ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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身代わり

「・・・さてと、それじゃ、更木隊長の気が変わらないうちに始めちゃいましょうか。皆サンこちらへ」

 

 

浦原の案内で、その場にいた隊長格はぞろぞろと中央にそびえていた円形の台へと踏み入っていく。

九南ニコが運んできた台車の上には透明なガラスケースがあり、いくつもの球が入っているのが窺い知れた。

隊長副隊長問わず全く同じものを渡され、浦原の指示に従い円の内側に皆立っていた。

 

だが、何故か隼人だけ球は渡されなかった。

理由は単純明快だ。

 

 

「口囃子サン、貴方だけは違うことをしてもらいます」

「違うって・・・?」

「卍解して、皆サンの霊圧を一定時間底上げして下さい」

 

 

案の定、隼人の卍解の能力を知らなかった隊長格は浦原の言葉に目を丸くする。

平子なんかは最早お決まりの反応だった。

 

 

「お前っ・・・!そないな事出来るんか!えっらい便利やな~!」

「いやぁ、まぁ・・・。でも、斬魄刀解放していない状況からいきなり卍解するのはまだちょっと出来ないというか・・・」

「大丈夫!1回2回でもちゃんと使えれば、アタシの経験上いきなり卍解しても問題ない筈っスよ?」

 

 

普段の言動のせいでどうもうさん臭さが抜けず、信用に足らない。

拳西の方を見たら、「とにかくやってみろ」とぞんざいな返しを受けた。

他の隊長格も皆隼人を見ているので、逃げ場はない。

 

何だか卍解お披露目会みたいで恥ずかしい。

そして極めつけは、浮竹の発言だった。

 

 

「隼人君の卍解か!名前は何だい?どんな形なんだい!百年待ったかいがあったよ!」

「・・・・・・、」

 

 

子どものように目をキラキラ輝かせる浮竹を見てしまえば、いよいよ引き下がれない上、失敗できない。出来なかったら始解して時間を置いてからやればいい話だ。

加えて浮竹には()()()()()()()()()が、それは卍解してもう一度確かめた方が答えが出る。

 

 

「恥ずかしいですけど、浮竹隊長がおっしゃるなら・・・」

 

 

皆と同じように腰に提げた斬魄刀を、鞘ごと取り出して両手で持ち替え、右手に柄を、左手に刀身部分の鞘を持った。

 

 

「卍解 桃祈宝珠杵」

 

 

名を唱えると、浦原の読み通り、ちゃんと卍解が形成された。

斬魄刀が桃色のオーラと共に何の変哲もないシルバーピンクの杖(棒)に変化したが、あまりにも地味だったため、平子は肩透かしをくらっていた。

 

 

「何や、ただの魔法のステッキかいな。面白くなー。オレの方がまだええわ」

「それ、言わないでもらえます?」

「いやー成程、興味深いよ。隼人君は始解で斬魄刀が消えちゃうからな。一護くんの天鎖斬月みたいなものかな・・・?」

「形は変わりますよ?」

 

 

そう言って攻撃用の杖に変化させた途端、何故か平子の顔が豹変した。

 

 

「アカン・・・・・・、負けたわ・・・」

「えっ、何がですか」

「気にせんでええ。コッチの問題や・・・」

 

 

単純に平子の卍解発動時に持つ杖のようなものの円環の数が1つで、隼人の攻撃用の杖は円環が両端についているという至極どうでもいい事なのだが、ちょっとオシャレっぽく見えてしまったため、平子は勝手に負けた気分になっていた。

くだらない事でちょっとブルーになっていたが、追い打ちがやって来る。

天井が開いて雨が入って来ることではない。

あの者達が来るからだった。

 

 

「よォーーーーーーーーし!準備はええか!死神どもォ!」

「ひよ里ちゃん!?久々~!」

「お前はええ加減ウチに敬語使えドアホォ!!」

「何でお前までここにおんねん!!」

「はぁ!?」

 

 

相変わらずのくだらない言い争いが始まって平子とひよ里がギャーギャー騒ぎ出し、近くにいた死神はやかましさに片耳を塞ぐ。

男のオカッパ頭がキモイだのどうのこうのと言っているが、そもそもひよ里自体見た目子どもで金髪は悪目立ちすることに気付いていないのだろうか。

いつラブに拳骨されてもおかしくないが、久々に平子に直接会ったこともあるので、ひよ里には溜りに溜まった鬱憤を晴らさせているようだ。

 

浦原含め皆二人の声に気を引かれていたため、隙を見た隼人はささっと右に移動した。

目的の人物の背中にとんとんと手を当てると、いつも通りのにこやかな顔で振り向く。

 

 

「浮竹隊長・・・、()()()()――――――」

 

 

