ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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助けてくれ・・・!

入学式の翌日。

 

普段とは違う環境のためあまり眠れなかったものの、寝坊、遅刻というヘマをせずに済んだ。

普段拳西と一緒に暮らしていた際の生活習慣の賜物である。

そしてこの日からあるものが貸与された。

 

 

『浅打』

 

 

これは真央霊術院に入った者全員が一時的に貸与され、護廷十三隊に入隊する者は入隊と同時に正式授与される無銘の斬魄刀だと担任から言われた。

刀と寝食を共にし練磨を重ね、魂の精髄を刀に写し取ることによって『己の斬魄刀』を創り上げるそうである。

 

今まで鍛錬の際には木刀を使っており、斬魄刀はおろか真剣さえも握らせてもらえなかったので、この浅打は宝物に思えてならなかったのだ。

受け取った瞬間の目の輝きっぷりが凄まじく、担任が怯えているように見えたがそんなのは関係ない。

己の斬魄刀がどのようになるのかが非常に楽しみであった。

 

 

「何じゃ。えらい嬉しそうじゃのお。ええ夢でも見たんか?」

「この浅打が貰えてすごい幸せなんだよ!どんな斬魄刀になるか楽しみだな~~。」

「ほう。それでどがいな斬魄刀がお主はええんじゃ。」

 

 

そんなものは決まっている。とにかく前線で戦えるものだ。できることなら断風のようにカッコいいもの。

自分を救ってくれた拳西(ヒーロー)のように、カッコよくて強い斬魄刀を使いこなしたかった。

だからこそ隼人は満面の笑みで自信をもって宣言した。

 

 

「拳西さんみたいなやつ!!!!拳西さんみたいに強くてカッコよくて皆から尊敬されるような死神になりたいからね!!!」

 

 

斬術は苦手だが、やはり直接攻撃系の斬魄刀が欲しい。

巨大虚と対峙しても決して負けることのない隊長格。彼らの斬魄刀は多種多様で、非常に羨ましかったのだ。

京楽の花天狂骨なども見たことは無いが、始解の姿はとてもカッけぇぞと拳西から聞いた。

そういう斬魄刀が欲しいからこそ、いかなる時も浅打と共にこれから生きていこうと心の中で誓った。

 

 

(よろしく!僕の未来の斬魄刀・・・!強い斬魄刀になってくれますように・・・!)

 

 

己の斬魄刀への祈り。

鍔を額に付けて祈ることをこの日から隼人は何度も行うようになった。

 

 

 

入学式から二月ちょっと経った頃初めての大規模な実習が行われた。

魂葬の実習。

魂葬は必ず現世で行うものなので、必然的に現世に赴くことになっている。

特進学級の院生であろうと皆初めての現世なので、かなり浮足立っていたのだ。

 

六回生の先輩の引率の下で現世に赴くこととなった。

 

 

「何か緊張しますね・・・。現世ってどんな所なんだろうな・・・。」

「色んな機械があるって九番隊の人から聞いたよ。瀞霊廷通信もその機械を取り寄せて作ってるんだって。」

「俺ちょっと怖えかも・・・虚に出くわしたら死んぢまうよ・・・。」

「大丈夫だって。六回生の先輩がついてるんだし。僕も霊圧知覚はある方だから何となくわかるよ。」

 

三人一組行動であり、隼人の他には勇音と、射場派閥の一人だったので気安く行動できた。

ちなみに射場は勇音の友達二人(とびっきりの美女)と組むことになり、非常にやりずらそうだった。

 

地獄蝶の扱いも白からこっそり教えられていたため、問題なく扱えた。

案の定細かい作業が苦手そうな射場は苦戦しており、六回生からも心配の目を向けられていた。

 

 

初めての現世。一体どんなものが待ち構えているのかと思ったが、それは隼人の予想をはるかに超えたものだった。

数階建ての木造建築にたくさん並んだ平屋の商店。

路面電車に人力車。

尸魂界にいる死神達とは全く違う色とりどりの着物を着た人々。

 

 

生活水準が尸魂界とは全く違うのだ。

瀞霊廷の建物でも数階建ての建物はほとんど無いはずだ。

現世の科学力の凄まじさたるや。隼人以外の二人は一つ一つの物事に完全に圧倒された。

 

