自己紹介を終えてから、グエナエルは再び楽しい楽しい無敵ゲームを始めた。
対滅却師相手に最強の防壁を作り、優位に立って自信を持っていた死神が、自分相手に手も足も出せない。
愉快、痛快。最高に胸がスカッとする。
たとえ隼人から攻撃されようと、絶対に当たらない。
自分が作った最強の壁の中で、敵に殺されるザマを想像するだけで、ウキウキしてくる。
だが、次第に反応が速くなってきた。刃物で斬った瞬間に雷撃が飛んできたため、一旦潮時か。
ここでグエナエルは、バージョン3を発動させた。
グエナエルの存在が意識の中から消え、グエナエルという存在そのものを忘れる。
口囃子隼人の記憶には、グエナエルの記憶が綺麗さっぱり無くなった。
そして再び、グエナエルは姿を現す。
「さてもう一度、『初めまして』かの」