続けようとしたが、浮竹が自らの口に指を当てたことで、遮られてしまった。

卍解を得た口囃子隼人という死神には、隠そうとしてもほんの僅かな霊圧変化で気付かれてしまうことを分かっていた浮竹は、子ども時代の隼人に見せた優しい眼差しで口止めをした。

だが、秘密を知ってしまった隼人に、悪戯っ子のような顔で浮竹は耳打ちした。

 

 

「君の力、俺にも分けてくれないか?」

「えっ・・・?はい・・・」

「期待してるぞ、隼人君!」

「せっ、精一杯頑張ります!」

 

 

何だか打ち切られてしまった感があるが、どの道ひよ里が謎の物質をドバドバ流し始めたため、皆と同様にそっちに関心を寄せた浮竹と話せる雰囲気は無くなってしまった。

 

 

*****

 

 

 

「おい、そういや白はまだかよ?」

「確かに、っていうか白お姉さん何やってるんですか?」

「霊術院行かしたんだがな、手古摺ってんのか?」

 

 

苛立った拳西に対して、連絡を貰っていた平子が返答する。

どうにも、平子達と別れてから滅却師の一般兵がまた集まってしまい、院生を護るために手が離せないと伝令神機が来たそうだ。

やはり未熟な霊圧が集まっているため、時間を置いて再び格好の的になってしまったようだ。

平子の返事に嫌々ながらも乗っかる形で、砕蜂も口を挟む。

 

 

「霊術院の方には私も敵の霊圧を強く感じていたからな。私の部下も向かわせたぞ」

「砕蜂の愛弟子やったっけ、あの存在感無い女の子」

「そいつに貴様を暗殺させることが不可能とは思えんな」

「おぉ~~怖っ!」

 

 

平子が言う砕蜂の愛弟子は、砕蜂が霊術院視察の際に、たった一人ですれ違ったのに全く存在に気付けなかったため、天然のステルス体性を持った死神として即入隊させ、徹底的に暗殺術を仕込まれたらしい。

本人は皆から気付かれず、院に入っても誰とも会話できずと友達がいない事に相当のコンプレックスを抱き、気の置けない同僚もとい友人を作って早くぼっちから脱却したいようだが、むしろぼっちで存在感の無いことが死神の評価としてプラスに働いているため、非常にもどかしい人材らしい。

 

 

「とにかく、九南はそっちで手一杯だ。置いていくしかあるまい」

「ならしょうがねえな。俺達の話聞いたら今度こそついていくって五月蠅くしそうだ」

「三番隊で生き残ってる隊士たちもそっちに向かわせたよ」

「・・・横取りされたってゴネそうっすね」

「そうだな・・・」

 

 

修兵の想像はおおむねというか、完全に当たっていた。

その三番隊の中には、形式上死んだことになっている吉良も向かわせたからだ。

マユリの行った死鬼術式が霊王宮にいる間に不具合を起こした場合、最悪強敵と戦っている途中で吉良が勝手に死に、余波で身体が再び壊れてしまうといよいよ復活出来なくなってしまう。

それもあるが、一度死んだ吉良を大勢の隊長格の前に今出すのはローズ自身少々気が引けるのもあった。

物珍しさで見られることに対し、拒絶反応を起こしかねない。

吉良の元々の性格を踏まえ、別行動を取らせることにした。

吉良が向かえば、獲物が減る白はぶーぶー文句を垂れるのは必然であるだろう。

 

 

「皆サン、そろそろ始めましょう!」

 

 

何となくこの場に来ない吉良の事情を察していた浦原が声を掛けることで、皆の気を引いて門の作成に集中させた。

死神全員が霊圧をこめたのを確認してから、隼人は全員の霊圧に干渉し、霊圧量を底上げする。

あらかじめ身体に違和感をもたらすことは伝えていたが、それでも皆一度干渉された時は不快そうな顔をしていた。

ごめんなさいと思いつつ、宝珠杵をバトンのように回転させて自身の霊力も強化しようとしたが、

 

 

突如発生した空中からの圧力による地震により、不可抗力で力が止まってしまった。

同時に屋根の一部が砕けてしまい、まあまあの大きさの瓦礫が頭上から降り注いできた。

 

 

「まずい!」

 

 

斬魄刀を抜く動作自体が遅れを生んでしまうため、唯一卍解していた隼人が一人で対処する。

宝珠杵からロッドに切り替え、赤火砲を複数同時発射することで落ちても害のない小さな砂利へと変えていく。

 

 

「何スかこれ!敵襲・・・!?」

「この辺に滅却師の霊圧は無いよ!一体何が・・・!?」

「・・・・・・――――これは・・・・・・」

 

 

「霊王が死んだのか――――・・・!」

「!!」

 

 