 

「やばっ・・・現世ってむちゃくちゃ人が溢れてんだな・・・。」

「私・・・ちょっと怖いです。あの電車も現世教養の授業では聞いていましたが・・・。速いですね・・・。」

 

 

勇音ともう一人の仲間が面食らっていたが、隼人は持ち前の好奇心で目をキラキラさせ、テンションがインフレしてしまった。

 

 

「ねぇあれすごくない!?車が動いてる!!あんなに高い建物どうやって作ってるんだろうね!えぇ~~~~!!!すっっっっっっげぇ~~~~~~!!!!」

「そこの一年!うるさいぞ!私語は慎めコラ!!!」

「すっすみません!!」

 

 

同期達からくすくす笑われ恥ずかしい思いをしたが、それからはちゃんと頭を冷やし実習に集中した。

魂葬は正直楽だった。もっと面倒なものと思っていたが、変に力を入れずに『死生』のハンコを(プラス)に押すだけのものであり、ちょっと残念であった。

緊張し力を入れてしまった勇音は魂魄が「痛ででででで!」と言っているのにかなりびっくりしていた。あんたがびっくりしてどうするよ。

 

特進学級30人全員が魂葬を何とか終わらせ、六回生からも十分だと励ましの言葉を頂いた。

予期せぬアクシデントが起こることもなく現世から穿界門(せんかいもん)で尸魂界に帰り、霊術院に戻ったが、院内の靴箱の中がおかしなことになっていた。

 

室内用の草履が無い。

 

 

「どうしたんじゃ口囃子。何かおかしなことでもあったんか。」

「いや・・・。ねぇ射場ちゃん。僕桐ケ谷先生に草履預けたよね?」

「あぁ。儂がまとめて預けたはずじゃが・・・。」

「それが無いんだよ・・・。」

 

 

万が一の時のために全員分の草履は一括で管理していたが、自分の草履だけがないのだ。

渡し忘れたかと思ったが、射場が「お納め下せぇ!」と派閥の者達皆の分をまとめて出している所を見た記憶があるため不審に思い始めた。先生も全員分確認していたし。

 

とりあえず先生に無い旨を伝え、代わりの草履を一時的に借りたが、教室に入るとさらにおかしな出来事があった。

 

数冊ある教本全てが消えた。

 

鍵をかけたロッカーに入れていたはずの教本が無くなっていたのだ。

それにそもそもの鍵すら木っ端微塵に壊されていた。

 

まさか貴族の仕業か。

今まではかなり攻撃的かつ陰湿な陰口を叩かれることだけなので大したことないと思っていたが、ついに行動に移してきたのだ。

魂葬習得のための現世実習は隼人の持ち物に実害を与える機会としては十分すぎた。

 

学級内の仲間が協力して探してくれ、見つけることができた。

ゴミ箱の中から見るも無残な形で。

 

 

「ひっでぇなコレ・・・。もう使えねぇんじゃねぇの?」

 

 

学級の誰かが言っていたが本当にその通りだ。

教本全ては墨などで落書きされ、ビリビリに破かれている。

さっき靴箱に無かった草履も一緒に捨てられていた。

墨の落書きも「院に来るな」「消えろ」「死ね」などの汚い中傷の言葉しかなかった。

 

ローズの言葉を甘く見ていた。

腐っても貴族。悪口は言っても他人の物にまで干渉するとは思わなかった。

 

だがこれは悪戯の域を超えている。明確な悪意のこもった『攻撃』だ。

先手を打たれ、完膚なきまでにしてやられた。

 

状況から考えると、彼らが権限を使って先生の誰かを脅したと推測した。担任は脅しに屈するようには見えなかったからだ。

こんなにも卑劣な手で攻撃してくるあいつらを平気で放っておけるほどの甘さは隼人にはない。

 

 

「しかし・・・一体どがいな奴がこがいな情けないまねを「他の学級の貴族たちだよ。」

「えっ・・・でもあの人達がこんな卑劣なこと「するに決まってんじゃん。」

「いやまさか・・・あの人たちは俺にも優しかったぞ・・・?」

 

 