浦原の言葉で、皆の顔色が一気に変化する。

零番隊は和尚含めて全員殺され、浦原が送った一護ら現世組は間に合わなかった。

霊王の死。現世、尸魂界、虚圏を安定させるための礎ともいえる存在が死を迎えたことが何を意味するか。

どんな事を想像しても、嫌な方向にしか進まない。

絶望的な結末しか、考えられなかった。

 

 

「まずい・・・!このままでは、尸魂界も、虚圏も、現世までも消滅する――――――――」

「三界全部消えちまうってのか・・・!!どうすればいいんだ・・・!!何かやれる事は無えのかよ!!」

「・・・・・・」

 

 

霊王の死で引き起こされた謎の天変地異に一介の死神が対処できる筈もなく、阿散井の叫びは虚空に響くだけだ。

どんなに力があろうとも、絶えず続く地震を止めることなどできない。

このまま滅却師の手で世界が滅亡し、その後どうなるのか。

何もかもが想像の範疇を超えており、皆歯痒い気持ちで立ち止まるしかなかった。

 

ところが、そうした状況にもかかわらず、前に進み出る者がいた。

静かな足取りだが、草履の擦れる音は全員の耳に入る。

霊圧の変質した浮竹が、背から黒い霊圧を滾らせて重い口を開いた。

 

 

「浮竹隊長・・・!?」

「浮竹サン・・・それは――――・・・!?」

 

 

「俺が、()()()()()()()()()()()

「!」

 

 

既に浮竹の異変に気付いていた隼人は、それが霊王の霊圧を読んで記憶していた事に気付き、身体から汗が滲み出た。

再度霊圧を読むと、既に浮竹の霊圧は以前のものではなく、完全に別の物へと塗り替わっている。

 

 

「・・・これが、霊王の霊圧―――――!!」

「なっ・・・何やとォ!?どないなこっちゃねん!」

「説明は後だ。・・・時間が無い。隼人君、君の力を貸してもらうよ。俺の霊圧を読んで、俺に力をくれないか」

「わっ・・・分かりました!」

 

 

卍解を宝珠杵に切り替え、浮竹の霊圧へと干渉する。

細い網の目の間を縫って進んでいくように、いつも以上に慎重に、丁寧に霊圧を読み、浮竹の力が体全身を速く駆け巡るように力を増幅させていく。

 

 

「浮竹隊長・・・、それは・・・!」

 

 

副官のルキアの一言に振り返って一瞥したものの、何かを託すような微笑みを見せてから、斬魄刀を鞘から抜いて詠唱を始めた。

 

 

「ミミハギ様・・・、ミミハギ様ミミハギ様、御眼の力を開き給へ。・・・・・・」

 

 

更に詠唱を続けていくと、頭上に形成された黒い霊圧が形を成していき、液体のようなオーラを撒き散らして巨大な眼が形作られていった。

だが、

 

 

「ううッッ!!!!!」

 

 

それと同時に、浮竹の力に干渉していた隼人の身体が突如後ろへとのけ反り、受け身も取れずに倒れてしまった。

目立った外傷は一つも無いが、左手で頭を強く抑え込んで目を強く瞑っており、頭に何らかの痛みを起こしているようだ。

 

 

「おい!大丈夫か!!」

「何か、霊圧読んでたら突然脳に拳銃撃ち込まれたみたいな感じで・・・痛ッた・・・」

 

 

所詮一過性のものだが、脳に直接霊王からの拒絶反応を受けたことと同義であり、物理的にも精神的にもダメージはまあまあ大きい。

これ以上浮竹の霊圧に関わることは隼人の身に危険が迫るため、一切の干渉を止めるしかなかった。

 

 

「ありがとう隼人君、もう大丈夫だ。おかげで何時でも力を解放できる。・・・・・・説明は、任せていいか?清音、仙太郎」

「・・・はい」

「承りました」

 

 

だが、まるで血を吐くように浮竹は口から赤黒い液体を吐き出し、咳き込んでしまう。

それが血なのか、それとも霊王の身体の一部なのかは誰も判断できなかった。

 

 

「浮竹隊長!!」

「騒ぐな!」

 

 

ルキアの不安からくる叫びに喝を入れ、斬魄刀を握る力を更に強くする。

手からも赤黒い液体が流れ始め、腕を伝って死覇装へと滴り落ちていく。

 

 

「案ずることはないいずれこうなる日が来る事は分かっていた。・・・一度拾ったこの命、護廷の為に死なば本望」

 

 

そして霊王は、徐々に明確な形へと変貌を遂げていき、眼を囲っていた円環が破られて巨大な右手が天へと伸び始める。

手の甲に漆黒の眼が存在し、ゆらゆらと動く手が、浮竹の叫びと共に霊王宮へと凄まじい速度で伸びていった。

 

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