射場も派閥の仲間たちも、勇音も勇音の友達も、いや、貴族出身でない学級の仲間全員が貴族から蔑如されていることを全く知らないのだ。

 

未だに貴族は優しいものだと思い込んでいる彼らが理解できなかった。

そしてこんな下劣な攻撃をしてくる貴族達には殺してやりたいほどの怒りが込み上げてきた。

拳西ですら驚くほどの怒りを孕んだ顔で唇を噛み、教室の外にも聞こえるぐらいの叫び声で怒りをぶちまけてしまった。

 

 

「優しい・・・?すれ違う度に汚らわしいとか消えろとか殺してやろうかとかほざくクソみてぇな奴らがか!?優しいわけねぇだろ!!!あいつらはなぁ!影で僕達皆をバカにしてんだぞ!!ただ親が金持ちなだけでふんぞり返ってる無能どものクセに!!お前ら皆何にも知らねぇんだな!!」

 

「何も知らんて・・・どういうことじゃ・・・。」

 

 

射場の言葉をきっかけに、隼人は今まで自分一人だけが標的にされて貴族から言われた陰口に対する怒りの思いが止まらなくなってしまった。

気付けば射場の制服の襟首を掴み、理性を保つことができなかった。

 

 

「入学してから、いや入学する前から毎日毎日悪口言われてそれでも必死に耐えてきたんだよ!貴族連中相手にとってただの院生が勝てるわけもねぇから我慢するしかなかったんだ!!そんな情けねぇ姿見られて何回も笑われてきたんだよ!!わっかんねぇだろ僕の気持ちが!!あぁそうかあいつらの仮初の優しさを信じ切ってたお前らにわかるわけねぇか!!」

 

 

ここまで言ったところで、やってしまったと悟った。

今まで隼人が怒りに任せて叫んだ言葉は、貴族たちはおろか、目の前の仲間をも糾弾する言葉だったのだ。

 

勇音含めた周りの者達はおろか、目の前の射場の顔すら見ることが出来ず、俯いてしまった。

一瞬にして皆に嫌われた。明日から肩身狭い思いをして院に通うことになりそうだ。

周りに恵まれ霊術院での生活も楽しめるかと思っていたが、もう無理だ。

そしてこの様子もきっと貴族たちはどこかでこっそり見て嗤っているのだろう。

 

だが、射場は自分たちへの糾弾すらも受け止めた。

 

 

「言いてぇこたぁそれだけか。」

「は・・・?」

 

 

刹那。

掴んでいた襟首から強引に手を離され、本気のパンチを頬に喰らい吹っ飛ばされた。

背中に鈍い痛みが走る。

これはもう本気で袂を分かつことになるかな・・・と隼人は諦めていたが、射場は予想外の言葉をぶつけた。

 

 

「何故儂らに言わんのじゃ!!何故助けを求めんのじゃ!!見損なったぞ!!儂らがいつも通り授業受けとる中で何故口囃子だけが毎日苦しまにゃあいけんのじゃ!!」

 

 

射場の言葉に対し、隼人は愕然とし凍り付いてしまった。

言葉を口から放つ方法を忘れてしまったかのようになり、怒りの言葉を紡げなくなっていた。

 

 

「だって・・・僕は・・・だって・・・!」

 

 

まともな言葉の代わりにでてきたのは、悔しさのこもった涙であった。

 

 

「もう・・・無理だよ・・・・・・。限界だよ・・・。耐えられねぇよ・・・・・・。」

 

 

これからも一人で彼らと戦うつもりでいた。もちろん負け戦だと分かった上で。

六車拳西に育てられた子どもがこんな所で屈してはいけないと思っていたのだ。

大切な友人たちを巻き込んではいけないと思ったのだ。標的を自分に絞っている以上、何とか自分一人に抑え込むつもりでいたのだ。

本当は何も知らない彼らに何も知らないままでいてほしかったのだ。

 

それがどうだ。情けない。

今の自分は、ただただ自分が勝てない力に虚勢を張って無駄にもがいているだけではないか。

悪意の闇の中で一人泣くことしかできない情けないガキではないか。

こんな惨めな姿を拳西に見られたら失望するだろう。ここまで育てたことを後悔するかもしれない。

 

だが、そんな張り詰めすぎた隼人の心を射場はがさつながらもいたわってやった。

 

 

「そがいに辛うなるなら相談しろ!!儂らが共に戦っちゃるわ!!」

「私も協力します!こんな辛いことがあったなんて・・・気付けなくてごめんなさい・・・!」

 

 

普段気弱な勇音も女子のなかで先陣を切って協力を申し出てくれた。

涙で目が霞んでいたが、周りの皆も笑顔で手を差し伸べてくれているように見えた。

 

 

あんな暴言を吐いたのに皆隼人に協力すると申し出てくれた。

皆の笑顔が眩しかった。

暗闇から救い出してくれた。

だからこそだろうか。隼人は泣きながら、心から求めていたことを彼らに嘆願した。

 

 

「助けてくれ・・・。お願いだから・・・・・・・・・僕を助けてよ・・・お願い・・・・・・・・・!」

 

 

皆真剣な顔で了承してくれた。

 

そしてそれからは派閥の仲間、勇音の友達を中心に、今回の対処法について考えることにした。

 

 

「相手誰だかわかってるんだろ?なら俺たちが直接ぶっ飛ばせばいいんじゃねぇの?」

「そんなことしたら大問題よ!口囃子くんの言葉から考えるに私たちが実力行使に出たら彼らの親の力で退学させられるわ!」

「貴族ってそんな力強いんだ・・・。俺たち勝てるのかなぁ・・・?」

 

三人揃えば文殊の知恵とはいうが、相手が悪すぎるため策が出てはボツになりの繰り返しで膠着状態に陥っていた。

直接対決、隊長の力を借りる、といった策は到底不可能であり、単純な霊術院サイドへの報告は下手をすれば取り合ってもらえない可能性もある。

大人達に頼ることは期待できないために優れた策はなかなか生まれず歯がゆい思いを皆していた。

 

そんな中、一人の女子生徒が妙案を出してきた。

 

 

「とにかく耐えるのはどうかな・・・?」

 

 

この意見に対し、射場は信じられないとでも言うように怒りを見せた。

 

 

「先の隼人の叫びを聞いとったんか!もう耐えられないと「違うよ!」

 

 

だが今まで一度も意見を言わなかった彼女は自分の意見の正しさを信じていたからか、射場の怒りにもひるむことなく彼女は自分の考える策を述べていった。

 

 

「耐えるっていうのはね・・・。学級の仲間皆で耐えていくってこと。口囃子くん一人じゃなくて皆が団結して戦っているってあの人たちに見せつけるの。今回みたいに物を壊されたら「大丈夫か」って皆で気遣って貸してあげるところをわざと見せつけるの。口囃子くんが一人でいたら狙われちゃうから、学級の誰かがなるべく一緒にいてあげて監視の目をつけてあの人たちに隙を与えないようにするの。そうすれば口囃子くんが困ることもないし、あの人達にも勝ったことになるんじゃないかな。」

 

 

なるほど、と思った。

この形なら直接対決せずに貴族たちに吠え面をかかせることができるかもしれない。

それに物を貸している所を講師の人が見れば異変に気付くはずだ。

皆もこの策を気に入ったようだったので、ベースはこの方法でいくことにした。

 

実際何らかの攻撃を受けた際は、学級内の貴族を中心として先生に報告する形をとることにした。

彼らの協力が得られなければさらに厳しい戦いとなったが、下級貴族らに対し何か思うところがあるのか快く協力してくれた。

 

 

「本当にありがとう皆・・・。僕個人の問題なのにこんなに助けてくれて・・・。」

「助けてくれってあんな辛そうに言われたら、黙ってはいられませんよ。」

「めそめそ泣きおって!!情けない奴じゃのお!!」

「うっうるさい射場ちゃん!!」

 

 

勇音と射場の思いやりが心に染み、非常に温かく幸せな気持ちが生まれた。

 

そして隼人は6年間もの間皆と共に貴族たちからの嫌がらせを耐え切ることができた。

また、高い結束力と実力のおかげで一度も特進学級のメンバーが変わらなかった年として、軽く伝説に残る同期たちになったのである。

 

 

 

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